【本編完結】とある武術家ウマ娘がトレセン学園に転入する話 −流れ星の転校生−【リメイク版】   作:カンヌシ

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間話『走る理由』

 

 

 

 

 

〜早朝、とある山中にて〜

 

 

 

 

 ダッダッダッダッダッダッ!!

 

 

 

 朝焼けが山の裾野を照り出し、冷えた空気が少しずつ温められていく。そんな山中の木々の隙間を縫って、黒髪のウマ娘が駆け抜ける。

 

 それは武術家である彼女の日課(ルーティーン)の早朝鍛錬。澄んだ空気が熱のこもる肺と身体を冷やしていく。

 

 

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ!」

 

 

 ジョギング……と称して良いのか不明だが、山道を駆けるのも鍛錬の1つだ。

 

 平坦ではなく障害物も多い山中は、移動するだけでも瞬間瞬間の判断力が要求される。

 

 幼少の頃より住み慣れた勝手知ったる庭のような場所だとしても、大自然の中では一瞬の油断が命取りとなる。

 

 

「フッ……!!」

 

 

 タァンッ!!と、黒髪のウマ娘『マリンアウトサイダ』は倒木を飛び越える。

 

 その身体は宙で美しい弧を描いてゆく。

 

 着地に備え姿勢とスピードを制御し、到達する地面の安全度を瞬時に判断する。

 

 

 トン……ダッッ!!!

 

 

 そして着地と同時にダッシュする。

 

 勢いを殺さないまま、その影は疾走する。

 

 彼女の走りに遅れて、木の葉や草木が大きく揺れる。

 

 

「ハッ、ハッ、ハッ……ハアァァッッ!!」

 

 

 身体に発破をかけ、更に加速する。

 

 本来なら走り終え道場に戻り他の武術鍛錬を始める頃合いなのだが、今朝は走り始めてからいつもの3倍の距離は走っていた。

 

 途中で小休憩を挟んではいたが、山道をこんなに長く走り続けるのは初めてだった。

 

 

 胸の奥から湧き上がる『何か』が、自分をせき立てていた。

 

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ!」

 

 

ザザ、ザザザッ!

 ダッダッダッ、ダダッ、ダン!

 

 

 藪をくぐり抜け、土手を駆け下り、急勾配な坂を駆け上がる。

 

 山道特有の不規則な脚音が響く。

 

 それは夢の中のレース場で聴いた、一丸となった地鳴りのような脚音とはまるで違っていた。

 

 

「ハァッ、ハァ、ハ……ッ……」

 

 

 タン、タン……とマリンは立ち止まる。両膝に手をついて、呼吸を整える。ボタボタと多量の汗が額から顎にかけて滴り落ちる。

 

 まだ走り足りない。まだまだ届かない。焦燥感で胸が苦しくなる。

 

 

「ハァ、ハァ……一体、どうしたんだろう、私は……?」

 

 

 あの夢の光景が頭から離れない。

 

 あの疾駆する感覚が脚から消えない。

 

 あの胸が締め付けられる喪失感が……今も忘れられない。

 

 

「ッ……!」

 

 

 ギュッ……と胸を刺す切なさに道着の襟を掴み押さえる。今朝からずっとこうだ。

 

 身体が疼き、脚が走り出すのを止められない。明鏡止水の境地など程遠い。武術家として恥ずかしい限りだ。

 

 世代最強の格闘ウマ娘と呼ばれていても、自分が未熟者だということは自分が一番分かっている。

 

 

「スゥゥ……フゥゥ……」

 

 

 心身を落ち着かせようと、深呼吸すると、湿気った腐葉土の……『生きた森の匂い』が鼻腔を満たす。

 

 私はこの匂いが好きだ。それに包まれて山を駆けると、自分もこの自然の一部になったと感じるから。

 

 何処から来たのか分からない私にとって、この山がただ一つの故郷なのだから……

 

 

 

 幼い頃から、ふとした時に考える事がある。

 

 もしもこの世界に『外』があるならば、私はそこからやってきたのかもしれない……と。

 

 『アウトサイダー』という名の通り、ここではない別の何処かから。

 

 私、マリンアウトサイダは友達が少ない。

 

 昔から人と馴染むのが苦手で、人と交わるより山で武術の修行をする方が性に合っていた。

 

 山を下りて他のウマ娘と会っても、どこか自分は他と違っていると感じてしまうことが多々あった。

 

 それは私がこの山で拾われた孤児だからかもしれないけど……本当の所は自分でも分からない。

 

 この山でおじいちゃんと暮らし、武術を学び、時々武術大会に出場して強くなっていく己を実感する。

 

 それだけで私は満足している。

 

 同世代のウマ娘たちと比べたら華やかさのカケラもないけど、私はそんな素朴な日々が好きだ。

 

 唯一、幼馴染で付き合いの長いあるウマ娘からは「アンタは熊にでもなる気なの?そんなんだから世間知らずで機械音痴も治らないのよ」とよく叱られている。

 

 走るのは嫌いじゃない。だけど、私には他のウマ娘たちみたくレースへの憧れも無い。

 

 走る『理由』がこの世界には無いと、心のどこかで感じてしまうのだ。

 

 だけど、あの夢を見てからどうもおかしい。

 

 自分の中のウマ娘の、『走りたい』という本能が突然呼び起こされてしまったのだろうか?

 

 

 

 ドクン……ドドクン……!

 

 

 心臓が鼓動する。

 

 

「ッ……あと少しだけ……!」

 

 

 衝動のままに、私は駆け出した。

 

 あの夢の中の『私』はなぜ走っていたんだろう?

 

 ゴールの先に居たあの人は誰だったのだろう?

 

 分からないことばかりだけど、確かなのはただ1つ。

 

 今の私には、この世界で『走る理由』が出来てしまったようだ。

 

 

 

 

 





次回

2話 『私が君に走りを教えよう』
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