【本編完結】とある武術家ウマ娘がトレセン学園に転入する話 −流れ星の転校生−【リメイク版】   作:カンヌシ

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※ハヤヒデの設定はアニメ2期の某格闘漫画ネタからです。m(__)m


3話 転校生とBNWとトプアヤ

 

 

 

幕間 ある競走馬の生涯Ⅱ

 

 

 ある日、その零細牧場に大型の輸送車がやって来た。それは処分が決まった繁殖牝馬と仔馬たちを移送するためのものだった。業者が移送準備を始める中、その様子を眺める1人の男がいた。

 

 その男はとある出版社の社長で、そこの牧場主とは古くからの友人であった。彼は気まぐれで休暇に牧場を訪ねると、処分が決まってしまった馬を移送する場面に出くわしたのだった。

 

 社長が馬たちを眺めていると、その中に真っ黒い毛並みの艶やかな仔馬がいた。社長が牧場主に尋ねると、その仔馬は牝馬で他と比べると小柄だったので売れ残ってしまったらしい。

 

 競馬に関して素人だった社長は、水溜りでぱちゃぱちゃと遊ぶその仔馬のどこが悪いのか見当がつかなかった。

 

 

「なあおい……あの黒い仔馬、今から俺が買うことは出来るんか?」

 

 

 お前阿呆なのか?馬を買うのがどういう事か分かってるのか?と牧場主は返した。しかし、聞かん坊の社長は牧場主に頼み倒す。

 

 ダメ元で牧場主が取引先と連絡を取ると渋られながらも了承を頂き、その仔馬は社長が飼育費用なども諸々を支援する形で買い取る事となった。

 

 だが一方で、動物である当の仔馬にはそのような事情など理解できるはずもなかった。

 

 自分の母親の牝馬、仲の良い仔馬たちが連れ去られて行くのを柵の内側から悲しそうに鳴きながら見つめるしかなかった。

 

 その光景は黒毛の小さな仔馬の、魂にまで深く植えつけられる傷となった……

 

 

 

 

 

–––––

 

 

 

 

 

 シーンとしたある教室の中

 

 

 編入したクラスの教壇に立って、マリンアウトサイダはその場のウマ娘たち全員の視線を一身に受ける。彼女はトレセン学園の制服の上から、腰に緑のパーカーの袖を結んで巻いていた。

 

 すぅ……と一呼吸置いた後、彼女は澄んだ声で自己紹介を始めた。

 

 

「マリンアウトサイダと申します。このような時期に転入する事となりました。ご存じの方もいらっしゃると思いますが、私は格闘ウマ娘として活動していた故、走りに関しては素人の域を出ません。皆さんの後輩となった気持ちで励んで参りますので、お力添えいただければ幸いです。どうか、よろしくお願いします」

 

 

 マリンアウトサイダは深々と礼をして挨拶を締め括った。所々でざわつきはまだ収まらなかった。

 

 

「綺麗……」

 

「あの人が噂の……」

 

「街中で喧嘩して何度も補導されたことあるらしいよ……」

 

「ええ、そうなの? なんでトレセンに来たんだろう……」

 

「なんで腰にパーカー巻いてるの……?」

 

 

 時季外れの転入生にクラスのウマ娘たちのささやきが止まぬまま、マリンアウトサイダは担任に指定された席についた。彼女は奇異の目で見られるのは覚悟していたので特に気にすることもなかった。

 

 

 マリンが街中で喧嘩をして何度も補導されたのは事実である。彼女は有名になるにつれ、何かと因縁をつけられて喧嘩を売られる事が多くなった。しかし、彼女はそれを面倒とも思わず全て受けた。そして真正面から叩き潰してきた。

 

 彼女は落ち着いてるように見えるがその実、中身はかなりの戦闘狂である。喧嘩は時と場所を選ばないものだと思っており、『常在戦場』の心構えを忘れる事はなかった。

 

 そのせいか、近寄りがたい雰囲気があるので友達は少なかった。しかし本人は特に気にしていない。基本的には頭の中は武術の事でいっぱいなのだ。

 

 

「はーい、みんな静かに! 転入生のことが気になるのは分かりますが、もう授業が始まりますよ! テキストの準備をしてください!」

 

 

 担任の声で皆が準備を始める。マリンもカバンからテキストを取り出した。そうやって、特に目立つような出来事もなく彼女のトレセン学園生としての生活が始まった。

 

 

 

 

 しかし運命とは不思議なもので、そのクラスには色んな意味で曲者たちが集まっていた。その出会いがマリンに後々大きな影響を与えることなど、今の彼女には知る由もなかった……

 

 

 

 

 

……………

…………

………

……

 

 

 

 

 

 

 最初の授業後の休み時間、マリンの席に1人のウマ娘が近付いてきた。ピシッと前髪が綺麗に真ん中分けの、元気で真面目な雰囲気のウマ娘だった。マリンに話しかけるのを何よりも楽しみにしていたと言わんばかりのニッコニコの笑顔で、彼女はマリンに話しかけた。

 

 

「こんにちは、マリンアウトサイダさん! 私、ナリタトップロードと言います! このクラスの委員長をしているので、分からない事があったら何でも聞いてくださいね!」

 

 

 マリンはその溢れんばかりのオーラに圧倒される。何だか悪霊も飛んで逃げていきそうな爽やかさだ。

 

 

「は……はい、よろしくお願いします。ナリタトップロードさん」

 

 

 マリンが握手をしようと手を差し出すと、ナリタトップロードはギュッと両手でその手を包み込むように握った。

 

 

「こんな時期に転校してきて、きっと不安な事も多いでしょう。私、マリンアウトサイダさんのお力になれるのなら『何でも』しますので、遠慮なく頼ってくださいね!」

 

 

 ニコッと更に念を押すようにナリタトップロードは続けたのだった。

 

 

(『何でも』って簡単に言っちゃダメなような……けど、彼女の言葉に嘘は一欠片もないんだろうな。邪気とは無縁というか、どこまでも澄み渡った青空みたいな娘だ……眼も本当に澄み切って綺麗で……)

 

 

 マリンはナリタトップロードの瞳に見惚れていた。それに自分で気付いて何だか気恥ずかしくなり、目を逸らした。

 

 

「ほら、アヤベさんも挨拶しましょう! せっかく隣の席なんだから!」

 

 

 トップロードはマリンの手を離すと、マリンの右隣の席で本を読んでいたアドマイヤベガに言った。彼女は少し面倒くさそうな澄ました顔で、マリンの方を向いた。

 

 

「アドマイヤベガよ、よろしく」

 

 

 その雰囲気通りのサラッとした挨拶、しかしマリンにはむしろ好感が持てた。

 

 

「はい、よろしくお願いします。アドマイヤベガさん」

 

「私がいない時は、困った事があったらアヤベさんに相談すると良いですよ! アヤベさんって、ちょっぴり無愛想なところもありますけど、本当はすごくすっっっっごく、優しくて、頼りになるんですよ! ね、アヤベさんっ!」

 

「ねっ、て言われても反応に困るのだけど……」

 

 

 この2人はとても仲が良いのだろう……浅からぬ縁がありそうだな、とマリンが思っていると反対の側の机からトップロード以上に元気な声が聞こえてきた。

 

 

「ねえねえ、マリンアウトサイダさん!」

 

 

 マリンは今度は左隣の方を向く。そこにはナリタトップロードに負けないくらいキラキラした瞳をした黒髪でショートヘアのウマ娘が座っていた。

 

 

「アタシはウイニングチケットって言うんだ! アタシも隣の席だからよろしくね! チケットかチケゾーって呼ばれてるから、好きな方で呼んでね!」

 

「あ……はい、よろしくお願いします。ウイニングチケットさん。ではチケットさんで。私のことはマリンと呼んでください」

 

 

「分かったー、マリンさん! これからよろしくね!」

 

 

 と返す彼女を見て、まるで元気の塊みたいな人だな、とマリンは思った。

 

 

「ねえねえ、マリンさん! キミ、格闘技がすっごく強いって噂で聞いたよ! カッコいいなー! アタシもスポーツは結構やるんだけど、格闘技はあんまりやった事ないんだよね!」

 

「ありがとうございます。未だ修行中の身ですが」

 

「こら、チケット。すっごく強いなんてものじゃないぞ。ジュニア・シニア含めた世代最強の格闘ウマ娘と言われている方だ」

 

 

 マリンがチケットと会話していると、いつの間にか背の高い眼鏡をかけた芦毛のウマ娘がチケットの側に立っていた。

 

 

「会話に混ぜてもらっても構わないだろうか? 私はビワハヤヒデという。ハヤヒデで構わない。よろしく頼む」

 

「はい……ハヤヒデさん、よろしくお願いします。私もマリンで構いません」

 

 

 何だか頭がフワワっとしてて大きい方だなぁ、触ったら気持ち良さそう……とマリンが考えているとズイッとハヤヒデの顔が彼女に寄ってきた。もしかして、何か失礼な事を考えてしまったのがバレたのか?などと思っていると

 

 

「時にマリン殿、折り入って君に相談したい事があるのだが……」

 

 

 ゴゴゴゴゴ……とハヤヒデはただならぬ覚悟を決めたような雰囲気だった。メガネが白く光って目が伺えない。何でメガネキャラってメガネが光るんだろう?とマリンは思った。

 

 そして、ハヤヒデはシュバっと色紙を取り出して、頭を下げてマリンに突き出した。

 

 

「ファンだ!!! どうかサインをお願いしたい!!!」

 

「………へ?」

 

 

 予想外の言葉にマリンはポカンとした。彼女は今までサインをねだられた事は一度も無かったのだ。大会の後は直ぐに徒歩で帰宅するし、空いた時間は山で修行しかしないのでファンと会う機会は皆無だった。

 だが、いつまでもハヤヒデをその姿勢のままにする訳にもいかず、色紙を取り、ネームペンでキュキュッとサインをした。

 

 

(あ……ちょっと歪んでしまった)

 

「えっと、これで良いでしょうか? 私サインって書いた事なくて、普通に名前を書いただけですが……」

 

「そうなのか!? 確かに格闘ウマ娘はファンと交流する機会が少ないからな、ではこれが最初の1枚目だと言うことか! ありがとう! これは家宝にするぞ!」

 

 

 キラキラと顔を輝かせて礼を言うハヤヒデ。彼女の知らない側面に周囲のクラスメイトは困惑していた。

 

 

「あはは! そういえばハヤヒデは格闘技が好きって前に言ってたもんね! トレーニング前は好きな格闘漫画の影響で炭酸抜きコーラとか飲んでるし! あ、そうだー! アタシたち2人の紹介をしたなら……」

 

 

 チケットは突然教室の中をビュンッ!と高速で駆け出した。器用に机の隙間を縫ってあるウマ娘の席まで一瞬でたどり着く。他に生徒たちはチケットの進行ルートからササっと飛び退いていた。よくある事なのか、謎の連携プレーにマリンは再びポカンとしていた。

 

 

「ターーイーーシーーンーー!!!!」

 

 

 チケットはスマホをイジってる小柄なウマ娘をウサギを持つように突然ヒョイっと担ぎ上げた。

 

 

「なっ!? ちょ、いいとこだったのに! やめ、うわぁああ!!」

 

 

 ビュビュンッ!とチケットはそのウマ娘を担ぎ上げたまま、再び高速で移動してマリンの席の所まで戻ってきた。

 

 

「タイシン急行とうちゃーく!!!!!」

 

「ちょ、マジふざけんなぁ!!!」

 

 

 ドンッ!とチケットがタイシンを担いできた樽みたいに床に下ろした。

 

 

(……私はもしかしてトンデモないクラスに来ちゃったのかな? いつもこんなに騒がしいのだろうか)

 

 

 と思っていると、頭の中を見透かしたかのようにハヤヒデがマリンに話しかける。まるでヤンチャな妹たちに手を焼く姉のような表情だ。

 

 

「はは、騒がしくてすまないな。マリン殿、こちらはナリタタイシンだ。私たちは3人はよくレースで対決していて、メディアではBNWと呼ばれているんだ」

 

「BNW……聞いたことあります。ナリタタイシンさん、よろしくお願いします」

 

「ああもうっ! 〜〜っ……まぁ、よろしく。ネットニュースで見たよ。相当強いんだってのはそれで知ってる」

 

 

 初対面のウマ娘の前だからか、タイシンはすぐに落ち着いてツンとした態度で挨拶をした。口はちょっと乱暴そうだけど、根は優しいんだろうなとマリンは感じた。

 

 

「ところで、マリン殿。君は試合場まで必ず走って自ら赴くと聞いたのだが、その噂は本当だろうか? サバイバルキャンプのような事もするのだとか」

 

「!……サバイバルキャンプ……」

 

 

 タイシンの耳がピクンと反応する。

 

 

「ええ、この間の『石楠花杯』の時は移動に片道3日かかりました」

 

「えーー! 3日って、たった1人で走って野宿しながら行ったの!? マリンさんって見た目よりワイルドだーー!」

 

「……ねぇ、そのサバイバルする技術ってどうやって身につけるの?」

 

 

 ナリタタイシンが興味ありげにマリンに尋ねる。

 

 

「私が住んでいる山で師でもあり、育て親でもあるおじいちゃんに教わりました。裸一貫で山で生き抜く術を身につければ、どこでも生きて行けるから、と。私はみなしごで両親がいないので、自分が生きている内にって……」

 

「え、みなしごって……」

 

 

 チケットが不安そうな顔でマリンを見つめる。

 

 

「私は、赤ん坊の頃にその山で拾われたそうなのです。このパーカーに包まれて、雨の当たらない木の根の下に、恐らく捨てられていたのでしょう。だから、物心ついた時にはおじいちゃんと2人で過ごしていました」

 

 

 マリンは腰の緑のパーカーを触りながら言った。

 

 

「「「「「…………」」」」」

 

 

 思ってもなかった情報が出て、場の空気が重くなる。マリンはあれ?という感じだった。ここまで雰囲気が落ち込むとは予想していなかった。

 

 しかし、これはこのクラスの彼女たちがそれだけマリンに共感してくれている証拠でもある。

 

 優しい人たちなんだな、とマリンは素直に思った。

 

 

「……ご、ごめん。変なこと聞いた……」

 

 

 タイシンはやってしまったか、と言う顔だ。

 

 

「いえ、あまり気にしないで下さい。私が余計な事を言ってしまっただけです。全然気にしてません。私はおじいちゃんと暮らせて幸せですし、山は修行場でもありますが、そこで過ごすと心が落ち着きますし、夜に見上げる星空はいつ見ても綺麗ですし、皆さんにも見せてあげたいくらいなのです」

 

 

 星空という言葉に、アドマイヤベガの耳がピクッと反応する。

 

 

「ほう、マリンアウトサイダの修行場……それは非常に興味深いな。あの強さと技は如何にして身につけられたのか。データとして価値がありそうだ。レースにも役立つかもしれない」

 

「アタシもアタシも! マリンさんが修行してる山に行けばカンフーの達人になれるかなー! アチョオーーって!」

 

「何でカンフー限定なのよ。でもいいな……アタシ、最近キャンプの動画とかたまに観てて、ちょっとだけそういうのに憧れてて……」

 

 

 そしてマリンは何となく提案した。

 

 

「もし良ければ、私のウチに来ますか? ただの山ですが……キャンプみたいな事も出来ると思います。多少のことは教えられますので」

 

 

 キラン!とハヤヒデの眼鏡が光った。

 

 

「ほう……! それは格闘技ファンとして願ってもない機会だな」

 

「いいのー!? 行ってみたい行ってみたい!!」

 

「……! ア、アタシも! 色々教われるなら、行ってみたい!」

 

 

 BNWが盛り上がってるのを見て、ナリタトップロードもキラキラ目を輝かせた。

 

 

「それ、私も参加しても良いですか! あとアヤベさんも一緒に!」

 

 

 ええ、良いですよとマリンが答えると、アドマイヤベガが慌てた様子で言う。

 

 

「ちょっと、何で私まで!?」

 

「良いじゃないですか、アヤベさん! 新しいクラスメイトとの交流は大事ですよ! アヤベさん、星を見るの好きじゃないですか。きっと楽しいですよ!」

 

「私が星って言えば釣られると思わないで! ……まあ、興味はあるけど。はぁ……でも何故かしら。この流れ、この場にいないあの2人の顔も浮かんでくるのだけど……嫌な予感しかしないわ……」

 

 

 アドマイヤベガの脳裏に「ハァーッハッハッハッ!」と高笑いするウマ娘と、「あわわわわーっ!」と慌てふためくウマ娘の顔が浮かんだ。

 

 

 かくして、どこかの連休で皆(後から2名加わる)でマリンアウトサイダの住む山を訪れることとなった。

 

 ウマ娘、山、修行場、サバイバル、何も起こらないはずがなく……

 

 その話はまた別の機会に語られるだろう。

 

 

 

 





次回

間話『トレセン学園と共学校の違い』


ー追記ー
山編に『ナリタトップロードとディクタストライカ』のエピソードを追加してます。
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