パンダ園の電脳の奥地に陣取る、パンダを操っていスクラムを組ませているネットナビ……ビデオマンは腕を組んで仁王立ちしていた。
『フフフ、よくココまで辿り着いたね……その……ゴメンね?』ジーー
『本っ当にその通りだよ……!』
悪役っぽく堂々とした振る舞おうと……粘着糸でベトベトになった疲労状態のロックちゃんというエロい姿を目の当たりにして思わず謝る。
ロックちゃんだけでなく、肩で息をするガッツマン・キングマン・バブルマンの3体もボロボロで、憤怒の目つきでビデオマンを睨んでいた。
それもこれも、あのクモ型ウィルス「クーモス」が凶悪なのが原因だ。
ストーンマンとストンナの解析によると、ストンナパパことメガト・キロクラムが発見したウラインターネットに生息する新種のウィルスとのこと。
現実世界のクモに酷似した姿はメイルとやいとに鳥肌を立たせ、ロールとグライドをプラグアウトさせてしまった。ストーンマンに至っては『うぃるす調査終ワッタシ』とその場から動かなくなるし。
その性質は、ターゲットを執拗に追いかけ体当たりを仕掛けるというものだが……複数のウィルスと組み合わせることで最悪と化す。
メットールを片付けている間にも体当たり。キルブーの奇襲を避けている最中にも体当たり。上へ下へと移動するウェザーを狙い打つ間にも体当たり……しかも素早いし行き来するエリアは問わないと来た。
キングマンやストーンマンの置物系バトルチップも回り込んで無効化するので、機動力ゼロの彼にとっては何度も何度も体当たりを食らう悪循環に陥ってしまう。
特に中ボスのように立ちはだかった上位種「クモゲイツ」に至っては、HPが高く、すばしっこく動きながら蜘蛛の巣をまき散らすという極悪な性能まで持っていた。しかもお共にキルブー2体。
こうして世間に知れ渡るよりも先に、若きネットバトラー達のトラウマとして刻まれたのだった。
『ボクらの雇い主から貰ったウィルスんだけど、ほんっと怖いねアレ』ジーー
『なら出すんじゃないプク!』
これには臆病なバブルマンもカンカンだ。
「とにかく! さっさと! パンダを解放して先に進ませてくれ!」
『そうは烏賊の金太郎飴よ! ここから先は通さないわよ~ん!』
熱斗の渾身の叫びも新たに表示されたディスプレイ……ビデオマンのオペレーター・山下日出の助が『ノンノン! アタシの名はナルシー・ヒデよ! 訂正しなさい!』―――ナルシー・ヒデの高笑いで搔き消される
「おお? ヒデじゃねぇか」
「あぁん?……ああ、あのスキンデザイナーか!」
『あら〜アタシのこと知ってるのね? 我ながら優秀なアーティストねぇ〜ん』
何やら知っている風なデカオにトラキチが首を傾げたが、その名と独特的なオネエキャラで思い出した。
ナルシー・ヒデ。ここ最近流行っているスキンプログラムで独特的なデザインを売りとしているスキンデザイナーの一人だ。
食べ物やスイーツを模した大胆なスキンは、一部のコアなイレハンプレイヤーに人気で、主にネタ枠としてその名が広まっていたりする。
「ボクも買って使ってまちゅ! 『
『あらん! 嬉しい事言ってくれるじゃないアタシの自信作よアレ!』
「そんなデザイナーさんがなんでこんなことを?」
クーモス系が居なくなったということで熱斗の画面をのぞき込むメイル(なお、詰め寄られた熱斗が「良い香りがする」と真っ赤になっているが気づいていない)。
『アタシ達の雇い主……光熱斗とロックちゃんにとっては黒幕とも言うべきヤツらね。そいつらから呪いのナビカスパーツを貰うためよ』
「あんな呪いどうするつもりよ? まさかビデオマンをビデオウーマンにする気?」
『……5分ほど時間をもらうわ、聞きなさい』
やいとの質問に対し、ナルシー・ヒデは傾聴を促し指を鳴らす。
フィンガースナップに合わせビデオマンが自身の機能を用いて映像を再生。レトロチップなモノクロ画面に二人のネットナビが映し出される。そこにいるのは――ナルシー・ヒデが手掛けたのか少々美化された――ロックマンとイケメンナビの二人。
『―――例えば、熱い友情を交わした男が二人いたとするわ』
『お互いを尊重し友情を育む中、ある日突然片方が女になってしまった』
『それでも友として普段通りに振舞おうとして……やがて男と女の
『嗚呼、元は男なのに、この胸のトキメキはなんなのか……友情と愛に揺れ動く2人……!』
ロックちゃんとイケメンナビの熱い眼差しが交差し、手を取り合い……そこで映像が止まる。
終わった頃には、きゃーっと手で塞ぐも指の間からバッチリ見ている女性2人と、なんでか知らないがドキドキしちゃっている野郎共が3人……チサオは子供だし既に意中の相手がいるからスルーしたが。
『友愛と恋愛に揺れる禁断と背徳のラブロマンス! これぞ美しき愛! アタシはこのドラマを完成させる為、呪いのナビカスパーツを手に入れるのよ!』
「世の中の健全な少年少女の性癖を歪むんやない!!」
『見える、見えるわー! バラ色の未来が! 需要と供給の黄金律がー!』
「ダメだ聞いちゃいねぇ……」
『ちょ、ちょっと興味あるかも……』
「ロール!?」
大騒ぎになってきた周囲の中、熱斗は下手をするとゴスペルやプロト以上の危機感を抱いて慄く。恐るべしオネェの情熱……!
『そ、そんな事させないぞ!』
ドラマの出演者(仮想)にされたロックちゃんは羞恥心で真っ赤になりつつも、ふらつく体にムチを打ってバスターを構える。
『ふふん、いいのかなーそんなこと言って』ジーー
『……さっきからジーーという音がしているが、なんなのだ?』
設定年齢が年上だからかキングマンは然程動揺せず、N1グランプリ準優勝者に銃口を向けられても余裕そうなビデオマンと……彼のスコープのような機器から発する音が気になって問いかける。
よくぞ聞いてくれた、と言わんばかりに不敵に笑い、ビデオテープの映像を再生させる。
クーモスに張り付かれて苦しむロックちゃん!
キルブーの竹ランスに後ろから突かれるロックちゃん!
傷だらけになって息を荒げるロックちゃん!
トドメはクモゲイツの蜘蛛の巣塗れになってボインボディがエッチに浮き彫りになるロックちゃん!
『道中の出来事を撮影していたのさ!』
『熱斗くん、ボクはもうダメだ……』
「ロックマーーーン!!」
「これをバラ撒かれたくなければバトルするな」と暗に告げられ、こんなエッチビデオが出回ったら一生の恥になるとロックちゃんは膝から倒れ白旗を上げた。
『オーッホッホッホ! 安心なさい、飽くまでアタシ達の仕事は時間稼ぎ……呪いのナビカスパーツを手に入れたらビデオを消去してあ・げ・る♡』
『それに給料も貰えるからね。安易に広めるほどボク達も鬼じゃないが……一斉に襲いかかろうだなんて思わない事だね』
下手すればもっとエチエチな要求を脅迫されるエロ本的展開に発展しかねない……一同はかつてない程の危機感に見回れる。ワイリーよりも悪どいかもしれない……!
『なら1番手はワガハイでガス!』
「その意気だガッツマン! ここでお預けだなんて言わねーよなビデオマンよぉ?」
そんな中、ガッツマンが勇敢にもロックちゃんの前に進み、デカオがそれを後押しする。
『N1グランプリ上位者が相手かぁ……ロックちゃんやキングマンよりはマシだね。受けようじゃないか』
このままネットバトルも無しなんて流石につまらないからね、と余裕の笑みだ。ガッツマンとデカオはソレに対してカチンとくるも、直ぐに冷静さを取り戻す。
「ロックちゃんをロックマンに戻す為にも負けてられねーぜ!」
『あらん熱い友情! 見た目は好みじゃないけど中々良い漢じゃな〜い!』
「デカオ……!」
『キミもいいのかい? 男のロマンが胸に詰め込んだ麗しいレディがそこにいるというのに』
『フン! ワガハイはさっきのドラマみたいなことにならない自信しかないでガッツ!』
『ガッツマン……!』
確かに下心のある目で見られはしたが、やっぱり友達でライバルなんだと目頭が熱くなる熱斗とロックちゃん。
『ワガハイ、メディみたいなちょっと強気な女の子が好みだってのが解ったでガスからね!』
「オレはどっちかっつーと物静かなおねーさんが好みだからな!」
「『ずこーっ!!』」
好みの問題だった。
『そんなわけで遠慮なく殴るでガス、覚悟するでガスよ!』
『フン、ボクのビデオテープ殺法の前に敗れるといいさ!』
「ところでビデオテープってなんでちゅか?」
『グハァッ!?』
「ビ、ビデオマーーーン!」
8歳児の悪意も心も無い問いかけに大ダメージを負う、時代の流れに取り残された悲しきネットナビであった。
『ゴフッ……なのです』
「す、ストンナちゃんどうしたでちゅか!?」
『強いて言えば前世のせいです……ガクッ』
「ぜんせ?」