この常識の通用しない世界に祝福を!   作:仲美虚

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第三話『この素晴らしいパーティに新メンバーを!』

「いやー、助かったよ帝督! おかげで報酬もたんまりだ! ほら、アクアも礼を言え! 帝督がトドメをお前に譲ってくれたおかげでシュワシュワ飲み放題なんだぞ」

 

「別にあんなアンデッドごとき私一人で十分だったけどね! でもまあ感謝してあげるわ! そしてこの水の女神たるアクア様が感謝することに感謝なさい!」

 

「へえへえ」

 

 

ベルディア討伐から数刻後、その手柄はベルディアを追い詰めた垣根と、最後にトドメを刺したアクアが所属するカズマ一行のパーティで山分けとなり、彼らはギルドのテーブルで食事を摂りながら報酬の精算を待っていた。

 

 

「それで、帝督のあの力は一体何なんだ? すげーなんでもありって感じの能力だったな。翼似合ってなかったけど」

 

「私も気になります! 見たことないスキルでしたね。紅魔族的センスとはちょっとズレた感性のビジュアルでしたが、あの翼はとても綺麗でした。似合ってませんでしたけど」

 

「ああ……特にあのアンデッド・ナイトの軍勢を押し潰したあの重圧……是非私も受けてみたい! 翼は似合ってなかったが」

 

「示し合わせてんのかテメエら」

 

 

先の戦闘で見せた垣根の多彩な技に、カズマとめぐみん、ダクネスは興味津々といった様子だ。(アクアは無限にシュワシュワを流し込む機械と化している)

ダクネスが何か言っているが垣根は考えないようにし、自身の能力について明かすかしばし悩む。

カズマが垣根の能力目当てで近付こうとしている事は垣根自身も理解しているが、それはお互い様。今後のために仲良くしておいた方が得策である――むしろパーティに入れてもらって仲間になれば、手の内を晒したところで不利になる事はないという考えから、垣根は自身の能力について明かすことにした。

 

 

「あー……ま、いいだろ。教えてやるよ。俺の能力、『未元物質(ダークマター)』はこの世に存在しない素粒子を生み出して操ることができるんだ。――ちなみにあの翼は好きで出してる訳じゃねえからな」

 

「素粒子……ですか?」

 

 

この世界の学問において触れられない領域の、聞き慣れない単語に、めぐみんは頭に疑問符を浮かべる。

それはこの世界で生まれ育ったダクネスだけでなく、カズマも同様だった。

 

 

「単語くらいは聞いた事あるけど……詳しくは知らないな」

 

「お前……これくらい高校の物理で習うだろうが」

 

「ずっと引きこもってたもんで……すみません……」

 

 

この程度知ってて当然と言わんばかりの態度の垣根だが、実際のところ普通科の高校であれば素粒子にまで学習範囲が及ばない事など珍しくもなく、さらには選択科目によっては物理を履修しない事すらあり得る。

しかし、カズマは引きこもって学校に行っていなかった為その事を知らず、垣根は垣根で高校生として学校に通っていた時期はあったものの、超能力者が在籍する程のエリート校故に、授業の進みや範囲は一般的な学校とは大きく異なる。

学歴の差によるすれ違いが起こった事に、本人たちが気付くことはなかった。

 

 

「仕方ねえな……授業してやるからよく聞いとけ」

 

 

垣根は近くに通りがかったウェイトレスに水を二杯頼む。やがて運ばれてきた二つのカップのうち一つを飲み干し、カズマたちの方に向き直った。

 

 

「まずここに水がある。こいつを隣のカップに半分移し替えてもこれは『水』だ。残りのさらに半分を移し替えてもそれは変わらねえ。だがこの作業を無限に繰り返すと、理論上『水』としてはもう分けられねえ状態になる。これが水の『分子』だ。ここまではいいな?」

 

 

垣根がカップの水をもう片方の空いたカップに注ぎ、実演を交えながら説明する。知力が高いめぐみんや元の世界の知識があるカズマはここまでは余裕で理解できている様子だ。

しかしダクネスは、想像したこともない例えと知らない単語が出たせいか既に着いて来れるか怪しい状態だったが、垣根は構わず話を続けた。

 

 

「さらにこの水分子は『酸素』と『水素』っつー物質で構成されている。これを分けると酸素と水素の『原子』になる。じゃあ原子ってのは一体何でできてるんだって話だが、『原子核』と『電子』、さらに原子核は『陽子』と『中性子』と呼ばれる集まりに別れ、陽子と中性子は『アップクォーク』と『ダウンクォーク』で構成される。物質によってこの構造に多少差はあるが、こんな風にもう分割できねえとこまで暴いた、物質を構成する最小単位が素粒子だ。――まあ、正確には物質を構成するもの以外にも、電磁相互作用や重力といったエネルギーを媒介する性質を持つゲージ粒子って括りの素粒子も存在するわけだが……ここでは割愛する」

 

「えーと……?」

 

 

長々と専門用語を捲し立てる垣根に、ついにカズマも話に着いていけなくなった。ダクネスに至っては遠い目をしている。

一方、めぐみんは興味深げに頷きながら真剣に話を聞いていた。

 

 

「つまりこの世の全ての物質は、突き詰めれば数種類の素粒子の組み合わせでできている、という考え方の学問というわけですね。ところで、先程の話で途中で出てきた電子とやらはそれ以上分解されていませんでしたが、もしかしてこれも素粒子ということになるんです?」

 

「いい質問だ。細かい説明は省くが、電子もまたレプトンと呼ばれる素粒子に分類される。――生徒の出来がいいと教え甲斐があるな。カズマも見習えよ」

 

「わ、悪かったな……で、その素粒子を作り出す能力でなんであんなことができるんだよ」

 

 

バツの悪そうな顔で返すカズマ。めぐみんはそんな彼を見てため息を吐き、垣根の代わりに答えた。

 

 

「カズマ……いいですか? 液体の水を冷やせば氷という固体になる。火薬を熱すれば爆発する。私たちがよく知る物質でも、やり方次第で様々な現象が起こせるんです。それが未知の物質ならば、常人の理解が追いつかないような現象だって起きるでしょう。それをテイトクは意のままに扱えるというのですから、それはもう傍目から見ればあらゆる魔法を同時に操っているが如し。何ができても不思議ではありません」

 

「ほーん……って事は、どんな便利な物質も作れるって事か?」

 

「そいつは正確じゃねえな。確かに未元物質(ダークマター)は万能に近いが、この能力で作れる『この世に存在しない素粒子』はたった一種類。その一種類を使って生み出せる原子の構造パターンや分子結合、物体としての構造、あるいは既存の物質との相互作用といった組み合わせも考慮すればこの能力でできる事は無限と言っても過言ではねえが、結局はその無限に用意された回答から使いたいものを選ぶことしかできねえんだ。ベルディアの時も、たまたま水を作り出す性質の分子結合のパターンを知ってたってだけで、狙った性質の物質を好き放題作れるってわけじゃねえよ」

 

 

未元物質(ダークマター)はその性質を把握していなければ十全に扱うことはできない。それどころか、未知の物質である為何が起こるかわからない危険性も孕んでいる。相当な頭脳の持ち主でなければ扱いが難しい能力である事に、カズマは違和感を抱いた。

 

 

「しかしそんな能力あのカタログの中にあったか……? 転生の特典って、もっとこう魔法みたいな、感覚で扱えるシンプルなものばかりだった気がするけど」

 

「カタログ?」

 

「転生の特典を貰う時見せられただろ。ここにあるものから選べって。俺の時はそうだったけど……」

 

「ああ……俺は特典の話が出た時点で即答したからな。『未元物質(ダークマター)』は元々持っていた能力なんだよ。それをこっちでも今まで通り使えるようにすることが俺の『特典』だ。――成程、確かにその場にある中から選んだことになるのか」

 

 

一人納得する垣根。それに対してカズマは、何を言っているんだと言わんばかりの顔で返した。

 

 

「は? 冗談だろ? お前日本にいた頃からあんな能力(チカラ)が使えたってのかよ」

 

「別におかしな話でもねえだろ。学園都市の出身っつったらわかるか?」

 

「学園都市……? ――えーと、どこの?」

 

「……は?」

 

 

垣根は会話のズレを感じる。彼の常識で言えば『特殊な能力』、『学園都市』、この二つのワードで世界的に有名な能力育成機関のあの学園都市を指すものだと理解できると思っていた。むしろ学園都市という単語そのものが、本来の意味ではなくあの街を指すものになっていた程だ。

しかしカズマはまるでピンときている様子がない。

 

ここでずっと黙って飲んだくれていたアクアが、急に饒舌に話し始めた。

 

 

「あー……確かあったわねぇそんな世界。人工的に超常的な能力を植え付けるために人体実験を繰り返してる、治安が終わってるような碌でもないとこ。――『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの』だったかしら? 全く不敬極まりないわよねぇ〜」

 

「ち、ちょっと待て。――お前マジで女神だったの?」

 

「どういう意味よ!?」

 

 

カズマの生きていた地球と垣根の生きていた地球がどうやら別物らしいという事は、今のアクアの口ぶりから理解する事は容易だ。そもそも今まさに異世界転生なんてものを体験しているのだ。並行世界の地球の存在など今更不思議でもなんでもない。

今垣根にとって重要なのは、アクアというこの自称女神が転生についての詳細どころか、垣根の世界について知っている事――つまり本物の女神であると裏付けされた事である。

垣根が当初可能性として考えた「カズマは女欲しさに女神を特典として連れてきた」説が彼の中で立証されてしまったのだ。

 

 

「カズマ……お前マジか……」

 

「帝督が何考えてるか知らないけど多分違うからな!?」

 

 

冷ややかな目でカズマを見る垣根。

カズマの必死の言い訳が炸裂し、信じてもらえるまでにたっぷり一時間は要したという。

 

 

――――――

 

 

その後、カズマと互いの事情について共有しあった垣根は、話し合いの末、カズマたちのパーティに迎えられていた。調子に乗ったアクアが冒険者全員に奢ると言い出して数百万エリス。グレードの高い宿屋でささやかな祝勝会二次会兼垣根の歓迎会をする為、帰りに少しお高い菓子やつまみ、酒を買って数万エリスの出費があったものの、ベルディア討伐の報酬は三億エリス。垣根がパーティメンバーに加わった事により実質総取りとなった為、十分すぎる額が残る――はずだった。

 

 

 

 

――ベルディア討伐から数日後の朝、宿屋のロビー。アクアはパーティメンバー全員に土下座をしていた。

 

 

「ま、まことに申し訳ごじゃいましぇん……」

 

 

涙目になりながら震える声で謝罪するアクアをゴミを見るような目で見下ろす一行。彼らの舌打ちやため息が聞こえる度に、アクアは体をびくつかせている。

 

 

「ここまで来るといっそ冷静になるな。ていうかマジなの? マジで数日でベルディア討伐の報酬の残りを全部溶かしたの? そんな事ある? 沼攻略後のカ◯ジでもこんなスり方しないよ? 優しいおじさんも無言で唾吐いて帰るよ?」

 

「テメエマジで風俗に堕とされても文句言えねえからな? これから宿無しだろうがどうしてくれんだコラ」

 

「は、はんしぇいしてましゅぅ……」

 

 

カズマと垣根に詰められてさらに萎縮するアクア。

そう、なんとアクアはこの数日で二億数千万はあった金を、高い酒やギャンブルで全額使い込んでしまったのだ。酒も買ったその日に全部空けるものだから売ることもできず、カズマたちのパーティは再び無一文となってしまった。

 

 

「はあ……次のクエスト報酬で真っ先に買うものは、アクアが絶対に開けられない金庫に決まりですね。これでは家を買うお金も貯められません」

 

 

めぐみんの言葉に全員――床に額を擦り付けているアクアは除く――が頷く。

この日をもって、購入予定の金庫の管理を垣根とダクネスが、家計の管理をカズマとめぐみんが責任を持って担当する事になり、アクアは完全小遣い制となった。

 

 

――尤も、住む家が見つかるまで小遣いなど無いのだが。

 




本作における未元物質についての解釈の説明を兼ねた、垣根のパーティメンバー加入回です。今回はキリのいいところで短めにしました。

次回、垣根の初めてのクエスト回を予定しています。


※23/5/23修正
今回の終盤の描写について、ベルディア討伐直後に関わらずカズマたちに持ち家があり、時系列が前後してしまった為、話の流れやオチそのものは大きく変えずに修正しました。
にわかを晒してしまい申し訳ございません。これからは十分に気を付けますので、今後とも宜しくお願い致します。
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