この常識の通用しない世界に祝福を!   作:仲美虚

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第十一話『この異常の原因の究明を!』

カズマが裁判にかけられ、ダクネスが屋敷を発ってから早数週間。垣根はめぐみんとアクセルの街の外に出ていた。

珍しく二人でお出かけ――などと和やかな空気とは程遠く、高台から見下ろす百メートルは先の平野に多種多様なモンスターたちがうろついており、背後ではセナと護衛の兵士が目を光らせている。

 

膨大な数のモンスターたちを前に、垣根は気怠げに首を鳴らして溜め息を吐いた。

 

 

「思ったより多いな……一体どこから湧いて出てんだか」

 

「これ程のモンスターが街に入っては大変です。急ぎましょう」

 

「ああ、カズマたちの方も気になるしな。早いとこ片付けて合流しようぜ」

 

 

垣根の脳裏には今この場にいないパーティメンバーの安否がちらつくが、それを振り払って目の前の状況に集中する。

 

何故大量のモンスターを討伐する事になったのか。カズマやアクアは何をしているのか――

 

 

 

 

 

 

――数時間前。

 

 

借金が減らずついに燃料も食料も底をつき、垣根たちは未元物質(ダークマター)で暖をとり未元物質(ダークマター)を齧って飢えを凌ぐ程にまで堕ちていた。

 

先日ギルドから特別に斡旋された、ダンジョンの未踏エリアの探索クエストで入手した宝や報酬も調子に乗ったアクアが酒代に溶かしてしまいもう後が無い状況。加えてダクネスは未だ帰って来ず連絡すら無い。これではカズマの疑いが晴れるまで耐えるどころか明日を生きる事すらままならない。どうしたものかと四人と一匹が頭を抱えていたその時だった。

 

 

「――大変だカズマ! 大変なんだ!」

 

 

勢いよくドアが開け放たれると同時に、聞き覚えのある声が広いリビングに響き渡る。

声の主へと振り返ると、そこにいたのは派手すぎずしかし上品で煌びやかな服で着飾ったどこぞのご令嬢。垣根たちは数秒の沈黙の後、口を揃えて呟いた。

 

 

「「「「……誰?」」」」

 

「〜〜〜〜! そ、そういったプレイは後にしてくれ!」

 

 

何故か顔を赤らめ身悶える令嬢。その姿を見て何か気付いたのか、カズマははっとした表情で返す。

 

 

「お前――ダクネスか!? 心配させやがって!」

 

 

そう、令嬢の正体はダクネスだった。普段の鎧姿と変態的な言動の印象が強かった為、カズマたちはおろかエリスの変装を一目で見抜いた垣根ですらダクネスだと判断するのに時間がかかったのだ。それ程までに目の前の彼女は服だけでなく化粧や髪型も徹底して整っており、まさしく品のある淑女と言える風貌であった。

 

 

「しかし驚いたな。素材がいいとは思っていたが、ここまで見違え――」

 

 

垣根が言いかけたその時、ある事に気付いてその表情が曇る。

アルダープの事は任せろ。そう言って実家に戻ってから長い間帰って来なかったダクネスが、突然身綺麗になって帰ってきた。裏社会で生きてきた垣根の経験が悪い想像をさせてしまう。

 

そんな垣根の様子から何かを察したのか、ちょむすけを抱えためぐみんがダクネスに歩み寄り憐れみの眼差しを向ける。

 

 

「おかえりなさい、ダクネス……」

 

「あぁ、ただいまめぐみん。ところでその猫――」

 

「何があったのかは聞きません。まずはゆっくりお風呂にでも入って……心と体を癒してきてくださいね……」

 

 

途中で耐えられなくなり、涙を流して目を背けるめぐみん。

その様子を見て状況を理解したアクアは、確かめるようにダクネスの服の袖に触れる。

 

 

「……間違いないわ。高級品よ」

 

「苦労をかけたな……」

 

 

ついにカズマまで目を伏せて啜り泣く。そんなパーティメンバーたちを前にダクネスは始めは混乱していたものの、徐々に顔を赤らめてわなわなと震えだした。

 

 

「なっ……! 何を勘違いしている! 領主に弄ばれているとでも思っていたのか!? あの男も私相手にそこまで要求する度胸は無い!!」

 

 

それよりも、とダクネスは懐から一枚の紙を取り出してカズマに突き付ける。受け取って見ればそれは見知らぬ美丈夫の姿似であった。

 

 

「おぉ、なんだこのイケメンは。――ムカつく」

 

 

そう言うや否や、カズマの両の手が姿似のイケメンを真っ二つに引き裂いた。

 

 

「何をするんだ!?」

 

「あぁ、悪い。手が無意識に」

 

 

――破られた姿似をアクアが米粒で修繕している間、ダクネスから事の経緯が語られた。

 

曰く、姿似の彼は領主の息子であり、領主がカズマへの猶予の代償として息子との見合いを申し出てきたと言う。ダクネスが暫く帰って来なかったのは、この見合いを阻止する為奮闘していたからとのこと。

しかしダクネスの父はアルダープ本人はともかくその息子は高く評価している為今回の見合いには非常に乗り気でいるらしい。

 

 

「――という訳で、私と一緒に来て父を説得してくれないか! 頼む!」

 

 

垣根は眉間に皺を寄せ考え込む。ダスティネス家としての立場で考えれば、見合いを断る理由などありはしないのだ。精々が大事な一人娘が嫁に行くのが寂しいだとかそんな程度のものであろうが、そういった『親』としての考え方ができるような父であれば、このまま冒険者という危険な真似をさせるよりは身分も保証されているよく知る人間に嫁にやって冒険者を引退させた方がいいとも考える筈。困るのは好いてもいない相手とくっつけられる本人と、彼女を囲う何処の馬の骨とも知れない冒険者(自分たち)だけである。これでは説得のしようがない。

 

考えている内に、アクアが姿似の修繕を終えてカズマに手渡す。暫くそれを睨みつけたカズマは突然何か閃いたように目を見開いた。

 

 

「こ、これだぁぁぁあああああ!!!!」

 

 

再びイケメンの顔(姿似)が、今度は再起不能なまでに引き裂かれた。

 

 

――――――

 

 

「――成程。流石、こういう機転に関しちゃ俺以上に冴えてるな」

 

「帝督にそう言われると照れるな……」

 

「気持ち悪。死ね」

 

「なんで?!!」

 

 

カズマの提案には垣根も素直に感心した。

その提案とは、見合い自体は受けた上で相手から断られるように仕向けるというものである。

見合いを断ったところで領主は別の無理難題をひっかけてくるに違いない。しかし、領主の息子がダクネスを良く思わず結婚を拒否するのであれば、領主は誰にも文句を言えず、ダクネスは冒険者を続けられて全てが丸く収まるという寸法だ。

 

これにはダクネスも「上手くいけば見合いの話が持ち上がる度にいちいち父を張り倒しに行かなくて済む」と非常に賛成の意を示しており、早速行動しようと一行が屋敷を出たその時だった。

 

 

「サトウカズマ! サトウカズマはいるか!」

 

 

声の主は、護衛兵を引き連れて屋敷に向かってくる女性――すっかりお馴染みとなった検察官セナであった。

 

 

「き、今日は何だよ……!」

 

 

困惑しつつも迷惑そうな態度のカズマに、セナは毅然とした様子で返す。

 

 

「街の周囲にモンスターが溢れている。心当たりがあるのでは?」

 

「はぁ!?」

 

「すぐ出頭してもらおう」

 

「お断りします!」

 

 

そう言ってカズマ、そしてダクネスを庇うように前に出るめぐみん。そのままセナに杖を向けて語りだした。

 

 

「今、私たちの大切な仲間が危機に晒されているのです。それを放っておくわけにはいきません!」

 

「おい落ち着けよ。とりあえず杖下ろせ」

 

 

セナを睨みつけるめぐみんとそれを制止する垣根。そんな二人にカズマは手を伸ばして何かを言いかけた。恐らく仲裁しようとしたのだろうが、言葉を飲み込んでゆっくりと歩み寄り、両手で二人の肩を叩いた。

 

 

「こっちは俺とアクアで何とかする。だから二人が行ってきてくれないか?」

 

「えっ?」

 

「カズマ……」

 

 

後ろから声をかけられた事で頭が冷えたのか、めぐみんは杖を下ろしてカズマに向き直る。

 

 

「大量のモンスターが相手なら純粋に強い帝督は勿論、めぐみんの爆裂魔法も有効だろ。だからさ……」

 

「ですが……!」

 

「――そうさせてもらう。行こうぜ、めぐみん」

 

「テイトクまで……!? しかしダクネスが――」

 

 

納得しないめぐみんに、垣根は少し屈んでめぐみんと目線を合わせる。

垣根と至近距離で目が合っためぐみんが息を呑んで静かになったのは、垣根の容姿にときめいたから――という訳ではなく、その眼差しがあまりに真剣だったのと、その奥に僅かに重苦しい『圧』を感じたからである。

 

 

「……今大切な仲間(ダクネス )が危機に晒されていると、そう言ったな。そもそもなんでそんな事になっているか理解しているか?」

 

「そ、それは領主がダクネスに息子との見合いを――あっ」

 

 

頭の良いめぐみんはこのやり取りで垣根の言わんとしている事を理解した。

そもそもアルダープがダクネスに対して息子との見合いを申し出てきたのは、カズマの判決猶予を認める交換条件である。つまり今回ダクネスの見合いの件が何とかなったとして、カズマの無罪が証明されない限りは、アルダープはカズマを引き合いにダクネスに今後も何かしらの要求をしてくる可能性があるという事。ならば可能な限り、カズマの疑いを晴らす活動は積極的に対応する必要がある。それがカズマだけでなくダクネスや他の仲間を助ける事にも繋がる。垣根が伝えたかったのはそういう事であった。

 

 

「――すみません。浅慮でした」

 

「いや、わかればいい」

 

 

垣根はめぐみんの頭を帽子越しに軽く叩き、立ち上がった。

 

 

「……待たせたな。現場まで案内してくれ」

 

「いい心がけです。それではこちらに」

 

 

踵を返すセナたちの後ろを着いて行く垣根とめぐみん、そしてちょむすけ。そんな二人と一匹の背中にカズマが声をかける。

 

 

「悪い、帝督。……そっちは頼むな」

 

「ああ。そっちこそ、ダクネスの事は頼んだぜ」

 

 

 

 

 

 

――ここで話は現在に戻る。

 

 

パーティの最高戦力である垣根が出張っているとはいえ、今まで受けたクエストとは比較にならない大量討伐。垣根は自分一人で十分と驕る事はせず、めぐみんという火力を活用し、役割を分担する事にした。

 

まず目の前の大量のモンスター。まだこちらに気付いている様子は無く、運良くある程度固まっている為、これをめぐみんの爆裂魔法で一掃する。その後、垣根が射程外の敵を処理しつつモンスターの発生源を探るという作戦だ。

 

 

「それじゃあ、俺が飛び立つのと同時に魔法の発動に取り掛かってくれ」

 

「わかりました。気を付けてくださいね」

 

 

めぐみんのその言葉に垣根は頷き返し、翼を広げて音も無く飛び立つ。そして段取り通りにめぐみんは即座に杖を構え、詠唱を開始した。

 

 

「黒より黒く、闇より暗き――」

 

 

垣根は詠唱しながら魔力を込めるめぐみんの様子を見ながら、既に数十メートル上空まで飛び立っていた。未元物質(ダークマター)を操り光を屈折させて光学迷彩のようにして身に纏い、擬似的に潜伏スキルを発動した状態でモンスターたちを俯瞰する。そしてその分布や動きを見て発生源を探り始めた。

 

 

「あそこか……!」

 

 

やがて疎に見えたモンスターたちがおおよそある一点――林の中から平野に出てきているのを垣根は確認する。それとほぼ同時に爆裂魔法の魔力が溜まり始めたのか、平野に屯するモンスターたちの上空に魔法陣が柱のように重なって現れ始めた。

モンスターたちは突如現れた爆裂魔法の陣に慌てふためいているものの、多くはその広大な射程から逃れる事はできない。そして魔力の奔流がピークに達した今、ついにそれは放たれた。

 

 

「――穿て! 《エクスプロージョン》!!」

 

 

瞬間、目を覆う程の閃光と同時に膨大な魔力が炸裂する。一切の遠慮なく放たれたそれは実戦に於いては過去最大の威力で、既の所で直撃を避けたモンスターもその余波の爆風だけ吹き飛ばされ瀕死になる程であった。

 

垣根は魔力切れで脱力しためぐみんがセナたちに介抱されている様子を横目で確認し、爆裂魔法の撃ち漏らしを上空から羽を高速で射出して処理しつつモンスターの発生ポイントと思しき林に入って行った。

 

 

「しかし何か見覚えのあるモンスターばかり出てきやがるな……」

 

 

垣根はモンスターの足跡や掻き分けられた草木など、モンスターが通った痕跡を辿りながら、時折遭遇するモンスターを蹴散らし林の奥へ進む。そして数分もしない内に開けた場所に出た。

 

 

「ここは……キールダンジョンじゃねえか」

 

 

垣根の眼前にあるのは、先日ギルドより探索クエストを斡旋してもらいカズマたちと共に潜り込んだダンジョン。そしてその入り口から何かに追われるように溢れ出すモンスターたちだった。垣根は素早く身を隠し、様子を伺い始めた。

 

 

「成程な。そういう事か……だが一体何だってこんな……」

 

 

キールダンジョン。大昔の大魔術師『キール』が作り上げ、余生をそこで過ごしたとされるダンジョン。垣根たちはこのダンジョンの未踏区域でリッチーとなったキールと出会い、彼の望みでアクアにより浄化された。

長い年月をかけグレムリンやミミック、他のアンデッドも巣食うようになり、垣根たちもそれなりに苦労したのは記憶に新しい。しかし探索中に垣根はアクアから、これらのモンスター達はダンジョン内で生態系を作っているという話を聞いている。だとするとこの光景は何なのか。

 

時間にして一秒もかからない思案の末、垣根は思考を切り替えるように器具に覆われた空を仰ぎ、ため息を吐く。

 

 

「とにかく今は『ゴミ掃除』が最優先だな」

 

 

垣根は光学迷彩を発動させる事なくモンスターの前に躍り出る。モンスターたちは一瞬動揺を見せるも、すぐに大挙して垣根に襲いかかった。

 

対して垣根はズボンのポケットに両手を入れて突っ立っており、その立ち振る舞いからは殺気すら感じられない。そして群れの先頭、グレムリンの爪が垣根の首を掻き切らんと振り下ろされたその時――

 

 

「――――!」

 

 

声にならない断末魔の叫びをあげたのは垣根――ではなくグレムリンの方であった。

 

グレムリンはその左肩から右の脇腹にかけて両断されて地に落ち、垣根は表情も姿勢も崩さずに僅かに血液が付着した翼を広げていた。

 

後に続くモンスターたちも先頭の数体は同様に切り裂かれており、翼によるカウンターを逃れた多くの個体も、僅かばかりの知性が働いたのか本能によるものか自らの置かれている状況を理解した。

 

相変わらずポケットに手を入れて立ったままの垣根。その目は先程の言葉通りゴミを見るそれである。それがより恐怖心を掻き立てたのか、モンスターたちはこの場を逃れようと体を捻る。

 

 

 

 

 

 

――どさり。

 

 

――どさり。どさり。どさり。

 

 

次々と何か重たい物が落ちる音が静かな林に響く。

同時に踵を返して逃げ出そうとしたはずのモンスターの半身(・・)が一斉にその場に崩れ落ちた。

 

そう。(死神の鎌)から逃れたモンスターなど一体もいなかったのである。

 

 

――――――

 

 

モンスターの流出がある程度落ち着いたタイミングで垣根はダンジョンの入り口に未元物質(ダークマター)で作り出した繊維によるワイヤートラップを仕掛け、セナたちの元へ戻った。そしてモンスターの発生源の報告を行った後、まだ立ち上がれないめぐみんを小脇に抱え、セナたちを引き連れて再度キールダンジョンへと向かう。

先程通った道を今度はゆっくりと歩いて進み、やがて木々の隙間から目的地が見えてきた。

 

 

「もうすぐだ。あのダンジョンからモンスターが――」

 

 

垣根が前方を指差し言いかけたその瞬間――ドカン、と指差す方向から爆発音が響いた。

 

 

「!? 今のは一体……!」

 

 

突然の事にセナが警戒する。垣根は全員と目配せし、ダンジョン入り口付近まで走り抜けた。

 

 

「何だありゃ……」

 

 

そこで垣根たちが見たもの。それは仮面を被った二頭身程の、正体不明の人型モンスターがダンジョンの奥から列を成し、次々とワイヤートラップにかかり爆発するという光景だった。

 

 

 

 

――尚、この時漸く立ち上がれるようになっためぐみんは、消耗した状態で雑に抱えられながら走られた事で酔ってしまい、一人木陰で嘔吐(えず)いていた。

 




前回から随分と間が空いてしまいました……申し訳ありません。
キールダンジョンの回は原作とほぼ差異を作れそうになかったのでスキップしました。

次回、見通す悪魔との対峙です。
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