【本編完結】とある武術家ウマ娘がトレセン学園に転入する話 −流れ星の転校生−【リメイク版】 作:カンヌシ
トレセン学園・美浦寮のある一室で、黒髪のウマ娘が身支度を整えている。制服の上から緑のパーカーを羽織った彼女は姿見の前に立ち、髪を背で軽く束ねて結う。
「……よし」
その部屋は、かつてマリンアウトサイダと栗毛の先輩ウマ娘が相部屋で使っていた。しかし、その先輩が居なくなった後はマリンが1人で使っていた。何故だか幾ら学園生の入寮や入れ替わりがあっても、ちょうどマリンが1人になってしまうのだった。まるで彼女のルームメイトはあの栗毛のウマ娘しか居ない、と運命が定まっているかのようだった。
なのでマリンの寝具や机の向かい側は、今でもガランとしていた。
「…………」
マリンは無言でそのスペースを見つめた後、自分の引き出しから1枚の封筒を取り出す。宝物扱うように丁寧に便箋を取り出すと、それをゆっくりと広げて読んだ。
それは、去ってしまった先輩ウマ娘からの手紙だった。マリンはもう何度も何度もその手紙を読み返していた。1文字目から最後の句点まで目を通すと、彼女はそれを大切そうに胸に抱いてから封筒にしまった。
「……行って来ます、先輩」
マリンはその手紙にまだ返事を書いていない。彼女はそうするよりも、己の走りで応えたかった。その為の特別な一戦が、今日開催されるのだ。
マリンは勝負服の袴と財布などの小道具を入れた鞄を手に取り、颯爽と部屋を後にした。
その顔には、いつも以上の覚悟と希望が見えていた。
ーーーーー
秋の風が肌に冷たい季節がやって来た。
それはウマ娘たちの激しい戦いの幕開けの季節でもあった。
バ群の起こす地鳴りが観客席まで聞こえて来る。今回のG3レースにはマリンアウトサイダが出走すると言う事で、開催前からかなりの話題となり、そのレース場は平常時の倍近くの来場者数を記録していた。
あの宝塚記念以来、レースウマ娘としてのマリンアウトサイダの人気はジワジワと高まっていった。『史上最大のフロック』と揶揄された事が逆に注目を集め、実際のレースを見て胸を打たれた人々が次々と彼女のファンとなっていったのだ。
そして、マリンはひと月前のOP戦を2週連続で走り、2連勝を収めた。それは彼女の状態を見極めてゴーサインを出した『シリウス』のトレーナーの英断だった。
『宝塚記念』の出来事があった今だからこそ、勝利に驕らず、地道な努力を重ねるレースウマ娘でありながらも武道家ウマ娘である彼女の姿は、更に多くの注目を集める事となったのだった。
今、観客席の目の前をバ群が通過した。また彼女たちがここを通る時は、手に汗握るデッドヒートが繰り広げられる。その期待に観客たちは胸を膨らませていた。
「行っけーーーー、マリーーーーン!!!」
「頑張れえええ、マリンさーーーん!!!」
「良い調子ですわよ、落ち着いてゴーですわ!!!」
「そうだ! 落ち着いて行け!」
ゴールドシップ、ウイニングチケット、メジロマックイーン、そしてオグリキャップが観客席の最前列から声援を送る。このメンバーが本日のマリンの応援団だ。他のシリウスメンバーは次週以降のレースの為に学園でトレーニングをしていた。
「ありがとう、オグリキャップ。マリンの応援に来てくれて。彼女も喜んでいたし、きっと調子も上がったはずだ。でも、本当に良かったのかい? ただでさえマリンのトレーニングに時間を割いてくれているのに」
トレーナーが隣に立つオグリキャップに言った。
「私なら問題ない。むしろ教える事で分かる事も増えてきたんだ。レースとは本当に奥が深いな。マリンは凄く頭から良いから、並走トレーニングだけのつもりが、ついつい色々と教えたくなってしまう。だからマリンが出るレースは絶対に見たかったんだ。トレーナーというのは、いつもこんな気持ちなのだろうか」
そう言ってオグリキャップは優しい眼差しでマリンを見つめる。もしかしたら、いつかオグリキャップがトレーナーとなる未来もあるのかもしれないと、『シリウス』のトレーナーはぼんやりと考えるのだった。
…………
………
……
…
ダッダッダッダッダッ!!
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ!」
マリンは最後尾から前方のバ群を観察する。彼女は気合い十分、頭もクリア、いわゆる絶好調という状態だった。
彼女は今朝、この会場へと出発する前に先輩から貰った手紙を読み返した。その手紙にはマリンへの祝福と、夢を叶えてくれたお礼と、自分も新たな夢に向かって奮闘していると丁寧な文字で記されていた。そして、その手紙の最後の一文がマリンにとって何よりも励みになった。
“あなたと過ごした日々が、あなたの走りが、私に明日への勇気を与えてくれます。ありがとう、マリンちゃん。お姉さん、ずっと応援してるよ”
「ハァッ、ハァッ!」
先頭集団が第2コーナーを過ぎ、レースは中盤に差し掛かる。この直線で早めに仕掛けてバ群に発破をかけよう、とマリンはタイミングを図る。
(良かった。レースの世界に来て……色んな人と出会えて、本当に……)
マリンは前方を睨みつける。脚をためてターフを蹴り出す体勢を整える。
(私は、その人たちの為に……どこまでも走れる!!!)
さあ、ここからが本当の勝負だ。この重賞レースを皮切りに、新たな挑戦を始めるんだ、支えてくれた皆の為に……
その想いを胸に、黒髪のウマ娘は気力を奮い、前に進もうと脚先に力を込める。
「ハァアアアアア!!!!!」
マリンは土を蹴り上げ、大地を踏み鳴らし加速する。その瞳は、希望に輝いていた。
どこまでも、どこまでも、駆け抜けてゆく
そんな未来を見せるような走りだった。
……しかし、その瞬間……
ドドクンッ!!!
予想外の何かがマリンに襲いかかった。
「ッッ…………!?」
ドドクンッ!!!
(何だ……何が起こっている?)
ドドクンッ、ドドクンッ、ドドクンッ!!!
突如、マリンの心臓がこれまでにないくらい激しく鼓動した。まるで、何かの危険を知らせる警報のように。
「ハッ…………!?」
そして、マリンアウトサイダは目の前の光景に驚愕する。
そこには轟々と猛り狂う炎がどこまでも燃え広がっていた。ターフの全てが、紅い業火へと変貌していた。
(これは……幻だ。私に、警告している。『この先に進んではならない』と……)
合気道と呼ばれる日本発祥の武術、その真髄は『護身』にあると言われている。究極の護身とは、危険と『出会わない』こと。その先に危険の待つ道をそもそも歩まないことこそが、最高最大の防衛である。
マリンは師である角間源六郎から聞いた事があった。時折、目の前の道が溶岩に、崖に、海原に、針地獄に、そして闇に変貌する……と。護身を極めれば極めるほどに、長年の鍛錬と経験で勘が研ぎ澄まされて行くほどに、ハッキリと未来の危険を予感できるようになるのだと。
(これが……そうなのか? 私のような道半ばの武術家が……)
しかし、何故『今』なのか。それは誰にも分からない。武の神様の気まぐれなのかもしれない。だが、1つだけハッキリしている事がある。
眼前のその道は……『過酷』そのものだという事だ。
「ハァッ、ハァッ、ぐっ……ああぁ!!!」
脚を一歩踏み出す毎に、全身が炎で焼かれる錯覚がマリンを襲う。ジュウゥゥゥと聞こえるはずのない、身体の肉が焼け焦げる音も聞こえていた。
(何で……!! これからなのに!! このレースが私の『実力』で挑戦する、初めての重賞なのに……っ!!!)
マリンは若かった。世代最強の格闘ウマ娘と呼ばれても、武術家の基準で十数年など赤子に等しい。だから彼女は無理矢理進もうとした。その業火の道の先に、勝利を掴もうと手を伸ばす。だが……
「ハァッ……ァ……ぁああ!!!」
ドドクンッ、ドドクンッ!!!
鼓動が耳をつんざく。それが心臓の異常なのか、恐怖による動悸なのか、マリンには判断がつかなかった。
燃え盛る業火の先、そこには光など無かった。あるのは完全な『闇』……何も無いはずなのに、人はそれに恐怖を覚える。
「ハァッ……ハァッ……ぁ、ッ……!?」
マリンは眼前の『闇』を見て感じた。嫌でも理解させられた。この先を走り続ければ、待つものは……
『終わり』であると。
…
……
………
…………
『さあ、レースも中盤を過ぎた! バ群はやや縦長の展開! 今レースで注目のマリンアウトサイダはどこで仕掛けて来るの……か……えっ?』
実況アナウンサーが言葉に詰まる。いつもならここで早仕掛けをするのがマリンの『追い込み』のセオリーだった。徐々にペースを上げてくるだろうと予想していたのに、アナウンサーの目に映ったのは……
減速し、ついには立ち止まり、苦しそうに胸を押さえるマリンの姿だった。
『マ……マリンアウトサイダに故障発生!!! マリンアウトサイダが走行を中断しました!!! 胸を押さえています、何らかのトラブルが発生した模様!!! マリンアウトサイダが走行を中断!!!』
観客席は騒然とした。『シリウス』のトレーナーが何かを叫び、救護班の元へ全力で駆け出した。マックイーンは両手で口を押さえている。ゴールドシップは身を乗り出してマリンの名を叫ぶ。他の2人のウマ娘もとても平静でなどいられない様子だった。
第2コーナーを過ぎた直線、その途中でマリンは立ち止まり、内ラチに寄りかかった。呼吸は乱れ、苦しそうに胸を押さえ道着が深い皺を作っていた。
その表情は恐怖に染まっていた。
ーーーーーー
レースから3日後……
ガチャリ
と、『シリウス』のトレーナー室のドアが開きトレーナーが入る。チームメンバーはソファーに座ったり、室内をウロウロしたりと落ち着かない様子だったが、トレーナーの姿が見えた途端、皆一斉に彼の元へと駆け寄った。
「みんな、今は授業時間のはずだろう。ずっと待っていたのかい?」
レースの後、マリンは病院に搬送され、検査の為に2日間入院する事となった。その間チームメイトはお見舞いに行く許可が降りず、本日ようやくトレーナーと保護者である角間氏が医者から詳しい説明を受けた。皆、トレーナーが病院から戻ってくるのを待っていたのだ。
「んな事どうでもいいだろ、トレーナー! マリンは……マリンは大丈夫なのかよ!」
「そうです! マリンさんはどうしちゃったんですか? 教えて下さい、トレーナーさん!」
ゴールドシップとスペシャルウィークがトレーナーに詰め寄ると、彼は哀しそうに目を伏せた。
「もちろん、話してあげるよ。だから落ち着いて。みんな、座って聞いてくれ」
トレーナーはホイールチェアにゆっくりと腰を下ろし、キュルルと回転させて皆の方へ身体を向けた。チームのウマ娘たちは固唾を飲んでトレーナーの言葉を待っている。沈黙が部屋を支配し、皆不安で息が詰まりそうだった。
「とりあえず、彼女は無事だ。命に別状はないと担当医さんは言っていたよ」
その言葉に皆は胸を撫で下ろした。だが、その続きがあることは皆分かっていた。あのレース場に居なかった者も、中継の映像は観ていた。マリンの身に何か異常な事が起こったのは明白だったからだ。
「精密検査の結果だけど……マリンは、心臓に生まれつきの異常がある事が分かったんだ。それは軽度の小奇形で、日常生活やある程度の運動をするくらいなら支障は無い、異常があることにすら気付かない程度のものだそうだ」
心臓の異常、と聞いて皆息を呑んだ。嫌な予感が皆の脳裏をよぎる。
「マリンは去年までは格闘ウマ娘として活躍していた。格闘技ならば、心臓に長期的な負担はかからない。だから、特に問題はなかった。だけど……レースは違う。数あるウマ娘の競技の中で、レースは最も心臓を酷使するものの1つと言っても過言ではない。この間のレースの負担で、ついにマリンの心臓は悲鳴を上げた……簡単に言うと、こんな感じだ」
皆が驚きと落胆を隠せなかった。それはまるで……
「何だよそれ……まるでマリンが……アイツが……レースの世界に……!」
ゴールドシップはその先の言葉を飲み込んだ。それはレースウマ娘にとっては、あまりに残酷な言葉だった。
トレーナーも悔しそうに目を瞑った。
「トレーナー……マリンは、また走れるようになるのか?」
ナリタブライアンが尋ねた。
「……もちろん、僕はマリンがまた走れるようになると信じている。だけど彼女の心臓は、骨折とは違って治療できるものではないんだ。手術をしたとしても、それこそ心臓への負担を高める要因になってしまう可能性もある。前例の無い、未知数な部分が多い」
皆一様に暗い表情で俯いていた。それはあまりにも残酷な現実だった。レースウマ娘にとって、走れなくなるかもしれないと言う恐怖は耐え難いものだからだ。
「念の為、マリンは今週末までは検査の為に入院することになっている。明日、僕を含めて4人までならお見舞いに行っても良いそうだ。みんなで誰が行くか話し合ってくれ」
そう言ってトレーナーはパソコンを立ち上げる。彼はこれから心臓に持病を抱えたアスリートの情報を集めるつもりだった。どれだけ参考になるか分からないが、何もしないで待つのは彼も耐えられなかったのだ。
…………
………
……
…
コンコン、と看護師が病院の個室をノックしてトレーナーと3人のウマ娘を室内へ案内する。
昨日の話し合いの結果、トレーナーと一緒にお見舞いに行くウマ娘はメジロマックイーン、スペシャルウィーク、サイレンスズカの3人となった。
彼らがその個室に入りまず目にしたのは、窓の側に立ち、空を眺めている病衣姿の黒髪のウマ娘だった。外はずっと雨が降り続いていた。
「あ……トレーナーさん……それにマックイーンさん、スペさんにスズカさん……」
彼女は振り返った。一瞬彼女は涙を流しているように見えたが、それは錯覚だった。
看護師が部屋を出ていくと、マリンはお見舞いに来た4人に椅子をすすめ、自分はゆっくりとベッドに座った。
そこからしばし、無言の時間が流れた。最初に口を開いたのは『シリウス』のトレーナーだった。
「マリン、もう体調は大丈夫なのかい?」
「……ええ、特に問題はありません。今は落ち着いています」
あのレースの日、トレーナーは1人マリンに付き添って病院へ行った。その時はマリンの顔色はかなり悪かったのだが、今の彼女は落ち着いているように見える。
マリンは他の3人のウマ娘に視線を向ける。皆、何を言えば良いのか分からず困っている様子だった。
「皆さん、もう私の……心臓のことはご存知みたいですね。心配をおかけして、本当に申し訳ありません……」
「……謝る必要なんて無いですわ。あなたが無事で、本当に良かった……あのレースの日、私は生きた心地がしませんでしたもの」
「ええ、本当にそう。私も寮のテレビで観ていたわ」
メジロマックイーンとサイレンススズカが優しい表情でマリンに語りかける。しかし、会話は続かなかった。重苦しい空気は消えない。
「……あの日からずっと雨ですね」
ポツリ、とマリンは呟いた。彼女はぼんやりと窓の外を眺めていた。
「昔から悲しい事があると、必ず雨が降っていました。まるで空が私と一緒に泣いているみたいで、心の中にまで雨が染み込んでくる気がして……不思議と心が落ち着きました」
4人は黙って聞いていた。
「でも……今は、この事ばかりは、流石にショックが大きくて、昨日も一昨日も、寝ても覚めても、心を雨雲が覆っていて……私は自分の名前の通りに、レースの世界に来てはならないウマ娘だったんじゃないかと……『アウトサイダー』、元から私は部外者だったのではないかと、そんな風に思ってしまって……」
「ッ!! 違いますっ!!!」
それを聞いたスペシャルウィークが突然ベッドに座るマリンに飛びかかるように抱きついた。マリンは驚いた顔で彼女を受け止めた。
「スペちゃん!?」
「こら、スペ! マリンはまだ」
入院してるんだ、というトレーナーの言葉を打ち消すようにスペシャルウィークは叫ぶ。
「違いますッ!!! 絶対に、絶対にそんなことないです!!! マリンさんは、私たちの、『シリウス』の仲間です!!! 来ちゃいけなかったなんて、絶対に言っちゃダメですッ!!! ダメなんだからあああ!!!」
次第に涙声になっていく彼女の声を聞いて、マリンは微笑む。そしてマリンの胸に顔を埋める彼女を、子供抱くように柔らかく抱きしめた。
「ごめんなさい、スペさん。弱音を吐いてしまいました。不安にさせてしまいましたね。許してください……」
「グズッ、許しません……そんな事、言ったら絶対にダメです……許してあげません……」
マリンはギュッと一度強くスペシャルウィークを抱きしめて、離した。スペシャルウィークの目は涙に濡れていた。
「スペさん、私の言葉には続きがあります。私はチーム『シリウス』のレースウマ娘です。自信と誇りを持ってそう言えます。そして、同時に格闘ウマ娘でもあるのです」
ズビッとスペシャルウィークは鼻を啜ってマリンを見つめる。
「スペさん……万が一身体の一部が使えなくなったり、動かなくなった時、武術家はどうすると思いますか?」
スペシャルウィークは分からない、と言うように首を小さく振る。
「一から、修行し直すのです。最初の最初の初めから、生まれ変わった身体だと思って、身も心も初心に帰して、基礎鍛錬からやり直すのです。心臓に枷がかかっても同じです。私はまた一から……いやゼロからやり直せます」
マリンはトレーナーの方を向く。トレーナーも真っ直ぐにマリンの瞳を見つめていた。
「トレーナーさん、『あの時』みたいに……また私を受け入れてくれますか? 例え心臓が足りないウマ娘の私でも……再びチーム『シリウス』に入れてくれませんか……?」
トレーナーはマリンの瞳の中を覗き込む。そこには、まだ闘志が燃えていた。走りたいと願うウマ娘がそこに居た。
「もちろん、私は現実を見据えているつもりです。もし上手くいかなかったら、その時は……覚悟しています。トレーナーさんと医師の言うことには、絶対に従います。だから……」
「うん、勿論だ」
『シリウス』のトレーナーは立ち上がり、マリンの元まで歩み寄る。
「君はずっと『シリウス』のレースウマ娘だ。医者もレースに復帰出来る可能性はまだあるとおっしゃっていたんだ。暫く休養して、様子を見てからトレーニングを始めよう。頑張ろう、マリンアウトサイダ。また、ゼロから」
トレーナーの言葉は力強く、マリンに再び活力を与えた。
「ううう……マ゛リ゛ン゛ざぁん!!!」
トレーナーの言葉に、スペシャルウィークは涙を目に溜めて再びマリンに抱きついた。マリンも彼女を優しく抱きとめる。
(……まだ希望は残っている。今はそれを信じて先に進むしかない。元々、私はレースの世界とは殆ど無縁なウマ娘だった。心臓までもがレースの世界へ行く事を否定しようとしても、まだ走れる。走る為の両脚は残っている……)
道はきっと続いている。彼女は今は、そう信じるしかなかった。
次回
24話 武芸者とツキミソウ
少しだけ、過去編が挟まります。