イナズマイレブンGO ブリザード   作:アロイ

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第14話 革命の逆風

 

 地区予選決勝を勝ち上がり、全国大会出場を決めた白恋中。その喜びに浮かれすぎないよう、練習前のグラウンドで、吹雪が気を引き締め直す。

 

「みんなに言っておく。これから白恋中は、フィフスセクターが送り込んだ、全国の強敵と戦うことになる」

 

 虎白たちが勝ち進めば、それだけ革命を阻止しようとするフィフスセクターの妨害は増えるだろう。優勝までの道のりは厳しいものとなる。

 

「だが、絶対に倒せない相手なんて、どこにもいない。みんなで力を合わせれば、必ず勝てる。そうだろう?」

「はい!」

 

 部員たちが一斉に返事をする。地区予選決勝の氷帝戦で、苦難を乗り越えた雪村には、殊更響く言葉だった。

 

 全国大会開始まで一週間。これからの予定としては、東京まで遠征して合宿所に泊まり、開会式に出場した後に、全国大会1回戦を行うこととなっている。

 

 それまでに残された時間、白恋サッカー部は、吹雪にアドバイスをもらいながら、総仕上げにかかる。

 虎白と雪村の二人は、氷帝学園戦で編み出した、新必殺技の完成度をより高めるための特訓をしていた。

 

「パンサァ──ッ!!」

 

 雪村がボールを弾き上げると、豹の雄叫びが轟き、激しい縦回転のかかったボールが打ち上がった。

 

「──ブリザードォ!!」

 

 虎白が背面に捻りながら飛ぶと、雰囲気が豹変する。その勢いのまま、すべての力を乗せた重たい一撃で、打ち上げられたボールを蹴り放つ。

 シュートに氷が加わり、豹が雪豹へと進化を遂げる。さらに激しさを増した回転が、迸る風と冷気を切り裂くように鳴動する。

 

 撃ち込んだボールがゴールまで届き、ネットを大きく揺さぶった。それを間近で見ていた吹雪が、虎白と雪村に発破をかける。

 

「だいぶシュートに磨きがかかってきたね。でも、キミたちなら、まだまだ上を目指せる。もう一回だ!」

「はい!」

 

 二人が息の合った返事をする。ストライカーとして、お互いに張り合いつつも、その足並みは揃っていた。

 

 

 

 ──数日後。

 

 遠征を明日に控えた白恋中は、朝練のために集まっていた。既に、キャプテンの北厳を除いた全員が、グラウンドに到着している。

 

 朝練が始まるまで少し時間があるので、日高が雑談混じりに嬉しいニュースを話す。

 

「聞いたか? 羊ヶ丘中や氷帝学園が、フィフスセクターに逆らったって話」

「本当ですか!?」

 

 曰く、白恋中との試合で、サッカーが熱いスポーツだと思い出した、ということらしい。

 それは虎白にとっても驚きであり、喜ばしいことだったので、つい頬が緩む。

 

「調子のいい話だぜ。自分たちは散々、シードだなんだと偉ぶってた癖によ。なあ、白咲」

 

 部員たちの手前、怒ったような素振りを見せているが、その実、石は溜飲を下げていた。

 シードでも実力者として名高い者たちが、白恋に敗北したことで、フィフスセクターから逃げ出したのだと、情けない姿を思い浮かべる。

 

「…ええ。シードという勝ち組の立場を、そう簡単に手放すでしょうか?」

 

 話を振られて仕方なく、白咲も石に話を合わせて、裏がある可能性を示唆する。だが、それを虎白がキッパリと否定した。

 

「それはないんじゃないかな。シードとかシードじゃないとか関係なく、戦った試合の中で、本当にサッカーが好きなんだっていう気持ちが伝わってきたからね」

 

 各チームのシードたちと、直接的にせよ精神的にせよ、常にぶつかり合ってきた虎白は、それを人一倍強く感じている。

 

「ホーリーロードで優勝することは重要だけど、大切なのは、そんな風にサッカーを楽しむことだと思う」

 

 本当の革命は、白恋のサッカーを見た人が、サッカーの素晴らしさを思い出して、それを取り戻すために立ち上がってくれること。

 

 白恋だけでは革命は起こせない。革命には、サッカーを愛する者、みんなの力が必要なのだ。

 

「ああ、そうだな!」

「この調子で、フィフスセクターなんか、やっつけてやりましょう!」

 

 意気込んだ部員たちを、吹雪が微笑ましそうに見つめる。

 

「吹雪監督──!!」

 

 ようやく姿を見せた北厳が大声を出しながら、焦ったように駆け寄ってくる。その手にはくしゃくしゃになった紙が握られていた。

 

「け、今朝、フィフスセクターからこんな知らせがきたズラ…!」

「フィフスセクターから…?」

 

 吹雪が怪訝そうな顔で、北厳から受け取った紙を開いて目を通した。

 

「これは…!?」

 

 その紙に記されていた内容に、吹雪が衝撃を受ける。その衝撃は、白恋中だけで留まらず、全国的に広がっていく。

 

 

 

 ──同時刻。

 

 白恋中の全国大会出場に伴い、着々と革命の準備を進めていたレジスタンス本部でも、大騒ぎが起こっていた。

 

「た、大変です、響木さん!」

 

 響木たちレジスタンスメンバーが会合している中、血相を変えた男が、室内に飛び込んできた。

 

「…何があった」

 

 その慌てようは尋常ではなく、悪い予感を募らせてしまうものだった。だが、それが伝わらないよう、響木が殊更に落ち着いて問いただす。

 

「け、今朝方、全国大会出場校に、フィフスセクターから連絡がありまして…!」

 

 そう話し始めた男の話を要約すると、『聖帝選挙でイシドシュウジに投票するならば、今大会における白恋中との試合に限り、双方の勝敗指示を免除する』といったものだった。

 

 話が終わる頃には、室内の雰囲気は重苦しいものとなっていた。顔の前で手を組んだ響木が、息を吐き出す。

 

「上手い手だ…。これでは、白恋中の動きが、 他校からはフィフスの意向が大きいように刷り込まれてしまうだろう」

 

 まるで特別扱い。本気で勝ちに行っている白恋中の姿に感銘を受けるどころか、他校から妬みを買ってしまうかもしれない。北海道という土地柄もあり、白恋中の活躍を知る者が多くないのも災いしている。

 

「先手を打たれましたね…。今から響木さんが立候補しても、他校が革命派に傾いてくれるかどうか…」

 

 響木に投票して危険な道を選ぶより、イシドに投票して、自由なサッカーを楽しむ方が安全だ。それがたとえ目先の欲だとしても、誰だってリスクは避けたい。

 

「限定的な本当のサッカーで誘惑し、革命を抑制する。これではもう…」

 

 白恋中の勢いに乗じて、聖帝選挙に立候補するつもりだったが、出鼻をくじかれてしまった。室内は失意に満ちていた。

 そんな中、響木がふとした疑問を口にする。

 

「…だが、どうにも腑に落ちんな。何故、フィフスセクターは、白恋中に直接妨害せず、革命を促すような動きを容認している?」

 

 確かに有効な策だが、こちらが無理を通せば、革命がまかり通る可能性も残っていないわけでもない。そんな状況下で、この一手は、お互いに危険な賭けだ。

 

「何か裏があると…?」

「もしかしたら、我々のような存在を食いつかせるために、ワザと隙を…?」

 

 自分たちの推し進める施策に、抵抗勢力が多いことは重々承知のはず。ならば、これは膿を出し切るチャンスと捉えているのかも知れない。

 

「少なくともフィフス側に被害がないから見逃しているはずだ。その辺りを調査しなければならん。うかつに動いては危険だろう」

 

 ここで考えていても答えは分からない。もう一年腰を据えて、フィフスセクターの真意を探り、対策を練る必要が出てきた。

 結局、聖帝選挙に響木が立候補するという話は立ち消え、革命は見送りとなる。願わくば、この風が来年まで吹き続けていることを祈って。

 

 

 

 ──フィフスセクター本部。

 

「本当によろしかったのですか? 限定的とはいえ、勝敗指示の免除など…」

 

 全身黒ずくめの服装をした男、黒木(くろき)善三(ぜんぞう)が、千宮路大悟に伺いを立てる。

 黒木は聖帝の右腕として、多岐にわたる暗躍をしている人物だ。白咲や石といったシードとの仲介、有望な選手の勧誘、各校へのアプローチなど、枚挙にいとまがない。

 

「フッ…構いません。これは、完璧な管理サッカーを目指すための布石ですから」

 

 聖帝イシドシュウジのもとには、千宮路が訪れていた。その場にいるのは、彼がフィフスセクターの真の支配者だと知っている、黒木とイシドのみ。

 無表情を浮かべる仮面の下で、真意を探ろうとする二人に背を向け、千宮路はホログラムの映像を見上げた。

 

「まさかここまで上手くいくとは…。嬉しい誤算でしたね」

 

 感嘆とした息を漏らしながら呟く。そこに映し出されていたのは、白恋中の地区予選決勝のリプレイだった。

 

「雪守虎白さん…。彼女のような存在を、私は待っていたのだよ」

 

 野心に燃えるギラギラとした瞳に、虎白の姿が歪んで映り込む。

 

「キミが…キミこそが、私の計画を後押ししてくれる、革命の風だ!」

 

 沸沸と湧き上がる喜びに瞳孔が開き、口角が限界まで吊り上がる。

 

「フフフ…フハハハハハッ!!!」

 

 堪え切れないというように、両腕を大きく広げ、不気味な笑い声を上げる。

 気でも狂ったような千宮路の様子を、その背後で険しい顔をしたイシドが鋭く睨んでいた。

 

「……」

 

 表立って動くことを避けていた千宮路が、ここにきて活発な動きを見せている。しかも、今までとは方向性の違う形でだ。

 

 女子選手認可の改定、特殊スタジアム設立中止、ゴッドエデンへ流れている大量の予算。その全てに、千宮路大悟が関わっている。

 

 それらを怪しんだイシドが以前、ゴッドエデンの視察へと向かったが、設備の強化をした形跡しか見当たらなかった。

 仮に関係があるとすれば、彼女を、“セカンドステージチルドレン”の計画に利用することだろう。その素質は十分にあるはずだ。

 しかし、ならば何故、彼女を放置しているのかが見えてこない。一刻も早くシードとしての育成を施した方が、成功率も高くなるというのに…。

 

 どれだけ深く考えようと、イシドには千宮路大悟の陰謀を推し量ることが出来なかった。

 

「フフ…ではイシドさん。あとは頼みましたよ」

 

 機嫌の良さそうな千宮路と、見送りについていった黒木が部屋を出ていく。二人が去った部屋で、イシドが千宮路に向けて呟く。

 

「いったい何を企んでいる…」

 

 あれほど管理サッカーに固執していた男が、ここにきて杜撰な対応が目立っている。それは何も白恋中に限った話ではない。

 以前なら些細な反抗の芽も許さなかった男が、取るに足らないことだと言うように、離反したシードたちをも無視している。

 

「何か…私にも予期せぬ事が、起ころうとしているのか…?」

 

 白恋中が起こそうとしている革命の芽は摘んだが、イシドの知る『千宮路大悟』の人物像と、近頃の『千宮路大悟』とでは、その言動が一致しない。

 

 己に反抗する学校は悪であり、限定的であっても自由なサッカーの許可など出さず、教育と称してシードに潰させるか、最悪の場合は廃部にまで追い込む。それがイシドの中にある印象だった。

 

 平等なサッカーを絶対の正義として、異常なほどの執着をしているのは変わらない。

 

 だが、今の千宮路には余裕がある。イシドからすれば、都合のいい変化ではあるが、だからこそ言いようのない不安に蝕まれていた。

 

 

 

 ──遠征当日。

 

 朝早くに家を出発した虎白は、集合予定地である白恋中に向かう前に、くまごろうのいる森に寄り道していた。くまごろうとはしばらく会えなくなるため、別れの挨拶に来ていたのだ。

 

「次にくまごろうと会えるのは、ホーリーロードで優勝した後だね」

「がるるっ!」

 

 応援するように、虎白に身を寄せて頬ずりする。冷えた朝に、動物の体温が心地よい。

 

「頑張ってくるよ」

 

 しばしの別れを告げ、虎白は集合場所に向かった。虎白の到着と程なくして全員が揃い、バスで空港まで移動する。

 

 

 飛行機に乗って、東京まで到着した。ジャージ姿の部員たちが、今度はバスに乗って宿泊所まで移動する。

 

「ここが雷門のいる東京かぁ…」

 

 虎白がバスの窓から見える景色に感慨に浸る。今の雷門中はサッカー名門校として名を馳せていて、弱小サッカー部だった頃の影も形もない。

 今年のホーリーロードも、全国大会出場を決めており、対戦が楽しみな反面、色々と不安も入り交じっている。

 

「おまえ、雷門中のファンなのか?」

 

 隣の席に座っている雪村から、不意に尋ねられる。

 

「う、うん。吹雪センパイはイナズマジャパンよりも前に、雷門中と一緒に戦ってたことがあったからね」

 

 それらしい理由を捻り出して、必死に取り繕う。虎白が雷門を特別視している理由は、とても誰かに話せるようなことではない。

 

「ふーん…」

 

 雪村は、吹雪センパイが有名な雷門中と関わりがあったことは初耳だったが、さして興味も湧かなかった。その話題を掘り下げることなく、前を向き直す。

 

 それから数十分、早起きや移動疲れもあって、部員たちがうっすらと眠気に襲われ出した頃、吹雪が声を張り上げる。

 

「さぁみんな。着いたよ」

 

 目的地に到着したことを知らせ、バスから降りるように促す。各々バッグを肩にかけて外に出る。

 

「んん〜!」

 

 朝から座ってばかりだったので、虎白が凝り固まった体を伸ばす。東京の気温は、北海道よりも温かいというか、暑いくらいだった。

 

「わぁ…!」

「すげぇ!」

 

 1年生たちが合宿所を見上げて、歓声を上げる。この宿泊施設には、屋内にサッカーコートが備え付けられていて、中学生が泊まるとは思えないほど立派な建物だった。

 

 ぞろぞろと合宿所に入って、荷物の整理をする。部屋割りは男子が2〜3人で、女子の虎白は一人部屋だ。少し寂しい気もするが、着替えたりするので仕方がない。

 食事の用意や洗濯なんかは合宿所の人たちが代行してくれるらしく、サッカーのみに集中できる、至れり尽くせりの環境となっていた。

 

 

 昼食を終えた部員たちは、そのまま食堂でミーティングを始める。モニターの前に立っている吹雪に視線が集まっていた。

 

「初戦の相手は、鹿野里(しかのざと)中だ」

「鹿野里…? 聞いたこともないチームだな」

 

 2年生のセンパイたちにも聞き覚えがなく、眉根を寄せている。その疑問を肯定するように、吹雪が頷く。

 

「鹿野里中は奈良の代表で、全国大会に出場するのは、今回が初めてだそうだ」

 

 鹿野里中自体は昔からある学校だが、特にサッカー名門校というわけではないらしい。

 

「かといって油断はできない。必ずシードが送り込まれているはずだからね」

 

 白恋中が優勝するようなことがあれば、フィフスセクターの面目が潰れてしまうため、優勝を阻止してくるのは当然のことだと吹雪は警戒している。

 

「奈良、か…」

 

 奈良と聞いて思い出すのは、やはり塔子のことだ。吹雪と同じように監督やコーチとして、どこかのサッカー部を指導しているのだろうか。

 危機感を煽る吹雪をよそに、虎白はどこか上の空だった。他の部員たちも同様に、いまいち士気が上がりきらない。

 

 その原因は明らかで、先日のフィフスセクターの通告によって、革命という目的を見失ったからだ。

 

「…フィフスセクターに反乱し、本当のサッカーを取り戻すという目的は先送りとなった。だが、まだやれることは残っているはずだ」

 

 ぼんやりとしている部員たちを見渡して、吹雪が視線を強める。

 

「フィフスセクターの考えを覆すのは難しい。それでも、キミたちが地区予選でやってみせたように、本当のサッカーを通して、一人でも多くの心を動かすことはできる」

 

 その言葉に部員たちがハッとする。目的が与えられたことで、再び活気が戻った。

 

「それに、革命という目的がなくても、君たちにとって、大事な大会であることに変わりないはずだ。優勝を目指して頑張ろう!」

「はい!」

 

 気を取り直して、ポジションを発表していく。吹雪がモニターを操作して、画面を切り替えた。

 

「次の試合、雪守はディフェンダーとしてスタートしてくれ」

 

 部員数11人ギリギリの白恋中に、大幅なポジション変更は少ない。わざわざ言及されるのは、虎白くらいなものだ。

 

「鹿野里の戦績を振り返ると、失点も得点も少ない、守備型のチームだと思う。だから、まずは攻守のバランスが良いフォーメーションで対応していく」

 

 虎白をDFに配置する理由を説明する。続けて、他の選手たちと作戦の方針を伝える。

 

「そして、雪村だけで相手の守備が崩せなければ、雪守も上がって二人で攻める。他のみんなはサポートに回ってくれ」

 

 雪村も不貞腐れることなく頷いた。そこには、虎白に敵対心を抱き、吹雪の期待に応えようと焦っていた姿はない。

 

「よし、さっそく練習を始めよう」

 

 備え付けのサッカーコートに移動する。そこは人工芝が敷き詰められた、サッカースタジアムのような施設で、観客席まであるという充実っぷりだった。

 虎白は、もっと体育館に作ったコートのようなものを想像していたので、クオリティの高さに驚いた。

 

「まずはウォーミングアップからだね」

 

 吹雪の指示の下、数人単位のグループに別れて、パス回しを行う。北海道とは気候が違うためか、いつもと同じだけ動いたつもりでも、体に熱がこもるのが早く、体力を削られる。

 しかし、それは最初だけで、慣れれば大したことではない。体も温まったので、白咲をキーパーに据えて、5対5のミニゲームをしている。

 

「王鹿!」

「おう!」

 

 ボールを持っている洞爺を、タックルで弾いて奪う。そのまま突っ込んで、ゴール目掛けてシュートを撃つ。

 

「おらァ!」

「ハッ…!」

 

 隅を狙ったコースを、白咲が飛びついてキャッチする。ここ最近の活気のなさが嘘のように、練習に打ち込んでいた。

 この調子なら、明日からの試合も問題ないだろうと、吹雪もホッと胸を撫で下ろす。

 

 基本的にはチームの連携を高めながら、個人練習やシュート練習なども挟み、部員たちの個人技も磨き上げていく。

 

「今日はここまでにしよう」

 

 天井の照明で気付かなかったが、いつの間にか外が暗くなっていて、いつもの部活終了時間を過ぎていた。

 部員たちがユニフォームの長袖で汗を拭い、荒い息を整える。

 

「今日までよく頑張った。明日の試合、練習で培ったものを全力で発揮してくれ!」

「はい!」

 

 吹雪の掛け声に、部員たちが返事をする。練習が終われば、次はお風呂の時間だ。へとへとに疲れた体に、温かいお湯が沁みる。試合前の緊張感も一緒に、解れていくようだった。

 

「はぁ〜…」

 

 虎白が脱力したように息を吐くと、その声が浴場に響く。当然だが女湯には他に誰もいないので、少し寂しい。男湯の方から話し声が聞こえてくるなんてこともなく、広い浴場を独り占めしている。ぜひとも、来年は女子部員が増えていてほしいものである。

 

 お風呂を上がって、食堂で夕食を終えたら、少しの自由時間を挟み、すぐに就寝時間となる。

 

「今日はしっかり休んで、明日に備えるんだよ」

 

 部員たちが夜更かししないよう、吹雪が注意しながら部屋に戻るのを見送った。

 しばらくスマホで親と連絡を取っていた虎白だったが、ベッドに寝転がれば、すぐに瞼が落ちていく。明日はいよいよホーリーロード全国大会の開幕だと、朝が来るのを楽しみにしながら、深い眠りについた。

 

 

 

 ──部員たちが寝静まった頃、吹雪が人気のない場所で一人佇んでいた。

 

「待たせたな」

 

 そう声をかけてきた男── 久遠道也(くどうみちや)の方を、吹雪が振り返る。昔より髪や髭が伸びているが、気難しそうな表情はそのままだ。

 彼は9年前に行われたFFIで、吹雪も所属していた、日本代表『イナズマジャパン』を優勝に導いた名監督だ。そして、現雷門中サッカー部の監督でもある。

 

 雷門中は、地区予選を勝ち進み、ホーリーロード本選に出場する学校の一つだ。白恋中とは別ブロックなため、対戦する機会があるとすれば決勝戦だろう。

 

「お久しぶりです、久遠さん」

「久しぶりだな、吹雪」

 

 挨拶を交わし合う以上に、目と目でお互いの様子を確かめ合う。そこに宿る意思の強さは健在のようで、二人同時に小さく笑う。

 

「おまえたち白恋中の活躍は耳にしている。私も応援していたのだが、残念だったな…」

「はい…。ですが、諦めたわけじゃありません。僕たちにやれることを精一杯やるつもりです」

 

 気落ちすることなく、フィフスセクターに立ち向かう意思を持ち続けている吹雪を、久遠が頼もしく思う。

 

「それで、僕を呼び出した要件は、いったいなんでしょうか」

「全国大会が始まる前に、おまえに伝えておくべきことがあってな…」

 

 久遠がどこか言い淀むように、吹雪の様子を探る。これから話すことが、吹雪にとって衝撃的な内容のため、どうしても気が重くなる。

 

「…教えて下さい、久遠さん」

 

 それを察した吹雪が先を促す。わずかな沈黙の後、久遠が覚悟を決めて切り出した。

 

「豪炎寺に関してだ」

「豪炎寺くんの行方が分かったんですか…!?」

 

 すべてを聞き終えることなく、反射的に食いつく。久遠が肯定するように頷いた。

 

「豪炎寺は今、自らの過去を消し、名前を変えて生きている。聖帝──“イシドシュウジ“としてな」

「…っ」

 

 告げられた事実にショックを隠せず、声が出ない。しかし、久遠が懸念していたほどの動揺はなかった。

 

「その様子だと、薄々気づいてはいたようだな」

 

 確認するようにかけられた言葉に、きつく眉根を寄せた吹雪が力なく頷く。その胸の内では、どうしてそんなことを、という豪炎寺に対する疑念が渦巻いている。

 

「…はい。でも豪炎寺くんを疑うのが嫌で、ずっと自分に、イシドシュウジは別人だ、無関係だと言い聞かせていました…」

「気持ちは分かる。だが、これは紛れもない事実だ」

 

 最悪を想定して、希望を持たせるような言い方はせず、豪炎寺の意思で動いているという前提で話を進めていく。

 

「それを知った上で、おまえは革命を起こす意思を持ち続けられるか? いずれは、豪炎寺とぶつかることになるぞ」

 

 それが一番重要なことで、わざわざ久遠が接触してきた理由だ。いざという時に、戦えませんでは困る。かつての仲間であっても、戦わなければならない時が必ず来る。

 見極めようとしてくる鋭い視線に、吹雪が背筋を伸ばして、ハッキリと宣言する。

 

「久遠さんの言う通り、豪炎寺くんと争うのはつらいです。でも、きっと分かり合える。僕が豪炎寺くんの目を覚ましてみせます。彼が、僕にそうしてくれたように」

 

 完全に吹っ切れたわけではない。だが、やるべき事を見据えた真っ直ぐな吹雪の目を見て、その意思の強さが本物だと確信する。

 

「どうやら意思は固いようだな。覚悟が出来ているのなら、迷わず進め。私もできる限りのサポートはする」

「ありがとうございます」

 

 話が一段落ついて、別れを切り出す。

 

「次はお互いに監督として、決勝の舞台で会いましょう」

「ああ」

 

 二人が固い握手を交わす。サッカーを愛する子供たちのために、かつてサッカーを通して救われた大人たちが立ち上がる。今度は、自分たちがサッカーに恩返しをする番だと。

 

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