【本編完結】とある武術家ウマ娘がトレセン学園に転入する話 −流れ星の転校生−【リメイク版】   作:カンヌシ

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episode 9:『春天の3200mも「短距離」だなって』

 

 

 

 

 

 

 ビワハヤヒデとナリタタイシン、2人のウマ娘に問い詰められてマリンアウトサイダは観念したように俯いた。そしてため息を吐き、ゆっくりと事情を語り出す。

 

 

「はい……御察しの通り、チケットさんは次回のプレミアムレースに出走します。そしてなぜ私がその事を知っているのか、なのですが……お二人とも、この先の話は他言無用でお願いしますね?」

 

 

 マリンの念押しに、ビワハヤヒデは眼鏡を人差し指でクイッと上げて答える。

 

 

「ああ、勿論だとも。まぁ、大方の事情は推測出来るがな。恐らく……」

 

「ハヤヒデ、そう言うのいいから。本人が説明してくれるんだから直接聞こうよ。ほらマリン、続き続き」

 

 

 しゅん……と耳を垂らすハヤヒデを尻目に、タイシンに促されてマリンは説明を再開する。

 

 

「実は私、秘密裏にルドルフさんから依頼を受けていたんです。『海外を拠点に活動するレースウマ娘たちにTOKYO:premiumへの出走を打診して欲しい』と。私の旅のついでに可能なミッションでしたし、何よりルドルフさんには返しきれない程の恩義がありますので、私は二つ返事で了承しました」

 

「へぇ、そうだったんだ。もしかしてサイレンススズカも?」

 

「ええ、スズカさんと交渉したのも私です。URAを通して話を持ちかけるより、元チームメイトのよしみでお願いした方が受けてくれそうだってルドルフさんも言ってましたし、私もスズカさんに会いたかったですしね。UMAD所属の私がレースの参加交渉をするとは誰も思ってないでしょうから、今の所関係者にはバレてはいないですね。ハヤヒデとタイシンさん以外には……」

 

 

 はぁ……と自分の詰めの甘さを恥じて、マリンはコーヒーを一口飲む。

 

 

「しかし、ルドルフ殿も思い切った事をするものだ。マリン殿に交渉役を頼むのもそうだが、まさかチケットをプレミアムレースに招待するとはな……海外のレース団体に所属するスズカ君と違い、チケットはアマチュアのスポーツウーマンだ。過去のダービーウマ娘とは言え、彼女が日本のプロレースの場に登場するとは誰も予想していないだろう」

 

「ルドルフさんは『プレミアムレースは多くの人々の夢を実現させる舞台にしたい』と昔からおっしゃられてました。チケットさんやスズカさんを招待したのも、今でも彼女たちがファンに愛され続けているのを知っているからでしょう。勿論タイシンさんもですよ。今でも全国を巡るとBNW、その中でも熱心なタイシンさんのファンによく出会いますから」

 

 

 突然話を振られて、タイシンは微かに頬を赤らめる。

 

 

「ア、アタシの事なんてどうでもいいからっ! もうそういうのは間に合ってるし……」

 

「おや、タイシン、惚気話かな? 確かに君は、非常に熱心なファン第1号と結婚したんだものな。君の旦那様は今でも職場でよく君のことを周囲の人々に話しているぞ。愛妻家として有名だからな」

 

 

 それを聞いて、今度こそタイシンの顔は真っ赤になった。

 

 

「ハァッ!? ウソッ!? アイツ、アタシにはそんなこと……帰ってきたらとっちめてやる……!」

 

「まあまあ、勘弁してやってくれ。せいぜい君や娘さんの写真を見せびらかす程度だぞ」

 

「そうですよ、タイシンさん。別に悪いことしてるわけじゃないんですから」

 

 

 マリンとハヤヒデが宥めて、暫くしてようやくタイシンは機嫌を直した。

 

 

「ハァ……アイツのあの暑苦しさも少しは落ち着いてくれれば良いのに。そう言えば、ハヤヒデはどうなの? もうトレーナーと付き合って長いことなるじゃない。まだ結婚しないワケ?」

 

 

 タイシンの言葉に、コーヒーに口を付けていたハヤヒデの手がピタリと止まる。

 

 

「むぅ、それはその……中々タイミングを見極めるのが難航していると言うか……私から切り出しても良いものなのか判断がつかないと言うか……」

 

「ハヤヒデさん、そこのところは昔からブライアンさんよりも奥手でしたもんね。ブライアンさんなんてササって結婚してしまいましたし、『ふっ、結婚に関しては私が姉さんに背中を見せてしまったな』って言ってましたし」

 

「うっ…………」

 

 

 グサッとマリンの言葉がハヤヒデに突き刺さった。

 

 

「そ、そう言うマリン殿こそどうなんだ!? 君だって幾度かUMAD関係者やトレセン学園関係者からも交際を申し込まれたと聞いているぞ。まぁ、皆撃沈されたそうだが……」

 

「私は『旅』が恋人ですから。風の吹くまま気の向くまま、フーテンのマリンさんとは私のことです……なんてね」

 

 

 マリンはそう言うと、かつての時代の大人気映画シリーズのテーマ曲を口笛で奏でる。

 

 

「ホンット相変わらず自由気ままだね。チケットもそうやって地球を飛び回ってるし、それがアンタ達らしいと言えばらしいけど」

 

 

 ふふっ、とタイシンは微笑んだ。

 

 

「はぁ……そうだな、先も言ったが時々マリン殿とチケットが羨ましいと感じてしまうよ。プロとして活動していると、自由な時間はどうしても限られてしまうのでな」

 

 

 そんな感傷気味なハヤヒデを尻目に、タイシンはズイっとマリンに顔を寄せる。

 

 

「ねえねえ、話を戻すけど、チケットのやつはいつ日本に戻って来るの? 日本のレースに身体を慣らすトレーニングも必要でしょう。まぁアイツ今でも走ってるし、すぐに勘を取り戻しそうだけど」

 

「それが……まだ予定が立てられないそうです。チケットさん、今はハワイで元海軍の方から射撃訓練と潜水訓練を受けてる最中で、それが終わり次第日本に戻ると言っていたのですが、いつになるのやらサッパリ分からなくて」

 

「何やってんのよ、アイツ……」

 

 

 タイシンは少し呆れたように頬杖をついた。それを見てハヤヒデは目を閉じ、過去に思いを馳せていた。

 

 

「ふふ……学生時代に宣言した通り、色んな事に挑戦しているんだな、チケットは」

 

「ま、そうだね……思えば私たち皆んなあの時に言った通りのことをしてる」

 

 

 ハヤヒデとタイシンは昔を懐かしむように顔を見合わせる。BNWの絆は今も固く結ばれているようだ。

 

 そんな中「あっ」とマリンは何かを思い出したように声をあげた。

 

 

「そう言えば、チケットさんの事なんですけど。ハワイに滞在していた時に、プレミアムレースは恐らく中距離部門、ダービーと同じ『2400m』への出走になるはずだって伝えたら…………」

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

『えっ、2400m!? わぁ、懐かしいっ!! ダービーとおんなじだぁあああ!!!………けど……う〜ん……』

 

 

 ハワイ某所、チケットが滞在しているホテルの一室にて、マリンアウトサイダとウイニングチケットは椅子を寄せ向き合って話し合っていた。

 

 チケットは学生の頃より身長もそこそこ伸びて、全身がシェイプアップされて正にスポーツ選手だという風格を漂わせている。しかし、口を開けばいつものチケットなので往年のファンからは変わらず『チケゾー』と呼ばれ親しまれ、今なお日本でも海外でもファンを増やし続けていた。

 

 

『? どうされたんですか、チケットさん。もしかして他の距離にも出走したいとか? マイル部門や、長距離部門もルドルフさんに掛け合えば出走可能だと思いますが……』

 

『う〜ん、マリンさん。そういうわけじゃないんだけどさ〜』

 

 

 チケットは困ったような笑顔をマリンに向けている。

 

 

『ほら、アタシってここ数年、今回のアイアンマンレースみたいな100km単位のレースばっかり走ってたでしょ? だからさぁ……2400mは2.4kmだから、すっごい『短距離』だなって思っちゃって。そう考えると春天の3200mも『短距離』だなって。頭では違うって分かってるんだけど、混乱しちゃうよ〜!』

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「…………と、言ってました」

 

「何よそれ、ワケわかんない。昔のサクラバクシンオーかっての……ぷっ、ふふ……」

 

 

 タイシンはジワジワと効いてきたように口元を押さえて笑っていた。ハヤヒデも困ったように微笑んだ。

 

 

「全く、いつになっても予想を斜め上に超える発言をするものだなチケットは。その理論、バクシンオー君に伝えたらどうなってしまうだろうか。想像するだけで面白いな」

 

「はい、チケットさんはやっぱりチケットさんでしたよ。昔から何にも変わっていなくて、懐かしさよりも先に安心感を覚えました」

 

 

 

 3人のウマ娘は、かつてのトレセン学園の教室でのように、朗らかに笑い、語り合った。いつまで経っても変わらない友情を確かめるように。そうしていると……

 

 

 キーンコーンカーンコーン……

 

 

 遠くのどこかの学校のチャイムの音が、窓越しに外から聞こえてきた。

 

 

 3人のウマ娘はピクンと耳を動かし、共に西日の差し込む窓の外を見つめるのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 





次回

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