「ろ、【老師の許可証】を貰ったぞ!」
インストールし終えたPETを掲げるだけで、一種の達成感に浸る熱斗とロックちゃんであった。
『寄り道しちゃったけど、頑張ったねボク達……!』
一見すると雑草に見えない薬草、見るからに怪しい色合いの茸、何の品種かサッパリ解らない花等々……多種多様な薬の材料を集めてきた熱斗は、遂にお目当ての品と交換することが出来た。
ロックちゃんはロックちゃんで、メットールやガルーはともかく、プルメロやマルモコといった発見されて間もないウィルスから抽出されるワクチンデータまで沢山集めてきた。
実はクロスフュージョン及びギガフリーズの影響でバトルチップを失っていたので、ここで補強できたのはありがたかったりする。因みにチェンジ.batは無事で、先日アジーナに返還した。
ロックちゃんに惚れてネットバトルを仕掛けるノーマルナビやヒールナビ、チョイナ独自の量産型ネットナビ・カンフーナビ*1に襲われる事も度々あった。ワクチンの材料を貰えなかったらHPと時間の無駄だったろう。
そんな苦労を味わった熱斗達とは裏腹に。
「良い香り~。このお茶なんて名前だっけ?」
「ドクダミ茶ネ、毒や痛みに効くとされるヨ」
「最新のバトルチップ『バルカン1』が手にはいるたぁ思わなかったぜ!」
『老師の研究用データの余りをパクったものよ、ヒミツにしといてね!』
『モチロンでガス!』
「あら、この軟膏ベタつきが少なくて使いやすいじゃない」
「思わず交換してもうたけど、なして入浴剤があるねん」
『なぜそれと交換したのだトラキチよ……』
わいわいはしゃぐ幼馴染+1の5人組はとても呑気だ。目的の品を集める為に材料を分けて貰ったとはいえ、各々が好きなように景品と交換している。
『……チサオさんにバブルマン、さっきから静かですけどどうなさったんですか?』
グライドがふと気づく。チサオは少し離れた所でポチポチとPETを弄っている。彼がクルリと翻ると、パァっと明るい表情を浮かべていた。
「今さっきストンナちゃんからメールが来てたでちゅが、チョイナのネットワークにストーンマンが来てるんでちゅって!」
『プクク、新種のウィルスを採取する為にチョイナ電脳に派遣したそうでプク』
こんな中でも
あのストンナがチサオとお付き合いをすると聞いた時は大層驚いたが、今は友達以上恋人未満な二人の仲を見てホッコリするのが日課となっている。*2
「じゃあどっかでストーンマンに会えるかもしれないな!」
『協力してくれたら心強いんだけどなぁ……』
何にしても、まさか新種ウィルスの為にチョイナ電脳まで来るとは。
ストンナはWWW騒動の後、キロクラム夫婦とプライドに心配かけたバツとして暫しクリームランドから出られなくなっている。
とはいえネットワークという手段はあるので、ストーンマンに色々な仕事をさせているらしい。忙しいが充実している、とはストーンマンの談だ。
「さ、ゴチャゴチャしていないで移動するネ」
「その前にゴチャゴチャしとるもんを片付けなアカンけどな」
キッチンカーに商売道具をヒョイヒョイと仕舞うジャスミンと、重い石臼を抱えて苦言を述べるトラキチ。なんだかん手伝っている辺り人は良いぞトラキチ。
「そ・の・ま・え・に!」
皆の注目を集めるようにして大声を張るやいと。何事かと皆の視線が集まれば。
「―――少し休んでからにしない?」
なんだかんだ疲れたのよ、と自らの肩を叩いてアピールするやいと。
それに釣られ、材料やデータを集め回った疲労が一気に体に圧し掛かってきた。特に熱斗とロックちゃんはヘトヘトである。
折角のチョイナ一周旅行券だ、期間全てを労働に費やさないよう小まめに旅行を楽しむとしよう。折角なのでジャスミンも誘い、チェックインした観光街のホテルへ戻る事に。
―――この後めちゃくちゃホテル(熱斗のオゴリ)で休んで観光した。
―――
―――
観光街で飲食や買い物を楽しんだ後、メディが操作するキッチンカーに続き道を進む熱斗達。
ネットナビが運転するとはいえ、以前WWWが起こした自動運転車暴走事件(まどい&カラードマンが犯人)もあって走行速度は自転車にも劣るレベル。
老師の研究所まで遠くない所にあるとジャスミンが言っていたし、のんびりと竹林散策も兼ねて徒歩で進んでいた。
―――その先に待ち受けていたものは。
「パ……パンダがスクラムを組んどる……!?」
思わずトラキチの顔の堀が深くなるのも無理もない……何せ本当にパンダ達がスクラムを組んで通せんぼしているのだから。
研究所へ続くゲート前を『ここから先は通さねぇ』と言わんばかりに横一列になって肩を組むパンダ達。この白黒の壁を越えようとした者がどうなるかは、道路脇で横転している車や荷台の数々が物語っている。
「一体どこからツッコめばええんや!?」
「こんにちわー。どうしたんだよこのパンダ達?」
「こんにちわ。アイツらは突然パンダ園から脱走して、何故か道を塞いでるんだ。近づくと見事なチームワークとタックルで追い出されるから気をつけろよ」
「原因は解っているんですか?」
「アイツら首輪つけてるだろ? 健康診断用のICチップがついているんだが、誰かがハッキングしてパンダをまとめて遠隔操作しているみたいなんだ」
「よかよか動物園のヤな思い出が蘇るぜ……操っているネットナビをやっつけて命令を書き換えられないか? つーかオフィシャルはどうしたんだよ」
「それが、かなり強力なウィルスがいるらしくて奥へ進めないんだ。チョイナオフィシャルは、なんでも逃走中のネットナビを追走中とかで、人手が足りねぇみたいだし……」
「そうだったの……説明ありがとね」
「おう……そういやストーンマンっつーネットナビがパンダチップの電脳に入っているんだ。新種ウィルスの調査ついでに協力してくれるってよ」
「ストーンマンが? 教えてくれてありがとでちゅオジさん!」
「オレはオジさんじゃないよ、飼育員のお兄さんだよ」
頭を抱えるトラキチを他所に、そこら辺に居た通行人(パンダ園の飼育員さん)に尋ね次々と情報を手に入れていく熱斗達であった。
しれっと情報を纏めてくれた熱斗達を見て「オレが可笑しいんか?」と逆に考え込むトラキチだったが、ラチが明かないし放っておこう。
「―――ストンナちゃんと連絡とれたでちゅ、テレビ電話で繋ぎまちゅね」
早速とばかりにストンナとメールのやり取りをしていたらしいチサオがPETを掲げ、皆に画面を見せる。テレビ通話で開かれたディスプレイには、お馴染みのジト目幼女ことストンナが手を振っていた。
「久しぶりねストンナちゃん!」
『皆さん久しぶりなのです。話はチサオくんから聞いたですよー』
「呪いのナビカスパーツについてもか?」
『聞いているですよ。もうクリームランドにも噂が広まっているですし』
「うわ、ウワサ広まるの早すぎ……」
『しかしなんといいますか……エロいですねロックちゃん』
『スートーンーナー!』
ふひひ、と笑うストンナのジト目がエロおやじじみているのは気のせいだろうか。
『残念ながら呪いに関してはお手上げですが、仕事のついでにストーンマンが手伝うですよ』
ジャスミンとメディにも挨拶を終え、ストンナは平らな胸をトンと叩く。
「ほなオレらでパンダ園の電脳にプラグインすればええんやな?」
「オジさんから聞いた話だとそうなるよな。さっさと片付けて老師の研究所へ行こうぜ!」
「これだけネットバトラーがいれば楽勝だろ! このデカオ様とガッツマンにドンと任せな!」
「ガンバレあんたラ」
「嬢ちゃんは呑気に見学……いやここでも商売かいな」
熱斗達を、商魂逞しいジャスミンが呑気に手を振って見送る。既にキッチンカーから商売道具を展開しており、立ち往生している通行人達に薬を売り始めていた。
飼育員のオジさんに事情を説明し、N1グランプリの猛者である熱斗・デカオ・トラキチがいるなら心強いと空っぽのパンダ園に案内してもらう。
『プラグイン!』
健康管理コンピューターに6体のネットナビがプラグイン。格子状の細長く広いエリアに竹林の茂みが点々と生える自然豊かな電脳空間だ。
その竹林の茂みの一つから、見慣れた巨体のネットナビが出てきた―――ストーンマンだ。
『ゴゴゴ……ゴ? 久シブリダナ、オ前ラ』
『お久しぶりでガッツ!』
『ストンナちゃんから話は聞いたよ、新種のウィルス調査だなんて大変そうだね』
『ゴゴゴ……ウワサニハ聞イテイタガ……えろイナろっくチャン』
『ストーンマンまで……』
そういえばガッツマン曰く「ストーンマンは
下心丸出しなストーンマンの大きな足を蹴飛ばす(ダメージ0)ロールちゃんだが、よく見ると……。
『随分とボロボロだな、何があったのだ?』
『苦手なウィルスでも居たでプクか?』
思わずとばかりにキングマンとバブルマンが尋ねる。
よく見ると何かに突かれたような凹みがいくつかあり、相当な貫通力を持つ何かに刺されたのだということが解る。超重量級故に豊富なはずのHPも半分近く下回っている。
とはいえ、いくら高耐久とはいえ相性の良し悪しでゴリゴリ削られるのはネットワークあるあるだ。最近は新種であるが故に適応できずボコボコにされるケースも少なくないが……。
『ゴゴゴ、気ヲ付ケロ! ココノうぃるすハーーーデ、デターッ!』
大抵の攻撃には怯まないストーンマンが慌てて後退すると、ストーンマンが出てきた茂みから何かが現れる。
一つは竹藪から見える黄色い目……近日になって発見された「キルブー」なる新種のウィルス。もう一体は……。
『……クモ?』
―――ロックちゃんの言う通り、そのウィルスはまんまクモのような見た目をしていた。
「バスちゃんから貰ったあのウィルス、ウラ産なだけあってメチャクチャ凶悪よね……」
『使っておいてなんだけど本当にココで繰り出してよかったかな、あんなトラウマメーカー……』