更に作者の独自設定や独自解釈が多々詰まっております。
『砂山ディレクターどこ行ったんだろ……さて盛り上がった第一回戦に続いて第二回戦を始めます!』
いつの間にか姿が見えなくなったディレクターに首を傾げるも、そんな事を気にしている場合ではないと緑川ケロがマイクを握って叫ぶ。
途端に観客達の大歓声が会場を再び埋め尽くす。中には試合を終えたばかりにも関わらず、熱斗とストンナも歓声を上げていた。
光熱斗VSストンナのネットバトルは、熱斗の適応力の高さと、ストンナの精神力の強さを示した、堅実という言葉が相応しい名勝負だった。
続く伊集院炎山VSジャック・エレキテルのネットバトルも素晴らしい戦いになるだろう……そういう期待を込めた歓声だ。
その歓声に応じるように、二名のネットバトラーが舞台へ歩みを進めた。
『ブルースVSエレキマン! ゾンビ戦法はオフィシャルのエースにどこまで通じるのか!?』
感情を推し量れない、熱さも冷たさも感じさせない眼差しで正面を見据える炎山。
既に勝利を確信したかのように、歯を剥き出しにして笑うエレキ伯爵。
『それでは始めましょう! バトルオペレーション―――
「待った」―――セ…っ……と?」
緑川ケロだけではない。トラキチが、ヒグレが、熱斗とストンナが、そしてエレキ伯爵が。
この場に居る、待ったをかけた伊集院以外の人々が、予想外の展開を前に呆然としていた。
「……どうしましたか伊集院炎山。まさかだとは思いますが降参するとでも?」
「寝言は寝てから言え」
最初に処理が追いついたのはエレキ伯爵。冗談を言うと炎山は真っ先に否定するので、エレキ伯爵は「でしょうね」と肩を竦ませる。
続いて追いついたのは観客全員だ。降参ではないらしいが、エレキ伯爵は既にプラグインしているが炎山はプラグインしていない事もあって勘ぐる者は多い。
「せやかて炎山、なんの目的があって待ったをかけんねん? ちゃんと説明せぇやワレ」
そしてこの場に居る全員を代表してトラキチが解説席から身を乗り出し問いかける。
「安心しろ荒駒虎吉、今から説明する。オレはネットバトラーであると同時にオフィシャルでもある……目の前のネット犯罪者を放っておくわけにはいかない」
伊集院炎山の何気ない発言に会場は騒然。先程同様、突然の事態に状況が追いつかない様子。
「ははは、
「……質問の前にオレの話を聞いてもらう」
笑えないジョークだと笑い飛ばすエレキ伯爵を他所に炎山は語り出す。
DNNスタッフも空気を読んでか、炎山を正面に捉えた画面をスクリーンに出力する。
「オレの父・伊集院秀石率いるIPC(伊集院PETカンパニー)がオフィシャルと共同開発したPET専用外付けHDD『更生用監視ユニット(仮』。
一つはオフィシャルが指定したネットワーク……この場合はN1グランプリ関連の施設やネットワーク……それ以外にプラグインした場合、強制的にプラグアウトする機能。
もう一つは常時監視……小型全方位カメラによる目視と発信機による位置の特定だ。トイレや非常時等はオフィシャルにPETを預ける必要がある」
「
炎山の解説に合わせ、エレキ伯爵のPETにカメラが向けられる。PETには赤く無骨なHDDが取り付けられており、確かに小さいながらも全方位カメラが付いている。
炎山の言っている事は、N1グランプリの公式HPで公表しているジャック・エレキテルの情報にも記載されている。外部の要望次第ではエレキ伯爵の行動履歴を知る事も出来る。
「……あれ? あの電源車はどうやって発注したんでマスか?」
「エレキ伯爵の要望でDNNスタッフとオフィシャルが連絡を挟んだんですよ。わざわざ砂山ディレクターがアン伯爵夫人にテレビ電話で連絡してくれたんです」
日暮闇太郎の思い出したような疑問には緑川ケロが応じてくれた。
先程の監視ユニットの話を考えれば確かにと言える。エレキテル家が用意したという電源車は、エレキ伯爵当人がでなく、DNNとオフィシャルを挟んで伯爵夫人に願い出たものだと。
ほらね、とエレキ伯爵が首を振る。まるで「困った子供だ」と言っているように。
「これで解ったでしょうが、私に何が出来るっていうんですか?」
「だが
その言葉に、今度はネットバトルマシン内の電脳がスクリーンに表示され、次いでエレキマンがズームアップされる。
そしてカメラが自分に向けられることを知り、「やれやれ」と首を振った。それはエレキ伯爵と違って「ついにバレたか」と言わんばかり。
「ほぉ……では私がエレキマンに何をしたと言うんです、
解いて見せろよ、と言わんばかりに炎山を見やるエレキ伯爵。
―白熱する名勝負が始まると思ったら推理モノが始まった件について。
人々の想いはそれだろう。だが彼らは固唾を飲んで炎山を見やる……因みに熱斗は未だに目を点にして呆然としていたし、ストンナに至っては無表情のまま寝てた。
「切欠はクイックマンとのネットバトルだ。ヤツらはオレに、エレキマンが持つ再生力の秘密を解く機会を与えてくれた」
炎山は解説する。
高速戦闘を得意とするだけでなく、幾度となく敵に攻撃を仕掛ける連続攻撃を持ちながら『アンダーシャツ』によるゾンビ戦法を崩せなかった。
電撃を定期的に発する置物『バッテリー』によるものだとしても、高速の連続から立ち上がるには「再生が早すぎる」し「回復量が大きすぎる」。
即ち―――
「そしてエレキ伯爵が科学省で犯した罪状に、あるプログラムが関わっている。これを用いたとすれば辻妻が合う」
『エレキ伯爵』・『科学省』・『罪』・『あるプログラム』―――その言葉のピースが真っ先に嵌ったのが、光熱斗とロックマンだった。
そうだ、エレキマンと最初に会った場所は―――科学省の地下発電所!
「キサマ……『究極プログラム』が1つ『エレキプログラム』をエレキマンに組み込んだな?」
「
的を射ている、と言わんばかりに手で拳銃を作り「バーン」と撃つ動作を見せるエレキ伯爵。
究極プログラム……Dr.ワイリーが『ドリームウィルス』を完成させる為に必要とした、文字通り「究極の効率を編み出す」プログラム。
エレキプログラムともなれば、演算により最高の発電効率を割り出し、発電機が生み出す電力を最大限にまで引き出すことが可能だ。
「私が手に入れたのは劣化コピーですが、我がエレキテル家の技術力を用いればネットナビのナビカスパーツとして転用することなど容易いことです」
あの電気属性の吸収率の高さは、エレキプログラムを用いたナビカスパーツで「最高の入電効率」へと昇華したもの。
なるほど電気工学に詳しいエレキテル家ならではの魔改造と言えるだろう……だがそれだけならば。
「ですがバグを起こさない改造コードはセーフなのでしょう? なにが悪いっていうんです?」
いや悪いだろう……そう思いつつもエレキ伯爵の言う事も一理あると観客達は思ってしまう。
究極プログラムをナビカスプログラムに転じる技術は確かに反則レベル。しかしバグが生じない以上はオフィシャルも黙認できるレベルだ。
盗品を劣化コピーとはいえ許可もなく使うとなれば確かに犯罪だろうが……ファイナルトーナメントを止める理由としては弱いと思わざるを得ない。
ここで注目すべきカラクリをズラす。
「―――荒駒虎吉に日暮闇太郎、お前達に聞きたい」
「な、なんでマスか?」「この流れでオレらに聞くんかいな」
「俗にいう『クサムラアンダーシャツ』についてはどこまで知っている?」
唐突に声を掛けられて戸惑う闇太郎と、呆れて肩を竦めるトラキチ。
だが炎山が投げかけられた質問は確かに専門家に合った内容であり……とてつもない方向転換でもあった。
「木属性ナビの特性を最大限に発揮できる戦法やな。クサムラパネル上で自動回復する
「昔の『アンダーシャツ』はバトルチップだったんでマスが、ナビカスパーツになってからは僅かにでも回復すると再発動できるでマスから、超有能な戦法へと進化したでマス」
まぁ嫌われる戦法でマスがね……と苦笑い。バトルチップショップを経営する身故か、お客からゾンビ戦法対策を教えて欲しいとよく頼まれるのだ。
「発動条件は『木属性ナビがクサムラパネル上に居る事』……それと同じ現象がエレキマンにも起こっている。それは何故か」
エレキマンの
だからこそ視点をズラす必要があった。
「もう一つ監視ユニットおよびオフィシャルの目が届かない点がある。PETとエレキ伯爵そのものだ」
「私とPETに?」
「……エレキテル家の技術によって誕生した画期的な発明の一つに『PETを置くだけで充電できる端末』がある。IPCでも現在ニホン向けに開発が進められている」
お道化て自身を指差すエレキ伯爵を睨みながら炎山が話を進める。
それはアメロッパではメジャーになりつつあるが、それ以外の国では近年になって注目を集めるよになった最新のシステム。
難しいシステムやパーツ無しで、いちいちPETを電源に繋げずに済む便利グッズ。エレキテル家の技術力と知識あってこその発明だ。
それを聞いた観客達は、そんな発明があるのかと感心する人と、ある事に気づいた人に分かれる。
「オフィシャル権限を持って命ずる―――この場で身体検査を受けてもらおう」
「――――HAHAHAHA! ついにバレてしまいましたか!」
大笑いし始めたかと思えばエレキ伯爵は上着のボタンを取り……スーツの裏側を見せる。
そこにはエレキマンのナビマークが付いた小型バッテリーが幾つも取り付けてあり、一本のコードに集約して片腕……PETを握る腕に伸びていた。
炎山が言っていた端末システムの事を考えれば、PETを握る手袋にはバッテリーの電力をPETに伝える端末が仕込まれている可能性が高い。
「このエレキテル家特性バッテリーは、これ一つで一般家庭の電気自動車を一日中走らせる程の電池量を誇るのです」
エレキ伯爵が自慢気に解説する。
エレキプログラムによる極限レベルの充電効率。エレキテル家が開発した端末による充電機能。そしてコート裏に隠された高性能バッテリー。
これらが意味するものは一つ。
「「「インチキじゃねーかー!!!」」」
無限ゾンビ戦法は隠しバッテリーで実現できたのだ!
湧き上がるブーイングの嵐。中には空き缶や丸められたチリ紙まで投げつける者も居る。
無理もない。これまでの楽しみを無駄にした上に期待を裏切られた人々の怒りは果てしない。
「エレキ伯爵お前さー! WWWから足を洗って改心したんじゃなかったのかよ!」
「悪事は止めましたが反則しないとは言ってないデース」
「堂々としてんじゃねーですよ!」
彼らの怒りを代弁するように熱斗が怒鳴りつけるが、エレキ伯爵はふざけるばかりで目が覚めたストンナの怒りまでも買い付ける。
ブーイングが止まない中「うるさいですねー」と耳の穴に突っ込んでいた小指を抜いて背を向ける。
「それでは私はココでご退場、アナタは堂々と不戦勝ということで―――」
「待った」
エレキ伯爵の自首かつ自主退場に待ったをかける炎山。
思わずと言わんばかりに全員の動きも音も止まり―――今度は何を言い出すんだと身構える。
そんな会場の人々に対し炎山は―――口角を釣り上げた。
「
炎山はネットバトルマシンにPETをつなげ、ブルースをプラグインさせた。
目を点にするエレキ伯爵に対し、ブルースと対峙したエレキマンは「おお」と意外そうに声を出す。
「言ったはずだ……オレはネットバトラーであると同時にオフィシャルでもある、と。カラクリさえ解った以上、オレ達の糧になってもらう。逮捕は勝っても負けても試合後だ」
オフィシャルも待機しているわけだしな、と肩を竦める炎山。
彼はこう言っているのだ―――その程度で負けるようなオレとブルースではない、と。
「―――そうだ、やっちまえ炎山!」
『ブルースも頑張れ! ゾンビ戦法にだって弱点はあるんだから!』
真っ先に炎山を応援したのは熱斗とロックマン。その視線と声には、炎山とブルースへの信頼がヒシヒシと伝わってくる。
その信頼は徐々に会場を埋め尽くし、
大歓声へと転じた事に苛立ちを覚えたのか、エレキ伯爵は舌打ちをして眉を歪める。
「―――生意気なガキですね、この仕組みが解っていながら挑むと?」
「いくら回復速度が勝っていようが無敵ではない。これ以上の効率アップは見込めない以じょ―――」
ここで炎山はフリーズし―――ギュルンッ!と解説席に顔を向けて叫ぶ。
「緑川ケロ!」
「ひゃひっ!?」
「
「どこって――――あ!」
そういえばこのネットバトルマシン
「―――
普段からは想像できないほどの冷たい眼差しを向けながら、エレキ伯爵は指を鳴らす。
―――さぁ、
〇
敢えて名探偵と書いてシャーロックと読ませる。かっこいいから。
オフィシャルのエースは推理力にも優れていそうだなーって。
別にオフィシャルが無能ってわけじゃないです。監視ユニットや常備配置していることもあって油断していただけなんです。
〇エレキマンのカラクリ
というわけでエレキマンの異常なまでの再生能力の正体。
デザードマン編をエレキマンで代用する際にずっと暖めてたネタです。満足。
究極プログラムの独自解釈に関しては下記に掲載しています。
〇究極プログラム
その機器における最高効率の出力を導き出すプログラム(という独自設定
例えば家庭用電子コンロにファイアプログラムを取り付ければ、焦がさず美味しく調理できる熱効率を料理ごとに瞬時に算出できる。
原作ではドリームウィルスを使う材料としか認識していないので色々盛り込んだ。
〇置くだけ充電器
現実世界ではスマホで活用されているシステム。
この世界線ではエレキテル家の技術で開発された(という独自設定
この機能でバトル中常時PETに電流を送り込み、エレキマンを回復させていた。
〇
適当に検索して英訳して組み合わせた作者独自の言葉。訳すと「勘の良いガキ」。
次回、エレキ伯爵が更にやらかす。
いつも感想や誤字報告ありがとうございます!
ロッコちゃんを意識した女体化事件のギャグ満載オリジナル短編が書きたい(ぉ