大熊ネ香から漂う煙は人間からすると奇妙な匂いだがパンダにとっては良い香りらしい。
スポーツ根性でハイになっていた彼らは、熱斗達が集めた薬草や茸をジャスミンが煎じて作った御香の薫りに釣られてゾロゾロと並び始める。
「いや皆ありがとう! これでパンダ達を戻せるよ」
「ど、どういたしまして……」
大熊ネ香の香炉を持って喜ぶ飼育員のオジさんだが、やはりと言うか御香の材料を求めアチコチを駆け巡った熱斗は疲労困憊だった。
しかしこれで先に進める。ロックちゃんに掛けられた呪いのナビカスパーツを一刻も早く解く為にも、この先の研究所に居るという老師の下へ急がなくては。
「パンダに触るの初めて! ふわふわ~」
「でろんでろんに溶けとるやんか、まるでネコにマタタビやな」
「オオクマネコと書いてパンダと読むぐれーだしなぁ」
「とりあえず触っときましょ、滅多にない機会よ!」
「見て見てストンナちゃん、パンダ登頂成功でちゅ!」
『おお~パンダの頭に乗るとかチサオくん勇気あるですねぇ』
急ぎたいのだけど……幼馴染+αがパンダと触れ合っていて危機感が全くない……。
『熱斗くん、疲れているだろうしパンダで癒されてみたらどうかな?』
未だキッチンカーに繋がっているPETを見れば……キッチンカーの電脳でパンダガッツマンと戯れるネットナビ達の姿。こっちはこっちでパンダを楽しんでいるのか。
「……そだな」
色々と疲れているのだろう、熱斗はパンダのフワフワなお腹にダイブし、柔らかさと温かさを堪能するのだった……人をダメにするパンダ恐るべし。
―――この後めちゃくちゃパンダで癒された。
―――
―――
さて第一ゲートを抜けて歩き出したのは良いのだが……。
ガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガークケッガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーガー。
「喧しいわ!」
スンッ。
「……いや急に黙られても怖いんやけど」
突如として川のように横切り始めた大量のアヒルが一斉に立ち止まり此方を見る……トラキチも若干怖がるプチホラーである。
「けど参ったネ、これじゃ通れないヨ」
再びガーガー言って歩き出したアヒルの大群だが当分続きそうだ。密集していることもあってキッチンカーも人も通れそうにない。
「これもあの猿ナビが仕掛けた罠か……?」
「あ~スマンね、ウチのアヒルの散歩なんじゃ」
「家禽かよ!」
トラキチに影響されてかツッコミが上手くなったな大山デカオ。
どうやらこのアヒルの大群は全てお爺さんの家畜らしい。上手く誘導して颯爽と去っていた。なんだったんだこのイベントは。
拍子抜けだったが取り合えず先に進むと第二ゲートが見えてきた……が、その前に止まっている物に一同の注目が集まる。
「すごく高そうな車でちゅ……」
「うわ、この車のメーカーってセレブが使うような超高級ブランドよ。私のパパだって持ってないもの」
「やいとの親父さんが持っとらん車って……」
こんな竹林に奥に置くは場違いだとしか言えない、黒塗りの高級車がゲート前に止まっている。
お金持ちのやいとですら目を丸くしたレベルの車が何故ここに……そう思っていた所で熱斗は車に記されたナビマーク、そしてゲート前で立ち止まる人物を見てハッと気づいた。
「ミリオネアさん!」
「……あら、光熱斗じゃありませんか」
熱斗の呼びかけに女性……ミリオネア夫人が振り向く。その人物を見たやいとは驚いた。
「ミリオネアってアメロッパでも1、2を争う大富豪じゃない! 知り合いなの?」
熱斗とロックちゃんの話によると、アメロッパでスリに取られたバトルチップをミリオネア夫人が買い取り、それを取り戻す為にネットバトルを挑むことに。
彼女のネットナビ・スネークマンの狡猾な戦法には苦戦したがなんとか勝利。バトルチップを取り戻した後、熱いネットバトルを好むミリオネア夫人に顔を覚えられたのだとか。
「んでよ、こんなところで立ち往生して何してんだ?」
大山デカオが尋ねるのは、ミリオネア夫人も隣に立つ運転手らしき男性も困ったようにPETを眺めていたからだ。ケーブルはゲートの端末に繋げられている。
「この先の研究所に用があるのだけど、ゲートが開かなくて困っているのです。スネークマンと運転手のナビに原因を調べさせようとプラグインした所、手強いウィルスが邪魔してコントロールエリアに進めませんの」
「まーたウィルスかい、さっきの赤サルの仕業かいな」
「既に電脳に居たストーンマンというネットナビの話ではウラインターネット産の新種らしくて……丁度いいわ、アナタ方も手伝いなさい」
「そうなんでちゅかストンナちゃん?」
『つい先程ストーンマンからウィルスのデータが送られたので拝見したのですが……うへぇ……って感じでして』
ウィルスの専門家であるメガト・キロクラムを父に持つストンナが嫌がるレベルのウィルス……嫌な予感しかしない一同だが、老師に会う為にもプラグインして解決しなければならないようだ。
呑気に手を振るメディに見送られ、肩を落としながらも仕方ないとばかりに各々のネットナビ達がゲートの電脳にプラグイン。
そこに居たのは、ストーンマンとその背に隠れるノーマルナビとスネークマンだった。
『おやロックマンでは……失礼、お初でしたね。知り合いに似ていたもので』
『いや合ってるよスネークマン、色々あって……』
『ゴゴゴ……オマエマサカがっつまんカ?』
『そうでガス……色々あって時間経過で戻るはずでガスが』
『……深クハ聞カナイデオクゾ』
『では置いといて、話はミリオネア夫人から聞きました。私達でよければ協力します!』
『ゴゴゴ、皆うぃるすばすてぃんぐニ協力シテクレ!』
攻撃を受け止めているらしいストーンマンの陰から各々が顔を出し、行く手を邪魔するウィルスがどんなものか確認してみる。
下半身が車両となっている、ウィルスにしては珍しい人型を模したオレンジ色のウィルス。
照準のような頭と右腕のバスターが特徴的なウィルスは円を描くように移動。ストーンマンを正面に捉えるとバスターを発砲、それを繰り返している。
そんなウィルスが2体、グルグル回りながら交互に射撃しているのだから溜まったものではない。奥にはまだまだいるようだし。
『お父さんのデータによるとサーキラーという最新鋭のウィルスらしいです。高い射撃速度と移動速度が特徴の高機動型ウィルスです!』
「……でちゅって」
「解説ありがとう」
ストンナにお礼を言うものの、少なくともバトルが不得意なメイル&ロールだけだったらなんの役にも立てずデリートされていたかもしれない。
キングマンは内蔵フォルダより取り出した『ビショップ』のバトルチップを2枚発動、ストーンマンの正面に並びサーキラーのバスター射撃の雨霰を防ぐ。
『ゴゴゴ、感謝スルきんぐまん!』
『よーしポクも負けないプク! いでよマンダマンタイル!』
交代するストーンマンに代わり、バブルマンがストンナの魔改造によって得たウィルス製造機能を発動。
高耐久が売りの水属性ウィルス『マンダマンタイル』がサーキラーのバスターを受けながらもゆっくりと空中を真っ直ぐ泳いでいく。
「よっしゃマンダマンタイルに続けガッツマン、接近しちまえ!」
『パンダになってもパンチ力は健在でガッツ!』
「私達は遠距離からチクチクいきましょ。頼むわよグライド!」
『了解です!』
『危なくなったら下がってねガッツマン!』
「よっしゃオレ達はあっちのルートへ行こうぜ!」
『うん、何かゲートの手がかりがあるといいんだけど』
固まっているサーキラー達を正面から攻めるガッツマンチームに対し、単独でもオールマイティに戦えるロックちゃんは別ルートから攻略しようと走り出す。
『休憩、休憩。いやぁナビ数が増えると楽ですなぁ』
『全クダ』
何処からともなく出したクッションに包まれ寛ぐスネークマンと、ストンナから転送されたフルエネルギーで回復し休むストーンマン、そして特に出番が無くて持て余している運転手のノーマルナビ。
他所様が頑張っているのを見ながら寛ぐのは格別です。