この常識の通用しない世界に祝福を!   作:仲美虚

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第一話『この超能力者に第二の生を!』

行き過ぎた科学は魔法と区別がつかないという言葉がある。

逆に言えば、どのようなオカルトも科学的根拠をこじつけられればそれは最早科学である、という解釈もできるだろう。

 

その行き過ぎた科学力をもって超能力なんてものの開発までしてしまった街、『学園都市』の科学者などが最たる例と言える。

 

例えば、『魂』の生成を試みた者がいた。

 

元はサイボーグ医療技術の実験でしかなかったが、そこから発展して機械人形に『魂』を植え付けるまでに至り、さらに『ソレ』は自らの『魂』を周囲の物体に憑依させ意のままに操るという技すらも獲得していた。

 

しかし、蓋を開けてみれば『魂』と呼んでいたモノはヒトの思考パターンを学習しただけのAIに過ぎず、『魂の憑依』とは粘菌と寄生菌の性質を持った人工筋肉によるものであったという。

 

 

では、魂というものの存在はやはりオカルトでしかなかったのだろうか。

 

 

能力が体のどこに宿るかという研究をしていた者がいた。

 

曰く、「霊魂と呼ぶべき何かが宿った肉体そのものに能力が宿っているらしいというクソみたいな結論が出ただけだった」という。

 

この話が事実であれば、方法は明らかではないが、確かに『魂』と言える何かを観測できたということになる。

 

しかし、本来研究の趣旨と異なる対象であったためか、はたまたその研究者の意に沿う結論ではなかったためか、『魂』そのものに対して追求して研究がなされることはなかった。

 

では、そもそも『魂』とは何なのか。

 

人格か、あるいはそれを内包する実体を持たない何かなのか。一般的にはそういった想像をする人も少なくないだろう。

 

だが、人格とは多面的なものである。

普段は善人のように振る舞っている人間でも、心の底には大なり小なり残虐性を潜ませているものだ。

勿論、その逆も然り。

極端な例を挙げれば、精神病による二重人格というものもある。

 

そういった多面ダイスの一面のような、人格全体の一部に過ぎない要素もそれぞれが『魂』であると定義するなら。

 

一人の人間に複数の『魂』が宿るという考え方をするのなら――――

 

 

 

 

 

 

(――クソッ、死ぬのか、俺は……)

 

 

アスファルトに半身を埋められ、目の前の黒い翼を噴出させる白い影――学園都市に七人しかいない超能力者の第一位、『一方通行(アクセラレータ)』に嬲られながら、同じく第二位の『垣根帝督』は朧げな意識の中、自らの死を悟る。

 

 

(冗談じゃねえぞ……。俺はアレイスターとの直接交渉権を手に入れるんだ……。こんな所……で……)

 

 

最早逆転の手は残されておらず、このままミンチになるのを待つだけ。そう頭では理解していながらも、一方通行と戦闘を行ったそもそもの目的に執着する。

 

そんな中、ふとある少女のことが頭に過ぎった。

 

 

(……林檎……。そういや、約束……したっけな……。あいつのこと、林檎が死んだ後も俺がずっと覚えてるって……。そうか……誉望は死んじまったし、獄彩は……生きてんだろうが、あんまりアテにできそうにねえからなあ……。ここで俺が死んだら……誰もあいつのことを……)

 

 

死にたくない。

そう思わせたのは単なる生き物としての生への執着でもなく、アレイスターとの直接交渉権を得たいがためでもない。

 

かつて守ってやることができなかった、一人の少女との約束を思い出してのことだった。

 

 

(らしくねえな……。だが……それでも、俺……は……)

 

 

――十月九日、多くの死傷者を出し暗部抗争が終結。

この日、垣根帝督の肉体は死んだ。

 

 

――――――

 

 

「――ここは……どこだ?」

 

 

微睡の中、垣根は目覚める。彼の記憶は、肉体の原型が残らなくなるのではないかという程の暴力を一方通行から受けて意識を失ったところで止まっている。だというのに、垣根は五体満足で見知らぬ場所にいた。

 

状況を整理しようと周囲を見渡すが、周囲は暗黒に包まれており、まるで様子がわからない。

しかし、自身の姿と足元のタイル調の床、そして気付けば腰掛けていた木製の椅子ははっきりと視認できる。

この現象を既存の物理法則で考えれば、ここには壁と天井がなく、光源は視認できない程遥か遠くに存在しつつも減衰することなく目の前のモノを照らしており、さらに大気による乱反射が起こらないため空間の明度という概念すら存在していないということになる。そんな場所は考えられる限り一つしかない。

 

 

(……宇宙かよ。どうなってんだこりゃ)

 

 

無論、そんなことはありえないということは理解していた。宇宙には床も無ければ重力も無い。そして何より、垣根は今違和感無く呼吸ができているし、真空ならば垣根の体内の血液や水分はとうに沸騰して見るに耐えない有様になっているはずだ。

自身の能力である『未元物質(ダークマター)』を使えば再現は可能だろうが、本人は今能力を使用していないし、光学系能力者でもこんな芸等はできない。そうなると考えられる可能性は――

 

 

(――精神系能力者か)

 

 

一方通行との戦いに敗れ、意識を失った死にかけの自分を何者かが回収して治療を施し、目覚める前に精神系能力者を使って視覚の自由を奪い、言うことを聞かせて利用しようとしている。垣根はそう考えた。

しかし垣根は今自分の意思で思考し、動けている。その事から、敵はまず話し合いをしようとしているのではと考えられた。

 

(ま、何かの拍子に洗脳が解けちまったら痛い目を見る事になるからな。とはいえ、余程交渉材料に自信があると見える)

 

そこまで考えたところで垣根はふと人の気配を感じ、顔を上げる。すると目の前にはさっきまで存在しなかった格調高い装飾の椅子と、それに腰掛ける女がいた。

 

女が垣根の方を見て何かを言おうとしていたが、垣根の判断はそれよりも早かった。

目の前の女が自分を攫った張本人、あるいは協力者と踏み、勢いよく椅子から立ち上がってその首に右手で掴み掛かった。

幻覚ならば物理攻撃は通用しない。しかしそれならばこれが幻覚だと断定できるし、相手の反応次第で次の手を考えることができる。そう思っての行動だった。

 

 

「がっ……は……っ!」

 

 

しかし、垣根の予想とは異なり、目の前の女は苦しんでいた。操られているのは空間に対する認識だけでこの女は実体があるのか、それともこの行為すらも精神操作による思い込みなのか。

とはいえ、本当に後者だとすればリアクションがなければ埒が開かない。そのまま様子を見て反撃が無いのを確認してから、話せる程度に手の力を緩めて問いかけた。

 

 

「誰の差金だ? この俺を態々介抱した上でこんな凝った幻覚まで見せて、何のつもりでいやがる」

 

「ち、違……話、を――」

 

「聞かせろって言ってんだろうが。何度も言わせんな。俺はそんなに気が長い方じゃねえぞ」

 

「……! は、話し、ます……か、ら……手、を……!」

 

 

垣根は女の目を見て考え込む。その目は今まで自分が見逃してきた『格下』のそれと同じ、敵意を無くして懇願するような目だ。それに、このままこうしていても有益な情報は引き出せそうに無い。垣根は警戒しつつも手を離した。

 

 

「……で? テメエの素性と目的は何だ? こんな幻覚まで見せやがって。知ってる事全部話せ」

 

「――こほん。私は女神エリス。まずは前提として……垣根帝督さん、残念ながらあなたは亡くなられました」

 

「おい、誰が下らねえ与太話を聞かせろっつったよ」

 

「お、お願いですから最後まで聞いてください!」

 

「……いいだろう。聞くだけ聞いてやるよ、メガミサマ?」

 

 

苛立ちを隠そうともしない垣根。しかし目の前の女神を名乗る女しか情報源が存在しないのも事実。ひとまず話を聞く姿勢を見せた。

 

 

「ええと、つまりここは分かりやすく言うならば死後の世界。あなたの魂の行先を決定する為の場所。私はその仕事を行う女神というわけです」

 

「……色々言いてえ事はあるが、とりあえずノってやるよ。要は閻魔様みてえなモンって事だろ? で? 俺は天国にでも行けるワケ?」

 

 

エリスのあまりに突拍子もない話に、垣根は冗談のつもりで返す。彼の生前――本人は死んだとは思ってもいないが――の行いを考えれば、地獄行きは決まっているようなものだ。しかし、エリスから帰ってきた言葉は予想だにしないものだった。

 

 

「あ、はい。お望みでしたら可能ですが……」

 

「――は?」

 

「とはいえあまりお勧めはしませんよ。平和ではありますが、特に娯楽もなく永遠に過ごすことになりますから、垣根さんぐらいの若者の方にはあまりウケが――」

 

「そうじゃねえだろ。俺みてえなのは地獄行きって相場が決まってんだろうが」

 

 

与太話に真面目に返すのも馬鹿馬鹿しいとは思いつつも、垣根は反論してしまう。

それに対し、エリスは何でもないように返した。

 

 

「はあ、しかしここに来られる魂は天国行きの余地がある方だけですので……」

 

「……俺が何してたか知らねえ訳じゃあねえだろ」

 

「一応事前の資料で存じ上げてはおりますし、私もこの采配には疑問があるのは確かですが……垣根さんの魂、何と言いますか……今おかしな事になっているようでして……そもそも私地球の担当ではないので、いきなりこちらに回される事自体がイレギュラーですから、正直私も何が何やら……」

 

「あ? どういう事だ?」

 

「すみません、私からは正確な事は何とも……。少なくとも、今この場にいらっしゃる垣根さんの魂は、天国行きの余地ありと判断されたようです」

 

 

訳のわからない事を捲し立てたと思えば、エリス自身もよく理解していないという。垣根は頭が痛くなる思いだったが、エリスの言葉にひとつ気になる事があった為、この話に乗り続ける事にした。

 

 

「そういやさっきお前、天国行きはお勧めしないとか言ってたな。天国と地獄以外にも選択肢があるのか?」

 

「ええ、それが本題です! 垣根さんには三つの選択肢があります。一つは天国行き。一つは全てを忘れて地球で生まれ変わる。そしてもう一つは、記憶を引き継いで異世界で魔王と戦っていただく事です」

 

 

ここに来て話のファンタジー濃度が急激に高まり、垣根は頭を抱える。

 

 

「あー……オーケー。二つ目まではわかる。よくある話だ。だが三つ目を選んだとして、それでお前になんのメリットがある?」

 

「まあ、簡単に言えば私の担当する世界の治安維持のお手伝いをしていただきたいというお願いですね。勿論強制はしませんが……」

 

 

ここまで話を聞いた垣根は考える。出鱈目や戯言を言うにしても泳がせておけば何かしらの糸口が見えると思って話を続けさせてみたものの、こちらを騙そうという様子すら感じさせぬまま、エリスの口からはまるで期待しない妄言しか出てこない。

痺れを切らした垣根は立ち上がり、エリスを睨みつけた。

 

 

「――もういいわお前。なんのつもりか知らねえが、下らねえ妄想をペラペラペラペラと……消えろ」

 

 

そう言い放つと同時に、垣根の能力『未元物質(ダークマター)』が発動し、三対の翼が目の前のエリスを切り裂く――はずだった。

 

 

「な――どういう事だ!? 何故能力が発動しねえ?!!」

 

 

垣根の演算には狂いはない。いかに精神操作の能力を受けようとも、能力を発動する意志があり、正しく演算できている以上、超能力者の『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』に干渉する事など、普通の能力者にできるはずがない。動揺を見せる垣根に対し、エリスは平然と言い放った。

 

 

「あの……ここではあなたの能力は使えませんよ。それに、私の話を疑っているようでしたら――申し訳ありませんが、全て真実です」

 

 

垣根は考えを改めた。もしかしたら目の前の女の言っている事は真実――ではないにしても、本人が大真面目に言い放つ程の何かがあると。そもそも、身動きが取れない状態であの一方通行にあそこまで一方的に攻撃を受けて、奇跡的に一命を取り留める事など可能なのか。考えれば考える程、今までの与太話が真実味を帯びてくるようだった。

 

 

(そうなると……この女は何て言った? 三つの選択肢――天国行きか、全てを忘れて生まれ変わるか、魔王とやらを倒す駒になるか……。これがもし本当の事――いや、何かの暗喩だとしてもやはり同じだ。俺がこの後反撃の機会を得ることができる選択肢。それは――)

 

 

しばしの沈黙。エリスは突然黙り込んだ垣根を心配そうに見つめる。そして、やがて垣根はその口を開いた。

 

 

「――乗ってやる。その魔王討伐とやらによ」

 

 

完全に信じたわけではない。しかし、オカルトが過ぎるとはいえ、全く筋が通らない訳でもない。そう考えた垣根は今は信じた事にして、比較的安全な選択肢を取る事にした。

 

 

「あ、ありがとうございます! では早速異世界に行くための準備をさせていただきます」

 

「準備?」

 

 

エリス曰く、異世界へ行くにあたり、二つの準備が必要になる。

一つは言語。当然と言えば当然であるが、異世界の言語は地球のそれとは異なる為、その知識を直接脳に叩き込む必要がある。その際、通常の人間であれば負荷が高く、ごく稀に深刻なダメージを負う事もあるそうだが、垣根の頭脳であればなんら問題のない話であった。

 

そしてもう一つは、異世界行きの特典。

これも当然だが、ただの人間がモンスターや魔王と戦うなど無理な話である。

異世界では魔法の概念があり、転生者自身も習得は可能ではあるが、多くの場合は戦闘経験の無い一般人。神側から直々に特別な力を与えようというシステムらしい。

尤も、そうでもしなければ異世界転生を選ぶ者がいないというのが主な理由ではあるが。

 

特典については伝説の魔剣や特殊な能力など、かなり自由が効く。

その説明をエリスから聞いた垣根は、考えるまでも無いといった様子で答えた。

 

 

「なら決まっている。『未元物質(ダークマター)』だ。あっちの世界でも問題なく使えりゃ文句ねえ」

 

「いいのですか? その能力はあなたが本来持っている物……特典として選ぶ意味は無いように思いますが……」

 

「なあに、俺には未元物質(ダークマター)さえあればいいって事だ。それに……保険みてえなもんだ」

 

 

垣根が一方通行と戦ったあの瞬間、垣根は自身の能力について更なる理解を得た。その影響か、垣根は漠然と一つの可能性に至った。

――もしかすると、『未元物質(ダークマター)』は元の世界でなければ発動できないのではないかと。

 

確証も根拠も無い。ただ『そんな気がする』程度のものでしかない。

しかし、もしも未元物質(ダークマター)が『創り出している物質』ではなく、『どこかから引き出している物質』だとするならば、異世界にそのパスを今までのように繋ぐ事はできるのか……発動できれば極めて汎用性が高く、使い慣れた能力であるため、不安材料は消しておきたかったのだ。

 

そこまでは語らなかったものの、垣根の言葉にエリスは理解を示した。

 

 

「わかりました。そう仰られるのでしたら問題ありません。確かに十分強力な能力ですし、それだけでも大丈夫でしょう」

 

 

そう言いながらエリスが天に右手を翳すと、垣根の足元に魔法陣のようなものが出現し、天から光が差し込む。垣根はその光に向かって吸い込まれるように上昇していった。

 

 

「うぉっと、なんだこりゃ!?」

 

「それでは、ご武運を。あなたが無事魔王を撃ち倒す事を願っています」

 

 

そして垣根は二度目の生を迎えることとなった。

 

 

――――――

 

 

「――ん……ここは……異世界ってやつか?」

 

 

垣根が目を覚ますとそこは見渡す限りの草原だった。

振り返ってよく遠くを見ると街のような物が見える。ひとまずはそこへ向かおうと歩き出した。

 

 

「この空気の匂いや風の感触……とても偽物とは思えねえな。しかしあの街……あんな壁に囲まれた街なんざ、俺の知る限りパルマノーヴァやネルトリンゲンくらいだが……それとは違うな。本当に異世界に来ちまったってのか?」

 

 

そう垣根が呟いていると、突然地響きが鳴り響いた。

驚きながらも震源と思われる方向を振り返ると、垣根の目にとんでもないものが映った。

 

 

「おいおいおい……さすが異世界、常識が通用しねえな……!」

 

 

垣根が振り返ったその先には、全高十数メートルはするであろう、巨大なカエルが佇んでいた。




読んでいただきありがとうございます。
久々の投稿で拙い部分もありますが、引き続き宜しくお願い致します。
あらすじにも書いておりますが、不定期かつ低速の更新となることが予想されますが、宜しくお願いします。
エタらせないよう、最低限打ち切ってでも完結はさせたいと思います。
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