この常識の通用しない世界に祝福を!   作:仲美虚

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第八話『この冤罪の冒険者に救いの手を!』

デストロイヤーを撃破し、検察官セナに国家反逆罪の容疑をかけられた垣根とカズマ。同罪になることを恐れたパーティメンバーやギルドの仲間たちからは庇ってもらえず、そのまま二人は大人しくそれぞれ牢屋に入っていた。

小窓は鉄柵で吹き抜けており、布団も申し訳程度に敷かれた藁と薄い毛布が一枚のみ。垣根がカズマの牢にまで未元物質(ダークマター)を散布させている為寒さは凌げているものの、あまりにも人権が考慮されていない扱いにカズマは毛布に包まり嗚咽を漏らす。

 

対して垣根は意外な程大人しくしていた。牢に入ってから殆ど言葉も発してすらいない。

 

カズマは絶望に打ちひしがれながらも不審に思っていると、遠くで大きな爆発音が鳴り響く。同時に、垣根の牢の小窓から見知った影――アクアが顔を覗かせた。

 

 

「アクア……!? お前何しに――」

 

「助けに来たのよ! 今めぐみんが爆裂魔法を撃ったから、ここの衛兵たちみんな驚いてそっちの様子を見に行ったわ! 今のうちに脱出して夜逃げの準備をするわよ! その気になればあんたそんな牢くらいどうとでもなるでしょ?」

 

「逃げたって仕方ねえだろ。そもそも俺は無罪だ。下手にやらかして後で面倒な事になるのは御免だぜ」

 

 

連行される際、垣根が一番憤って暴れたのを必死に宥めたのを思い出し、カズマは何とも言えない表情を浮かべる。

とはいえ、彼のその言葉にはカズマも同感であった。だからこそ抵抗せず牢屋で大人しくしているということも理解している。しかし、それだけではない余裕をカズマは垣根から感じ取っていた。

 

 

「そんな事言ったって、きっと事実を捻じ曲げられて有罪にされて処刑されるのがオチよ! テイトクやカズマを犯罪者にすればデストロイヤー討伐の報酬だって払わずに済むんだから」

 

「碌でもねえ世界だな……ま、その時になったら精々抵抗させてもらうさ。どうせ俺に勝てる奴なんざこの世界にはいねえんだ。知ってるか? 元の世界じゃ一人で軍隊を相手できるなんて言われてたんだぜ?」

 

 

そう、垣根にとっては自身を閉じ込めているこの牢も、衛兵も、法の裁きすら無意味に等しい。未元物質(ダークマター)の圧倒的な力。彼の余裕はここから来ていた。

今脱獄しようと、不当に裁かれようと、垣根の命が脅かされる可能性は存在しない。しかし強硬手段に出れば、常に追っ手が着いて回って自由な暮らしができなくなるのは明白である。最悪、パーティメンバーにも危害が及ぶかもしれない。その為、無罪を認められる可能性に賭けて耐えるという選択肢を取った。ただそれだけのことであった。

 

 

「わかったら帰れ。これ以上面倒起こすな」

 

「でも……」

 

 

しばし悩むアクア。しかしこの会話を聞いているであろうカズマからも垣根を説得する様子は無く、二人とも同意見である事を察してその場を後にした。

 

ようやく静かになった牢で、二人は体力を温存するべく眠りについた。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

数日後、垣根とカズマはそれぞれ別室で同時に尋問を受ける事となった。カズマの方はセナが担当するらしく、垣根には今回初めて見る中年程の男性の検察官と書記が付いた。

 

テーブルで向かい合う垣根と検察官。見るからに不機嫌な垣根に対し検察官はポーカーフェイスを崩さず対峙しており、その傍には卓上ベルのような道具が置かれている。

 

 

「これは嘘を検知する魔道具。嘘を吐けばこのベルが鳴る仕組みになっています。勿論、これが作動すればその事も含めて記録させていただくのでそのつもりで」

 

「いいから早く始めろよ」

 

 

垣根の不遜な態度になお表情を崩さない検察官。声色ひとつ変えず、尋問を開始した。

 

 

「……いいでしょう。ではまずは名前と出身地を」

 

「垣根帝督。出身は日本だ」

 

 

検察官はベルを見やる。しかし作動する様子は無く、垣根に向き直る。

 

 

「……嘘は吐いていないようですね。ニホン、という地名は初めて聞きますが。――では冒険者になる前は何をしていましたか?」

 

「……学生」

 

 

チリン、とベルが音を鳴らす。同時に書記が『嘘の証言』を記録する筆音が静かな部屋に響き、垣根は焦りを見せる。

 

 

「あ? 嘘って事はねえだろうが。あっちにいる間に除籍された覚えはねえぞ」

 

 

ベルは鳴らない。困惑する垣根に、検察官は納得したような表情を向けた。

 

 

「成程。尤も、学生として活動はされていなかったようですが何をされていたんです?」

 

「……そういう事かよ」

 

 

『冒険者になる前は何をしていたか』という質問。この場合、書類上の事実ではなく、その言葉通り『実際にどのような仕事・活動をしていたか』という回答が求められている。そのことに気付いた垣根は心の中で舌打ちをした。まさか暗部としての活動の事を馬鹿正直に話すわけにはいかない。テロについては無罪が証明されたところで、裏の仕事など警察組織の人間に話せばどうなるか、考えなくとも結果はわかりきっていた。下手をすれば裁判の場でパーティメンバーに暴露される恐れもある。それだけは絶対に避けたいと、垣根はできる限り言葉を濁して答えた。

 

 

「あー……住んでいた街のゴミ掃除をしてた」

 

 

ベルが鳴り、書記がペンを走らせる音が垣根の神経を苛立たせる。

 

 

「チッ……お国直属の治安維持組織みてえなとこで働いてた」

 

 

ベルが鳴らないのを確認し安堵する垣根。しかしまだ尋問は終わっていない。ボロを出さないよう、垣根は気を引き締める。

 

 

「ほう……何故辞められたのですか?」

 

「上の方に意見が通りにくい職場でな。それが気に入らなくて雇い主の弱みでも握ってやろうと色々探ってたらバレて……まあ、そういう事だ」

 

「それで冒険者に……。あなたは特殊なスキルを持っているようですが、それはいつどのようにして手に入れたものですか?」

 

未元物質(ダークマター)の事か。ガキの頃に研究者共に脳みそ弄くり回されたり薬漬けにされたりして人工的に植え付けられた。カスみたいな野郎共だったが、この能力(チカラ)を手にできたことだけは感謝してるぜ」

 

「それは――そんな事が……では、高い知力もその影響で?」

 

「まあ、そんなとこだな」

 

 

地雷を回避するように検察官の問いに返していく垣根。ここまで順調ではあったが、こうも無駄な質問ばかりされていてはいつ暗部の事を漏らしてしまうかわかった物ではない。垣根はこの問答を終わらせるべく、決定打となる言葉を放つ。

 

 

「つかさっきから回りくどいな。俺はカズマとテロの共謀なんかしてねえ。これで十分だろうが」

 

 

垣根と検察官はベルに視線を向ける。ほんの数秒じっと見つめ、音が鳴らないのを確認した二人は同時にため息を吐く。

 

 

「――確かにそのようですね。申し訳ありません。こちらも仕事ですので形式上必要といいますか……」

 

「いや、わかるぜ。責めはしねえよ」

 

「ありがとうございます。では最後に確認だけ――本当に領主殿に危害を加える意図はなかったと? 魔王軍との関わりは無いのですね?」

 

「当然――」

 

 

言いかけたその時、垣根に戦慄が走る。検察官の問いに妙な違和感を感じた垣根は超速で思考を開始した。

 

無論、垣根は魔王軍の所属ではない。しかし問われたのは『魔王軍との関わり』、これが問題であった。

 

そう、垣根には魔王軍幹部であるウィズとの親交があった。

ウィズ本人からこの事を直接聞いたのは、屋敷に引っ越した日に店に行ったカズマとアクアだけだったが、数日前のデストロイヤー討伐の際にウィズも参加することで思い出したのか、持ち場に着く前にカズマに耳打ちされていたのだ。

 

つまり、ウィズが魔王軍幹部であると知っている今の垣根が素直にNOと答えればベルが鳴り、魔王軍の手先として吊し上げられる可能性がある。

危うく凡ミスを犯してしまうところだった垣根はほっと胸を撫で下ろし、慎重に言葉を選んで答えた。

 

 

「……ああ、俺は魔王軍の手先なんかじゃねえ(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

「――確かに。長々と拘留してしまい申し訳ございません。カキネテイトク殿は本日で釈放となります」

 

「何だ、裁判とかはいいのか?」

 

 

ベルは鳴らなかった。しかし、垣根はその事に安堵しつつも少々拍子抜けしていた。

この尋問で証拠不十分だったとして、原告は領主。先日のアクアの話から考えれば、いずれにせよ裁判自体は行われると思っていたからだ

 

 

「ええ、元々容疑者というよりは重要参考人寄りの扱いでしたので。その、非常に怪しかったのでサトウカズマと同様の扱いをさせていただきましたが……。では、手続きを致しますので、私について来てください」

 

 

検察官に連れられ部屋を出る垣根。その時、同じく丁度尋問が終わったのか、少し離れた別室からセナと共にカズマが出てきた。

気付いた垣根は声をかけようとしたが、カズマの青ざめた顔と死んだ魚のような目を見て全てを悟り、気付かなかったふりをしてそれぞれ別の場所へ向かって行った。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

さらに数日後、カズマの裁判が開廷した。

 

被告人として衆目に晒されるカズマ。緊張のあまり顔が青白いを通り越して土気色になっており、枷をはめられた手も震え、今にも吐きそうな様子であった。

 

 

「これより被告人サトウカズマの裁判を執り行う!」

 

「――うぅぇえ゛え゛ぇ゛っ」

 

 

裁判長が高らかに宣言したその時、緊張がピークに達したカズマが嘔吐(えず)いた。足元を吐瀉物で汚すことはなかったものの、肉体的にも精神的にも疲労しきっており、始まる前から既に限界のようだ。

 

そんなカズマを激励し落ち着かせるパーティメンバーたちを尻目に、無罪放免となった垣根は原告席に目を向けていた。

 

そこに着席しているのはニタニタといやらしい笑みを浮かべる恰幅の良い――と表現するにはだらしのない腹回りの男、領主アルダープ。彼に対し垣根は嫌な大人(・・・・)の気配を感じ取り、静かに敵意を向けながらアクアたちと共に向かいの弁護人席に移った。

 

 

「では、検察官は前へ!」

 

 

裁判長に指名され、セナが前へ出る。そしてカズマの取り調べの際にテレポートは緊急措置であった事は事実だったものの、魔王軍幹部との関わりがある事を魔道具によって確認した旨を告げ、証人尋問が始まった。

 

 

(カズマのやつ、やっぱりそこでしくじったか……)

 

 

垣根は相変わらず顔色の良くないカズマと、傍聴の群衆に紛れ、申し訳なさそうな表情を浮かべるウィズにちらと視線を向ける。

 

 

「証人は前へ」

 

 

セナの言葉で裁判の方に意識を戻す垣根。現状、カズマをテロリストだと言い切れる証拠はセナの傍に物証として置かれた魔道具(嘘発見器)のみであろうが、証人が呼ばれる以上カズマにとって不利な証言を引き出そうとしている事は間違いない。逆に証言の粗を探すべく、垣根は気を引き締める。

 

 

最初の証人として召喚されたのはクリスであった。

 

 

「クリスさんは公衆の面前でスティールを使われ、下着を剥がれたと。――間違いないですね?」

 

「ええと、間違いではないけどあれはそもそもあたしが先に財布を――」

 

「事実が確認できただけで結構です! ありがとうございます!」

 

「おい、証人だってなら最後まで証言させろよ!!」

 

 

カズマの叫びも虚しく強制的に退席させられるクリス。当時現場におらず事情を知らない垣根は、不利になる余罪(しかもセクハラ)を勝手に増やしていたカズマに対し軽蔑の眼差しを向けていた。

 

 

次に証人として召喚されたのは、この街では珍しく造りの良い鎧を身に纏った好青年、ミツルギキョウヤ。傍には二人の美女を侍らせている。垣根にとっては初対面となる男だったが、その名前、容姿にはピンと来るものがあった。

 

 

「なあ、カズマ。あいつって……」

 

「ああ。俺の前にこっちに来てた転生者だよ」

 

「だよな……お前と俺以外にもまだこの街にいる奴がいたのか……」

 

 

垣根の言葉にカズマは目を逸らす。

アクセルは所謂始まりの街。強力な特典を得た転生者がいつまでもいるような場所ではないのだ。

 

カズマの反応に疑問符を浮かべる垣根。しかしその理由はすぐにわかった。

 

 

「ミツルギキョウヤさん。あなたは愛用していた剣をサトウカズマに奪われ、後日返却を求めるも既に売り払われていたと……」

 

「そうですが、あれは僕から挑んだ勝負の結果によるもので、グラムの所有権については――」

 

 

ミツルギが言いかけたその時、取り巻きの女たちが声を上げた。

 

 

「そうなんです! あの男卑怯な手でキョウヤを気絶させて魔剣を奪ったんです!」

 

「しかも私たちが文句を言ったら『この公衆の面前で俺のスティールが炸裂するぞ』とか言って脅してきたんです!」

 

「成程。ありがとうございます!」

 

 

聴衆だけでなく弁護人であるパーティメンバーからも白い目で見られるカズマ。周囲からクズだの変態だのざわつく声が上がる。

 

 

「もういい極刑にしろ」

 

 

これ以上は時間の無駄だと、アルダープは判決を催促する。カズマはその表情に焦りを浮かべるが、対してこれを好機と捉えた垣根は弁護人として手を挙げた。

 

 

「異議あり。確かにカズマの人格には多少問題があるみてえだが、そんなのは何の証拠にもなりゃしねえ。カズマにテロリストとしての前科でもあるのか? 魔王軍との関わりについてもそれを知ってる証人がいるのか? そもそもその魔道具を使ったっていう聴取の結果が本当かどうかすら怪しいもんだ」

 

「……中立の立場である検察官の私が嘘を吐いていると?」

 

 

飄々とした態度で異議という名のいちゃもんをつける垣根をセナは睨みつける。

現状、カズマをテロリストたらしめる有力な証拠は、取調室で行われた聴取の結果のみ。しかしその結果を事実だと言い切れる人間はあの場にいたカズマとセナ、書記の三人だけであり、それを証明する手段など存在しない。垣根はそこに目をつけた。

 

 

「だってそうだろ。証人尋問と言いつつやってる事は、今回の件とは関係無い過去をほじくり返してカズマの人格を否定してるだけじゃねえか。そんなモンを証拠だとかほざいてカズマをテロリスト呼ばわりしようってんだから、権力に屈してでっちあげたって考える方が自然だろ。――そうだ。今この場でその魔道具を使ってカズマ本人に証言させてみろよ。そしたら信じてやるよ」

 

「くっ……!」

 

 

セナは垣根の態度に一瞬苛立ちを見せるも、すぐに平静を取り戻す。

セナからすれば、カズマが魔王軍の手先である事は確定事項。取調室での聴取の結果と同じ事が起こると思っているからである。

 

セナに視線を向けられた裁判長は、垣根の言う事にも一理あると頷いた。

 

 

「弁護人の要求を認めます。被告人、前へ」

 

「ほら、本当の事を言ってやれ。『俺は魔王軍の手先じゃない』ってな」

 

「――! サンキュー帝督!」

 

 

垣根の意図を理解したカズマはパーティメンバーに見送られて証言台につく。そして深呼吸して目を見開き、セナとその傍らの魔道具に向けて大声で言い放った。

 

 

「――いいかよく聞け。俺はテロリストでも魔王軍の手先でもなんでもない!!」

 

 

カズマの叫びの後、暫しの静寂が流れる。つまり魔道具は作動せず、今回の裁判の主題であるカズマのあらゆる容疑が完全に否定されたのだ。

 

 

「なっ……!?」

 

 

予想外の結果に声を上げるセナ。裁判長はため息を吐き、木槌を握った。

 

 

「これでは検察官の主張は認められませんな。……よって被告人サトウカズマは、証拠不十分として無罪と――」

 

「駄目だ裁判長」

 

 

今にも言い渡されようとした無罪判決をアルダープが遮る。

 

 

「アルダープ殿……し、しかし……」

 

「その男が有罪なのは明白。ささ、死刑判決を」

 

「……被告人は有罪。よって死刑――」

 

「おい待て待て待て! 今無罪って言ってただろ!?」

 

「――はっ、私は何を……?」

 

 

カズマの声で我に帰ったように木槌を振り下ろす手を止める裁判長。まるで何かに操られてでもいるような様子だ。

アクアは何かに気付いたらしく、アルダープを指差す。

 

 

「ちょっと待った! さっきその男から邪悪な力を感じたわ! 何か隠してるはずよ!」

 

「うるさいぞ小娘! 判決は下ったんだ大人しく受け入れろ!」

 

「ざけんなこっちのセリフだコラ! 俺の無罪は魔道具も証明しただろうが!」

 

 

アクアに指摘されたアルダープは声を荒げてカズマの有罪を主張する。

対してカズマは命がかかっている状況であり、負けじと自らの無罪を主張する。

 

セナが両者を落ち着かせようとするも全く収まる様子は無く却ってヒートアップし、その熱気は傍聴にも伝播していった。

 

 

「テメエ裁判長! 相手が貴族だからって忖度しやがったな!!」

 

「それでも法の番人かこの恥知らずが!!」

 

「ち、違――私はそんなつもりでは……。せ、静粛に!! 静粛に!! 静粛に――しろって言ってんのが聞こえねえのか!!」

 

 

裁判長は傍聴に向けて木槌を投げつける。傍聴たちは今にも裁判長に殴りかかる勢いで、抑えつける警備兵たちもいつまで保つかわからない程だ。

 

 

そんな中、一人静寂を貫いていたダクネスが弁護人席の台を叩き、声を張り上げた。

 

 

「皆、静粛に!! ――ここは法廷だ。裁判をするところであって乱闘をする場ではない」

 

 

ダクネスの一声で法廷が静まり返る。

ダクネスは胸元からペンダントを取り出して掲げ、言葉を続けた。

 

 

「裁判長、私の話を聞いてもらえないだろうか」

 

「それは――ダスティネス家の紋章……!」

 

 

掲げられた紋章を見てあたりがざわめく。

事情を知らない垣根はめぐみんに尋ねた。

 

 

「なあ、ダスティネス家って……?」

 

「知らないのですか? 国王の懐刀と言われる名家ですよ! まさかダクネスが……」

 

「ああ、こないだの蟹はそういうことか……」

 

 

ダクネスは弁護人席を立ち、ツカツカと前に出る。そして庇うようにカズマの前に立ち、アルダープに向けて続けた。

 

 

「此度の裁判、私に預からせてもらえないだろうか。時間を貰えればこの男の潔白を必ず証明してみせる」

 

「いくらダスティネス家の威光があろうと――!」

 

「これは私から貴方への借りになる。だから私にできる事なら、何でも一つ言う事を聞こう」

 

 

身体つきの良い美少女からの『何でも言うことを聞く』という言葉にアルダープは嫌らしい笑みを浮かべる。

 

 

「し、仕方ありませんな。そこまで言うのならば良いでしょう。裁判長」

 

「え、ええ。他ならぬダスティネス家のご令嬢の頼み。貴女の言葉を信じましょう。――被告人サトウカズマの判決を保留とする!!」

 

 

木槌を振り下ろす音が法廷に響く。同時にカズマの無罪を信じた傍聴に冒険者たちからも歓声が上がり、無事死刑を免れ閉廷となった。

 

 

 

 

――――

 

 

 

その後屋敷に戻り、実家に帰るダクネスを見送ったパーティ一行。

カズマの身の潔白の証明と、領主の屋敷の弁償の為また明日から身を粉にして働かねばならない。今日は早く身体を休めようと、カズマが玄関の扉に手をかけたその時――

 

 

「裁判所の命により、被告人の借金を私財より差押する事となった!!」

 

 

数多の衛兵が屋敷に押し入り、家具やアクアの高級シュワシュワ、その為私物等を次々と持ち出して行く。

カズマはジャージを、垣根は未元物質(ダークマター)の研究内容を纏めた資料を守り通したものの、他には殆ど何も残らなかった。

 

 

寂しくなった屋敷の中で膝をついて項垂れるめぐみんと泣き叫ぶアクア、そして涙目でジャージを抱きしめて床に転がるカズマ。

垣根もまた資料の束を収めた木箱に腰掛け、思考もその表情も『虚無』となっていた。




大変遅くなり申し訳ございません!
次回はもう少し早く投稿できるよう善処します……。
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