イナズマイレブンGO ブリザード   作:アロイ

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第12話 戦慄!氷帝学園!!

 

 次の日。白恋中のミーティング室に、虎白たちサッカー部は集まっていた。

 

「やっぱり氷帝学園が勝ち上がってきたか…」

 

 別ブロックの準決勝が終わり、決勝戦の相手が決まった。

 

「連勝もここでストップだな」

 

 石が気を削ぐようなことを言うが、決勝戦まで来て、今さら弱気になるような者はいない。

 

「そんなに強いところなんですか?」

「氷帝学園は、毎年白恋中と全国の座を争う、サッカー名門校ズラ」

「化身使いのシードが何人もいるらしいぞ」

 

 その情報が確かなら、白恋はこれまでにない苦戦を強いられるはずだ。

 

「中でも、キャプテンでエースストライカーの『美幌(みほろ)礼貴(あやたか)」は、別名“氷原の皇帝(エンペラー)”とも呼ばれてるそうだ」

 

 その別名に、虎白の耳がピクリと反応する。

 

「“氷原の皇帝”…?」

 

 何だその、雪原の皇子(プリンス)のような異名は。吹雪に憧れる者として、尚更、負けるわけにはいかなくなった。

 

「皇帝って、何だか怖そうな人ですね…」

「う、うん」

 

 人物像を想像して、怖気付く部員たち。

 

「僕の方でも調べてみたが、敵の情報は伏せられていて、彼が優秀な選手だということ以外、ほとんど分からなかった」

 

 勝敗指示に従っている以上、正確なデータが手に入らないのは仕方がないことだ。

 むしろ、情報統制が敷かれているにも関わらず、名前が出回っている美幌の強さが規格外なのだろう。

 

「だから次の試合では、突破力が重要になってくる」

 

 攻撃は最大の防御。どんな相手でも、こちらのペースに巻き込んでしまえば勝てるはずだと、吹雪はそう結論付けた。

 

「そのためにも、試合開始からフォワードは雪村と雪守の二人でいく」

「はい!」

「っ…」

 

 吹雪から伝えられた作戦に、雪村がギリっと奥歯を噛む。

 雪村は、虎白の強さは認めている。それでも、吹雪は自分の強さを信じていないから、彼女をFWに起用したのだと悔しくなった。

 

「今のキミたちが力を合わせれば、どんな相手とだって戦えると、僕は信じてる」

 

 吹雪がミーティングをまとめに入る。

 

「キミたちにとっても、全国大会出場を懸けた大事な試合だ。全力で挑もう!」

「「はい!」」

 

 部員たちが声を揃えて返事をする。その後、グラウンドで練習するため、それぞれ退室していく。

 

「よっしゃ! 俺ら1年も必殺技の猛特訓だ!」

「今からですか…!? 次の試合にはとても間に合いませんよ…!」

 

 小樽の急な提案に、伊富が悲鳴を上げる。

 

「まあ、いいんじゃない?」

「すごい必殺技を編み出してやるぜ!」

「み、みんなやる気だなぁ…」

 

 穏やかに微笑む氷里と、奮起する王鹿の後ろを、洞爺が自信なさげについていく。

 そこから少し離れながら、思いつめた表情の雪村もミーティング室を出ていこうとする。

 

「……」

 

 虎白は、そんな雪村を目で追いながら、昨日のことを思い出していた。あの日の別れ際、急に様子がおかしくなったのが、心に引っかかっていたのだ。それに、ミーティング中もどこか張り詰めた様子だった。

 

「雪村くんがどうかしたんですか?」

 

 虎白の視線を追った白咲に話しかけられ、疑問を口にする。

 

「気のせいかもしれないけど、いつもと様子が違う気がして…」

「そうですか…? オレには、いつも通りの雪村くんに見えますよ」

「そっか…。うん、ならいいんだ」

 

 白咲に否定され、勘違いだったと納得する。それでも、どこか雪村の様子が気になる虎白だった。

 

 

 部員たちが個人練習に取り組む。各々のポジションに合った練習や、必殺技の特訓を進めている。

 そんな中、雪村は以前に虎白が作ったタイヤ特訓の場所にいた。

 

「はあああーッ!!」

 

 重たいタイヤを蹴りながら、雪村は考える。

 

 吹雪センパイは、彼女を目指す必要はないと言った。自分の力も、雪守の力も、一つの大きな力になる、と。

 

 けど、それじゃダメなんだ。

 

「アイツは、化身を使いこなせるようになった」

 

 強くなるっていうのは、チームメイトに頼られる存在、つまりエースストライカーそのものだ。

 

「白恋のエースストライカーはオレなんだ!」

 

 もっと強くなる。アイツの力なんか必要ないくらい強くなる。次の試合でそれを証明して、自分だけの力で白恋を全国大会に導く。

 

 ──そうしたら、吹雪センパイもオレのことだけを認めてくれるはずだ。

 

「ぐわぁッ…!?」

 

 考え事に夢中だった雪村が、反動で跳ね返ってきたタイヤに吹き飛ばされる。

 

「クソッ…!」

 

 拳を握りしめながら立ち上がり、再びタイヤを蹴る。そうして、雪村は練習が終わるまでの間、ずっとタイヤを蹴り続けていた。

 

 

 

 ──地区予選決勝当日。

 

『──白恋ファンの皆さん、お待たせしました! ホーリーロード地区予選もいよいよ大詰め! 北海道地区予選決勝、“氷帝学園”対“白恋中”の一戦を、角間香の実況でお送りします!』

 

 満員のスタジアムが、大歓声に揺れる。

 

『名門同士が激突するこの一戦。果たして、ホーリーロード全国大会に駒を進めるのは、Aブロックを制した白恋中かァ!? Bブロックを制した氷帝学園かァ!?』

「アハハハハ、応援ありがとうー!」

 

 氷帝学園のキャプテン美幌は、歓声に応えるように、観客席に手を振ってファンサービスをしている。

 

「あれが、あの皇帝…」

「イメージと違うズラ…」

 

 白恋が抱いていた恐ろしいイメージとは裏腹に、本人は陽気な人物だった。長い銀髪に深い藍色の瞳。皇帝というよりも、王子といった方が相応しい容貌だった。

 

『さぁ、両チームともポジションにつきましたァ! 間もなく試合開始となります!』

 

 ホイッスルが鳴るまでの間、FWとして最前線にいる美幌が、虎白たちに話しかける。

 

「白恋…キミたちの反乱はここでストップだ」

 

 白い歯を見せながら挨拶代わりの挑発をする。

 

「管理されたサッカーこそ究極の美! 昔のサッカーのように、汗と泥に塗れた野蛮なスポーツとは違う」

 

 独自の美学を説く美幌。その言葉通り、彼の身につけているスパイクやユニフォームは、新品同様に土汚れの一つもない。

 

「勝つために必死になるのは見苦しい。与えられた役を完璧にこなし、その上で観客を魅了する。今のサッカーは、もはや芸術ッ!」

 

 ポカンとしている白恋中をよそに、聞かれてもいない管理サッカーの美しさを熱く語る。

 

「シードの誇りに懸けて、この試合はボクたち氷帝が勝たせてもらう!」

 

 変な決めポーズで、白恋に宣戦布告をする。

 

「な、なんだこいつ…」

 

 白恋中のメンバーはドン引きしていた。独特の雰囲気に気圧される中、虎白が美幌を強く見据える。

 

「最初から勝敗の決まってるサッカーなんて、サッカーじゃないよ」

 

 真っ向から美幌の主張を跳ね除ける。その瞳の輝きは、以前よりも強さが増していた。

 

「本気で勝ちたいと思う気持ちが、サッカーを楽しくさせるんだ。それは全然、見苦しくなんてない」

「フッ。だったらキミたちは、今日の試合でサッカーが嫌いになってしまうだろうね」

 

 既に勝敗は決まっている試合だと、皮肉を口にする美幌。虎白はそんな彼を強く見返し、啖呵を切った。

 

「私たちは負けない。ホーリーロードで優勝して、本当のサッカーを取り戻してみせる!」

 

 虎白の闘志がチームメイトに伝わる。気圧されていた選手たちも、顔つきが変わった。

 

「その威勢がどこまで続くか見物だね」

 

 全国大会出場を懸けた戦いが、今始まる。

 

 

 白恋は、虎白がFWとして前に出ているので、MFが3人(洞爺、日高、氷里)、DFが5人(北厳、石、小樽、伊富、王鹿)のフォーメーションだ。氷帝も振り分けは同じだったが、ややディフェンスが下がり気味だった。

 

『氷帝のキックオフで試合開始です!』

 

 ホイッスルが鳴り響いたのと同時に、美幌が左のFWにパスを出す。そこから後ろにボールを回し、左サイドを中心に攻め上がる。

 

『氷帝がパスを繋いで上がっていく!』

 

 それは、虎白がいる方向とは反対側で、競り合いになることを強く警戒している動きだった。

 

「止める!」

「行かせるか!」

 

 雪村と日高がドリブルをしている相手へと突っ込んでいくが、簡単にあしらわれてしまう。

 

『雪村と日高が躱されたァ!』

「くっ…!」

「速いっ…!」

 

 そのままドリブルでフィールドを突き進み、FWに繋げるためにパスを出した。

 

「北斗!」

「おう!」

 

 名前を呼ばれた選手がボールを受け取り、白恋陣内に深く攻め込もうとする。

 

「先取点はもらった!」

「そうはいくかよ!」

 

 ドリブルで駆け上がる北斗に、小樽が勢いよくスライディングを仕掛けた。予想を上回るスピードに不意をつかれる。

 

「…なにぃ!?」

『小樽がボールを奪ったァ!』

 

 立ち上がった小樽は、へへっ…と得意気に笑う。その顔は自信で満ち溢れていた。

 

「特訓の成果だぜ!」

 

 虎白や雪村の成長が著しいが、その二人以外のメンバーも、試合を勝ち進む度に確実に強くなっていた。入部して日が浅い1年生たちも、氷帝学園の選手と渡り合えている。

 

「よくやったぞ小樽!」

「スゴいズラ!」

 

 日高と北厳たち2年生が、そんな小樽のプレーを褒める。

 

「やれやれ。そんな泥くさいサッカーで勝とうだなんて、やはり美しくない…」

 

 小樽のディフェンスを見ていた美幌が、呆れ混じりに頭を振る。

 

「俺たちでもやれるぞ! …洞爺!」

 

 小樽の活躍により、自信をつけた1年生たちが、ボールを繋いでいく。

 

『今度は白恋がパスで繋いで上がっていく!』

「あいつら、いつの間にこんなに強く…」

 

 遠くで見ていた雪村が呟く。だが、そこに含まれていたのは賞賛ではなく、微かな嫉妬と焦りだった。

 

「雪守さん!」

 

 勢いに乗った白恋が、どんどん前線を押し上げていく。

 

『さぁ、ボールは雪守へと繋がった!』

 

 そして、ついに虎白までボールが届く。

 

「本当にみんな強くなった…」

 

 勝敗指示に従って、バラバラだった頃の白恋中では考えられないことだった。

 みんなの成長は、本気でサッカーに向き合ったからこそ得られたもの。改めて、自由なサッカーの大切さを認識できた。

 そんなことを考えながら、虎白がドリブルで駆け出すと、髪が揺れて虎白の目元を覆い隠す。

 

「──へっ…! あとはオレに任せなァ!!」

 

 瞬時に別人格となった虎白が叫ぶ。白い髪は逆立ち、優しげなサファイアの瞳は、威圧的な鋭さを持つ琥珀の瞳に。穏やかな微笑みは、獰猛さを孕んだ笑みへと変わっていた。

 

「通さない!」

「たった一人で、オレを止められるとでも思ってんのかァ!?」

 

 氷帝のディフェンスが虎白の行く手を阻むが、圧倒的なスピードでディフェンスの横を通り抜ける。

 

『雪守がディフェンスを突破したァ!』

 

 ゴール前にたどり着き、キーパーとの直接対決に持ち込む。

 

「止める!」

「やってみな!」

 

 そう挑発した虎白が構えると、背後から黒い影が出現し、形作るように立ち昇っていく。

 

「出番だぜッ! ──冥界の女王ヘル!!!」

 

 内側から黒い影を大鎌で引き裂き、化身がその姿を現した。黒と白を基調とした神秘的な人型の化身が佇む。

 

「喰らいやがれッ…!」

 

 ヘルが妖しく微笑むと、氷獄の世界に一変する。その吐息を吹きかけると、冥府の冷気が激しく渦巻き、ボールが回転ごと氷で覆われ尽くした。

 

「──ヘルブリザードッ!!!」

 

 限界まで引き絞られた、虎白の重たい一撃で、氷塊を蹴り放つと同時に、ヘルの大鎌が振り下ろされた。

 二つの衝撃に、氷に封じ込められていた回転が再び蘇り、迸る冥府の冷気を切り裂くように鳴動する。

 

『化身の必殺シュートが、氷帝のキーパー蝦夷(えぞ)を襲う!!』

 

 氷の砲弾のようなボールが迫る中、蝦夷は怯むことなく必殺技を繰り出した。

 

「──メルトダウン!! はあああーーッ! 」

 

 向かってくるシュートに両手を掲げると、ボールがオレンジ色に輝き、その勢いが弱まった。次第に、ボールが纏っていた氷が溶け始め、水蒸気を大量に噴き出す。

 

「ぐっ…ぐわあああーーッ!?」

 

 しかし、完全に氷を溶かすことができず、勢いを取り戻したボールが、蝦夷ごとゴールネットに突き刺さる。

 

『ゴール!! 雪守の化身シュートが炸裂ッ!』

「っ…!」

 

 チームメイトが得点したにも関わらず、雪村が悔しそうに顔を歪める。彼女が活躍するほど、自分の存在意義が薄れていくような気がしていた。

 

『伝統の一戦、“白恋中”対“氷帝学園”! 開始早々に、得点は1-0! 白恋が先制だァ!!』

 

 虎白がゴールを決めたことで、氷帝学園に少なからず動揺が広がる。

 

「なっ…!?」

 

 その筆頭である美幌が、愕然とした様子で虎白を見る。手がわなわなと震え、目を大きく見開いていた。

 

「なっ…なんという神々しい化身だ…! 実に美しい…!」

 

 しかし、それは得点したことへの驚きではなく、虎白が出現させた化身の造形に対してだった。

 

「フッ。だが、ボクの化身ほどじゃあないがね。フッフッフッ…」

 

 長い前髪を払いながら、不気味に一人笑いを繰り返す。そんな彼に、チームメイトたちが近づいていく。

 

「美幌」

「…分かってるさ」

 

 真剣な顔で名前を呼ばれた美幌は、ふざけた態度を止めて肩を竦める。

 

「どうやら、少しは出来るみたいだね」

 

 絶対の自信を持っている美幌たち氷帝学園からすれば、この程度のことで調子が乱れたりしないが、予想外なことに変わりはない。

 

 虎白を強敵だと認めたことで、彼らも本気で対応せざるを得なくなる。

 

「披露して上げよう。キミを虜にする、ボクたち氷帝の必殺タクティクスをね…!」

 

 不敵な笑みを浮かべる美幌たち氷帝学園が、虎白を標的にする。その戦術こそ、彼らの揺るぎない自信の正体であり、虎白攻略のための秘策だった。

 

 

 お互いのチームがポジションにつき直す。

 

『氷帝のボールで試合再開です!』

 

 開始直後と同じようなボール回しで、白恋に攻め込んでいこうとする氷帝学園。

 

「おらァ!」

「なにっ!?」

 

 しかし、好戦的になった虎白のプレーに反応できず、あっさりとボールを奪われてしまう。

 

「もう一点ぶちかましてやるよッ!」

 

 虎白が氷帝陣内へとドリブルで駆けていくが、彼らに焦る様子は一切ない。

 

「フッフッフッ。さぁ、お姫様の出番は終わりだよ! ここからは、皇帝のターンさッ!!」

 

 美幌がそう宣言するのと同時に、合図を送るように、バッと手を振り上げる。

 その瞬間、氷帝学園の選手たちが一斉に、虎白の周りを素早く取り囲んだ。

 

「なんだテメェら…!?」

 

 雪の結晶である六角形を作るように、6人の選手が等間隔で虎白をマークする。

 

「なんだあれは…!?」

「雪守が閉じ込められたぞ!?」

 

 氷帝学園の奇妙な動きによって、白恋中に動揺が走る。それは吹雪も例外ではなく、難しい顔で戦況を見守っていた。

 

「これこそが、我が氷帝学園の必殺タクティクス!《天牢雪獄(てんろうせつごく)》!!!」

 

 作戦が狙い通り成功したことで、美幌が勝ち誇った顔で声を張り上げる。

 

『な、なんという必殺タクティクスだァ!? 雪守が氷帝に囚われてしまったぞォ!?』

 

 ドリブルで抜けようとしてもすぐに進路を塞がれる。パスを出すような隙も与えられず、無理にパスを出しても、簡単にコースを読まれ、カットされるだけだろう。

 

「くっ…!」

 

 まるで雪に埋もれたかのように、身動きが取れなくなった虎白。氷帝が作った牢獄を抜け出すことができない。

 

「フッ。キミたちの大事なプリンセスは、我が氷帝の檻の中…。もはや、一片の勝ち目もない」

 

 独り言のように白恋へ語りかける美幌。

 

「彼女が化身使いだということは分かってる。ならば、彼女さえ止めてしまえば、ボクたちの勝ちじゃあないか」

 

 フィフスセクターから得た情報を有効活用し、確実に勝てる方法を取った。事実、白恋は強力な攻め手を失っていた。

 

「あぁ…。ボクは何てパーフェクトな頭脳の持ち主なんだ…!」

 

 長い前髪を払って、自分に酔いしれる。そんな美幌の態度に、雪村が激しく憤慨する。

 

「舐めやがってッ!! アイツ一人止める方が、オレをフリーにするより良いってことかよ!?」

 

 虎白以外は敵ですらないと言っているようなもので、同じFWとしてプライドが傷つけられるのは当然のことだろう。

 

「そう受け取ってもらって構わないよ。キミのチームメイト含め、彼女よりキミを脅威だと思っている者は、誰一人いないだろうからね」

 

 改めて断言した美幌が、必殺タクティクスの仕上げにかかる。

 

「さぁ、やれッ!」

 

 その掛け声で6人全員が一斉に、虎白へプレスを仕掛けてボールを奪う。その動きは、まさに雪の結晶を描いていた。

 

「ぐわああああーーッ!?」

「雪守っ!」

 

 プレスの中心にいた虎白が吹き飛ばされ、倒れ伏す。ボールを奪った選手が、そのままドリブルで白恋へと攻め込んだ。

 

『氷帝学園の反撃開始だァ!』

「こいつら…!?」

「さっきより動きが速くなってる…!」

 

 日高と氷里が立ち塞がるが、本気を出した氷帝の選手に、容易く躱されてしまった。

 

「繋げ!」

 

 パスで前線を押し上げる氷帝。その機敏な動きに、白恋は翻弄される。

 

『氷帝の巧みなパス回しで、あっという間にゴール前だァ!』

 

 ボールを持った北斗が、必殺技を繰り出した。

 

「ゆきだるロール!!」

 

 玉乗りのようにボールの上へ乗り、バク宙をしながらボールを勢いよく転がす。すると、どんどん雪を纏って巨大な雪玉となり、キーパーの白咲を襲った。

 

「クリスタルバリアッ!!」

 

 固く握った右拳と冷気を、左手で抑えこんで構える。迫り来るボールに向かって、握っていた拳をパッと勢いよく開くと、冷気が瞬時に開花し、氷の結晶となってシュートを阻んだ。

 

『防いだァ! キーパー白咲、なんとかキャッチ!!』

「ぐっ…!?」

 

 ボールを受け止めた白咲のグローブからは、摩擦によって煙が出ていた。それほどの威力が、今のシュートにはあったのだ。

 

「はっ!」

 

 MFの洞爺を目がけて、白咲がボールを蹴り上げる。ボールを受け取った洞爺はドリブルで駆けていく。

 

「こっちだ!」

 

 パスを貰いやすい位置に走り込む虎白。しかし、センターラインを超えると、周りには常に6人が、付かず離れずの位置取りでマークをしてくる。

 

「チッ!」

 

 虎白が前後左右どちらに移動しても、しっかりとついてくる。そんな状況に、思わず舌打ちをする。

 

「無駄さ。この必殺タクティクスを破ることは誰にもできない」

 

 美幌が不敵に笑う。このタクティクスは、一人一人の高度なサッカー技術とチームの連携あってのもの。個人技術のみで突破することは至難の業だろう。

 

「…雪守さんっ!」

 

 洞爺がパスを出すか悩んだ末に、虎白へとボールを蹴り上げる。

 

「──必殺タクティクス!《天牢雪獄》!!」

 

 パスを受け取った虎白を、即座に取り囲んでボールを奪いかかる。フィールドに雪の結晶が描かれた。

 

「ぐわあああッ!!」

「フッ。何度やっても同じさ」

 

 

 ──再びボールは虎白に。ドリブルでフィールドを駆け上がっていく。

 

「今度こそ…!」

 

 センターラインを超えたらマークがつく。ならば、それを超えずに点を取ればいい。

 

「これならどうだッ…!?」

 

 虎白はセンターラインギリギリの位置から、必殺技を繰り出した。

 

「エターナルブリザード…!!」

 

 着地と同時に吹雪が舞い、激しく回転するボールに吸い寄せられるように冷気が渦巻き、氷で覆われ尽くす。

 

「喰らえーーッ!!」

 

 すべての力を乗せた重たい一撃で、氷塊をぐぐっと蹴り放った。氷に閉じ込められていた回転が再始動し、迸る風と冷気を切り裂くように鳴動する。

 

『なんと雪守、コート中央から必殺シュートを繰り出したァ!』

 

 普通なら考えられない行動も、想定の範囲内だと言うように、キーパーの蝦夷は落ち着いて対処する。

 

「メルトダウンッ!!」

 

 向かってくるシュートに手を掲げると、ボールがオレンジ色に輝き、その勢いが弱まった。纏っていた氷が完全に溶けると、水蒸気爆発が起こり、爆風で舞い上がったボールを手のひらでキャッチする。

 

『しかし、蝦夷の必殺技で防がれてしまったァ!』

「ぅぐっ…!」

 

 遠くから撃った分、ゴールへ届くまでには威力が下がってしまう。八方塞がりな状況に、虎白が苦悶の声を漏らす。

 

『フィールドを支配するプレーは、まさに皇帝ッ!』

 

 完璧な虎白封じの戦略。ドリブルで突破することも、味方からパスをもらうこともできない。まさしく、檻の中に閉じ込められているようだった。

 

『氷帝の必殺タクティクス恐るべし! 白恋中、為す術がありません!!』

 

 ボールを持った蝦夷が遠くに蹴り上げる。

 

「上がれッ!」

 

 蝦夷からボールを受け取った選手が、パスを繋いでいく。氷帝学園の勢いが止まらない。

 

「い、行かせませんっ!」

 

 怯えながらも立ち向かってくる伊富に対し、ボールを持った選手が必殺技を繰り出した。

 

「スリップロード!!」

「わわわっ!?」

 

 芝生のフィールドが、氷のフィールドに変わり、伊富が足を滑らせたところをドリブルで抜いていく。

 

「美幌っ!」

 

 白恋のディフェンスを掻い潜り、ゴール前の美幌にまでボールが届いてしまう。

 

「見たまえ! シードが使う本当の化身の恐ろしさを!」

 

 美幌が髪を払うと、背後から黒い影が出現し、形作るように立ち昇っていく。

 

「──現れよ! 我が崇高なる化身、氷魔グライシス!」

 

 美幌の化身がその姿を現した。白い肌に水色の外装を纏った氷の魔神が佇む。その優美な姿は、見た者を虜にしてしまう容貌だった。

 

「化身!?」

「まずいズラ!」

 

 白恋のディフェンス陣が急いで止めようとするが間に合わない。目の前で化身のパワーを感じている白咲も、冷や汗をかいていた。

 

「ボクの華麗なるシュートを見てごらん!」

 

 美幌が胸の前で交差させた腕を開きながら、ボールを蹴り上げる。ボールを中心にして細かい氷が集まり、氷のドームが出来上がった。

 

「──ホワイトインパクト!!!」

 

 化身の手のひらに押され、共に空へと飛び上がる。水色のオーラを纏いながら、ボールを蹴り放つと、その背後で化身が吼えた。

 

「──クリスタル……ぐわあああーーッ!?」

 

 必殺技を出す間もなく、化身シュートをその身に受ける。白咲ごとボールがゴールネットに叩き込まれる。

 

『決まったーッ! 美幌の化身シュートが炸裂ッ!! 白恋中、同点に追いつかれてしまったぞ!?』

 

 当然のことだと言わんばかりに、美幌が長い髪を払い、観客席に向けて手を振った。

 

『果たして白恋は、氷帝の必殺タクティクスを攻略することができるのかァ!?』

 

 必殺タクティクスを破らなければ、白恋に勝機は訪れない。それぞれが譲れないものを抱えながら、虎白たちの激戦は続く。

 

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