ストーンマン拾ったんで魔改造するです!   作:ヤトラ

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ストンナが誘拐されて少し経った頃。

※後書きにて報告がございます。


【少女の重み】

 重い瞼を開くと、そこには主治医と鳥海日向、そして心配そうに覗き込む熱斗の姿があった。

 

「―――まもる! 目が覚めたんだな!」

 

 浦川まもる(こちら)が目を開いたのを見るや否や、熱斗のパァっと表情が明るくなる。

 主治医は無言で頷き、なんだかんだ心配してくれていた日向がホっと胸を撫で下している。

 

 胸の底から湧き上がる喜びを噛み締めながら、夢見ていた言葉を出す。

 

「熱斗くん……ボク、勝ったよ」

 

 熱斗は無意識に伸ばしたまもるの手を両の手で包み、涙目になって頷く。

 

 まだ眠気と疲労が溜まっていて声が掠れているが、体の蝕みを告げる微かな痛みは感じない。

 親友がずっと待ってくれた事、ようやっと病に打ち勝った事……嬉しすぎて涙が出る程だ。

 

「まもる、これを」

 

 袖で涙を拭った熱斗が何かを握らせたが涙で滲んでいて見えづらいので近づける。

 

 それはまもるのPETだった。本来入るべき住民のいない空っぽだった(・・・)もの。

 

 その中に誰かがいる。もう片方の手で涙を拭ってから再度見てみると。

 

『初めましてだ、我が友よ!』

 

 腕を組んでニカっと笑う、金の角飾りを持った大柄なネットナビ。

 

 その姿には覚えがある。もう一人の親友がコツコツと作ってくれた、彼女曰く「まもると歩むのに相応しいネットナビ」の設計図を何度も見たからだ。

 身体が弱い自分に代わって逞しく生きて欲しいとゴリゴリのフィジカルファイターを希望し、二人であーだこーだとネット通話で話し合って決めた姿。

 

 ストンナ曰く「征服の王」がコンセプトらしい。そんなネットナビの名を、まもるは呼ぶ。

 

「……君が、バラード?」

 

『応! 共に世界の最果てを目指さんとする王である!』

 

「さ、さいはて?」

 

 思わずそう聞き返すと彼……バラードはまもるの反応が意外だと目を開き、豪快に笑いだす。

 

『それぐらいの気持ちで行けと言っているのだ! 彼方にこそ栄えあり……届かぬからこそ挑むのだ!』

 

 届かぬからこそ挑む―――その言葉が胸にストンとくる。

 

 これまでは体を理由に、挑む事ですら諦めてきた。だけどこれからは、何にだって挑める。

 体の内側から湧き上がるのは、先程の喜びとは違ったもの。未知なるそれ(・・)は決して不快などではなく、どこまでも進んでいけそうな全能感に駆られる。

 歯を剥き出しにして不敵に笑うバラード。出会うどころか生まれたばかりだというのに信頼してくれるナビに応ようと、まもるは笑みを浮かべる。

 

『待っていてくれてありがとう……これからよろしくね!』

 

『無論! 今日この時より、我らの覇道は始まったのだ!』

 

 キミの分まで、彼と共に世界を見に行くよ―――■■■■■

 

 そこでふと思い出した事があり、先程からこっちをみて嬉しそうに頷いている熱斗に尋ねる。

 

「そうだ熱斗くん、ストンナはどうしたの?」

 

『おお余も造り手(クリエイター)殿に話があってな』

 

 出会って間もなく息ぴったりなまもるとバラードに対し……熱斗は悲痛の表情を浮かべる。

 主治医も日向も熱斗と同じような顔を浮かべている。どうしたのだろうか?

 

「実は……」

 

 熱斗が告げるのは、両親と一緒に旅館に戻ったんだろうと軽く考えていたまもるのを裏切るような言葉だった。

 

 

 

――

 

 その言葉が信じ切れず、プリンセス・プライドは思わず聞き返す。

 

「ストンナが攫われた……?」

 

『残念ながら事実です、プライド様』

 

 最も信じたくないであろうに、ストンナの父メガト・キロクラムはテレビ画面越しに告げる。

 改めて耳にした言葉に、プライドは眩暈が生じる。ナイトマンが『しっかりなされよ!』と声をかけてくれなかったら倒れていた所だ。

 

『無理もない事だナイトマン。妻のニーチなど寝込んでしまったのだからネ』

 

 メガトが少し横へ逸れれば、うらかわ旅館の布団で眠るニーチの姿が映し出される。

 よく見れば呻き声をあげており、如何にショックだったのかが解る。メガトも無表情であるが微かに体が震えており、今にも倒れそうだ。

 

 無理もない。結婚して長らく子供に恵まれなかったキロクラム夫婦にとって、5年かけて漸く生まれてくれたストンナは何にも代えられぬ宝だ。

 その溺愛する娘を目の前で攫われたとなればトラウマになっても可笑しくない……悔し気に呻くナイトマンに代わり、何とか立ち直したプライドがPC前で姿勢を正す。

 

「下手人はWWWと言う事でしたね。発信機の行方は分かっていますか?」

 

 これも信じられない話だが、誘拐犯はジェットパックで飛んで沖に逃げたらしい。

 

 発信機とは、ストンナがいつも付けている、ストーンマンのナビマークが刻まれた髪飾り。

 他にも様々な防犯グッズを服に仕込んでおり、ゴスペル誘拐時もその機能が役立ったのだが……。

 

『海上で仲間の船と合流したらしく緩やかに移動……している最中に発信が途絶えました。恐らくは発信機の存在に気づいたようですナ」

 

『なんと……』

 

 悔しさのあまり拳を握りしめるナイトマンに対し、プライドは考え出す。WWWの狙いはストーンマンだとメガトは言った。それは何故か。

 

「アナタの開発した大型ウィルスに認知されなくなるプログラム……認証コードはコピーや洗脳といった悪用を防げるのでしょう? キロクラム家のサーバーに厳重に保管されていますし、どうして……」

 

『……お伝えしたと思いますがストーンマン本来の開発者はDr.ワイリー。そこが問題なのです』

 

 今や大型ウィルスを用いたセキュリティはクリームランド電脳の鉄板。故に決して悪用させない。

 大型ウィルスの複製や配置変更を行えば即座に自壊。認証コードを入力したネットナビに対しても同様で、データ抽出やコピー、あまつさえ洗脳しようものなら……。

 

 そこまで考えて、プライドはメガトの意図に漸く気づき顔を青ざめる。

 

『その様子だとお気づきになられたようですね』

 

「―――ワイリーなら自壊プログラムに引っかからず洗脳処置を施せると? いえ、それ以前にストンナを人質にすれば……」

 

『二人の絆が仇になりましたな』

 

 メガトが重苦しいため息を零す。

 

 ストーンマンの構造を真に把握しているDr.ワイリーなら、認証コードを自壊させることなくストーンマンを洗脳できる可能性が高い。

 そうでなくても、ストーンマンはストンナに忠誠を誓っている。彼女を人質に取られれば、彼女自身が止めるよう言ってもワイリーの命令に従うだろう。

 メガトはDr.ワイリーの性格を考えれば前者……洗脳を必ず施すだろうと踏んでいる。そうなってしまえば一刻の猶予もない。

 

『テトラコードが狙われている以上、もはや科学省を問いただし、警備を今以上に強固にする他ありますまい』

 

「科学省は何をしているというのですか?」

 

『それとなく訪ねても知らぬ存ぜぬの一点張り。恐らく一部始終を知る老骨共の意固地でしょう』

 

 かつてのニホン科学省を知る一人として、メガトは無表情ながらも疲れたような溜息を吐く。

 恐らくは「例の存在」だけででなく、かの者(・・・・)を罪人に仕立てた罪状を隠したいのだろう。つくづく、歳を取ると面倒くさくなるものだと40代(メガト)は痛感する。

 

『炎山少年を始めとするオフィシャルにも相談いたしましたが、外部からの圧力が必要です。御身のお力添えをお願い致したく存じ上げます』

 

「無論です。ストンナの為、そしてかの災厄(・・・・)を復活させない為にも、クリームランドはニホンに干渉します」

 

 頭を下げるメガトに力強く頷くプライド。

 

 当事者ではないプライドは書類上でしか確認されていないが、書かれている内容が本当なら、少し前にゴスペルが起こした電脳戦争「サマーウォーズ」以上の脅威となる。

 可愛い妹分にして頼れる臣下を取り戻す為にも、クリームランドという国家の圧力を持って科学省に白状させ、よりオフィシャルと明確に連携していかなければ。

 

「メガト・キロクラムは、酷でしょうがニーチ・キロクラムを置いて科学省へ。ニホンに交渉を仕掛けるまでの間、大型ウィルスを餌に科学省を炙り出してください」

 

『お言葉ですが、プライド様は宜しいので?』

 

「……私はクリームランド唯一のオフィシャルネットバトラー。最悪の事態を想定して残ります」

 

 現場に駆け付けたい気持ちがプライドにはあるがそれはメガトとて同じ。一秒でも早く娘を取り返したい一心で、冷静にかつ冷徹に問題を順次解決させるべく動くのだ。

 

「その代わりネットナイツの精鋭を2名派遣させます。要望はありますか?」

 

『そうですな―――』

 

 ネットナイツとはストンナを始めとした少数精鋭のネットバトラー組織だ。頂点であるプライドとナイトマンを除けばクリームランドで10指に入る腕前を持ち、得意分野を伸ばして各々が活躍している。

 その中からメガトの要望をピックアップし、ナイトマンがその者らに出動要請のメールを送る。

 

「メガト、もしもの場合は―――」

 

『こんな事態ですので……と言いたいですが向こうの流儀と言い分もありましてね』

 

 プライドの質問の意図を察したか、困ったように肩を竦めるメガト。

 メガトの反応を見て溜息を洩らしつつ、仕方ないと割り切っている。

 

 何せ相手(・・)は国にも屈せぬのだから……。

 

 そう考えつつ、送って早々にメールが来た事に表情を綻ばせるプライド。

 クリームランド(こちら)に出来る事があれば、あらゆる手を尽くしてストンナを取り戻す。

 久々に忙しい日々を過ごすことになりそうだ……覚悟を決めたプライドは、ナイトマンに重鎮達を呼び集めるよう指示するべく席を立った。

 

 

 

―――

 

 プラントマンが目覚めて目にしたのは、Dr.ワイリーの怒り顔だった。

 

『―――その様子だと私は失敗した上、何者かにデリートされたようですね』

 

「ふん、解っておるなら結構! もしもの保険に犬飼を向かわせて正解じゃったわ!」

 

 冷や汗をかくプラントマンに対し、苛立ちを隠さぬままワイリーは毒づく。

 

 潮の流れが激しく上空は乱気流が常に発生しているというデモンズ海域。そんな海域でどうやって建築したかは分からないが、そこにWWWの本拠地がある。

 卓上に置かれ無数のコードで繋がれたPETに入るプラントマンは、ワイリーが所持しているバックアッププログラムから復元したものだ。

 そこから復元したプラントマンの記憶は湾口病院に派遣する前の状態な為、己に課せられた任務が失敗したことを悟ったのだ。

 

 そして犬飼猛の名が出てくるということは。

 

『それでも最低限の目的は果たされたということですね?』

 

「その通りじゃ」

 

 ワイリーが振り向く先には、壁一面に掛けられた巨大なモニター画面。その中央には巨大な四角形のネットナビ……ストーンマンが居た。

 スリープモードに入っているのか目に光がなく、ナビカスタマイザーを中心とした様々なウィンドウが周囲に浮かんでいる。

 

「あの小娘め、ワシのストーンマンを弄くりまわしよって」

 

 今やネットどころかテレビですら出回っているストンナとストーンマン。

 メトロラインの保安プログラムを停止させる為だけに作ったネットナビが、あれほどまでに魔改造(カスタマイズ)され、クリームランド屈指の実力者として成り上がった。

 こうしてストーンマンを調整している間にも、その高度なナビカスタマイズに舌を巻く。

 

 しかし何が一番許せないかといえば……ストーンマンをスリープモードにする前を思い出す。

 

――すとんなニ手ヲ出ダスナ! すとーんまんノおぺれーたーダゾ!

 

――ゴゴゴ……大人シクスレバ、本当ニすとんなヲ逃ガスノダナ?

 

 余りにもPETを手放さない為、西古レイが催眠術を用いたことで漸く大人しくなった小娘。

 その小娘を案じて、本来の主であるはずの自分の言う事をやっと聞くようになった……それがワイリーを何よりも苛立たせていた。

 今はストーンマンに内臓されている認証コードの自壊プログラムを発動させぬよう、慎重に洗脳処置プログラムを施している最中だ。

 

「クリームランドの大型ウィルスがストーンマンには無反応だったのを犬飼から聞けたのは幸いじゃった。梃子摺りはするが洗脳プログラムを施せさえすればこちらのものよ」

 

『では再度テトラコードを奪取するわけですか』

 

「ああ……じゃがまずは邪魔な科学省から潰す。既にマハ・ジャラマが手を回しておるからの」

 

 前線へ出る事を好まず引きこもりがちなマハ・ジャラマに無理を命じて出動させる。

 人材そのものは多いのだが所詮はしたっぱだ。WWWは有能なオペレーターが不足しており、失態を犯したオペレーターや自立ナビを再利用する他ないからだ。

 加えてマハ・ジャラマは人心掌握にも長けている。今頃はうだつの上がらない研究員を買収し、科学省を内側から崩す算段を立てているはずだ。

 

「いよいよテトラコードをわが手に―――」

 

 

「グオー! なのですー!

 

 

「……ええいまたか!!」

 

 恰好つけようとしてた所へ子供の叫び声が轟き、ワイリーの苛立ちが再び急上昇し始める。

 扉の向こうではドッタンバッタンと大きな音と衝撃音、それに複数人の声が響く。

 

「ちょっとこのイノシシ娘暴れすぎ、キャーッ!」

 

「いやちげぇ、この頭突きの仕方はパキケファロサウルスだ!」

 

「どうでも良いわよさっさと止めなさいよ毛蟹男!」

 

「誰が毛深いだ! おい西古のヤツはどうした!?」

 

「そ、それが西古様は小娘の頭突きで腰をやられて動けず……!」

 

「ああくそモヤシ術師が! おいおい頼むよ止まってくれ、おげーっ!?」

 

「ガオー! なのですー!」

 

 催眠術師の西古レイによって催眠術をかけたはいいが、直後にストンナは恐竜と化した。

 石頭を使った突進はWWW基地内の備品を壊しまくり、下っ端の腰を悉く破滅へと追いやる。

 敵陣で暴れまわるなど、なんと恐ろしい小娘か。現在は色彩まどいと犬飼猛が抑えようとしているが、暴走っぷりは止まることを知らない。

 

「おのれキロクラムの連中め……トラブルメーカーな所まで受け継ぐでないわ!」

 

 ワイリーの脳裏に浮かぶのは、無表情な研究者カップルと、背後にある壊れた電子機器の数々。

 思い出すのは若き男女が起こすトラブルだらけの……それでも嫌いにはなれなかったあの日々。

 人格や腕前は問題なく優秀だったが、彼らの同僚や自身のライバルが世話を焼き、彼らに代わり2人を叱咤したものだ。自分を「先生」と呼んでくるので一々否定するのが地味に面倒だった。

 

『ワイリー様?』

 

「……なんでもないわい!」

 

 とっとと持ち場に戻れと命ずれば、プラントマンは恭しく一礼した後にプラグアウトする。

 今の思い出を誤魔化すように、ストーンマンの洗脳処置を進めようとキーボードに指を走らせる。

 

「ふん……デリート、デリートじゃ。ネットワーク社会なぞヤツ(・・)に滅ぼされてしまえ……!」

 

 ワイリーの独り言を聞く者は、この場には居ない―――

 

 

 

 

―ドゴーン!

 

「ガオオォォォ! なのですぅぅぅぅ!」

 

「頭突きでドアをぶち破るな小娘ぇぇぇぇ!」

 

 ストンナ(催眠中)の未来はどっちだ。




西古レイ「腰が……腰が……っ!」(悶絶中
フラッシュマン『オペレーターがこれじゃ催眠術解けれないな……』

頑固なストンナに催眠術は抜群すぎた(解けにくさもアップ中

※以下報告※

申し訳ありませんが、今月4月は連載をお休みさせて貰います。
理由はエグゼ二次小説の書き溜めとリフレッシュですね。
毎週更新を目指して頑張ってきたので、来月5月にまた週一更新できるようにします。

今後も「スト魔改です」をよろしくお願いします。
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