【本編完結】とある武術家ウマ娘がトレセン学園に転入する話 −流れ星の転校生−【リメイク版】 作:カンヌシ
BNWと覇王世代のラストラン、その最終直線では彼女たち6人の熾烈な争いが繰り広げられていた。
先頭のテイエムオペラオー 、その左手後方にナリタトップロード、そしてウイニングチケットと続いている。
ビワハヤヒデはこの3人と彼女の右手の柵に囲まれ、抜け出すのが非常に厳しい状況に追い込めれていた。
何を隠そう、この陣形にハヤヒデを追い込んだのは当のウイニングチケットである。「ビワハヤヒデに勝つ事」……それが彼女がラストランに掲げた秘めた目標であった。
マリンアウトサイダとの特訓で、ウイニングチケットは相手の呼吸と同調し一時的に気配を消す技術を身につけていた。
もちろん、チケットより後続にいるウマ娘には彼女の姿は見えているので、効果があるのは狙った相手の背後にいる時のみ。ビワハヤヒデの「チケットは真っ向勝負以外はしない」という認識を逆手に取った搦め手だった。
この作戦はおそらくこの一度限りしか通じない。チケットがハヤヒデと同じ立場のレース走者として戦える最後の舞台。最大のライバルに勝ちたいという彼女の最後の『意地』である。
「ハアアアアアアアアアアア!!!!」
チケットはハヤヒデを出し抜くことに成功した。ハヤヒデがその位置からチケットを追い越すのは非常に困難である。
そして、追い討ちをかけるように後続から2人のウマ娘が切り込んできていた。
アドマイヤベガとナリタタイシン、この世代のドリームトロフィーリーグを代表する追い込みウマ娘である。
『ターフの偉大なる演出家』と呼ばれ、皇帝とも競い合ったあるウマ娘いわく、人々が追い込みバに惹かれるのは「夢を見るから」なのだ……と。実際、この2人は方向性は違えどそれを体現していた。
ナリタタイシンは勝率こそ世代の中では低いものの、勝利したレースは見た者の記憶に深く深く刻まれる圧巻の走りを見せた。
彼女の武器は「加速力」である。彼女は常識的に考えて追いつくことのできない位置から、先頭のウマ娘を差しきるのだ。まるで獲物を狩る猟豹の如き瞬発力で、達人の刀の鞘走りの如き滑らかさで、彼女の脚はターフを撫で斬る。
猟豹と言えど狩りに失敗することもある。しかし、彼女の脚は「届きうる」という夢を見せてくれる。それがナリタタイシンというウマ娘の追い込みだった。
一方、アドマイヤベガの武器は「総合力」である。位置取り、ペース配分、仕掛けるタイミングなど、レースを走る上で必要な判断力と身体操作技術が「異様に高水準」なのだ。「追い込みの理想の走りはアドマイヤベガを見れば分かる」と多くのトレーナーに言わしめる程だった。
彼女は出走数はライバルたちと比較して多くはない。しかしその分、他と比べて1つのレースで勝つための分析をトレーナーとともに濃密に行う。彼女の能力を誰よりも理解しているトレーナーが立てた作戦を、アドマイヤベガは持ち前の冷静な判断力と、体幹に支えられた身体能力で確実に完遂するのだ。そうして気付けば、ゴール板を先頭で駆け抜けるのは彼女なのだ。
ある意味、アドマイヤベガの武器は「トレーナーとの繋がり」と言えるかもしれない。チームを持たず彼女1人のために全て捧げるトレーナーと、その献身に全幅の信頼を持って応えるウマ娘。一心同体という言葉は、その時代ならこの2人以上に似つかわしいコンビは決していないと、誰もが思ったものだった。
そんな2人の織りなすレースを見たならば、この2人に夢を見ずにはいられない。トレーナーとともに走るウマ娘の生きた理想像、それがアドマイヤベガだった。
ダッダッダッダッダッダッ!!!
ダッダッダッダッダッダッ!!!
今、後方で2人の追い込みバが一瞬視線を交わした。
ゴールまでの道筋は互いに確保している。
「「すぅ……」」
溜めた脚を燃焼させるための酸素を2人が瞬間的に取り込む。
先に飛び出したのは、
『孤高の一等星』の方だった。
次回
ラストラン④