この常識の通用しない世界に祝福を!   作:仲美虚

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第六話『このぼっち少女と邂逅を!』

無事住む家を手に入れ、冬越しという当面の問題を解決した垣根たち。この日パーティ一行はクエストを休み、各々自由時間を過ごしていた。

 

垣根はここ数日、能力による肉体の生成の理論構築の為に一人の時間を費やすことが多かった。この日の午前中も自室で同様に過ごしていたが、昼になって腹の虫が鳴った為、息抜きも兼ねて街に繰り出していた。

 

 

「たまにはギルド以外の店で食うか」

 

 

幸い、雪精討伐で稼いだ報酬がまだ残っている為垣根の財布は潤っている。前の世界での狂った金銭感覚が抜け切った訳ではないが、物の相場を知らぬ彼ではない。計画的な金銭管理の甲斐あり、たまに贅沢できる程度にはまだ余裕があった。

 

いつもとは違う洒落たランチを摂るべくギルドの前を素通りし、垣根は普段あまり通らないような道を練り歩く。するとまさに求めていたようなオープンテラス付きの小洒落たカフェが目に入った。ここで軽めに済ませようと店に入ろうとするが、入り口に誰かが立っている。その入り口を塞ぐ人物――少女はしきりに店内を覗き込み、入るのか入らないのか煮え切らない様子でおろおろと不審な挙動をとっていた。

 

 

「……おい」

 

「ひ、ひゃいっ!?」

 

 

垣根が声をかけると不審者少女は驚いて飛び上がる。

黒い髪に赤い瞳、そして黒い服。一目で紅魔族とわかる風貌であったが、おどおどとして自己主張の弱そうな様子は、垣根のよく知るそれ(めぐみん)とはかけ離れていた

 

 

「入らねえのか?」

 

「えーと、こういうところは初めてで、一人では入り辛くて……」

 

「あっそ。それじゃお先」

 

「ま、待ってください!」

 

「……んだよ」

 

 

少女は店に入ろうとする垣根の腕を掴む。垣根は不快感を露わにしないよう努めたつもりで反応を返したつもりであったが、幼気な少女には威圧感を与えてしまい、萎縮させてしまった。しかし、少女は深呼吸をして勇気を振り絞る。

 

 

「――あの……一緒に入ってもらえますか……?」

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

垣根と少女はテラス席に座っていた。比較的気温が高い時間帯かつ日当たりが良いとはいえ今は冬。未元物質(ダークマター)で常に快適な体感温度を保っている垣根には大した問題ではないが、少女は少し肌寒そうに腕を摩っている。

 

 

「……なんでこの時期にわざわざ外にしたんだよ」

 

「ご、ごめんなさい。こういうお洒落なお店のテラス席でお食事するのに憧れてて……」

 

 

何もこの寒い中実践することはないだろうと垣根は呆れ返る。その時ふと、垣根は違和感を覚えた。

 

 

「……お前、前にどっかで会ったか?」

 

「うえぇ!? ……な、ナンパですか?」

 

「むしろ流れ的にナンパされたのは俺の方じゃねえの?」

 

「た、確かに……!?」

 

 

いかにも友達がいなさそうなぼっちオーラ。所謂リア充的なものに憧れを持っている様子。生前垣根が所属し、リーダーを務めていた暗部組織『スクール』の狙撃手(スナイパー)であった部下を彷彿とさせるものはあるが、彼が引っ掛かっているのはまた別の要素。――具体的には声である。

 

 

(やっぱどっかで聞いたことあるよな……こいつみてえに弱々しい感じじゃあなかった気がするが……)

 

 

垣根は記憶の中の、か弱い女子でありながら強い意志の籠った声の主を思い出そうとする。そして記憶が喉まで出かかったその時――

 

 

「お待たせ致しました。こちらホットコーヒーとホットティー、ガレット二人前です」

 

「ん? ああ、どうも。コーヒーはこっちな」

 

 

ウェイトレスが注文の品を運ぶ。ガレットはこの店の定番メニューらしく、少女がしつこく推してきたので二人とも同じものを注文した。

 

 

「わぁ……! 美味しそうですね!」

 

「……ああ」

 

 

昼食というには控えめな量ではあるが、垣根は元々決して大食いという訳ではない。また、元々軽食で済ませるつもりだった今の垣根の腹具合には丁度よく、彼にとって悪くない注文には違いない。しかし、テラス席でこの料理(ガレット)は、やはり思い出してしまう(・・・・・・・・)

 

 

「――これ食ったらまた頑張らねえとな」

 

「? 何か言いました?」

 

「……いや、何でもねえ。――っと、そうだ」

 

 

垣根はナイフとフォークに手をかけようとしたところで、もう一つ重要なことを思い出した。

 

 

「俺は垣根帝督。姓が垣根、名が帝督だ。……で、お前は?」

 

「え? えっと……」

 

「ムカつくだろ? 名前で呼ばれねえの」

 

「……!」

 

 

少女は垣根の意図を察したようで、ぱっと表情を明るくする。かと思えば少し困ったような顔をし、十数秒の思案の後、意を決したように立ち上がった。

 

 

「――わ、我が名はゆんゆん! アークウィザードにして上級魔法を操る者。やがて紅魔族の長となる者……!」

 

「やっぱそれやるんだな……」

 

 

周囲の注目を浴び、羞恥に赤面して着席する少女改めゆんゆん。誤魔化すようにまだ冷めていない紅茶を飲み干し、その熱さに悶絶するのであった。

 

――その後、食事を終えた垣根とゆんゆん。年上の男としての矜持か、会計はゆんゆんの分も垣根が持ち、二人で揃って店を出た。

 

 

「それじゃあ」

 

「あ、あの……!」

 

 

一言だけ残し去ろうとする垣根を、ゆんゆんが呼び止める。

 

 

「えっと……また会えますか……?」

 

「ん……まあ、会えるだろ。お互いこの街にいる限りはな。――そうだな、そん時ぁまた飯でもどうだ?」

 

「い、いいんですか……!?」

 

「あ? 別にもう知らねえ仲でもねえし、それくらい構わねえよ」

 

「そ、そうですよね……えへへ、初めて男の人のお友達ができちゃいました……!」

 

 

ニヤニヤとだらしのない笑みを漏らすゆんゆん。その姿を見た垣根は、この少女に対して抱いていた既視感はやはり元部下(弓箭)だったかもしれないと思い直した。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

ゆんゆんと別れた後、屋敷に戻った垣根は自身の能力の研究に没頭していた。その後、夕食に呼ばれた垣根を待ち受けていたのは、久しく目にしていなかった光景であった。

 

 

「蟹か? 珍しく豪勢だな」

 

 

食卓に所狭しと並べられた茹で蟹、焼き用の生蟹、蟹の爪フライ、蟹汁。さらに人数分の卓上網焼きコンロがそれぞれの席に配置されており、まるで旅館の蟹食べ放題コースのようである。

 

 

「ああ、うちの実家から送られてきたんだ。遠慮なくどんどん食べてくれ」

 

「そうなのか。お前んち結構太いのな」

 

 

垣根の言葉にダクネスは一瞬触れられたくないものに触れられたような顔をする。その様子を垣根は認識していたが、今はそれよりも目の前の蟹の方が重要であった。それは他の面々も同様らしく、アクアにめぐみん 、カズマも目が食卓から離れていない。

 

 

「テイトク、はやく席に着いてください! もう待ちきれません!」

 

「ああ、そうだな」

 

 

めぐみんに催促され垣根が席に着く。それを合図とばかりに、皆一斉に蟹に手を伸ばした。

 

一心不乱に蟹を貪り続ける一同。するとアクアが高級シュワシュワの瓶を掲げる。

 

 

「今から私がこれの美味しい飲み方を教えてあげるわ!」

 

 

アクアは食べ切った後の蟹の甲羅をコンロに乗せて火にかける。そして水気が飛んで香ばしくなったところにシュワシュワを注いで程よく温めた後、火傷しないよう甲羅の縁を慎重に持って口に運び、くいっと傾けた。

 

 

「――ぷは〜っ!」

 

「成程な、甲羅酒か」

 

 

アクアの飲みっぷりを見て皆同時にごくりと唾を飲み込む。我慢できなくなっためぐみんがシュワシュワの瓶に手を伸ばす。

 

 

「わ、私も――」

 

「ダメだ、子供のうちから呑むとパァになると聞くぞ!」

 

「ずるいです〜!」

 

 

ダクネスに制止され不満を漏らすめぐみんを尻目に、垣根は甲羅酒を堪能する。隣のカズマも同様に――かと思いきや、神妙な面持ちで固まっていた。

 

 

「どうしたカズマ。具合でも悪いのか?」

 

「へ!? い、いや――」

 

 

考え事をしていたらしいカズマは垣根に声をかけられ、あからさまな動揺を見せる。そこにダクネスが悲しそうな視線を向けた。

 

 

「家からの贈り物は口に合わなかっただろうか……」

 

「そ、そんなことないぞ! あー……今日は昼間飲み過ぎちまってな、今日はもう飲めそうにないんだ。明日いただくよ」

 

「そうか……ではせめて好きなだけ食べてくれ」

 

 

ダクネスの笑顔に申し訳なさそうな顔をするカズマ。ただシュワシュワを飲めなかったことだけに対するものではないような、尋常ならざる罪悪感の滲み出る表情に垣根は違和感を抱いたが、特にそれ以上気に留めることはなかった。

 

 

「しかし美味いのはいいが、これで酔えねえのはちょっと勿体無い気もするな」

 

「あー……テイトクってあの街の上位の能力者だから相当の(ヤク)漬けなのよね……そりゃアルコールくらい何ともないわよね〜」

 

 

早くもほろ酔いのアクアの軽率な発言に場が凍りつく。そんな中、発言者のアクアと、当事者の垣根だけが気にすることなく飲み食いを続けていた。この空気をなんとかすべく、カズマが自然に話題の軌道を修正しようと試みる。

 

 

「えーっと、そういえば帝督って元いた街でもかなりすごい方の能力者なんだったな!」

 

「ん? ああ、二三〇万人の内七人しかいねえ超能力者(レベル5)の一人、その中でも第二位だからな。一応エリートってやつだぜ」

 

「へぇー、帝督程の能力者で第二位なら、第一位は一体どんな――」

 

 

バキッ! と何かが砕ける音が響く。音源は垣根の手元――握りつぶされた蟹の甲羅だった。

 

 

「……っと、すまねえ。つい反射的に。――で、第一位の能力の話だったか?」

 

「すみませんもういいですごめんなさい!」

 

 

何か地雷を踏んだと思い、冷や汗を浮かべ全力で謝罪するカズマ。しかし垣根の言葉に嘘はなく、先程の反応も本当に反射的なものであった。

本人としては一方通行(アクセラレータ)に対する因縁は最早過去のものであり、割り切っているつもりでいる。しかし、やはり直接的な死因である存在な為、どうしても反応してしまうことがあるのが実情であった。

 

 

「す、少し早いけど俺はそろそろ寝るとするよ! みんな、おやすみ!」

 

 

逃げるように食卓を後にするカズマ。残された面々はポカンとするも、すぐに食事を再開する。

 

 

「あ、私は他の能力についても気になります!」

 

「ん、いいだろ。じゃあさっき話しかけた第一位、『一方通行(アクセラレータ)』から――」

 

 

めぐみんの要望で学園都市の能力の種類、仕組みについての講義が始まる。カズマを除くメンバーはこのまま会話と食事を続け、夜が更けていった。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「曲者ーーーーッ!!」

 

「……んあ?」

 

 

自室で休んでいた垣根はアクアの叫び声で目が覚める。曲者、その言葉通りであればこの屋敷に侵入者が現れたということ。垣根は飛び起きて声のした方へ駆け出した。

 

 

「おい! 一体何が――」

 

 

駆けつけてみると、そこにはアクアとめぐみん、風呂上がりなのか腰にタオルを巻いただけの格好のカズマと、床にへたり込む露出度の高い衣装の少女がいた。少女は青白く発光する魔法陣の上にへたり込んでおり、どうも結界にかかって動けなくなっているらしい。

 

 

「こいつが侵入者……?」

 

「そうよ! この屋敷に張った結界に反応があったから来てみれば、このサキュバスが引っかかってたのよ! きっとカズマやテイトクの精気を奪いに来たに違いないわ!」

 

 

実際に結界で動けなくなっているあたり、アクアの言う通りサキュバスには違いないだろう。危ないところだったと安堵した垣根は、同じく被害者になり得たであろうカズマを見やる。しかしカズマが浮かべていた表情は垣根のそれとは違い、動揺や焦りといったものであった。

 

 

「観念するのね。今とびきり強力な対悪魔用の――」

 

 

言いかけたアクアの隣をカズマが通り抜ける。そしてサキュバスに背を向け、アクアの前に立ち塞がった。

 

 

「――逃ゲロ」

 

 

何故かサキュバスを庇うカズマ。サキュバスはコソコソとカズマに何かを伝えているようだが、その内容は垣根たちには聞き取れない。

 

 

「何やってんの?! その子はカズマたちを狙って来た悪魔なのよ!!」

 

「正気ですか?!」

 

「カズマお前、悪魔に同情でもしたか?」

 

 

三人に詰められるも怯む事なく対峙するカズマ。

 

 

「今のカズマはそのサキュバスに魅了され操られている!」

 

 

背後、廊下の角からダクネスの声が響く。顔を赤らめ、肩をいからせながら大股でこちらに向かってくる。

 

 

「先ほどからカズマの様子がおかしかったのだ! 夢がどうとか、設定がこうとか口走っていたから間違いない! おのれサキュバスめ、あんな辱しめを――ぶっ殺してやるぅ!」

 

「カズマ、それは可愛くても悪魔、モンスターですよ? 何をトチ狂っているんですか?」

 

「……行ケ」

 

「カズマ、お前……」

 

 

めぐみんの説得を受けてもカズマが首を縦に振ることはない。

 

ダクネスはカズマが操られていると言うが、垣根はそうは思わなかった。カズマの目は己の矜持に基づいて何かを守ろうとする者のそれであり、垣根はどこで見たのか、その目をよく知っていた。

 

 

「どうやらカズマとは決着をつけなきゃいけないようね。あんたをけちょんけちょんにした後、そこの悪魔に引導を渡してやるわ……!」

 

 

女性陣とカズマが対峙し、互いに構えをとる。そんな中、垣根がひとつため息を吐いた。

 

 

「――悪い、俺パス」

 

「テイトク!?」

 

「裏切るというのですか!?」

 

 

アクアやめぐみんの糾弾を受ける垣根。垣根は怠そうに頭をガシガシと掻いた。

 

 

「カズマと動けないサキュバス相手だ。三人がかりなら十分だろ。俺が手ェ出すまでもねえ。先に休ませてもらうぜ」

 

 

後はテメェで何とかしろ。垣根はカズマにアイコンタクトを送ってその場を後にする。その意図を知ってか知らずか、カズマは表情を引き締めた。

 

 

「――行クゼ……!」

 

 

カズマのその言葉を皮切りに、男の矜持を賭けた激闘が始まった。

 

 

――なお、結果は言うまでもなく……である。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

翌朝、垣根はリビングでモーニングティーを嗜んでいた。しかし、背後からアクアやめぐみんの怒鳴り声が降り注ぎ、優雅にとはいかなかった。

 

 

「どうしてくれるのよ! 昨夜テイトクが手伝ってくれなかったせいであのサキュバスを逃しちゃったじゃない!」

 

「そうですよ! まさかテイトクまで誑かされるとは……!」

 

「うるせえな、そんなんじゃねえよ。大体、三人がかりで始末できなかったお前らにも問題があるだろうが」

 

 

痛いところを突かれて黙り込む二人。そんな彼女らを尻目に垣根は紅茶を飲み干す。そして窓の外――ダクネスと何やら話しているカズマを見て満足気に微笑んだ。

 

 

「……お前は俺みてえに掴み損ねるんじゃねえぞ」

 

 

その時、ふと垣根の脳裏に昨日感じた二つの既視感が過ぎる。聞き覚えのあるゆんゆんの声。何かを守ろうとするカズマの目。それらが重なった時、既視感の正体の記憶が蘇った。

 

 

「――そうか、あの時ぶっ殺そうとしたガキに似てたんだ」

 

 

その呟きを聞いたアクアとめぐみんにドン引きされている事も知らず、引っかかっていた記憶を思い出す事ができた垣根は爽快な気分で紅茶のおかわりを淹れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『――デストロイヤー警報!! デストロイヤー警報!! 機動要塞デストロイヤーが、現在この街に接近しています!!』

 

 

長閑な朝のアクセルの街に、ギルドの警報が騒々しく鳴り響いた。




前回以上に遅くなりました。申し訳ありません。
今後もこれくらいのペースでの更新になるかと思います……。
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