今回からゴスペル編。纏まったので筆が少し早くなると思います。
それでもご都合展開や粗が目立つでしょうが、ご勘弁ください。
誘拐されたストンナ、その後の話。
クリームランドからアメロッパ空港への長い空の旅が終わりやっと地に足を付けれたプリンセス・プライドだが、その心情は決して穏やかなものではない。
今は居ない
数日前―――ストンナが誘拐された。
社会的地位の高いキロクラム家の一人娘にして将来有望な科学者であるストンナに、護衛をつけない日はほぼ存在しない。幸いにもストンナ自身の防犯意識が強く、頼れる近所のおじさんのように護衛を慕ってくれる事もあって互いにストレスのない日々を過ごしていた。
だが誘拐犯は大胆にも護衛ごと催眠ガスでストンナを眠らせ、颯爽と攫っていった。
恐らく現地の協力者がいたからこその計画的犯行だろう。警戒網を難なく潜り抜け、既に海外へ逃亡されたものとクリームランド警察は結論付けた。
残されたのは意識を失った護衛と、けたたましい警告音を鳴り響かせるストンナのPETだけ。最初にその現場を見つけたのは、奇しくも誘拐されるまで遊んでいたストンナの友人らだった。
真っ先にプライドにストンナがいなくなったと伝えたのも、その友人のネットナビであるツンドラマンだ。PET画面越しに彼が報告した直後に血の気が引いて倒れかけた事を、プライドは昨日の事のように思い出す。
PET内のストーンマンは即座にアラームを鳴らすことは出来ても、画面の前で拐われるストンナを助け出すことはできなかった。
今もなおナイトマンが宥めているが、ストーンマンの大きな後ろ姿がとても小さく見える程にしょぼくれている。
その翌朝になって、奴らは姿を見せた。
『久しぶりだな。クリームランド王女プリンセス・プライド』
早朝に微睡んでいた中、自室のPCが勝手に起動し、画面から聞き覚えのある声が響いた。
かつて自身を勧誘すべく接触したものの失敗して姿を晦まし、ここ最近になって再び姿を現し世間を騒がせるようになったネットマフィア【ゴスペル】。その首領の物だった。
「……これはこれは。お誘いをバッサリ断られて傷心していたのかと思ってましたわよ、ゴスペルのリーダー様?」
『覚えていたようで光栄だよ。だがまずはこれを見ると良い』
嫌悪感を剝き出しにしたプライドの皮肉もどこ吹く風。
画面が切り替わり、ある姿が映し出された。
目隠しをされて両手両足を縄で縛られた状態で横たわる少女。そのグレーのロングヘアーに見慣れた服装、そして髪飾りに刻まれたナビマークが誰の物なのかを証明していた。
「……っ?! ストンナ!」
石材を模したストーンマンのナビマーク―――先日行方不明になったストンナの物だった。眠っているらしく、呼吸で僅かに動いているのが確認できた。
『彼女は我々ゴスペルの手中にある。下手な事をすれば命はない』
『へへへ、オレに掛かればこんなものよ!』
【NO IMAGE】のディスプレイと【緑の竜巻を模したナビマーク】のディスプレイが少女に重なるように表示される。
前者のゴスペル首領が厳かに、後者の実行犯らしき男が偉そうに言うも、プライドは気持ちを切り替え毅然とした態度を取り続ける。
ここで取り乱しては連中の思う壺だと言い聞かせ、むしろ相手のペースを揺らし情報を少しでもあぶり出そうとプライドは挑発する。
「かのネットマフィアがか弱い少女を力ずくで誘拐するだなんて、随分と野蛮な犯行に及ぶのですね。それだけ余裕がないのかしら?」
『うるせぇお行儀が良いだけのボンボンが! んな態度とられたらオレも手が出ちまうぜ? だが10億ゼニー寄越せば―――』
『口を閉じろ。今は私が話している』
首領の言葉に舌打ちして男のディスプレイが閉じる。男の方は挑発に乗れば情報を漏らしかねないと判断したのだろう、前と変わらず油断のない人物だ。
「それで? クリームランド有望の科学者でもあるストンナを人質に、この私に何をしろとおっしゃるので?」
『話が早くて助かるよ。アメロッパにあるとされるオフィシャルネットバトラーの本部を潰すのに協力してもらう』
何を馬鹿な、と叫ぼうとしてプライドは咄嗟に口を結ぶ。それを知ってか知らないでか首領は言葉を続ける。
『我々ゴスペルは、近々各国のオフィシャルネットバトラーを本部に呼び集めるという極秘情報を入手した。
だがアメロッパの何処に本部があるかは解らず終いでな……招集されるであろう貴様に道案内してもらおうという訳だ』
恐らくは現地で開催場所を聞けると踏んで、ゴスペルと繋がりがあったプライドに交渉を持ちかけたのだろう。その人質としてストンナは誘拐されたと。
「ストンナを解放する保証がない中、私に死地へ迎えと?」
『イヤだと言うのなら仕方ない。アメロッパ全てを火の海に変えて、そこへ小娘を放り込む』
躊躇い無き言葉に息を飲んだ。
『クリームランドもアメロッパも纏めて潰す事などゴスペルにとっては造作もないが、手間暇をかける時間は惜しい。君が道案内さえしてくれれば無駄なく事が済むのだがね?』
嘘はないのだろう。それだけ容赦がない組織なのだ。
『これはお願いではない、選択なんだよプリンセス・プライド。クリームランドの未来を引き換えに自身とオフィシャルネットバトラー共の命を捧げるか、クリームランドとアメロッパ全ての命が散るか』
どちらに転ぼうともオフィシャルネットバトラーは必ず潰すという、彼の絶対的な意思。
顔ですら見せていないというのに、画面越しに伝わる圧倒的なプレッシャーと憎悪。
こいつを逃してはいけない。今すぐにでもオフィシャルに連絡すべきだ。そんな危機感すら湧き上がってくる。
しかし
「……解りました、協力します―――させてください」
『フフフ……ハハハ……ハーッハッハッハッハ!』
容易いものだ―――そう言っているかのようなゴスペルの笑い声が、頭の中にこびり着くかのようだった。
軽く打ち合わせした後にPCの電源が切れて静寂が訪れる。
PET越しに見るプライドの優れない顔色を、ナイトマンは心配そうに見ていた。
『姫様……』
「ナイトマン、貴方にも辛い思いをさせる事になるわ……ゴメンなさい」
『このナイトマン、例え地獄の底だろうと姫様と御伴致します』
鉄兜故に表情は解らないが、ナイトマンも意を決した様子。
強張っていた表情が少し解れ薄らと笑みを浮かべる最中、もう一つのPETが鳴る。
恐らく一番ストンナの身を案じている者が、彼女のPETの中に居る。
『ぷりんせす・ぷらいど!』
片言だが凄まじいまでの怒気を秘めた、ストーンマンの大声がPETより轟く。
プライドは驚くことなくストンナのPETを手に取った。
『ゴゴゴ……ぷらいど、すとんなハ……!』
ストーンマンの無機質な人外の顔に、不思議と焦燥感と怒りが垣間見える。
聞けば、デリート寸前だったストーンマンはストンナによって救われたと聞く。
そんな彼は、今やストンナの一番の相棒であり良き戦友だ―――現状を放っておけるわけがない。だからこそプライドに縋りたいのだろう。
「―――ストーンマン。辛いでしょうが、貴方に任務を与えます」
それでも彼女は告げなければならない。ストーンマンにしかできない重大な任務を。
そして現在に至る。
「よぉ王女様。逃げずに来たのは褒めてやるよ」
華やかなアメロッパの表通り……ではなく追いやられた者達が集う薄暗い裏通り。
そこに呼びされて来てみれば、スーツを着た金髪の男がニヤニヤと笑いながら出迎えて来た。
チンピラめいた男を睨むプライドだが、すぐに平然とした態度に戻り淡々と言葉を告げる。
「……本部の会議場は極秘だそうよ。心当たりは既に見つけてますから、貴方は私の後をつけていけばいいわ」
「ケッ、つまらねぇお姫様だな!」
男―――風吹アラシはプライドの狼狽える姿や必死に人質の居所を聞き出そうとする姿を想定していたのだが、プライドの呆気ない態度に舌打ちする。
だが彼の目的はオフィシャルネットバトラーを纏めて始末する事。彼らの居場所さえ解かれば良いので、これ以上の口出しは止めておく。
ところで、とアラシが追求する。
「お姫様よ、あのクソガキのPETは持っているか?」
「……それを聞いてどうするのです?」
「おいおい冷たい女だなぁ。せめてナビだけでも再会させてやろうっていうオレなりの心づかいだよ」
解りやすいまでのニヤケ顔がその心遣いとやらを台無しにしているのに彼は気づかない。
プライドは眉間に皺を寄せるも、仕方ないとばかりに懐から取り出したPETを彼に手渡す。
解ればいいんだよと言わんばかりに受け取った直後にPETを操作し……最初は首を傾げ、徐々に顔が怒りで歪んでいく。
「……んだコリャ空っぽじゃねぇか!」
「当たり前です。彼女が保管したデータとナビが入っているのですよ? 万が一の事を考え、自立型ナビである彼にはクリームランド電脳にてデータの保護を命じています」
でなければ渡しませんしロックも外れません、とあっけらかんと言ってやった。
「クソッ、こんなのガラクタも同然じゃねぇか!」
やはりというか、
怒りをぶつけるかのようにPETをプライドに向けて投げつけるが難なくキャッチ。それが余計に気に入らなくて地団駄を踏むも、既に彼女は背を向けていた。
「これ以上時間を潰しては会議に遅れてしまいますので、これで。貴方も首領様に怒られたくなければキチンと任務に励む事ね」
プライドはストンナのPETを懐に入れ、顔ですら振り向かず淡々と告げてこの場を離れていく。
「精々苦しませて始末してやるから覚悟しとけ!」とか何か喚いているが、最早プライドは意に介していなかった。
(―――どうですか、ナイトマン)
『はっ――――』
プリンセス・プライドと別れて暫くした後―――プライドの後を追った風吹アラシは、遂にオフィシャルネットバトラーが集う会議場を突き止めた。
「アメロッパ城の地下がこんな危ねぇ所だったとはな……これは潰しがいがあるぜ」
アメロッパ城の地下にある全てのトラップを管理している中枢。そこへ忍び込むことに成功したアラシは、これから起こす予定の作戦にほくそ笑む。
ガスの集金会社から追い出され正式にゴスペルの末端として加入したものの、彼は有名人であるストンナを誘拐し、オフィシャルネットバトラー抹殺作戦を任された身だ。
アメロッパに潜むゴスペルの手下共に手引きさせ、ここまで容易く侵入することができた。後はこの扉を、バックアップし更に改造したエアーマンを用いて開かせるのみ。
その先にある電脳も手中に収め……アメロッパ城全ての罠を管理する侵入者撃退システムを用いてオフィシャル共を一掃する。そうすれば自分は更なる大金を得るだけでなく、ゴスペルの幹部に成り上がる事も夢ではない。
「にしてもあの女……ムカつく事ばかり言いやがって。王女様だからって生意気すぎねぇか?
大体首領もバカか? 何が『あの小娘も纏めて潰せ』だ、あんな金づる逃してたまるか!」
エアーマンをオペレートしつつアラシは愚痴り、後ろを振り向く。
そこにあるのは、もぞもぞと動く袋。中には彼の言う金づる―――ストンナが居るのだ。
彼は誘拐してからずっとストンナを傍に置いていた。決して幼女趣味などではなく、大事な金塊を手元に置いておくのと同じ感覚だった。
「これが終わったらクリームランドから身代金をガッポリ貰って、それから首領の言うとおりにすればいいさ。オレは何も間違っちゃいない」
クリームランドでは知らない者はいない天才オペレーター。プリンセス・プライドに比べれば安いだろうが、それでも身代金としての価値は高いと彼は踏んでいる。
『ホアー、扉が開いたぞー』
「ご苦労だったなエアーマン。さぁて―――」
間の抜けたエアーマンの声と同時に扉のロックが解除される音が響き、アラシは更に笑みを強めて振り向く。
そこにあるのは、パックリと破れた袋だけだった。
「――――んだとぉ!!?」
会議のお堅い雰囲気に慣れない熱斗は、ピリリリ、とプライドから鳴り響く音を耳にした。
『―――姫様!』
(な、ナイトマン!? 今は会議中で―――)
『ご無礼をお許しください、しかし良くもあり悪くもある知らせが!』
何やら彼女とナビが話し合っているようだが此処からではよく聞こえない。
しかし彼女の顔を見るにとても慌てている様子。どうしたのかと熱斗が聞こうとして―――。
『
突然強い振れが会議場にいる全員を襲い、次いで地面にいきなり穴が開いたことで落下する。
ゴスペルの【オフィシャルネットバトラー抹殺作戦】が始まったのだ。
〇ストンナ誘拐
護衛の人は物理に強いがやはり絡め手に弱い……。
誘拐の為に組織が用意した強力な催眠ガス・現地協力者(海外移住者)・計画のおかげ。
〇しょぼくれるストーンマン
大きな体が落ち込んで小さくなるのってグっときません?
〇石材を模したナビマークが刻まれた髪飾り
ストーンマンを拾った直後、彼のナビマークをそのまま流用。ストンナお気に入り。
ワッペンのような髪飾りに刻まれている。本当にただのワッペン型髪飾りだろうか?
〇山吹アラシ
ガス集金会社をクビになったのでゴスペル入り。組織が強いだけで大したことない。
〇ストーンマンの任務
本当はすぐにでもストンナを助けたくて仕方ないストーンマンの為の任務。
感想でも察してますが、彼は自立型である。
〇淡々としたプライド様
原作でもオフィシャルを騙して不意打ち与えたぐらいですし、王女として腹芸は得意そう。アニメのような素直さも好きです。
山吹アラシというチンピラが相手ということもあって煽る煽る。内心は友人の安否が心配。
〇ストンナのPET
▼ストーンマンがログアウトしました。
〇アメロッパ城
▼山吹アラシがログインしました。
そんなわけでこの男が原作プライド様の代わりになりました。
加えて身代金を貰う為にストンナは肌身離さず傍に置いてます(意味深
全てはこの役割だけに使われた男なのだよ(ニヤリ
〇敗れた袋
防犯意識マシマシ幼女「仕込み道具は子供の浪漫なのです(キリッ」
〇発信機
▼防犯意識マシマシ幼女がログインしました。
ここからはストンナが入るオリジナル展開となります。
少なくともプライド様はゴスペルを手引きしたとはいえ巻き込まれた側です。
いつも感想や誤字報告ありがとうございます!