【本編完結】とある武術家ウマ娘がトレセン学園に転入する話 −流れ星の転校生−【リメイク版】 作:カンヌシ
『孤高の一等星』の独白
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『孤高の一等星』
私にそんな通り名がついたのは、いつの頃だっただろう。
クラシックレースを走っていた頃の私は……本当に悪い意味で、レースのことしか考えていなかった。
どんな呼ばれ方をされてても気にもしなかったし、メディアに取り上げられて世間に知られることも、私にとってどうでも良かった。
『あの子』のために、私は最高の舞台を走らなければならないと思っていた。
だから、トゥインクルシリーズという大舞台に行き着いたのも、ごく自然な流れだった。
有名になりたいなんて思った事は一度もないけれど、結果的にそんな通り名がつくくらいには、私は世間に知られるようになっていた。
私は……確かに『孤高』だった。
1人で走って、1人で勝つんだと、固く思い込んでいた。
だけど、そんな私を1人にしてくれなかった人がいた。
私のトレーナーは、一言で言えば『変な人』だった。
トレーナーとウマ娘は、二人三脚で共に勝利を目指すもの。
一般にそう思われていることは、私も知っていた。だけどあの頃の私は、そんな関係を受け入れられなかった。
普通のトレーナーならば、寄らず触らずの関係でまともなトレーニングを施せるなどと決して思わないはず。
そのはずなのに……あの人は、『それでもいい』と言った。
『勝手について行って、勝手に支えるから』……と。
彼の指導は、本当にその言葉通りだった。
彼は私のスペースに決して踏み入らないように、常に気を遣っていた。
貴重な夏合宿トレーニングの時でさえ、直接指導を受けるか、自主トレ用のメニューをこなすかという選択を私にゆだねた。
四六時中、どんな時も、私のことを……ずっと一番に考えていた。
私がレースを走る理由も、あの人は真剣に受け止めてくれた。
「君にとってそれが一番大切な事なら、それは僕にとって一番尊重しなきゃいけない事だ」と、真面目くさった顔で言った。
ダービーの後、原因不明の足の痛みを抱えながらでも菊花賞に出走したいと、私が言った時も、彼は一切引きとめずにトレーニングプランを立ててくれた。
菊花賞では勝てなかったけれど、その代わりに私はトップロードさんたちと長く続く良い関係を築けた。かつての私だったら信じられない事だった。
いつの間にか、『孤高』な私は影を潜めていた。
一度、トレーナーに何のためにここまでしてくれるのかを尋ねたことがある。
私はぼんやりと、きっとこの人は「君のためだから」と恥ずかしげもなく言うのだろうと予想してた。別に自惚れてる訳ではなくて、実際彼は事あるごとに直球で心臓に悪い褒め言葉を私に投げかける時があるからだ。
そして、彼はなんて事ない風にこう答えた。
「君と、君の妹のためだよ」
私はその時、胸の奥に熱を感じたのを……覚えている。
「きっと彼女は僕よりもずっと、アヤベがレースで走ることを楽しみにしていると思うんだ」
きっと、この時からだったのだろう。
「手を抜いたりなんてしたら、きっと怒られちゃうからね。だから、君のサポートには全身全霊を尽くすって決めてるんだ」
私がこの人に、本当の意味で心を許し始めたのは……
1人の男性として、意識し始めたのは……
『孤高の一等星』と呼ばれていた頃、
ずっと星空を見上げていたのに、私は気付いていなかった。
夜空の星は、1人っきりで輝いたりしない……そんな当たり前のことに……
次回
『孤高の一等星』の告白