アヤベさんは妥協をしません。布団乾燥機や柔軟剤の選定、ふわふわを謳う商品のレビュー、それに、もう無意識にやってしまっているのだろう、私たちへのお節介焼き。アヤベさんはいつでもどんな時でも全力でこなすのです。
タチが悪いのは、妹のデネブちゃんもそういった性質は同じなので、ブレーキ役たり得ないところでしょう。
だから、
「ただいま……」
「遅れるかと思ったよぉ……」
二人はいつも、夜の門限の15分か10分前かに、部屋に戻ってきます。泥だらけのジャージ姿で、青い耳カバーが左耳についている日でも、死にかけのようにフラフラになりながら。
この時間まで練習しているウマ娘は、アヤベさんとデネブちゃんを加えても、両手両足の指で数えられる程度しかいないのではないでしょうか。
「……! アヤベさん!? デネブちゃん!?」
「うわっとあっ」
「へぶっ」
そして、その無理が祟ったのでしょう。あの日、二人は足が思うように動かなかったみたいで、受け身も取らずに正面に倒れ込んだのです。アヤベさんとデネブちゃんはおでこを強打しましたが、幸い大事には至りませんでした。
しかし、それをみて、私は決心したのです。次の日は休日でしたし、その日だけでも、絶対にアヤベさんに無理をさせないと。
「ということで、
「なんで!?」
次の日、ベッドの上で腕も動かせない様子の二人を見て、してやったり、とニヤついてしまったのは許してほしいのです。だって、こうでもしないと、意外といじっぱりな二人は止まらないし。
私は
全部、良かれと思ってやったことです。
でも、後で聞いた話を鑑みると、少し申し訳ない気持ちになるのです____
扉が閉じる音がした時、私達はようやくを手を上げることができた。小刻みに震える手の先に見えるのは、暗くなった廊下だけ。
私が力を抜くと、しばらくして、手がベッドに落ちた。
「カレンさん、本気ね」
「聞く耳持ってくれなかったねえ」
耳カバーをしていないと、互いの思考もある程度溶け合って、大雑把に読み取れてしまう。
私とデネブが考えていることは、多分同じ。
少しの不満と、納得だ。
「……それにしてもさ、監視役つけるって言ってたけど、誰がくるんだろうね」
「オペラオーにドトウは見えてる地雷だし、ウララさんは…… きっとトップロードさんよ」
「抜け出せるかな」
「この期に及んで…… カレンさんが怒るわ」
「冗談!」
デネブと他愛のない話をしていると、退屈なベッドの上でも幾分か暇を軽減できた。昔から、病気になった時、こんな風にして過ごしていたのを思い出す。
静かな部屋で、(外見状は)一人天井を見ながらぶつぶつ口を動かしているのを見たお母さんが肩を振るわせるまでがセット。小学生になった頃には、私達がおどろかそうとしても眉ひとつ動かさないぐらい、肝が太くなっていた。
「あぁ、タオルの洗濯出すの忘れてた」
「お昼ご飯とかどうしようねえ、……ちょっとトイレ行きたくなってきた」
「……」
時計の針の音が気になり出した頃に、眼下の扉の方から鍵の開く音がした。
スリッパを履いても聞こえる、慣れた足音が耳に入って、私は脱力感を覚えた。妹が身体を動かそうと踠くのに拮抗して節々が痛むが。
間に合ってよかった。
「アヤベさーんっ! 頑張りすぎで倒れたと聞きました! 私がすごい看病しますよ!!」
忙しなく私達の枕元に来たのは、やっぱり、クリーム色の髪の毛で、おでこを出した友人――
リュックサックを背負っているのに、片手に私の耳カバーが握りしめられているのは、実に彼女らしいと言えるだろう。
「…… 一先ず、カバー、返してもらえないかしら」
「いきなりですね! 理由はなんですか!」
「漏れちゃう!」
「んふっ」
洗面台で手を洗っている時、ふと顔を上げると、右耳に青い耳カバーをつけて、頬が少し赤くなっている私の顔と向かい合わせになった。
「そんなに怒る?」
口が私の意に反した言葉を発した後、鏡に映る顔の眉間に皺がよった。
四話か三話ぐらい続く