【本編完結】とある武術家ウマ娘がトレセン学園に転入する話 −流れ星の転校生−【リメイク版】 作:カンヌシ
5話 チーム『シリウス』
(……どうしよう……)
マリンアウトサイダは、トレセン学園に転入してから『初めて』の事態に戸惑っていた。
(……
彼女の後方、10メートルほど間合いをキープしながら、何者かがコソコソとついて来ていた。
(私を追ってるのは確実だけど、敵意は感じないし……何が目的だろう? というか……)
マリンにとって、このトレセン学園は普通の学校とはかけ離れている印象があった。
例えば、ところ構わず突然演劇が始まったり、謎の巨大着ぐるみが闊歩していたり、発光してる人間がいたりと、とにかく普通の学校では起こり得ないことが日常的に発生していた。イタズラなんて毎日のように起こっている。
だから、今回は転入生である自分に何者かの興味の矛先がたまたま向いただけだと思っていた。
(アレはそもそも尾行なのだろうか。だって3人とも……『頭に木の枝巻いて、両手に更に木の枝持ってる』だけだし、逆に目立ってない?)
しかも時々『ササッ』『コソコソ』とかオノマトペを口で言っている。ちょうど今、謎の尾行者たちは他のウマ娘が座っているベンチの裏に移動した。
(座ってる生徒も道行く生徒たちも気付いてない様子だし。普通気づくよね……あれ? 私がおかしいのかな……)
マリンアウトサイダは尾行されること自体は初めてではない。UMADに所属していた頃は世代最強と呼ばれるマリンへ挑戦したいと願う者や、過去の喧嘩の報復をしかける者が大勢いた。
そんな時、彼女は人気の少ない場所まで移動した後で全ての喧嘩を買っていたのだ。
(……このまま
マリンアウトサイダは意を決して振り返る。
「……そこのお方々、私に何かご用ですか?」
……………
…………
………
……
…
数十分前……
「トレーナーさん、紅茶をご用意いたしましたわ。どうぞ」
カチャ……と優雅な動きで、メジロ家の至宝『メジロマックイーン』は自身のトレーナーのデスクにティーカップとソーサーを置く。
「ああ、ありがとうマックイーン。すまないな、メジロ家の令嬢に召使いみたいなことをさせてしまって」
「もう、またそんなことをおっしゃって。私たち、出会ってからどのくらい経つとお思いですの? お茶の用意くらい、なんてことありませんわ。
いつも申してますでしょう。トレセン学園では私はあくまで、いちレースウマ娘に過ぎません。チームの為に身を粉にして働くトレーナーさんを支えるのも、チームのエースとしての役目だと自負しておりますわ」
「ははは、そうだったな。僕がチーム『シリウス』を引き継いでそれなりの年月が経ったし、マックイーンも……成長したんだなぁ」
「ふふ……じじ臭いですわよ、トレーナーさん。まだお若いでしょう、貴方は」
トレーナーは座ったまま、そばに立つマックイーンに顔を向けた。マックイーンもトレーナーの目線に気付いて微笑んだ。
メジロ家の至宝、ターフの名優と呼ばれる彼女は初めてトレーナーと出会った時より少し背も伸び、大人びた雰囲気を纏っている。女優だと誰かが言っても信じてしまいそうなほど、彼女は美しく成長していた。
「では、私はチームの皆さんの分の用意をしておきますわ」
マックイーンはそう言って給湯スペースへと戻ってゆく。その背中にはチームの柱として皆を支える立派なリーダーの風格が漂っていた。
「本当……成長したな」
とトレーナーが呟くと、コンコンとトレーナー室のドアがノックされた。そのままガチャリと音がして1人のウマ娘が入ってくる。
「こんにちは。トレーナーさんからチームメンバーに招集がかかったとメールがありましたけど……」
その鈴のような美しい声は、異次元の逃亡者『サイレンススズカ』のものだった。
「やあ、スズカ。皆まだ来てないから、座って待っててね」
「こんにちは、スズカさん。今、お茶をご用意いたしますわ。お茶請けのお菓子もございますのよ」
「ありがとう、マックイーン。頂くわ」
マックイーンは2人分のお茶を注ぐと、スズカの正面のソファに腰掛ける。
「トレーナーさんも、いつまでパソコンと睨めっこしていますの? スズカさんもいらっしゃったのですし、こちらで一緒にお茶に致しませんこと?」
「うーん、ごめん。ほらウチのチームのあの娘たち、これから重賞レースに挑戦するだろ? その資料を早めにまとめておきたくて」
あの娘たちとは、シリウスに所属する前髪ぱっつんのウマ娘、タレ目のウマ娘、黒髪ボブのウマ娘の3人である。
彼女たちは他の主要メンバーと比べると活躍の機会は少ないが、地道な努力を重ねて、ついに重賞にまで手が届きそうなほど成長していた。
「まぁ、そうでしたの。相変わらず、チームのこととなると仕事に没頭してしまいますのね。それにしても感慨深いですわ……私もあの娘たちの先輩として、精一杯応援しなくては」
マックイーンは優しく微笑んだ。
スズカはお茶菓子を食べながら「これ、スペちゃんが好きそうだわ」とか考えている。
「それはそれとして、私たちを呼び出した理由もお聞きしたいですわ。次のファン感謝祭についてですの?」
「いや……」
ガララっとトレーナーはホイールチェアを引いて、マックイーンたちの方を向いた。
「みんなが集まってから言おうと思ってたけど、君たち2人には先に伝えておこうかな。もしかしたら……このチームに新しいメンバーが加わるかもしれない」
「えっ……」「?」
と2人のウマ娘は驚いた。
「この様な時期に? 一体どなたが……」
「あ、もしかしてですけど……あの噂の転入生ですか?」
「そう、スズカの言う通り。マリンアウトサイダだ。ただ、まだ加入すると決まった訳じゃない。むしろ、それを決める為にみんなで集まって話し合おうと思ったんだ。僕たちと彼女は、お互いをほとんど知らないからね」
マックイーンが手に持ったお茶碗を見つめる。
「マリンアウトサイダさん……格闘ウマ娘から、突然レースウマ娘へと転向した噂の方ですわね。私はまだお会いしたことはありませんが……確か今は、基礎づくりのために教官指導トレーニングを受けていると聞いた覚えがあります」
「ああ、まさにその教官から話を持ちかけられたんだ。実は彼は僕の昔馴染みでね。それでもし可能なら、彼女の面倒を見てやれないかって頼まれたんだ」
そして、トレーナーは腕を組んで俯いた。
「教官いわく、そのウマ娘は『迷子』のように見える……って。その言葉がどうしても気になってね」
トレーナーの真剣な眼差しにマックイーンはドキリとした。そして、それを誤魔化すように紅茶を口にした。
(はぁ……この人は、そんなウマ娘を放っておける性格ではありませんものね。そこが良いところでもあるのですが……)
「それで先にここに来ていたライスシャワーとスペシャルウィークに、マリンアウトサイダを連れてくるようにお願いしたんだ」
「あら、そうでしたの。てっきり私が1番乗りだと思っていましたが」
マックイーンはお茶に口をつける。その仕草にも令嬢然とした気品があった。
「うん、たまたまその2人は近くにいたらしくてね。すぐにここに来たから頼んだんだ。ああ、でも……」
トレーナーは言葉を続ける。
「例によって、何故かゴルシがタンスの中から飛び出してきてなぁ。『ゴルシちゃんに任せろー! オラァ行くぞ、スペシャルライス!』って言って2人を引っ張って行ったんだ。何も起こらなければ良いんだが……」
ブッフッ!っとマックイーンがお茶を吹き出した。
「そ、それは、危険しかありませんわ! トレセン学園とUMAD間に大戦争が引き起こされても不思議ではありませんわ!」
「そうかな?」
コンコン!
と、トレーナーがのんきな返事をしたところで再びノック音がした。しかし、誰も入ってくる様子がない。
「おや、誰だろう? 入ってこないならチームメンバーではないのかも。僕が出るよ」
席を立ち、入り口に向かったトレーナーがドアをガチャリと開けると……
そこには真っ黒なサングラスを掛けたライスシャワーが立っていた。
プルプルと震えていて、見えなくてもサングラスの下が涙目になっているのが分かる。
「お……お兄さまぁ〜〜〜!!! うわぁ〜〜〜ん!!!」
ライスシャワーは泣きながらトレーナーに抱き付いた。
「なっ……ライスさん!? どうされたのですか!?」
マックイーンは声を上げる。
スズカも驚いた様子だ。
「ライス! 一体どうしたんだ?」
トレーナーがライスシャワーの肩を掴んで引き離すと
「失礼します」
と言う声と共に、入り口から黒髪のウマ娘がツカツカと入ってきた。左右の肩にダランと脱力したゴールドシップとスペシャルウィークを担ぎながら。
「ゴールドシップさん!?」
「スペちゃん!?」
と、2人のウマ娘が驚いているのも気にせず
「ここがチーム『シリウス』の拠点ですか?」
マリンアウトサイダは鋭い目つきで言い放つのだった。
ーーーーー
遡ること、十数分前……
「よーし、スペシャルライス! 覚悟はいいか!? アタシたちはこれより例の外宇宙から飛来した未確認宇宙生物の捕獲作戦を決行する! ほれ、このグラサン掛けろ。宇宙生物と戦う時にはグラサンだってワイマール憲法にも書いてあるんだ」
ゴールドシップがポン・ポンとスペシャルウィークとライスシャワーの手にグラサンを乗せる。
「あのーゴールドシップさん、私たちは転入生のウマ娘を連れてきてって頼まれただけで……」
「そ、そうだよ、ゴルシさん……それに転入生さんを宇宙生物って呼ぶのはちょっと失礼だし……ワイマール憲法にそんなの絶対書いてないし……ライスたちの名前合体してるし……」
2人は案の定困り顔だ。
「じゃあかしいわい、スペライス! お前たちはトレーナーの、あの言葉の裏の意味に気付けなかったのかよ!」
ゴルシは涙を目に溜めて熱弁する。
「あれは助けを求めていたんだ! 既に真実を口にしたら頭の生え際が無限に前進する改造を施されてしまっていたんだ! アタシたちはトレーナーを救わなきゃならない! その為にあの宇宙生物を生捕りにするぞぉ!」
「生え際が前進するんですか!? それは……怖いですね」
「ライス……もう、嫌な予感しかしないよぉ……」
バサッとゴルシがどこからか謎のズタ袋を3枚取り出し、1人1枚ずつ配る。
「これが捕獲装置だ。扱いには注意しな!」
「あ、あれ……何故でしょうか? この袋見てると何かを思い出しそうな……」
「ライスも……なんでかな?」
もしかしたら、2人は別世界では同じ袋によって拉致されていたのかも知れない。今回は拉致する側だが。
「おぉ! 噂をすれば……ヤツだ! こっそり近付くぞ。バレないように気をつけろ」
そして、ゴルシは歩道を歩いてるマリンアウトサイダを発見する。
彼女は授業が終わり、自主トレーニングの用意をするため寮に戻る途中だった。
スペとライスは、もう半分諦めてゴルシに従っていた。3人はグラサンを掛け、木やベンチの陰に隠れながらマリンの後を尾行を始めた。
「……そこのお方々、私に何かご用ですか?」
まあ、バレないわけがないのだが。
「とぉう!!!」
ゴルシは颯爽と飛び出して、マリンの前に立ちはだかった。
「我々はチーム『シリウス』日本支部の者だ! トレーナーの毛髪を守る為! マリンアウトサイダ、貴様の身柄を拘束する! スペ、ライス! フォーメーション・Gだ!」
「え、ええ!? 何ですかそれ!? ああもう、何とかなれぇー!!」
スペシャルウィークはズタ袋を構えて、ゴルシと共に突撃した。
「えっ! スペさん!? こんな悪い人みたいなこと、ダメだよぉー!」
そんなライスの叫びも虚しく、グラサンのウマ娘2人はマリンに突撃する。
そして……
「ふがっ!?」「はうっ!?」
チーン………と5秒も経たないうちに、ゴルシとスペは地面に転がっていた。
マリンは2人の連携を事も無げに躱して、首を後ろからトントンとやったのだった。
「……ふむ。喧嘩を売られたかと思いましたが……これは何かが違う様な……」
一瞬の出来ごとに、ライスシャワーはガクガク震えるばかりだった。
「そこのあなた」
「ひ、ひゃい!」
ライスはピーンと背筋と耳と尻尾を伸ばした。
「そのチーム『シリウス』の拠点へ案内してください。リーダーは別に居ますよね? もしもこれが本気の喧嘩ならば、場合によっては……」
マリンが闘気を出して威嚇する。
「ひ、ひぇ〜〜ん!」
ライスは涙目で、マリンをトレーナー室まで案内したのだった。
ーーーーー
「と、気絶させた2人をその場に放置するのも忍びないので、ここまで担いで来たのですが……」
と、マリンが事の経緯を説明する。
『シリウス』のトレーナー室のテーブルを挟んだ2つのソファで、片方はトレーナーとマックイーン、もう片方はマリンアウトサイダが向かい合って座っている。
「「うちのゴールドシップが本当にすみませんでした」」
トレーナーとマックイーンが綺麗にシンクロして頭を下げた。
「……なんだか、子供が悪さをした夫婦みたいですね」
「えっ、まあ、夫婦みたいだなんて……」
マックイーンは顔を微かに染めて片手を頬に当てる。
「ははは、そうだよ。マックイーンはまだ学生だし、お母さんってよりも手のかかる子供みたいなものだ痛たたたたたた!!!!」
マックイーンはテーブルの下でトレーナーの足を踏んだ。
気絶した2人はというと、床にゴザを敷いて寝かせている。サイレンススズカはスペシャルウィークを膝枕していて時々「可愛い…」と呟いてる。
ライスシャワーはソファの側で落ち着かない様子で立っていた。
なんとも言えない空気の中、突然トレーナー室のドアが開き、「こんにちはー!!!」と元気な声でウイニングチケットが入ってきた。続いて後ろから3人のウマ娘も入ってくる。
「あれっ? マリンさんだー!!! どうしてここに? え、もしかして……ウチのチームに入るのー!?」
「チケットさん……チケットさんも、もしかしてチーム『シリウス』のメンバーだったのですか?」
「うん、そうだよぉ!! というか、トレーナーさんは何で足抱えて悶絶してるの? あと、スペちゃんとゴルシは、何で寝てるの?」
ピョコンピョコンと耳を動かしながら、チケットは不思議そうな顔をする。トレーナーは足をさすりながら座り直して言った。
「あー……とりあえず、状況を整理しようか。みんな、適当に座ってくれ」
そう言って、トレーナーは皆にことの経緯を説明するのだった。
…
……
………
「……という訳で、どうかな? マリンアウトサイダ。もちろん、即決する必要はないよ。まずは仮メンバーとして、少しの間一緒にトレーニングをしたり、他のメンバーと交流してから決めて貰いたい」
チーム『シリウス』のトレーナーはとても爽やかな人柄で、マリンは好感が持てた。
彼は数々の経験を経て、ベテラントレーナーへと成長していた。
マリンは考えていた。走りについて色々と学べそうだし……もしかしたら、自分の『夢』についてヒントを得られるかもしれない、と。
レースへの出場もゆくゆくはチームを通しての事となるので、間違いなくメリットの方が大きいのは確かだろう。
「……それは、私のようなレース未経験者には願ってもないことです。ご迷惑でなければ、是非お願いしたいです」
それを聞いてトレーナーは微笑んだ。
「うん、分かった。さっきも言ったけど、まずは仮メンバーとしてやっていこう。よろしく、マリンアウトサイダ」
「はい、こちらこそ。よろしくお願いします。トレーナーさん」
「うおおおおおおおお!!! やったあああああ!!!! マリンさんが仲間になったあああああ!!!! 嬉しいよおおおおおお!!!」
チケットがマリンの後ろから抱き付いた。
スキンシップに慣れていないマリンは困り顔だが、嬉しそうだ。
「チケットはマリンアウトサイダとはクラスメイトだったよな? 他のみんなも自己紹介しようか」
そうして、皆が(寝ている2人はしばらく後で)自己紹介を終えると、少しの間マリンは『シリウス』メンバーとの談笑を楽しんだ。ナリタブライアンはどこかで昼寝しているのだろうから、顔合わせは後日とのことだった。
レースにあまり詳しくないマリンでも、話を聞くと、とにかくここのチームは凄いという事は理解できた。メンバーは皆レースで輝かしい成績を収めている。
メジロマックイーン、ウイニングチケット、ライスシャワー、ナリタブライアン、サイレンススズカ、スペシャルウィーク、ゴールドシップ
聞くだけでもどのくらいのレースを制したのか想像がつかない。
前髪ぱっつんのウマ娘、タレ目のウマ娘、黒髪ボブのウマ娘の3人もOPリーグを合わせて何勝かしており、これから重賞にも挑戦すると言っていた。
詳しい事はまた、後日するとして、マリンはチーム『シリウス』のトレーニング室を後にするのだった……
………
……
…
「トレーナーさん、彼女の印象はいかがですか? とても真面目で実直そうな方だと私は感じましたが。ストイックな武術家のイメージそのままで」
マリンが去った後、マックイーンがトレーナーに尋ねた。
「うーん、僕もほとんど同じ印象だなぁ。まだ初対面だから、そこまで分からなかったけど、あの教官の勘は結構鋭いからね。とにかく僕は全力でサポートするさ」
「そう……ですか、私もお力になれることがあれば、何でもおっしゃって下さい。あなたが認めるならば、あの娘はもう、私たちの大切なメンバーなのですから」
マックイーンはトレーナーに微笑みかける。同時に、レースウマ娘の苦しみも悲しみも知り、そして見てきた彼女だからこそ、マリンの今後の幸せを願わずにはいられなかった。
…………
………
……
…
チーム『シリウス』のトレーナー室からの帰り道。
マリンアウトサイダは歩きながら学園の広場にある『切り株』の方をなんとなく見ていた。
(そう言えば、クラスメイトに聞いた話だと、レースに負けた悔しさをあのウロの中に叫ぶと気分がスッキリするらしい。利用するウマ娘はかなり多いのだとか。でも……あんな切り株に悔しさをぶつけて、意味があるのだろうか……?)
マリンには、あのウロに向かって叫ぶ自分の姿を想像できなかった。すると。そんな思考を遮るようにピリリリン!とスマホの着信音が鳴った。
画面を確認するとルドルフから「本日は個人レッスンが可能」とメッセージが表示されていた。
「あ、そういえば……会長の個人レッスン、私がどこかのチームに所属するまでの間って言ってたな……」
マリンは名残惜しいと思った。だが、生徒会長という多忙な身でレース未経験者な自分の面倒を見てくれていたのならば、もう十分に尽力してくれたと考えても良いだろう……と納得した。
「『シリウス』のことを伝えて、今回で最後にしないと……」
マリンは俯いて、スマホをポケットに仕舞った。
−−−−−
マリンはルドルフと合流し、チーム加入について彼女に伝えた。
「そうか、『シリウス』に……! おめでとう、マリンアウトサイダ。これで君もレースウマ娘として本格的なスタートを切ることが出来るな」
「はい、会長のお陰でレースに必要なことの多く学べました。本当に、今までお世話になりました。ありがとうございます」
マリンは深く深く頭を下げた。どれほど感謝してもし足りない気持ちだった。
「しかし、君がチーム『シリウス』に入るとはな。あのチームは学園でもっとも賑やかなチームと評判だ。その賑やかさ故に問題を起こす事も多々あるが……それと比例して実績も多い」
ルドルフが困ったような笑顔になる。
「そうですね、私も初対面の時はズタ袋で誘拐されそうになりました。その後で、チームのトレーナーとメンバーたちと語らう機会があったのですが、とても賑やかな人たちでした」
「ふふっ、そうだろう…………え、今、誘拐と言ったか?」
「ゴールドシップさんの発案だったそうです。とても面白い方ですね」
「ああ……そうか、ゴールドシップか……彼女の対応には生徒会も風紀委員会も手を焼いていてな……君も、気を付けてくれ」
ルドルフが遠い目をしている。あのヘッドギアのウマ娘は他に何をやらかしたのだろう?とマリンは興味を持った。
「さて、時間も限られている。最後の個人レッスンを始めようか」
「はい! よろしくお願いします!」
マリンはビシッと姿勢を正して礼をしたのだった。
次回
間話:『ハルウララ』というウマ娘