この常識の通用しない世界に祝福を!   作:仲美虚

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第二話『この冒険者人生の第一歩を!』

巨大なカエル――垣根は知る由もないが、ジャイアント・トードと呼ばれるモンスターである――と対峙し、硬直する垣根。しかし、恐怖している訳でも、別段カエルが苦手という訳ではない。考えがあっての事であった。

 

 

(いくら化け物じみたサイズだろうがカエルはカエル。生態や身体の造りは普通のとそうは変わらねえはずだ。生き物の事はあまり詳しくねえが、確か動く獲物しか認識できないんだったか……。そうなりゃ下手には動けねえ。舌の射出速度は、動きをスローモーションで認識する複眼を持つという蝿を捕える程だ。あんだけデカけりゃ速度は落ちるだろうが、目視での回避は不可能と見ていい。無論、翼の自動防御があるから負傷する事はねえが――アレに丸呑みされるのはシンプルに嫌だ……!)

 

 

考えを巡らせ、カエルを睨みつける垣根。こちらから仕掛けるべきか、このまま大人しくどこかへ行くのを待つべきか。じっと機会を伺う。

 

 

 

 

――などとやっているうちに、垣根はカエルに飲み込まれていた。

 

 

 

「――話が違うじゃねえか!!!!!!」

 

 

未元物質(ダークマター)の翼でカエルの腹を切り裂き、脱出した垣根。

幸い自動防御のおかげで傷や汚れはなかったものの、憤懣やる方ないといった様子でカエルだった肉塊を踏みつけている。

 

 

「クソが……無駄な時間を使っちまった。とっとと街に向かうとするか」

 

 

カエルに丸呑みされるという不本意極まりない形でここが異世界であるという確証と自覚を得た垣根は八つ当たりもそこそこに、汚れた靴を地面に擦りつけてから街へ向かって歩き出した。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

「いかにもな街並みだな……まさに剣と魔法の世界ってか? 確かアクセルとか言ったか」

 

 

アクセルという名前の響きに何となく自らの死因(一方通行)を思い出して腹の底から湧き出るものを感じつつ、垣根は転生前にエリスから聞いた説明を思い出しながら、冒険者ギルドを探して街を練り歩いていた。

道中通りすがる住人たちに道を尋ねながらも、無事目的地に辿り着く事ができた。

 

 

「いらっしゃいませ! お食事ならお好きな空いているお席へどうぞ! お仕事案内なら奥のカウンターで承ります!」

 

「ああ、どうも。――しかし人が多いな。冒険者の溜まり場でもあるって訳か……」

 

 

物珍しさに周囲を見回す垣根。

ギルド内は数多の冒険者たちがテーブルについて食事を摂っていたり、昼間から飲んだくれていたり、あるいはテーブルにつかず立ち話をしている者まで様々だ。

 

そんな中、入口付近のテーブルについていた男が声をかけてきた。

 

 

「見ねえ顔だな」

 

 

モヒカンに肩パッドと、世紀末な風貌に垣根はたじろぐが、平静を取り戻し言葉を返した。

 

 

「あ、ああ。実はこの街に来たばかりでな。冒険者登録ってのをしてえんだが……」

 

「成程な……ようこそ地獄の入り口へ! 受付はあっちだ。――それよかお前、登録料は持ってんのか?」

 

「登録料?」

 

 

垣根はしまった、という顔をする。

ギルドとて慈善事業でやっている訳ではない。元の世界でもそうだったように、何をするにもまず金が要るのは世の常である。

そもそも最低限の金銭くらい転生の時に持たせておけよと、垣根は心中でエリスに悪態をつく。

 

どうしたものかと垣根が眉を顰めていると、男が垣根の肩を叩いた。

 

 

「そんな事だろうと思ったぜ……ほら、登録料の千エリスだ」

 

「お前……いいのか?」

 

「気にすんな。その内クエストの報酬で一杯奢ってくれりゃあいい」

 

 

圧の強い笑顔でサムズアップする男の厚意を受け取る垣根。

その胸中は感動――を塗り潰す「あの女、通貨の単位になってんのかよ」という白けた思いで満たされていた。

 

それはそれとして礼を言い、受付に向かう垣根。

別れ際に自己紹介をしたが、名前がポチョムキン四世だとか、あのガタイで職業が機織り職人だとか、無駄に情報量が多い男だったという事を一旦頭の隅に追いやり、気持ちを切り替える。

受付が空いている事を確認した垣根は、早速受付嬢に声をかけた。

 

 

「やあお嬢さん。受付はこちらで合ってるのかな? 冒険者登録をしたいんだが」

 

「冒険者登録ですね。承知致しました。では、登録料として千エリス頂戴致します」

 

「ああ、これでいいかな。(胸元開きすぎだろ……痴女か?)」

 

 

登録料を支払い、下衆な思考がちらつきながらも一応は真面目に受付嬢――ルナの説明を聞く垣根。

規約や注意事項、冒険者としての職業の種類や、スキルについての概要など一通り流した後、ルナは1枚のカードを差し出した。

 

 

「こちらが冒険者カードとなります。冒険者としての身分証明書であり、先程お話ししたスキルポイントの管理などに必要なものになります。こちらの各項目に記入をお願いします」

 

「了解。――何々? 名前に年齢、身長、体重……こんなとこか」

 

「確認致します。――カキネ・テイトク様ですね。次にステータスの計測を致します。少々お待ちください」

 

 

必要事項を記入されたカードとペンを返されたルナは記入漏れがない事を確認し、カウンターの脇に設置されていた機械の下にカードを置く。

その機会には占いにでも使うような大きめの水晶が組み込まれており、学園都市(科学の街)出身の垣根にも一目で魔道具の類であるとわかる風体だ。

 

 

「では、こちらの水晶の上に手をかざしてください」

 

 

ルナの指示に従い、水晶に手をかざす垣根。すると水晶が光を放つのと同時に機械が動き出す。

収束された光はレーザーのような光線となり、垣根の冒険者カードにこの世界の文字を焼き付ける。元の世界の技術で例えるならレーザーマーキングのような技術で、垣根は絵面としては珍しい物でもないと思いつつも、その手順や道具そのもののビジュアルからファンタジーを感じ、珍しく年相応に胸が躍る感覚を覚えていた。

 

やがて印字が完了して機械が停止する。ルナはカードを取り出し、内容を確認し、垣根にそれを渡す。

 

 

「こちらがあなたの冒険者カードになります。そしてこちらが、先程測定したステータスです。すごいですね! 幸運はやや低めで、筋力、体力等の肉体的ステータスは平均より少し高い程度ですが、この知力は今まで見た事ありません! 前職は学者さんか何かだったのでしょうか? ――魔力がゼロなのも相当珍しいですけど……」

 

「いやいや、そんなんじゃ――なんだって?」

 

 

垣根はルナに渡されたカードを凝視する。平均がどの程度か垣根にはわからないが、確かにルナの言う通り、知力の欄は他と比べて文字通り桁違いの数字を叩き出している。そして魔力の欄には、一際異彩を放つ、虚無を意味する数字――『ゼロ』が記されていた。

 

 

「……なあ、これ魔法とかスキルってのは――」

 

「習得はできないでしょうね……」

 

「だよな……」

 

 

せっかく異世界に来たと言うのに、魔法やスキルといった未知の力を自ら体験する事ができないと知り、垣根は少なからずショックを受ける。それは能力者故の知的好奇心のせいだけではなかった。

 

 

「ああ、でもテイトクさん、最初から何か見た事ないスキルをお持ちでしたよ!」

 

「――未元物質(ダークマター)、か……。ま、そんだけありゃあ十分か」

 

「それで、最後に職業ですが、如何なさいましょう? 尤も、アークウィザードやアークプリーストのような高い魔力適正が求められるものは難しいですが……」

 

「あー……とりあえず冒険者でいいや。基本職ってんならそれで問題ねえだろ」

 

 

職業登録を済ませて全ての手続きが完了した垣根は、世話になったと一言言い残し、受付を後にした。予想外の出来事はあったが、とにかく冒険者登録はできた。であれば、早速クエストをこなして今日の食事代と宿代を稼ぐ必要がある。垣根は掲示板へ向かい、張り出された依頼を確認していた。

 

 

(ポチョムキンにも金を返さねえとな……)

 

「なあ、あんた。ちょっといいか?」

 

「あ? ――お前は……」

 

 

垣根がクエスト掲示を眺めていると、背後から垣根と同年代程の少年が声をかけてきた。後ろには三人の少女たちを連れており、傍目から見ればハーレムのようにも見える。

 

少年の顔立ちは、垣根がこの世界に来てから見てきた人達とは異なる見慣れた顔――日本人のそれだった。

垣根はその事にも驚いたが、それ以上に目を引く存在があった。

 

 

(林檎――いや、背格好や髪色以外似てねえだろ。らしくなく感傷的になってんなオイ)

 

 

少年の後ろにいる、大きな帽子を被り眼帯を付けた小柄な少女に、垣根はかつて取りこぼしてしまったものの面影を感じる。

視線を感じたのか少女に訝しげな表情を返され、垣根ははっとなって少年に向き直った。

 

「俺の名前は佐藤和真。カズマって呼んでくれ。なあ、あんたもしかして――」

 

「ああ……お前の想像している通りだと思うぜ」

 

 

この少年――カズマは垣根の想像した通り、同じ日本人の転生者のようだ。

この世界について情報が十分とは言えない垣根にとって、同じ境遇の知人を得た事は僥倖であった。カズマの友好的な態度に何やら裏を感じつつも、このチャンスを逃すまいと垣根もまた友好的な態度で返す。

 

 

「俺は垣根帝督。よろしくな。それで、そちらのお嬢さんたちは……」

 

「よくぞ聞いてくれたわね! 私はアクア。水の女神アクア様その人よ!」

 

「――と、思い込んでいる可哀想なやつなんだ。気にしないでくれ」

 

「お、おう……」

 

 

カズマに横槍を入れられ、水色の髪の女――アクアは騒ぎ立てる。

垣根はその姿に女神らしさなど僅かばかりも感じなかったが、一応は女神を名乗る本物らしい存在に一度遭遇している身。案外ただの痛い妄想などではないのかもしれないと思いつつ、その視線は可哀想なものを見るそれだった。

 

 

「私はダクネス。カズマたちのパーティでクルセイダーをやっている。よろしく頼む」

 

「ああ、よろしく」

 

 

鎧を着た黄色い髪の女――ダクネスの自己紹介を聞き、こいつはまともそうだと安堵する垣根。そんな垣根の心情を察した様子のカズマは、どこか申し訳ないような、或いは現実から目を背けるような顔をしていた。

 

そして最後の一人、黒髪の少女が名乗りを上げる。

 

 

「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操りし者……!」

 

「……バカにしてんのかこのガキ」

 

「どういう意味だコラしかもガキ呼ばわりとはなんですか!!」

 

 

カズマ曰く、めぐみんは紅魔族という種族で、生まれつき紅い瞳に黒い髪。そして高い知能と魔力を備えているそうだが、その感性は拗らせた中学二年生のそれであり、皆変な名前をしているという。めぐみんというのも本名らしく、垣根は「悪かったな」と一言謝罪し――その難儀な生まれを憐んでいた。

 

 

「それで、俺に一体何の用だ? ただ同郷の人間が珍しいってだけで声をかけてきたわけでもねえんだろ?」

 

「ああ。見たところあんた、こっちに来たばかりだろ? 装備も整っていないみたいだし、チュートリアルがてら一緒にクエストでもどうかなって」

 

「はぁ!? ちょっとカズマさん何言ってるの?! そんな事したら報酬の分前が――もごっ?!」

 

 

カズマの提案にまたも騒ぎ立てるアクア。カズマはその口を塞ぎ、アクアと共に少し離れてからこそこそと話をし始めた。

 

 

「いいかアクア。あいつ――帝督はその名前や容姿、反応から見て間違いなく転生してきたばかりの日本人だ。ここまではいいな?」

 

「ええ、そうね。見りゃわかるわ」

 

「つまりとんでもないチート能力を持っているに違いない。つまり普段の俺たちでは難しいようなクエストも難なくクリアできるだろう。そうすりゃ報酬も山分けしたところで普段以上の収入に――」

 

「成程ね! カズマさんあったまいい〜!」

 

「俺だってあんな天が二物も三物も与えたような高身長イケメンに頼るのは癪だ……だが上手くいけば仲間に引き込んで、今後も高収入を維持できるかもしれない。変に突っかからずに仲良くしてくれよ」

 

 

アクアが計画の内容を理解したのを確認し、カズマはアクアを連れて垣根たちの元へ戻る。

垣根には怪訝な表情をされたものの、カズマは気にしないでくれとだけ返し、話を再開した。

 

 

「で、話の続きだけど……クエストの件さ、帝督にとっても悪い話じゃないだろ?」

 

「ああ、それはそうだが……」

 

 

垣根はカズマがクエストへの同行を持ちかけてくる理由に引っ掛かりを感じていた。正確には、理由そのものではなく、カズマにそうさせる根本的原因についてだ。

理由については、大方高難易度のクエストに同行させる事で高い報酬を得る為であろうと推理していた。カズマも同じ転生者であるなら、転生の特典については知っているはず。それをアテにして垣根を仲間に引き込もうとしているのだろうと。――単に善意で声をかけてきた可能性は、最初に話した時点で打算めいたものを感じていた為考慮していない。

 

 

(だが――そうなると益々わからねえな)

 

 

カズマもまた転生者であるならば、自らも特典を持っているはず。そもそも垣根に頼る必要が無いはずなのだ。考えられる可能性としては、何らかの理由で特典を周囲に隠しているか、或いは――

 

 

(余程戦闘で役に立たない特典なのか――あっ)

 

 

そこで垣根は気付いた。目の前の自称女神の存在に。

 

 

(……いやいやまさか。流石に無えだろ)

 

 

垣根は、『女欲しさに女神を特典として選んだ』可能性を考えたが、すぐにその考えを振り払う。……当たらずとも遠からずの答えであったとも知らずに。

 

ともあれ、カズマがどういった理由で何を企んでいようが、垣根にとって何らデメリットになるような事はない。むしろ好都合。垣根はカズマの提案を呑み、返事をしようとした――その時であった。

 

 

『緊急! 緊急! 全冒険者の皆さんは直ちに武装し、街の正門に集まってください! 特に、冒険者サトウカズマさんとその一行は大至急でお願いします!!』

 

 

いつの間にか放送室に移動していたのか、ルナの声の放送が街中に響き渡る。

その内容はカズマを名指ししており、カズマ一行と垣根は目を見合わせる。

 

 

「……お前何したんだ?」

 

「さ、さあ……とにかくお呼び出しだ! 行くぞ、お前ら!」

 

 

 

 

――――――

 

 

 

放送の指示に従い、正門に向かうカズマ一行と垣根。

そこには、首無しの馬に跨る、同じく首無しの騎士が待ち構えていた。

 

 

「ベルディア……!」

 

「知ってんのか? カズマ」

 

「前にもアクセルの街にやってきた、魔王軍幹部だ。今度は一体何の用だ……?」

 

 

魔王軍幹部。目的である魔王に近しい存在であろうその名を聞いた垣根は、観察するような視線をベルディアに向ける。

 

 

(デュラハン……って奴か。自身の頭部と思われる兜を小脇に抱えているが、どういう身体のつくりになってんだ?)

 

 

身体を動かすための命令は? 血液の循環は? 垣根が思考を巡らせていると、ベルディアがわなわなと震え出した。

 

 

「――何故城に来ないのだ! この人でなしどもがァァァァァァ!!!!」

 

「えぇ!? なんで!? もう爆裂魔法を撃ち込んでもいないのに――」

 

「撃ち込んでもいないだとォ!? なぁにを抜かすか白々しい!!」

 

(何やってんだこいつら)

 

 

爆裂魔法――めぐみんが自己紹介の際に言っていた単語。

垣根はベルディアとカズマの会話から、恐らくカズマとめぐみんがベルディアに対して何かやらかした事で前回この街にやってきたのだと察した。

そしてその予想は的中する事になる。

 

 

「そこの頭のおかしい紅魔の娘が、あれからも毎日欠かさず通っておるわ!!」

 

「えっ!? ――お前かああああああああ!!!!!!」

 

 

ベルディアが指し示したのはやはりめぐみん。カズマはめぐみんの頬をつねり上げ怒鳴り散らす。どうも毎日ベルディアの居城に爆裂魔法――極めて高火力の爆発魔法を撃ち込んでいたらしい。当のめぐみんは「硬くて大きいものでないと我慢できない」などと誤解を生むような言い訳を顔を赤らめもじもじしながら言い放っている。

 

 

「大体お前、魔法使ったら動けなくなるだろうが!! てことは共犯者が――」

 

 

カズマがアクアに視線を向けると、アクアは目を逸らし、下手くそな口笛で誤魔化す。

当然めぐみん同様つねり上げられたが、「ベルディアのせいで碌なクエストが受けられなくなった腹いせがしたかった」などと、やはりしょうもない言い訳を並び立てる。

垣根はその様子を見て、こいつらのパーティ大丈夫かと、柄にもなく他人の心配をしていた。

 

カズマたちが内輪揉めをしていると、それを制すが如き肌を刺す瘴気がベルディアから放たれた。

 

 

「聞け、愚か者共。我が名はベルディア。この俺が真に頭に来ていることは、他にある……! 貴様らには、仲間の死に報いようという気概は無かったのか!? ……生前はこれでも、真っ当な騎士のつもりだった。その俺から言わせれば、仲間を庇って呪いを受けたあのクルセイダー! 騎士の鑑のようなあの者の死を無駄にするなど――」

 

 

言いかけたベルディアは信じられない物を目にしたように言葉を詰まらせ、固まる。その視線の先には呪いを受けて命を落としたはずのクルセイダー――ダクネスの姿があった。

 

 

「そ、そんな……騎士の鑑などと……」

 

「何、お前死んだの?」

 

 

いまいち状況が飲み込めていない垣根はダクネスに問いかける。

するとアクアが肩を振るわせたかと思えば、ベルディアを指さして爆笑しだした。

 

 

「もしかしてあれからずっと待ってたのぉ!? 死の呪いが私にあっさりと浄化されたことも知らずにぃ! プークスクス!」

 

「何でテメエはいちいち煽るんだよ」

 

 

ベルディアを煽り散らすアクアに冷めた様子で言葉を投げる垣根。カズマも同感とばかりに頷いている。

 

 

「き、貴様……! 俺がその気になればこの街の連中など、皆殺しにできるのだぞ!?」

 

「はぁ? アンデッドの癖に生意気! 《ターン・アンデッド》!!」

 

「はん、駆け出しのプリーストの魔法が通じ――ぎぃいやああああああ!?」

 

 

アクアの魔法による光に包まれ、ベルディアは素っ頓狂な悲鳴を上げる。

光が収まると、息切れを起こしながらベルディアがゆっくりと立ち上がった。

 

 

「どういう事!? カズマさん、私の浄化魔法が全然効いてないんですけど!」

 

「いや、結構効いてたと思うぞ。『ぎぃいやああああああ!?』って言ってたし」

 

「貴様……本当に駆け出しか……!?」

 

想定外の威力に驚愕するベルディア。息を整え、腕を振るうとその足元に暗黒が広がる。

その沼のような闇から、次々と無数のヒトガタが現れる。

 

 

「やれ、アンデッド・ナイト! あの冒険者共に地獄を――」

 

「《セイクリッド・ターン・アンデッド》!!」

 

「――ひぃぃぃいやああああああ!?」

 

 

話を高位の浄化魔法に遮られるベルディア。またも悲鳴を上げ、今度は身体中から黒煙を上げながら息も絶え絶えと言った様子で立ち上がる。

 

 

「どうしようカズマ! やっぱり私の浄化魔法が全然効いてない!」

 

「いや、だいぶ効いてたと思うぞ。『ひぃぃぃいやああああああ!?』って言ってたし」

 

「貴様ら、次々と不意打ちばかり……! もういい! アンデッド・ナイトよ、この街の住民を血祭りにあげよ! こいつらを倒したらこの俺が直々に相手をしてやろう」

 

 

ベルディアの合図と共に、アンデッド・ナイトの軍勢が正門に向かって駆け出す。誰もが身構える中、一人の男――この中で唯一丸腰の人間、垣根帝督が前に出た。

 

 

「貴様……何のつもりだ!」

 

「よせ、帝督! どんなチート貰ってるか知らないが危険だ! 戻れ!」

 

 

ベルディアの威嚇やカズマの心配する声など気にも止めず、前に出る垣根。他の冒険者たちとある程度距離を取ったところでその歩みを止めた。

 

 

「この数をちまちま相手すんのも面倒だ。そういう事すんのはあの第一位だけで十分なんだよ。――悪いが、纏めて始末させてもらうぜ」

 

「何を――なっ!?」

 

 

垣根の背に三対の純白の翼が出現する。まるで天使のような似合わないその姿に、この場の誰もが驚き息を呑んだ。

垣根はその翼で高く飛び上がり、右手を振り下ろすと、アンデッド・ナイトの軍勢はまるで何かに押しつぶされるように地面に倒れ伏し、その周囲の地面ごと陥没していった。

 

 

「き、貴様――何だ、その翼……その力は……!?」

 

「教えるかバーカ」

 

 

そう言いながら垣根がさらに能力を強めると、アンデッド・ナイトたちは完全に潰され、全て消滅した。

垣根は地面に降り立ち、ベルディアを挑発するように言い放つ。

 

 

「さて……全部倒したぜ。直接相手してくれるんだろ?」

 

「――ッ! ……良かろう。あの世で後悔するがいい!」

 

 

ベルディアの斬撃を垣根は翼で受け止める。何度斬りつけても悉く防がれ、痺れを切らしたベルディアは自身の頭部を天高く投げ、『先読み』のスキルを使用する。しかしいくら先読みしても自身の剣が命中する事はなく、ベルディアは焦りを覚える。

垣根の翼による防御は無意識下で自動的に行われているものであり、いくら垣根自身の行動を予測したところで、その防御を潜り抜ける事は不可能である。

 

対して、垣根はこの状況を楽しんでいた。

未知の世界、未知の法則、未知の生物(モンスター)……これらを積極的に観察、体験する事で、自身の能力は進化する。垣根がわざわざ面倒事であるベルディアとの戦闘に絡んできたのもこれが理由だ。もうそこには異世界(オカルト)に対する疑いなど微塵も残ってはいなかった。

 

垣根は新体験に興奮――しかし頭は冷静さを保ったまま、密かに散布した未元物質の反応を見てベルディアの正体を探る。

 

 

(肉体の組成は……人間の死体のそれだな。結局は元人間って事だろうが……まだわからねえ部分も多い。この鎧や剣も、俺の知らねえ元素でできてやがるってのに、その元素を構成する素粒子そのものは元の世界と変わらねえ。――面白いじゃねえか……!)

 

 

次々と新しい発見をして胸を高鳴らせる垣根。しかし、ひたすら防御しているのも飽きてきており、そろそろ決着をつけようと考え、呆然と突っ立っていたカズマに声をかけた。

 

 

「おい、カズマ。アンデッドってのは何が弱点なんだ?」

 

「えっ、俺!? え、えーと……浄化魔法は結構効いてたけど倒しきれなかったし、あとは聖水とか――」

 

「要は水だろ。――試してみるか」

 

 

死の呪いとやらを使われても困る為、垣根はあまり悠長にはしていられないと思いつつ、ただ倒すのもつまらないと、カズマの言う弱点を試してみる事にした。

防御に徹していた翼の内一対を振り上げ、ベルディアに振りかぶる。ベルディアは咄嗟に防御の構えを取ったが、その翼は剣も鎧も兜も、その肉体もすり抜け、ベルディアに傷一つ負わせる事は無かった。

 

 

「――はっ、何だ今のは。防御は一丁前だが、貴様の攻撃など全く効いておらんわ」

 

「そいつはどうかな?」

 

 

嘲笑に嘲笑で返す垣根。ベルディアが不思議に思っていると、鎧の隙間から煙が上がり出した。

 

 

「――ぐわぁぁぁぁぁぁ?!! な、何が、ああああああああああああ!!!!!!」

 

 

苦しみ、地面をのたうち回るベルディア。見ればその鎧や兜からは煙だけでなく、水も止めどなく溢れ出してた。

 

 

「空気に反応して水を生成する物質をお前の体表に隙間なく大量に付着させた。しかしまさかただの水が本当に効くとはな。――アクア!」

 

「――は、ひゃい!?」

 

 

何が起きているのかわからず呆然としていたアクアはまさか自分が呼ばれるとは思っておらず、数テンポ遅れて返事をした。

 

 

「こんだけ弱ってたら浄化魔法とやらも効くだろ。後始末は頼むぜ」

 

「え、ええ。わかったわ。――《セイクリッド・ターン・アンデッド》」

 

 

苦しむベルディアが神々しい光に包まれる。その肉体は徐々に光の粒子となり、やがて天に昇るように消滅した。

 

かくして、魔王軍幹部ベルディアの討伐に成功したのだった。

 

 

「帝督……あいつのあの力は一体……」

 

 

とても単一の能力では成せないような技を繰り出し、一人で魔王軍幹部を圧倒するその力に、カズマはもしかしてとんでもない奴を仲間にしようとしているのではと、期待と不安が入り混じった感情で戦いの痕を見つめていた。




第2話です。結構詰め込みましたが、どうにか一週間で書き上げました。
次もこれくらいのペースで投稿できるよう頑張ります。
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