クリームランドは小国ではあるが、世界的な知名度としては上の中程と言った処である。アメロッパやアジーナには及ばないが、それでも衰退していた時期に比べれば天と地の差がある。
クリームランドと言えば思い浮かぶのが、今や世界中の人々やナビまでもが利用する動画投稿サイト【WorldTube】略して「わーつべ」であろう。誰もが気軽に動画を投稿でき、しかし危険と判断された動画は徹底的に弾く事で、健全的なサイトとして多くの人々から利用されている。
その「わーつべ」を利用したCMや企業PR、人気動画チャンネル設立などによる社会的利益は計り知れず、DNN設立の【緑川ケロのケロケロチャンネル(翻訳有)】が数百万を超えるチャンネル登録者数を叩き出した事で莫大な利益と視聴率を獲得したとされている(S氏曰く「視聴者が何を求めているのかを理解し撮影するのが秘訣さ!」)
「わーつべ」により利益が増えれば増える程クリームランドが潤う事になり、儲かったゼニーを奪おうと他国や他人がハッカーやウィルスを仕掛けに来る。
そうなれば次に発展するのはセキュリティだ。豊富なゼニーを惜しみなく注ぎ込み、小国ならではのフットワークで他国(特にニホンやアジーナ)から技術者を募らせ、持ち前の防衛プログラムに関する高い技術力も合わさって出来た強固なセキュリティでハッカー共を蹴散らすのだ。
今や「防衛プログラムといえばクリームランド産」と言われ、高いセキュリティ技術を学ぼうと各国から研究者が募り、観光業や宿泊業が盛んになっていく。
最近ではクリームランドの王女と科学者のネットバトラーに影響されて防御重視のカスタマイズナビが流行り、クリームランドのネットバトラーの腕前が徐々に上がっているとも聞く。ここも「わーつべ」で流行っている解説動画による影響が大きい。
かつて世界に追いやられたクリームランドが、今や防御力に特化した先進国として名を馳せている。他国も負けてられないと希望を抱く中、それを面白くないと思う者達も居るわけで……。
クリームランドの電脳エリアに現れた複数のネットナビ集団が、クリームランドの中枢を目指し膨大な数のウィルスを率いて進軍している。
目指すはクリームランドの電脳金庫。目的は当然ながら潤沢なゼニー。依頼主は電脳金庫を襲撃するよう促し、その為のウィルスや電脳ルートを提供してる……要するに他国からの嫌がらせだ。
無論、それだけならクリームランドのセキュリティにより追い払われるのが関の山なのだが……。
「オラオラァ―――ッ!」
右腕の大型ドリルがハルドボルズ3を粉砕し、左腕のハンマーを地面に叩きつけて放った衝撃波がメットール3を纏めて蹴散らし、胸部から伸びる砲台から放たれる砲弾がカーズドを破壊する。
そして頭部のリーゼントのような砲座から1発のボム……必殺の『クラッシュボム』が放物線を描いて飛び、眼前のセキュリティゲートに強烈な爆発をお見舞いする。煙が晴れた頃には何も残されておらず、細身のナビがズンズンと突き進む。
ハンマーを象ったナビマークを右肩に宿す彼の名はクラッシュマン。右腕は大型ドリル、左腕はハンマー、胸部と頭部が砲座となった、破壊という言葉が具現化したようなオレンジ色のネットナビだ。
「すげぇなクラッシュマンの旦那……」
「ああ、なんかいつも以上に荒々しいよな」
そんなクラッシュマンの活躍を後ろから見ていたヒールナビ達が囁く―――道中多くの仲間がデリートされたり強制的に追い出されたりしたが、悪事を働く彼らにとっては気にする事ではない。
ブレイク系統の攻撃手段を豊富に持ち、ウラインターネットで『解体屋』と呼ばれる程に腕利きの自立型ネットナビであるクラッシュマン。今回依頼されたクリームランド襲撃に彼も呼びかけた所、高額の報酬がある事を差し引いても積極的だったが、ここまでやる気に満ちたクラッシュマンの仕事っぷりは想定外だった。
「ケッ! 荒々シクナルノモ仕方ネェサ!」
地獄耳だったのかヒールナビ達のヒソヒソ話に反応し、荒々しい口調で返すクラッシュマン。高い攻撃性を犠牲に衰えた言語プログラム故に片言だが、そのクラッシュマンのプレッシャーたるや、長年ウラインターネットで培った肝っ玉と経験ですら萎縮して震え上がるほどだ。
「アノくそさいとメ、オレサマノ美声ヲ収メタ歌動画(100分超)ヲ『危険性ガ非常ニ高イ動画ト判断サレマシタ』ッツーテ投稿拒否シヤガッテ! ゼッテー許セネェ!!」
((そらそうだろうよ))
クラッシュマンの熱い怒りとは反対にヒールナビ達の視線は冷え切っていた。
クラッシュマンが歌いだそうものなら、『なぜか』音響設備関係が悉く破壊され、『なぜか』広範囲でウィルスと遭遇しなくなり、ウラランクを所持していないにも関わらず『なぜか』ウラランカーに襲われる(因みに某暗殺ナビは彼の暗殺依頼を「アホくさい理由で雇うな」と秒で拒否)。
ある意味で最強のブレイク性能を誇る歌を『奇跡的に』動画に収め投稿してみようものなら100%で弾かれ投稿拒否されるというもの―――因みにその日、「わーつべ」に数千体配置されているプログラムくんの内10%が精神破壊を起こしたかのように故障したらしい。
「サァ行クゼテメーラ! くりーむらんどヲぎゃふんト言ワセテ、ぜにーヲ搔ッ攫ッテヤラァ!」
腹いせにハンマーで地面を叩き、再び衝撃波を起こしてからクラッシュマンは先へ進む。
理由はともかく、ウィルスバスティングの腕前と破壊力は確かだし、警報が鳴っていようが気にせず突き進む勇ましさは頼りになる……ヒールナビ達は互いに頷き合い、ウィルスを引き連れて後に続くのだった。
そして膨大な数のウィルスを嗾けながら進んで暫くすると……。
「ナ、ナンダコリャ……?」
いよいよクリームランド電脳の中枢に繋がっているセキュリティゲートが目前だという中、クラッシュマンとヒールナビ2人は目の前にある物を見上げて唖然としていた。それは一言で言えば―――。
「ババロア……か?」
ヒールナビの言う通り、それは真っ白で柔らかそうなババロアだった。勿論只のババロアではなく、クラッシュマン達の数倍はあろう巨大ババロアだ。頭頂部にちょこんと置かれた大きな苺がチャームポイント。
「ババロアってなんだー?」
「人間が食べるスイーツの一種だよ。クリームランドでは一般的に食べられているらしいぜ」
「ンナコタドウデモイーンダヨ! ナンダコノフザケヤガッテ!」
ヒールナビ達の呑気なやり取りに腹を立てたのか、明らかに柔らかそうだからとクラッシュマンはノコノコと近づいてそれを蹴とばす。
しかし意外にも「むにっ」と音を立ててクラッシュマンの蹴りを弾き飛ばす……のみに留まらず、巨大ババロアはむにむにと音を立てて形を変えていく。クラッシュマン達も思わず後退、様子を伺う。
大きな腕が生え、次に二本の短い足が生え、徐々に大雑把ながらも人型になっていく。最後には黒と赤の1つ目が開かれ、ギョロリとクラッシュマンらを見下す。
しかし頭頂部には苺が乗っかったままなので、睨まれた側としてはなんとも言えないシュールさを噛み締めることになった。
彼らは知らないが、このババロアに苺と目玉を添えたような巨大ウィルスこそ、クリームランドが新たに開発した【対ネットナビ特化防衛ウィルス】。
発案者であるストンナが名付けた名称は『クリームデビル』……【クリーム色の悪魔】である。
『ぶもっ!』
(((……ブモ?)))
眼前の識別反応を持たないネットナビ=他所からの侵入者ネットナビと捉えたクリームデビルは、敵対者と認識し行動を開始。目を光らせ、麻痺属性を帯びたビームを発射する、
「ぐぇっ!?」
「この野郎っ!」
呆然と見上げてしまったが故に不意打ちで食らってしまい、一人のヒールナビの体が痺れて動けなくなる。
遅れて応対せんとバスター射撃を行うが、柔らかそうな見た目をしているくせに「カンカン」と音を上げて弾かれる。直後に白く大きな手でポリポリ掻くもんだから、全く効かないんですけどーと挑発しているようで彼らを怒らせる。
「シャラクセェ、コウイウノハ目玉ガ弱点ダッテ相場ガ決マッテラァ!」
さっきは退いてしまったが再び接近するクラッシュマン。今度は自慢のドリルで白い体を削る事に成功するが、削られた飛び散ったデータが戻って来て、その穴を塞いで再生していく。
その間に本命を狙うべく、左腕を『メガキャノン』に変形させて砲撃。クラッシュマンの予想通りクリームデビルは目を撃たれたことで怯み、目を守るべく腕を交差させる……かと思えば体が9等分に分離しだした。一つだけ苺が乗っており、それを守るように8個の白いボールが飛び跳ねる。
「ドワット!?」
地面にヒビ割れを起こす程の質量を持ったボールが次々と跳ね、思わずクラッシュマンは回避に専念する。運悪くヒールナビがペシャンコにされようがボールはお構いなしに跳ねまわり、クラッシュマン達を慌てさせる。
バスターは弾くが、クラッシュマンのブレイク性能を持ったドリルやハンマーを受ければ破壊される。だが一通り飛び跳ねた後に苺が乗ったボールを取り囲めば、クラッシュマンが破壊した分が無かったかのように元のサイズのクリームデビルが復活、目を開いてまたじーっとクラッシュマン達を見下ろす。ペラペラにされたヒールナビに至っては恐怖で尻込みし始めた程だ。
「チキショー舐メヤガッテェ!!」
ここでクラッシュマンの悪い癖が出る。今度は胸部の『クラッシュキャノン』で砲弾を放つが、命中精度が低く白い体を貫通するだけに終わり、むにむにと穴を埋めるだけに終わってしまう。
そして再び目からビームを放ってヒールナビを麻痺させ、再び9等分のボールに分裂。苺の乗ったボールを主軸に今度は次々と体当たりを仕掛けてくる。動き自体は単調で麻痺したヒールナビ以外は避けれるが、如何せん飛び込んでくる数が多く……。
「メンドクセェェェ!!」
クラッシュマン怒りの叫び。ドリルとハンマーをぶん回すも苺載せ以外は効果が無いらしく、長々とした体当たりを終えた頃には元通りに……。
かといって分裂中にセキュリティゲートを潜ろうものなら積極的にすり抜ける輩に攻撃を仕掛けてくる。無闇に飛び込んだり背中を晒そうものなら分裂体が集団リンチ。恐ろしい奴らである。
※以後繰り返し※
「オフィシャルのネットナビだ! クリームランドにハッキングがあったと連絡を……受けて……」
クリームランド支部のオフィシャルネットナビが駆けつければ、オペレーター共々変なものを見かける事になる。
デリートされてはいないが踏み潰されてペラペラなままで爆睡するクラッシュマンとヒールナビが2体、それをじーっと見下ろす傷のない真っ白な1つ目巨人。
このババロアみたいな巨人がクリームランドで開発されたというナビにのみ反応するウィルスなのだろう。識別信号をクリームランド研究支部より付与されているとはいえ、ウィルスだからと警戒して近寄る。
そんなオフィシャルネットナビを見たクリームデビルは、目を【◎】から【⌒】へと変化させる。
「ぶもっ!」
まるで「お勤めご苦労様です」と言っているかのようにナビに向けて敬礼し、仕事を終えたと判断したのか手足を引っ込め、元の巨大ババロアとなってセキュリティゲート前に鎮座する。
「……可愛い奴ですね」
『そ、そうか?』
長年コンビを組んでいるネットナビの感性を疑う、オフィシャルネットバトラーであった。
「……というわけなのですが如何ですDr.ヒカリさん?」
「うーむ……」
クリームランドから送られたクリームデビルの活躍が記された動画ファイルを、ストンナ・キロクラムは光熱斗の父にして科学省のトップ・光祐一朗に見せている。
諸々の理由があってニホンにやって来たストンナは、熱斗に頼んでニホンの優秀な科学者である彼の父に出会い、是非とも科学者としての意見を聞きたいとクリームデビルの事を話したのだ。
そして動画を見せたのだが……後ろで見ていた熱斗とロックマンは軽く引いてた。
「すっげぇ面倒くさいウィルス……」
『ブレイク系統のバトルチップがあったとしても、本体である苺付きを狙うのは厳しいかな……』
柔らかそうな体はブレイク系統以外を防ぎ、目玉からは麻痺属性のビーム、目を閉じている間に弱点の目玉が自動修復、おまけに九つのボールに分裂してエリア関係なく多彩な攻撃を仕掛けてくる始末。
更に動画ファイルによると、『エリアスチール』などで陣地を奪い高速移動を仕掛けようものなら、三体のクリームが足止めしエリアを取り戻す『スチールクリーム』なる特殊なチップを繰り出す。
いかにブレイク系統の攻撃を、本体であり弱点である目玉、または分裂後の苺乗せボール(目玉入り)に的確に当てれるかがポイントとなる。
もしランダムエンカウントしたら、或いは悪用されたら溜まったものじゃない大型ウィルスに対し光祐一朗博士はと言えば……。
「この頭に乗っかった苺は何の意味があるのかな?」
「
「そっかー、オシャレは大事だよね」
「いやそっちなのパパ!?」
どこかズレている科学者達に突っ込まざるを得ない光熱斗(小学五年生)であった……。
その後、裕一朗からアイディアとアドバイスを貰ったストンナは更なる防衛特化ウィルスの開発案を作成、クリームランドのウィルス研究施設にメールで転送した。
エリアを飛び交う盾のようなウィルスの『シールドアタッカー』、壁に反射しながらパネルを走り回るトゲ付きウィルスの『ガビョール』など、硬く厄介な防衛ウィルスをクリームランドが新たに開発。クリームデビル程ではないが、硬く厄介な量産型防衛ウィルスとして侵入者を手古摺らせている。
こうしてニホンの科学者の余計なアドバイスとそれに応えるクリームランドの科学者の熱意によって、クリームランドのセキュリティはますます強固なものとなり、他国からの嫌がらせは劇的に減ったそうな。
今日もクリームデビルはクリームランド電脳を守っているぞ!
〇クリームデビル
巨大なババロアみたいなウィルス。頭にちょこんと乗った苺がチャームポイント。
ロックマンシリーズお馴染みのボス・イエローデビルの派生種。真っ白なクリーム色。
エグゼでは九つのボールに分離して飛び跳ねたり体当たりを仕掛けたりと多彩。
ブレイク系統の技に弱いが、目玉入りの本体を狙うのは至難の業。
因みに「ぶも」と喋る設定は「ロックマンロックマン」から。
〇クラッシュマン
ブレイク系統の技が豊富な自立型ネットナビ。彼の最強の技は「歌」(非公式)。
本人にその気はないし殺し屋程じゃないがウラランク入りは確実な腕前の持ち主。
そんな彼をクリームデビルの当て馬にさせてもらいました。アーメン。
〇シールドアタッカーとガビョール
ロックマンシリーズに登場する雑魚メカをウィルス化したもの。
同じところを空中で往復する盾みたいなのがシールドアタッカー。
同じところを地面で往復するトゲ付きタイヤみたいなのがガビョール。
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