東京の合宿所からバスで移動していると、遠目にではあるが、目的の建物が見えてくる。
「これがアマノミカドスタジアムかぁ…!」
高層のビル群に囲まれながらも、一際目を引く金色のサッカースタジアム。その規模の大きさに部員たちが感嘆する。
アマノミカドスタジアムで、ホーリーロード全国大会の開会式が行われるため、白恋中や他の出場校も、続々と入場していく。
『──中学サッカーの頂点を決めるホーリーロードも、いよいよ全国大会開幕!』
選手たちの前には、ホログラムでイシドシュウジたち候補者の自画像が映し出されている。
『この大会は、フィフスセクターの次期聖帝の決定にも、深く関わっています! 聖帝の座につくのは、現聖帝のイシドシュウジ氏か、それとも、他の候補者たちか…!?』
フィフスセクターの人間が、さながら軍隊のように、列を成して行進する。その一糸乱れぬ足運びは機械のようで、妙な不気味さがあった。
『さぁ、予選を勝ち抜いた強者たちが、ここ、アマノミカドスタジアムに、続々と集まってきましたァ!』
全国から集まった出場校が、ユニフォーム姿でコートに整列している。
『実況は
観客席からは、“フィフス!フィフス!”と何度も斉唱する声が、スタジアム全体に響いていた。
「すごい…」
「フィフスセクターの力を見せつけられてる感じです…」
その権力や支配力に圧倒される白恋中。改めて、自分たちが相手にしている組織が、どれほど大きなものかを再認識する。
『──これより、大会委員長“イシドシュウジ”氏による、開会宣言です』
女性の声でそうアナウンスされると、ホログラムに、イシドの姿がリアルタイムで映し出される。
『全国の戦いを勝ち抜いてきた選手諸君、ここにホーリーロード本戦の開幕を宣言する!』
会場の後方では、吹雪が難しい顔で、ホログラムに映るイシドを見つめていた。
『ホーリーロードこそ、サッカーの頂点。これからが本当の戦いだ。選手諸君の活躍を期待する!』
その聖帝のお言葉に、観客席からは拍手喝采が巻き起こる。
『さぁ、ついに始まった熾烈な戦い! アマノミカドスタジアムには、5つの会場が用意されており、各チームは指定された会場で試合を行います』
中央にあるアマノミカドスタジアムを取り囲むように、5つのスタジアムが配置されている。それらに、特殊なギミックなどは一切なく、至って普通のサッカーコートだ。
『そして、最終的に勝ち抜いた2校が、ここ、アマノミカドスタジアムで決勝を戦うのです!』
栄光を手に入れられるのは、たった1チーム。その道は険しく、強い意思で突き進まなければ、たどり着くことは到底できない。
『注目の第1回戦はこの後すぐ! それぞれのスタジアムで行われます!』
整列していた出場校たちは解散し、一旦アマノミカドスタジアムから外に出て、指定の会場へと移動する。
虎白たち白恋サッカー部がスタジアム前に着く頃には、すでに入口付近は見物客などで賑わっており、人だかりができていた。
「ここにいる全員が、おれたちの試合を見に来たんですよね…」
「き、緊張してきた…」
本番を前にして顔が強張っている部員たちを引き連れて、吹雪を先頭にぞろぞろと歩いていく。
虎白もはぐれないように歩いていると、この人混みの中で、周りから距離を置かれている集団を視界の端に捉え、胸がどくんと高鳴る。
「ま、まさか…」
「どうかしたのか?」
急に立ち止まった虎白に、雪村が訝しげな視線を向ける。
「ごめん、ちょっと離れるね! 試合が始まるまでには戻るから!」
「あっ、おい!」
ここにいるということは、きっと鹿野里中と関係があるのだろう。特徴的な帽子はもう被っていないのか、長い赤髪が目立っており、顔立ちや服装も女性らしさが増していた。
白恋の集団から断りを入れて抜け出し、人混みを掻き分けて、目的の人物──
傍に控えている黒スーツたちは、SPフィクサーズではないだろうか。どことなく面影があるように見える。
彼らに警戒されながら、虎白は塔子に声をかける。
「あ、あの…財前塔子さんですよね?」
「そうだけど…? そのジャージ、確か吹雪のところの…」
「は、はい、そうです」
上擦った声で返事をして、バッと手を差し出した。
「ファンです! 握手してください!」
「私のファン? 変わった子もいるもんだね…?」
困惑しながらも、握手に応えてくれる。彼女は謙遜しているが、塔子、壁山のシュートブロックは、エイリア編の円堂を支えてきた、頼れる存在だった。
同じ面子を回避するためであっても、世界編で女子選手の出場ができず、塔子が外されたのは悲しかった。それが、今の虎白には他人事だと思えず、勝手に共感している。
「感激です! 私も塔子さんに負けないようなサッカープレーヤーになります!」
「いや〜、こういうのなんか照れるな〜」
恥ずかしそうにしながら頭を掻く。その男勝りな仕草は、大人になった今も変わっておらず、どこか安心した。
「そうそう、白恋って、鹿野里中と当たるんだよね? あのチームには、あたしの知り合いがいるから、結構手強いよ」
予想通り、塔子は鹿野里中と関係があるようだった。
「塔子さんは、もしかして鹿野里の監督ですか…?」
「まさか! OBとしてベンチには入るけど、応援するだけだよ」
「ですよね…」
面白い冗談を言われたというように笑う塔子とは反対に、虎白は少し残念そうに眉を下げる。
そんな表情をしていたからだろうか、塔子がこちらをジロジロと見てくる。
「それにしても…あんた昔の吹雪によく似てるねぇ」
「そ、そうですか?」
虎白が理想とする頃の吹雪を知っている塔子に言われると、はにかみながら意味もなく髪をいじってしまう。
「いや、でも昔の吹雪は、もう少しなよなよしてたかも」
「あはは…」
ひどい言い草で笑い飛ばす塔子に、虎白が苦笑いを浮かべる。あの頃の、影のある吹雪と比べられたら、活発に見えても仕方ない。
虎白たちが談笑していると、少し遠くで塔子を呼ぶ声が耳に届いた。
「塔子ねぇ」
ユニフォーム姿の少女が近づいてくる。虎白はどことなく、その少女に睨まれているような気がした。
「おっ、来たね。この子がさっき言ってた、鹿野里中の
虎白と砦の視線が合う。長く伸ばした薄い金色の髪をヘアピンで留めている仏頂面な少女。その理知的な紫の瞳が、虎白を鋭く見据える。
友好的ではない視線に晒されながらも、自己紹介をする。同じサッカー少女として、友達になれるかも知れない。
「私は白恋中の雪守虎白っていうんだ。よろしくね、砦さん。女の子と戦えるなんて初めてだから嬉しいな」
笑顔で差し伸べた手を、砦が冷たく見下ろして一言。
「敵と馴れ合うつもりないから」
出会い頭にキツい言葉を浴びせられ、虎白と塔子の笑顔がピキッと固まった。
「あんたみたいにお遊びでサッカーやってるんじゃない。あたしは本気でプロリーグを、世界を目指してる」
どこか憎々しげに、虎白というより女子選手を目の敵にする。
「女だからって仲間意識持たれても迷惑なの。仲良しサッカーがやりたいなら帰ってくれる? 時間の無駄だから」
「あ〜…ごめんね? この通り、頭が固いヤツなんだよ。あとで叱っとくから、気にしなくていいよ。サッカーは楽しくやるもんだからさ」
気まずそうに間を取り持つ塔子。俯いてしまった虎白を慰めるように笑いかける。
「そっか…」
ぽつりと呟きながら、マフラーをぎゅっと強く握る。そこに隠れた唇は、緩く弧を描いていた。
「嬉しいな…。本気でサッカーやってる女の子が、私以外にもいたんだ」
「…? 今なんて──」
空耳かと疑うような独り言に、砦が眉根を寄せて聞き返そうとすると、遮るように虎白が顔を上げた。
「私も同じだよ。本気で世界一を目指してる」
「っ…」
柔和なサファイアの瞳が爛々と輝いていた。わずかに気圧されて、小さく息を呑む。
「改めて挨拶するね、館野砦さん。私は雪守虎白。白恋中のエースストライカーだよ」
背を向けて去っていく虎白。その場に残された砦には、悪寒のようなものが走り抜けて、全身に鳥肌が立っていた。
「…何なのあいつ」
「気をつけな、砦。ありゃ、そうとう手強いよ」
塔子が彼女の頭に、ポンと手を置きながら忠告した。その手を即座に払い除けて、砦はスタジアムまで歩き出した。
「子供扱いしないで」
「まったく…生意気になっちゃって。昔は、塔子ねぇ、塔子ねぇってべったりだった癖にぃー」
「い、いつの話してるの!?」
からかってくる塔子に思わず振り返り、耳まで真っ赤な顔で必死に睨みつける。無愛想な砦も、自分の恥ずかしい過去まで知っている塔子には弱かった。
──試合開始前。
それぞれの選手や監督たちが、スタジアムに入場すると、吹雪は塔子の姿に目を見張る。その反応に、彼女は悪戯が成功したような笑みを浮かべていた。
白恋メンバーと合流した虎白は、フィールドの上に立っていた。今の白恋中は、DFのポジションにいる砦のことで話が持ちきりだ。
「相手のチーム、女子がいるぞ」
「雪守以外では初めて見るな」
侮るような空気はない。むしろ、警戒するような顔つきで、砦のことを注視している。
そんな視線を受け流しながら、砦は虎白のことを観察していた。
「雪守虎白…」
先ほどの会話から、ポジションはFWなのかと思っていたが、どうしてDFにいるのだろう。ただのハッタリ?エースストライカーとはどういう意味だったのか。謎が残る。
『両チームがポジションにつきましたァ!』
お互いにFWがワントップのフォーメーション。吹雪の読み通り、守備型のチームのようだった。
『さぁ、間もなく白恋中のキックオフで試合開始だァ!』
ピィー!っとホイッスルが鳴り響き、雪村が後ろの日高にパスを出す。鹿野里のディフェンスラインは下がり気味で、白恋は前のめりに攻め上がっていった。
「通さない!」
「この程度…!」
日高がフェイントを織り交ぜながら、相手のディフェンスを突破する。
『日高が躱したァ!』
しかし、すぐにカバーに入られて、日高が抑えられる。苦し紛れに出したパスも、相手に上手くカットされてしまった。
『ボールは鹿野里に渡ったァ!』
全国に来ているだけあって、レベルが高い。それでも、これまでの激戦をくぐり抜けてきた白恋中の方が、個人の技量が勝っている。
「はあーッ!」
「ぐっ…!」
ドリブルをするMFに、王鹿がタックルを仕掛けてボールを奪い返し、雪村にパスを出す。
『ボールは雪村に! そのままシュート体勢だァ!』
雪村の瞳が、相手キーパーを見据える。
「喰らえ──っ!?」
構えた雪村がボールを蹴る寸前、いきなり砦が飛び出してきた。
「──ザ・タワー!!!」
頭上で組んだ腕を振り下ろすと、砦の足下に青いオーラの円が広がる。その円から塔がそびえ立ち、砦を天高く押し上げた。
渦巻く暗雲に両手をかざして青い電撃を放つと、天から降る青い雷となって、雪村に直撃する。
「ぐわあああーーッ!?」
雷に吹き飛ばされた雪村がボールをこぼす。
「あれはっ…!?」
虎白と吹雪が驚きを見せる中、ベンチに座っている塔子は喜ぶような素振りもなく、珍しく無表情だった。
「詰めが甘いわね、白恋中」
「くっ…!?」
腕を組んだ砦が、転がっているボールに足を置き、後ろに倒れた雪村を見下ろす。
「す、スゴい必殺技ズラ…」
「ギャハハ! 女一人にやられるなんて、情けねぇヤツだ」
北厳たち白恋メンバーが素直に称賛している中、石だけは馬鹿にするように笑っていた。
「みんな上がって!」
「おう!」
砦がロングパスを出すと、相手が一斉に攻め始めた。
『さぁ、鹿野里が反撃に出たァ! 白恋、このピンチを凌ぎきれるかァ!?』
流れは完全に鹿野里中に持っていかれ、白恋は態勢を立て直す。
「急いで戻るズラ!」
自陣深くに敵を引きつけ、カウンターを決める。恐らくは、これが鹿野里の常勝パターンなのだろう。砦の守備能力を信頼しているのがよく分かる。
『鹿野里が一気に攻め込む!』
ドリブルをしていたMFが、ゴール前まで迫っていたFWにパスを出す。
「
「え…?」
聞き覚えのある名前に、虎白が反応する。“中谷”とは、もしかして、あの奈良最強の“中谷”の親戚とかだろうか?
『中谷が抜け出したァ!』
余計なことに気を取られていると、いつの間にか、DFの北厳が抜かれていることに気付き、ハッとした。情報の整理が追いつかず、カバーに入るのが一瞬遅れる。
その隙を突き、中谷が必殺技を繰り出した。
「──あびせげり!」
浮かせたボールを膝蹴りで大きく打ち上げる。身体を捻るように飛び上がり、ボールが凹むほどの威力で踵落としを喰らわせる。その衝撃で放たれたシュートがゴールを襲った。
「──クリスタルバリアッ!!」
固く握った右拳と冷気を、左手で抑えこんで構える。迫り来るボールに向かって、握っていた拳をパッと勢いよく開くと、冷気が瞬時に開花し、氷の結晶となってシュートを阻んだ。
『白咲、必殺技でゴールを守った! 白恋、ピンチを脱したァ!』
得点に繋がらなくて、ホッと胸を撫で下ろす。
「ナイスセーブ!」
しっかりと相手シュートを止めてくれた白咲に、虎白が声をかける。
「…どうってことありませんよ」
そう言いながら、虎白にボールを投げる。それを受け止めて、ドリブルでボールを運びながら、気を引き締め直す。
『白恋中、丁寧にパスを繋いでいきます!』
中盤でボールを競ったが、何とか前線を押し上げることに成功する。
鹿野里のディフェンスを突破した日高が、雪村へとパスを出す。
「今度こそ決めろ、雪村!」
「ああ!」
ボールを受け取った雪村が必殺技を繰り出す。クロスするように、右踵を振り下ろし、左足も振り上げると、雪村の背後に豹の如き気迫が漂う。
「──パンサードライブッ!!」
ボールを弾くようにして左足で蹴り上げると、それに呼応して豹の雄叫びが轟き、激しい縦回転のかかったシュートがゴールを襲った。
「──させない!」
「っ!?」
突然、シュートの真正面に割り込んだ砦に、雪村が驚く。
「──ザ・タワー!!!」
頭上で組んだ腕を振り下ろすと、足下から塔がそびえ立ち、砦を天高く押し上げる。ゴールへと向かうシュートを、堅牢な塔でブロックした。
「くっ…。さすがに全国レベルとなると…!」
衝撃に耐えるものの、ついに限界を迎えて、塔がバラバラに砕かれる。軽く吹き飛ばされたが、しっかりと威力は相殺されており、弾かれたボールがタッチラインの外に転がる。
お互いの力は拮抗しているようだった。
『館野、必殺技でシュートを防いだァ!』
「なっ…!?」
キーパーでなく、ディフェンダーに止められたことに、雪村が目を見開いて愕然とする。
「雪村くんのシュートが止められた!?」
「なんてヤツだ…」
強力なシュートに臆することなく、立ち向かった勇敢さは、DFの鑑と言えるだろう。
「シュートブロック…」
仲間に声をかけられている砦を見つめながら、虎白が呟いた。当然できるものだと思っていたので、驚きは少ないが、厄介な相手だ。
『白恋のスローインで試合再開です!』
洞爺がボールを投げ入れるが、すぐに鹿野里中に奪われてしまった。こちらも応戦して、すぐにボールを取り返す。
互いにボールを持っても、攻め切ることができずにいた。やや白恋優勢だったが、試合が大きく動くことはなかった。
「──アイスグランド!」
「──アイスウォール!」
虎白や北厳たち白恋ディフェンス陣が、必殺技で鹿野里の攻撃を食い止める。
「──ザ・タワー!」
負けじと鹿野里ディフェンス陣も、必殺技で白恋の攻撃を凌ぐ。それでも数回に一度は、雪村にボールが繋がり、シュートチャンスの隙が生じていた。
「はあーッ!」
「やらせるか!」
すぐにディフェンスが追いつき、雪村は不安定な体勢でシュートを撃たされる。鹿野里のキーパーがパンチングで弾き、また得点には繋がらない。
『お互いにディフェンスが一歩も譲らない! これは両チーム無得点のまま、前半終了かァ!?』
中盤でせめぎ合いが生まれる。ここまでの流れからして、あと一手が足りない状況がまた続くだろう。今のままならば…。
前半も終わりに差し掛かり、虎白はそろそろかと吹雪に目配せすると、ゴーサインを出すように頷いた。
「さて、本番は──」
虎白が首元のマフラーを握った。すると、白い髪は逆立ち、優しげなサファイアの瞳は、威圧的な鋭さを持つ琥珀の瞳に。穏やかな微笑みは、獰猛さを孕んだ笑みへと変わっていた。
「──ここからだァ!!」
ボールを持っている選手目掛けて、勢いよく駆け出す虎白。その瞳はまるで、獲物を狩る獣のようだった。
『いきなり雪守が飛び出したァ!?』
混戦状態の中、ポジションも何も置き去りにして、猛スピードで迫る虎白に、鹿野里の選手がハッと振り向く。
「おらァ!」
「な、なんっ…ぐわぁ!?」
虎白がスライディングを仕掛ける。洗練されたディフェンス能力を発揮していた姿が一転して、荒々しいプレーに切り替わっていた。
「さっきまでと全然違う…。まるで別人みたい…」
険しい顔をした砦が、ぽつりと呟く。観戦していた塔子も思わず立ち上がった。
「あ、あの雪守虎白っていう子、ホントのホントに、昔の吹雪そっくりじゃないか!?」
雰囲気や格好だけだと思っていたが、豹変ぶりやプレースタイルまで、まるっきり同じだ。だとすれば、その力まで…と考えてゾッとする。
「絶対にゴールに近づけちゃダメだ!」
塔子が焦ったような声で叫ぶ。吹雪並のスピードとパワーのある選手なんて、とてもじゃないが太刀打ちできない。
『ボールを奪った雪守が攻め上がる!』
「うわぁーっ!?」
塔子の指示も虚しく、鹿野里中の分厚いディフェンスをこじ開け、虎白がゴール前に躍り出る。
「行くぜッ…!」
虎白の鋭い視線が、砦を射抜く。その爛々とした琥珀の瞳に、全身が小さく震え上がる。
「…ッ!」
スタジアム前で感じていた悪寒は、やはり勘違いではなかった。こいつは、雪守虎白は、化け物だった。
「──吹き荒れろッ…!!」
着地と同時に吹雪が舞い、激しく回転するボールに吸い寄せられるように冷気が渦巻き、氷で覆われ尽くす。
「──エターナルブリザード!!!」
すべての力を乗せた重たい一撃で、氷塊をぐぐっと蹴り放った。氷に閉じ込められていた回転が再始動し、迸る風と冷気を切り裂くように鳴動する。
襲い来るシュートの風圧で、砦の髪が乱れる。ここで逃げるわけにはいかないと、睨むように前を向いた。
「はああああーッ!! ──ザ・タワー!!!」
そびえ立つ塔を抉るように、荒々しく回転する氷塊が衝突した。それは、今までブロックしてきたシュートの、どれよりも重く激しいものだった。
「ぐぅ…ぐうあ゙っ!?」
あまりの衝撃に顔が歪む。吹き飛ばされないように堪えるのが精一杯だった。こんなところで負けるわけにはいかないと、必死で抗うが──。
「おまえに止められるような、エターナルブリザードじゃ…ねぇーッ!!」
「うあ゙ぁっ!?」
虎白の咆哮に気圧されるように、塔が打ち砕かれ、ゴール目掛けて飛んでいく。威力は弱まっていたが、その勢いは十分だった。
『キーパー
「止めてみせましょう! ──
仏田が合掌しながらオーラを溜める。そして、両手を勢いよく突き出すと、青銅の大鐘が現れてシュートを阻んだ。
「ぐぐぐ…ぐあぁーーッ!?」
何とか踏ん張るが、ボールを弾き返すことができず、鐘が後ろに大きく揺れる。仏田が鐘に頭を打って、ゴーンと鐘の音が響いた。止めきれなかったボールが、ゴールネットに突き刺さる。
『決まったーッ! まず1点先取したのは白恋中!』
虎白が攻撃に参加したことで、膠着状態に終止符が打たれた。
「そ、そんな…。塔子ねぇの必殺技が破られるなんて…!?」
必殺技と共に、砦の築いてきた自信も打ち砕かれた。自らの夢のため、どんな困難が訪れようと、理想を貫くつもりでいた。しかし、今はその限界をひしひしと感じ始めている。
「砦…」
そんな彼女を、塔子が胸に手を当て、心配そうに見つめていた。
『試合再開! 鹿野里中、前半残りわずかで得点なるか!?』
追い詰められたことで、シードが炙り出されるだろうと警戒し、再びディフェンスに専念する。
しかし、虎白の予想とは裏腹に、依然として白恋優勢で試合が進んでいく。鹿野里は何とか耐えているといった様子だった。
そして、何事もなく、ホイッスルが鳴る。
『ここで前半終了! 得点は1-0で、白恋のリードだァ!』
虎白は、どこか困惑したような表情で相手選手を眺める。それは吹雪も同じで、思案するように顎に手を当てている。
あれだけ警戒していたのに、鹿野里中には、シードも化身使いもいないのだ。
フィフスセクターが何を考えて白恋中を放置しているのか、吹雪には分からなかった。