双子星のウマ娘   作:にわとり肉

1 / 2
プロローグ:不思議な同居

 私の同居人は、ちょっと不思議な人です。

 

 「ふぁあ…… ん」

 

 その人は、とても努力家で、いつも私が目を覚ました時、隣のベッドは空で、冷たくなっています。毎日朝練で走りに出ているんです。それだけなら私もそうなんですが、多分、私よりも一時間は早く出ているんじゃないでしょうか。

 

 「はっ、はっ…… ! アヤベさーん!」

 

 大抵、外に走りに出て、しばらく走ったところにある河川敷に行くと、その人――アドマイヤベガ(アヤベさん)は、ビルや住宅街の建物ででこぼこの地平線から、悠然と昇っていく朝日を眺めて立っています。

 その立ち姿は、なんというか、まさしく孤高という言葉が似合って、勇ましくて、とてもかっこいいのです。普段は孤高から一番遠い人なのですが。

 

 「……おはよう、カレンさん」

 「おはようございますっ!」

 

 私の朝の挨拶に、アヤベさんは必ずこたえてくれます。無愛想に、だけど、暖かさを感じる声で。

 

 「おっはよー! カレンちゃん!」

 

 そして、人が変わったように、無表情に弾けるような元気な声でアヤベさんは口を開きます。実際、喋っているのはアヤベさんではありません。

 

 「おはよう! デネブ(・・・)ちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私がそれを、アヤベさんが“アドマイヤベガ”であって、“アドマイヤデネブ”でもあることを初めて知ったのは、入学したての時、つまり、一年前のことになります。

 別に驚かなかった、と言ったら嘘になるでしょう。私自身、色々と経験を積んできたと自負していますが、アヤベさんとデネブちゃんのような人には、リアルでも、ネットの世界でも、とんと会ったことがありませんでしたから。世界の広さというものを痛感したものです。

 アヤベさんは、感情を表面に出さないけれど、その実、誰よりも他人を見ることができていて、面倒を見ることができる包容力、いや、お姉ちゃん力を持っています。そして、フワフワなモノに目がありません。

 デネブちゃんは、常に感情を表に出して、快活明朗、元気いっぱいで、私たちを振り回します。でも、その人所作一つ一つが可愛くて、妹力というべきでしょうか。もちろんフワフワ好きです。ただ、二人は少し、フワフワに対しての価値観が違うようですが、基本的にいつも仲良しです。

 ファーストコンタクトは気圧されたものの、打ち解けるのに時間は必要ありませんでした。

 

 「姉さん〜、ちょっとは私にも走らせてよねっ」

 「はいはい」

 

 二人は、物心ついた時からこうだったそうです。元々双子としてお母さんのお腹に宿ったものの、デネブちゃんの身体は弱く、産まれる前に死んでしまったそうで、魂だけがアヤベさんの身体に宿って、一人で二人という状態になったのだと。

 当然、両者とも体を動かすことができます。しかし、例えば、自動車の前輪が別々の挙動をすれば、前進すらできなくなるのと同じで、アヤベさんとデネブちゃんが同時に動こうとすると、それはとても面白い状況になってしまうのです。

 ですから、二人は約束事を設けたそうです。それが、片耳につけた青いカバー。

 

 「よーぅしっ! 今日は私と走ろっ」

 「あまり飛ばさないでね? デネブちゃん」

 「はーい」

 

 左耳にカバーが付いているときはアヤベさんが、右耳のときはデネブちゃんが、それぞれ体の主制御を担う、そういうサインの役割を果たしているのが、あのカバーなのです。

 不思議なもので、魂が違えばこうも変わるのか、となるほどに、アヤベさんとデネブちゃんの体の使い方は乖離しています。

 アヤベさんの時は、無駄な所作は取らず、淡々とした行動なのですが、デネブちゃんの時はとにかくオーバーリアクション。走り方、脚質すら異なるのです。それは、制御を分けなければああなる(・・・・)訳です。

 

 「姉さん、昨日の夜に私が寝たところを見計らって、新しい布団乾燥機を買ってたらしいのよ?」

 「性能を確かめなきゃならないでしょう? あぁ安心して。カレンさんの布団でも試すから」

 「邪魔なんだよぅもー…… そろそろ三世代前のは捨てていいでしょ?」

 「何言っちゃってるの……? あれはね____」

 

 そんな二人の周りに集まる人たちは、みんな一癖も二癖もある人たちばっかりです。

 私に関しては、想像に任せましょう。

 ともあれ、二人といると、退屈という言葉を忘れそうになるのです。

 

 「カレンさんは、これを聞いてまだ捨てる気が湧くかしら」

 「邪魔だしカワイくないから捨てましょうよ〜」

 「聞いてなかったみたいね……」

 「2対1だよ姉さん」

 「まだわからないでしょ!?」

 「決まりきってますよアヤベさん」

 

 今日は、この人を台風の渦に、それとも、この人の友達に巻き込まれて、一体何が起こるのか。それは、私たちの未来よりも予測がつかないのです。

 

 「待って、話を聞いて」

 

 今日は、何が起こるのでしょうね?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。