【本編完結】とある武術家ウマ娘がトレセン学園に転入する話 −流れ星の転校生−【リメイク版】 作:カンヌシ
ドリームトロフィーリーグを走り始めて1年と約半年。
季節はひと周りして、2度目の秋が訪れた。
私『アドマイヤベガ』はリーグ走者として、少ない出走数の中で堅実に勝利を積み重ねていた。
もちろん全てのレースで勝てたわけではないけれど、
どうやら私は「勝率だけで見ればリーグ内1位」という立場になっているらしい。
多くの人がその事を賞賛してくれるけれど、私はそれを素直に喜ぶことが出来ないでいた。
私の勝率の高さなんて、出走数という分母が小さいが故で、それは数値上の表記でしかない。
私よりも遥かに多くのレースに出走しているトップロードさんやオペラオーの方が、リーグ走者として正しい在り方を示している。
だから、賞賛されるべきは彼女たちの方なのに……
と、ある日の夜、そんな話を同室のカレンさんにしていた。
お互い向かい合うようにベッドに腰掛けていて、カレンさんは枕をお腹に抱いていた。座っているだけなのに彼女は愛らしさで溢れている。
そんないつものカレンさんは何か含みのある笑顔でこう返した。
「そんなこと言っちゃダメですよ、アヤベさん。アヤベさんはとっても凄いんですから、そこは素直に喜ばないと」
ニッコリと毒気のない笑顔を、カレンさんは私に向ける。それだけで、彼女の言葉は本心だと感じられた。
「そう……なのかしら。でも、実際の勝利数はあの2人の方がずっと多いのよ。それを考えたら……」
「アヤベさんって、自分の評判をエゴサして調べるタイプじゃないですよね」
私の言葉を遮るように、カレンさんは言った。
「そうね。あまり積極的にはやらないわ」
「だったら、仕方ないですね。アヤベさんのために、カレンが詳しく説明しちゃいましょう!」
ふふん、と彼女は何だか楽しそうに鼻を鳴らす。この話題、そんなに面白いものかしら……?
「ズバリ言いましょう。アヤベさんのリーグ内勝率1位も世間では評判ですが、それよりもっと話題になってるのは、
実は……アヤベさんのトレーナーさんなのです!」
「………え?」
その時の私は、きっと間の抜けた顔をしていたに違いない。
そしてカレンさんは続ける。
「アヤベさんの出走するレースって、観戦チケットにプレミアが付くんですよ。
出走すること自体が珍しいし、そこに殆どの場合トップロードさんとオペラオーさんも出走しますし、ファンとしては絶対に見逃せないレースになるんです。
だから予約倍率は他のレースの6倍に膨れ上がる時もあるんです」
知ってました?と尋ねてきたので、私は首を横に振る。
確かにあの2人はことあるごとに私の出走予定を確認してくるけど……
「そして、アヤベさんはその2人にも何度か勝っています。そうでなくても掲示板は外しません。
それはもう堂々と誇っても良いことですよ」
「それはそうかもしれないけど、良いレースが出来るのは私だけの力じゃなくて……トレーナーが総合的に判断をしてくれるお陰で……」
「そこですよ、アヤベさん♪」
カレンさんの目がキランと光った気がした。
「超強豪のひしめくドリームトロフィーリーグで、あのトップロードさんとオペラオーさん、他の強豪ウマ娘にもピンポイントで出走したレースを勝っている……
『トレーナーはマジで何者だ?』
『チームも持たずアドマイヤベガ専門特化しすぎだろ』
『この2人だけPGリーグやってる』
そんな評価がネットでは散見されてます。」
「そう……だったの。知らなかったわ。」
「はい、つまり少ない出走数で勝利を重ねていることで
アヤベさんの活躍が、そのままトレーナーさんへの評価に直結しているんです!
そこは分かっておいた方が良いと思いますよ♪」
「……」
それは……まあ、悪いことではない。あの人の努力が正当に評価されるのは、担当ウマ娘としては誇らしくも感じる。
「そしてもう一つ、アヤベさんは~……」
カレンさんはいたずら好きな子供のような表情で、囁くように言う。
「『今、ドリームトロフィーリーグで最もトレーナーに愛されてるウマ娘』だって言われてます♡」
「………………へ?」
「嘘じゃないですよ。見てください、ほら」
そんなはずはないと思いながら、カレンさんのスマホの画面を覗き込むと
確かに大手SNSサイトに、そんな文言が多く呟かれていた。
『アドマイヤベガのトレーナーは普通じゃない』
『本来ならチームに分配されるリソースをアヤベ1人に注いでいる。もはや狂気の沙汰』
『これを愛と言わずになんと言う』
「ふふっ、愛されてますね~アヤベさんは。カレンもそう思います」
「っ……バカなこと言わないで。遅いからもう寝るわよ」
「は~い、ふふっ」
そうして私は足早に電気を消すと、ふかふかのベッドに潜り込んだ。
何だか顔が熱くて、その夜は私はなかなか寝付けなかった……
次回
『孤高の一等星』の思い出