この常識の通用しない世界に祝福を!   作:仲美虚

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第十話『この華麗なる能力者による実験を!』

カズマが裁判にかけられてから数日。連絡の途絶えたダクネスを心配しつつも、カズマたち一行は裁判所に差し押さえられた資材を取り返すべく相変わらずバイトにクエストに励んでいた。

 

この日、カズマと垣根の二人はアクセルの街の外壁の修繕のバイトが入っていた。今朝方リビングでぐうたらしているアクアにねちねちと小言を言いながらカズマ自らが用意した弁当を携えて出かけ、一日身を粉にして働き、そして夕方。二人は仕事を終え、日当を貰って帰路に着いていた。

 

 

「いつまでこんな生活が続くんだろうな……」

 

 

そう漏らしたのはカズマ。借金生活もそうだが、自身にかけられた疑いに、久しく連絡の取れないダクネス。頭を抱える要因は山積みである。

 

 

「仕方ねえだろ。こういう状況になっちまったからにはやれる事をやるしかねえんだ。――それに悪い事ばかりってわけでもねえさ」

 

「お、おう……?」

 

 

垣根の意味深な言葉を、その内良いこともあるという激励の意味と受け取りカズマは曖昧に頷く。

 

やがて屋敷に到着した二人。帰宅した事による安堵からか、カズマは一日働いた疲労感を顕に玄関の扉を開けた。

 

 

「ただいまー……」

 

「ただいまー、っと。――ちょっと便所行ってくるわ」

 

「いってらー」

 

 

トイレに行く垣根を尻目に、カズマはソファで寛ぐべくリビングへと向かう。

 

リビングに近付くにつれ、話し声が聞こえてくる。めぐみん、アクア、それと耳に馴染んだ男の声(・・・・・・・・・)

 

 

「……ん?」

 

 

今そこから聞こえる筈のない声を疑問に思いつつ、カズマはリビングの扉を開けた。

 

 

「ただいまー。帰ったぞ――えっ」

 

「おかえりー。丁度よかったわ。カズマも帰ってきたしみんな夕飯の用意手伝ってよ」

 

「お帰りなさい、カズマ。すみません、この一戦が終わるまで待ってください……!」

 

 

カズマが目にした光景。それはソファで横になっている元ナントカの威厳も風格も無いアクア。そしてテーブルでチェス(のようなボードゲーム)に興じるめぐみん。そこまではいい。しかしめぐみんのボードゲームは詰将棋的な遊び方をしない限り相手(・・)がいなければ成立しない。

 

めぐみんの対面に座っているのは、カズマが先程聞いた謎の声の主。それは――

 

 

「帝督……? あれ? お前さっきトイレ――」

 

 

そう、一日一緒に働いて一緒に帰宅し、先程手洗いに行った筈の垣根帝督であった。

 

カズマに気付いた垣根はカズマの混乱を察したように声をかける。

 

 

「落ち着け。すぐ説明してやるからトイレから戻るまで待っててくれ」

 

「……? 何の話です? 二人ともどうしたんですか?」

 

 

トイレと言うと、先程まで一緒にいた垣根のことかとカズマは思い当たる。しかしその垣根は目の前におり、皆当たり前のように受け入れている。益々混乱は深まるが、努めて平静を装ってカズマは言葉を発した。

 

 

「な、なあ。帝督っていつからここに……?」

 

「はあ? 何言ってんのよ。テイトクなら今朝カズマと二人でバイトに出かけたと思ったらすぐに訳も言わずに一人で戻ってきたじゃない。カズマこそテイトクから何か聞いてないの?」

 

「は? だって俺今日一日ずっと一緒に――」

 

 

 

 

「だから落ち着けって」

 

 

そう発したのはカズマの目の前――ではなく、背後に立つ垣根だった。

 

 

「なっ……!?」

 

「て、てててて、テイトクが二人……!?」

 

「な、何々!? どうなってるの!?」

 

 

二人の同一人物が現れ、慌てふためく三人。対して垣根は二人とも落ち着いた様子である。

 

 

「結構上手くいったな。まだ課題は残るが……ま、本来目指した用途としては十分な出来か」

 

 

二人の垣根が同時にそう言うと、めぐみんの対面に座っていた垣根の衣類を含む全身が白く変色し、手足の先や毛先といった末端から霧散するように消滅し始めた。その様子を対面で目の当たりにしためぐみんが悲鳴を上げる。

 

カズマたちは次々と起こる異常事態についていけなくなり、言葉を失う。

しばしの静寂の後、カズマが声を上げた。

 

 

「――何なんだよ今の一体?!! 説明してくれ!!」

 

「ああ、能力で作った俺のコピーだ。驚いたろ?」

 

「コピー……? 未元物質(ダークマター)はそのような事まで……いえ、一体何故このような事を……?」

 

 

震え声のめぐみんの問いに、垣根は言葉を詰まらせる。

垣根の性格で『いざという時に仲間を助ける為』などと正直に言えるわけもない。結局、垣根ははぐらかすという選択肢を取った。

 

 

「別に、ただの実験だよ。俺の能力がどこまで届くのか試してみたくてな。理論が出来上がったから実際に動かしてみたわけだ。俺はカズマと予定通り働きに出て、屋敷に能力で作ったコピーを置いていく……まあ、ちょっとしたドッキリだよ。――ただちょっと慣れが必要だなこれは」

 

「……? と、言いますと……?」

 

 

めぐみんは垣根の言葉に謎の引っ掛かりを覚える。明確に言語化できない違和感。強いて言うなれば、自分の認識の齟齬を指摘されたかのような。垣根の言葉選びにそういったものを感じていた。

 

そしてその違和感の正体は続く垣根の言葉で明らかになった。

 

 

「ん? そりゃまあ、二人分の思考を同時になんてそうやるもんじゃねえからな。難しいわけじゃねえが、初回で丸一日となると流石に疲れもする」

 

「――はあああああああああああ?!!」

 

 

めぐみんの絶叫が部屋中に響き渡る。カズマとアクアは対照的に、驚きで言葉を失っていた。

 

めぐみんは先程まで目の前にいた垣根のコピーを、自律した思考を持つ存在だと思い込んでいた。しかし実際は垣根本人が思考して動かしていたという。考えてみれば当然だ。自分で考えて動く存在――『人間そのもの』を無から生み出すより、命令通りに動く人間の形をした物を作る方が安全かつ簡単なのだから。それでもこのような思い込みがあったのは、それ程までに一日コピーと一緒に過ごして、その振る舞いに欠片の違和感も覚えなかったからだ。

 

しかし、その事実にめぐみんが他の二人と比べて大声を上げる程驚いたのにはもう一つ理由があった。

 

 

「じ、じゃあなんですか? テイトクは仕事の片手間に二十三回連続で私をバチボコに負かして勝者の余裕を見せていたと……?」

 

「ああ、そうだけど?」

 

「鬼かお前」

 

あまりの容赦の無さに、先程まで言葉を失っていたカズマも思わずツッコミを入れてしまう。無情にも突き刺さる事実に、めぐみんは床に膝を着いて項垂れてしまった。

 

するとテーブルの下から翼を生やした一匹の黒猫(?)が顔を覗かせる。そしてめぐみんに擦り寄り、心配するように声を上げた。

 

カズマは初めて見る生き物が現れた事に小さく驚く。

 

 

「うぉっ、なんだこの猫……猫……?」

 

「ああ、私に優しくしてくれるのはあなただけなのですね、ちょむすけ……」

 

「しかも名前つけて――ちょむすけ?」

 

「昼前にめぐみんが連れてきたのよ。食い扶持が増えるからどうしようかと思ったけど、テイトクの未元物質(ダークマター)を餌と偽って出したら食べたからとりあえず食費は安心ね!」

 

「お前ら動物愛護の精神とか無いんか!?」

 

 

アクアによって暴露されたえげつない行為にカズマが今日一番の驚声を上げ、心なしかちょむすけもショックを受けたような表情をしている。

そんな一人と一匹を他所に、アクアは先の自身の言葉から何かを思い出したようにソファから身を乗り出し垣根に向き直った。

 

 

「そういえばテイトクさん、今日私達と一緒にいたのは能力で作ったコピーだったのよね。普通に能力使ってたしお昼も一緒に食べてたし、おトイレも行ってたみたいだけど……?」

 

「ああ、食事も排泄も含めて人間としての機能は基本持たせていたからな。能力もそこに俺の自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を持った脳が存在するんだ。多少負荷はかかるが当然使える。――そういや食料を無駄に消費しちまった事になるのか。悪かったな」

 

「ねぇ、その内摂理とか倫理とかに反するような事しないわよね? ちょっと女神としては見過ごせないところまで来ちゃってるんですけど?」

 

「……」

 

「何か言ってよ?!!」

 

 

誤魔化すように目を逸らす垣根。

以前エリスから聞かされた、元の世界に残るもう一人の自分。能力が脳を、脳が能力を生み出す不死の怪物となった自身。それが再現可能な所まで来た事実を実感し、アクアの言葉をはっきりと否定する事ができなかった。

 

 

「それより飯の用意するんじゃなかったのか? 脅かした詫びだ。俺が作るから少し手伝ってくれ」

 

「あっ、話逸らしたわね!?」

 

「まあまあ、能力の幅が広がったってんなら冒険者稼業の俺たちとしてはいい事じゃないか」

 

「そうですよ。それにテイトクが料理を作るなんて初めてですよ。どんな料理が出てくるか楽しみです!」

 

 

カズマとめぐみんに宥められ、それもそうねと落ち着くアクア。そんな三人を見て垣根は不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「そこまで期待されちゃあ俺も本気を出さざるを得ないな。いいだろう、着いて来い」

 

 

垣根は自信たっぷりに三人をキッチンに引き連れる。

そしてエプロンを付け包丁を構えたその姿は、整った容姿も相まって中々様になっている。

 

垣根が包丁を強く握り直す。それが合図なのだと察したカズマたちは息を呑み、期待に目を輝かせる。

 

 

「いくぜ。――俺の華麗なる技に惚れな!」

 

 

高所から輝く糸のように注がれるオイル。粉雪のように舞い散る塩。フランベされ力強くも美しい炎を上げるフライパン。

まるでプロの料理人の如き調理にカズマたちは感動の声を上げ、喝采する。

 

 

 

 

――そして配膳された料理を前に、四人とも先のテンションを完全に喪失していた。

 

垣根の作った料理(元の世界で言うボンゴレ・ビアンコ)は見るも無惨な丸焦げの炭と化していた。

 

暗く重い沈黙の中、最初に口を開いたのはめぐみんだった。

 

 

「……技は華麗でしたね。技は」

 

「うっ……」

 

 

めぐみんの言葉が文字通り突き刺さったかのように垣根は胸を抑える。

それを皮切りに、アクアやカズマも便乗するように言葉を発し始めた。

 

 

「後ろで見てても調理の手順自体は特に問題無かったのよね……本当にどうしてこんなことに……」

 

「やっぱり最後のフランベが強すぎたんじゃないか? というか途中の方でも火加減強すぎたり弱すぎたりするんじゃないかって思う所がちょいちょいあった気が……」

 

「わ、悪かった……もうやめてくれ……」

 

 

結局この日の夕食はアクアたちが作り直し、遅くなったものの無事食べられる料理にありつく事ができた。

 

垣根は心で泣きながら、能力の次は料理を極めようと心に誓った。




ちょむすけ加入を兼ねたオリジナル回でした。
遅くなった上に短めで申し訳ありません……。

次回からまた本編の流れに戻っていきます。
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