鈴芽のマフラーの結び方がシーンによって違うので、背景を勝手に妄想しました。
記憶を頼りに書いたため、公式設定と異なる部分や他の方の二次創作作品と被る部分があるかもしれません。ご容赦下さい。
冬の朝は結構好きだ。
まぁ、
玄関先で靴を履きながら、制服の上にマフラーをぐるぐるっと巻いて、首の後ろできゅっと結ぶ。
高二の頃とか、
* * *
——すずめ、ほうら。おいで。
かすかに思い出す、遠い遠い昔の声。
——今日はしばれるから、ちゃあんとマフラーするべ。ね。
そう言いながらお母さんはいつもちょっとしゃがみ込んで、私にマフラーをぐるぐるっと巻いて、首の後ろできゅっと結んでくれた。私の大好きな黄色。これを巻くともこもこになって、どんなに寒い日でも無敵になった気がした。
* * *
あの日のことはよく覚えていない。ただ、すごくゆきがふってきて、はやくおかあさんをさがしにいかなきゃって思って、いつもみたいにマフラーをくびのうしろでむすぼうとしたけど、どうしてもおかあさんみたいにうまくむすべなくって、へんなむすびかたになっちゃったのは覚えてる。いつもはどんなすごいゆきのひでもへっちゃらだったのに、なんかきょうはそとにでるのがこわい。むすびかたがいつもとちがうからなのかな。
* * *
ずっと忘れてたけど、今ならば、わかる。あの日、お母さんみたいに私にマフラーをぐるぐるっと巻いて、首の後ろできゅっと結んでくれた人がいた。そしたらなんだか、ちょっとだけ、こわくなくなったんだ。
* * *
だから私は今日もこうやって、ちゃあんとマフラーを巻く。今の私は、後ろ結びなんて秒でできる。何しろもうね、包帯法だって完璧なんだよ。ピンクのマフラーをぐるぐるっと巻いて、首の後ろできゅっと結ぶと、やっぱり無敵になった気がする。将来が不安になる夜もあるけど、毎朝この儀式をすると、なんだか、未来なんて怖くないって思えてくる。この瞬間が好きだから、冬の朝が好きなんだ。
「行ってきます!」
玄関のドアを開ける。冷たい空気が頬を刺すけど、きゅっと結んだマフラーがあればへっちゃらだ。裏庭のスズメのさえずりに交じって遠くの漁港の喧噪がこの高台にもかすかに届いて、なんていうか、今日も世界が動き出してるって感じがする。リュックに詰めた
サドルにまたがって、ぐいっとペダルを漕ぎ出す。そのまま加速する。カーブを曲がると視界が一気に開けて、キラキラした海の青が一面に広がる。首の後ろでマフラーが潮風にはためいてるのがわかる。自転車は無敵の私を乗せて、見事な冬晴れの坂道を走り続けてゆく。光の中をずっとずっと、もっと先まで。私、きっと行けるよね?
(了)
【あとがき】
評価、感想・批評、お気に入り、ここすき、SNSシェアなど、頂けるとうれしいです! 本当に励みになります。
簡単なアンケート・感想フォーム作りました。全問任意なのでご協力頂けるとうれしいです。
https://forms.gle/E3GM8VYDLGAJNznb8
岩手弁(沿岸)は自信ゼロです。最初は「こっちゃこ」「あべ」とか書いてたんですがそこまで方言使わないかと思ってやめましたw 方言をまったく使ってない可能性も高いですが、環さんが後半少し東北弁が出ていたので、椿芽さんもこのくらいは言うかなと。
ラストに『ほしのこえ』の台詞の一部をお借りしています。『すずめの戸締まり』との共通項だと勝手に思っている部分です。
Pixivにも投稿しています。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19842873
PDF・EPUBダウンロードはこちら:
https://a-out.booth.pm/items/8163212