イナズマイレブンGO ブリザード   作:アロイ

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第3話 仕組まれた試合

 

 虎白たち1年生の試合に続き、2、3年生の試合も終わり、グラウンドにはサッカー部員が整列させられていた。そこでは、坂本監督により、一軍メンバーの発表が行われており、既に2、3年生の振り分けは終了している。

 

「今年の1年は、粒ぞろいだったからなぁ…」

「まぁ、でも…なぁ?」

 

 誰とは言わないまでも、センパイたちの頭では共通する人物が思い描かれているのが、視線や囁きで分かる。

 ザワザワとした空気と緊張感で、1年生たちの表情は硬い。しかし、その中でも虎白は落ち着いた微笑を浮かべていて、周りと比べて異質な存在だった。

 

「今年の1年生で一軍入りをしたのは──」

 

 1年生たちが固唾を呑んで監督を見つめる。

 

「雪守さんと、白咲くんの二人です」

「…ッ」

 

 その言葉に、多くの1年生たちは溜め息こそすれ、これといって落胆することもせず、仕方ないよな、といった結果を受け入れている緩い雰囲気だった。

 名前を呼ばれた虎白は、自分が選ばれて当然だといった様子で、公式戦への挑戦ができる喜びにのみ打ち震えていたが、白咲の方は、余裕の表情こそ浮かべているものの、失態を演じたことで、内心は不安に蝕まれていたので、一軍入りを告げられて、明らかにホッとしていた。

 

 1年生がこんなに早く、しかも二人も一軍入りしたのは珍しいのだが、周囲はさほど驚いておらず、むしろ納得している節さえある。しかし、これで終わりではなく、監督は話を続ける。

 

「白咲くんは控えGKとしてベンチに。雪守さんはDFのスターティングメンバーとして、センターバックに入ってもらいます」

 

 坂本監督の唐突な宣言に、全員がザワつく。一軍入りはともかくとして、スタメンとして起用するなど、前代未聞のことだ。

 

「おいおい、いきなりスタメン入りかよ…!」

「クソッ…!」

 

 虎白との競り合いに負けた3年生が拳を強く握り、苦々しい顔をしていた。センターバックは彼のポジションだ。まだ誰が外されるかは分からないが、その筆頭は自分だろう。さらに、虎白には強烈なシュートがある。彼だけでなく、他の一軍メンバーにも緊張が走っていた。

 そんな彼らを無視するように、坂本監督は今日の部活動を締めくくる。

 

「他の1年生は二軍として、一軍入りを目標に頑張ってくださいね。それでは、本日の活動は──」

「──納得いきません!」

 

 雪村が吠えるように声を張り上げると、虎白を含む全員が一斉に視線を向ける。それと同時に、雪村が虎白にビシッと指を差し、抗議を続ける。

 

「どうして、同じ1年のアイツらが一軍で、オレが二軍なんですか!?」

 

 そんな悲痛な叫びとも取れる訴えに、坂本監督は冷静に対処する。

 

「雪村くん、確かにキミにはセンスがあると思います。ですが、仲間に命令口調で怒鳴ったり、個人プレーに執着したりと、チームメイトを軽視しすぎです。それに、日高くんへの危険なタックルも、当たり所が悪ければ、怪我をさせていました。このことから、たとえキミに能力があっても、一軍には相応しくないと判断しました。何か異論はありますか?」

「ッ…!」

 

 数々の指摘に、雪村は言葉を詰まらせ、俯きながら拳を強く握る。

 

「本気で勝とうとすることの何が悪いんだよ…!」

 

 その声は、とても納得しているようには聞こえなかった。

 

 

 

 ──翌日。休日を迎えた虎白は、サッカーボールを抱えて、一人で森に訪れていた。白恋中のジャージに身を包み、いつものマフラーも巻かれている。

 

「この辺でいいかな…?」

 

 虎白は、人の手があまり入っていない木々が乱立する場所まで歩き、サッカーボールを地面に置いた。そして軽くストレッチをし、身体を馴らしていく。

 

「ふぅ~…よしっ!」

 

 準備完了の掛け声と共に、森の中でボールを蹴り出し、ドリブルで駆け巡る。進行方向に木があれば、華麗に躱し、再びドリブルをする。

 昔は木に激突したり、ドリブルがぎこちなかったりしたのだが、今では淀みなくボールを運べている。

 

 ドリブルの特訓を何回も繰り返した後、虎白が唐突にボールを木の幹に強く蹴り当てる。

 そんなことをすれば、ボールはあらぬ方向に跳ね返っていくのだが、その不規則な軌道を予測し、木の幹を足場に跳躍して追いかけ、パスカットのようにボールを足で受け止める。

 

 幼い頃から続けている特訓を、何セットか続けていると、突如として、森の中から黒い影が飛び出してくる。

 

「がるるっ!」

 

 それは、虎白の図体より二周りほどは大きい熊だった。黒い毛に、鋭い爪、興奮しているのか唸り声を上げている。

 

 しかし、虎白はそれを前にしても狼狽えることはなく、ゆっくりとボールを地面に置き、足を僅かに引いて助走の体勢を構える。

 熊は依然として、虎白から目を逸らさず、お互いに視線を交差させる。

 

 その膠着状態を破ったのは虎白だった。普通なら熊から離れようとするだろうが、虎白は全くの逆。熊の方へと助走の体勢から走っていった。

 

 そして、サッカーボールを蹴る──

 

 

 ──ことはせずに素通りし、熊に飛ぶつくように抱き着いた。

 

「くまごろう。私、白恋中の一軍に選ばれたんだ!」

「がるがる‎っ!」

 

 虎白はその熊──くまごろうに、親しげに話しかけ、くまごろうと呼ばれた熊の方も、まるで人間の言葉を理解しているかのように嬉しそうに鳴き、彼女の周りをぐるぐると駆け回り、友人を祝福した。

 

 

 ──くまごろうとの出会いは、虎白が小学2生の頃。

 その日も、森で特訓をしていた虎白は、微かに聞こえてくる鳴き声を辿って森の奥まで進んでいった。すると、そこには子熊がおり、倒れている親熊の近くで何度も呼び鳴きをしていたのだ。

 

 それから、虎白は、くまごろうに餌の取り方を教えたり、寂しくないように森の中で遊び相手になったりしていた。春や夏のような、暖かい時期にだけ会える、特別な友達だった。

 

 そんなある日、虎白がボールでリフティングをしていたら、くまごろうがジッと見つめていることに気付いた。

 サッカーに興味があるのかと思って、分からないだろうとは思いつつも教えていたら、いつの間にかサッカーのできる熊になっていたのだ。

 さすがは超次元サッカーの世界だと、この日以上に思ったことはない。

 

 この大きさと強さなので、体のぶつけ合いでは良い特訓相手になるし、威力のあるシュートを撃てるから、蹴り返すのも、キャッチするのも容易ではない。

 そのお陰で、虎白のパワーはかなり強くなっただろう。

 

「今日も特訓に付き合ってくれる?」

「がうっ!」

「じゃあ行くよ!」

 

 特訓中、何かが衝突する音や衝撃の余波で、野鳥が飛び立ち、野生動物が逃げ出す。お互いに叫びながらサッカープレイヤーとしてぶつかり合う。

 

 

 ──数時間後。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…!」

「がるるっ…がるるっ…!」

 

 虎白とくまごろうは、体力を消耗し過ぎて、お互いに肩で息をしていた。玉のような汗が流れ、地面に落ちる。そんな状態でも、虎白はマフラーを外すことはせず、木陰で休憩していた。

 

「はぁ…はぁ…ふぅ~…」

 

 特訓で疲労した虎白が軽くため息をつく。

 虎白は昨日から、特訓以外では白恋中サッカー部のことばかり考えている。今まで縁遠かった一軍どころかスタメン入りができたのだから当然なのだが、一つだけ気がかりなこともある。

 

 それは、『雪村豹牙』のことだ。

 彼からは、吹雪と似たような印象を受けていたので、一軍入りするかと思ったのに、二軍になってしまったのだ。

 

 虎白が勝手に白恋中のキーパーソンだと決めつけていただけで、見当違いだったのだろうか。それとも、『雪守虎白』というイレギュラーが混ざったことで、本編とは違う展開になったのだろうか。

 

 考えても仕方がないことだし、もし雪村が重要人物だったとして、サッカーでわざと負けるようなことをするつもりは毛頭ない。それでも、一応動向は見守った方がいいだろう。

 そう結論づけ、一度頬を両手で叩いて気持ちを切り替える。

 

「よし、特訓再開しよう!」

「がるっ!」

 

 特訓を再開したが、そう長い時間は行われず、日が暮れ始めたため、帰る時間となる。

 

「今日の特訓はここまでかな。付き合ってくれて、ありがとう」

「がるるぅ~…」

「また来るよ、くまごろう」

 

 虎白は、寂しそうに鳴いたくまごろうを慰める。中学生になって部活動も始めた彼女には、小学生のときほど自由な時間は少ない。けれど、ここでしか出来ない特訓があるし、何より、くまごろうという友達に会えないのも寂しいので、部活のない休日には足を運ぶ予定だ。

 

 その後、家に帰った虎白は、両親から白恋中サッカー部の一軍入りと、スタメン入りのお祝いをしてもらい、幸せな休日を過ごした。

 

 

 

 休みが明け、今日からサッカー部が本格的にスタートすることになる。放課後になって、白恋中サッカー部が使用する、サッカー棟と呼ばれる施設に足を運ぶと、キャプテンが部員たちにユニフォームを配っていた。

 

「おはようございます、キャプテン」

「あぁ、雪守か。ほら、これがお前のユニフォームだ。着替えたらグラウンドで、さっそく練習だ」

「はい、楽しみにしてます」

 

 虎白は、渡されたユニフォームを抱えて、サッカー棟に増設された女子更衣室に入る。

 さっそく、ビニールからユニフォームを取り出し、掲げるように袖を広げて持つ。

 

「ずっと憧れてた、白恋中のユニフォームだ…」

 

 しばらく夢見心地で眺めている虎白は、あることに気付く。

 

「しかもこれ、9番って…。吹雪と同じ背番号…ぅ~!」

 

 声にならない声を漏らし、白恋のユニフォームを胸元に抱きしめる。

 当時のデザインとは違うけど、紛れもなく本物の、白恋中サッカー部9番のユニフォーム。普通のサッカープレーヤーなら10番に憧れるかもしれないが、虎白にとっては、9番以外に価値はなかった。

 

 興奮を抑えきれず、制服を乱雑に脱ぎ、一度マフラーも外す。急くように、ユニフォームへと袖を通し、マフラーを巻き直す。着替え終わり、更衣室に備え付けられているスタンドミラーで、今の自分の格好を確認する。

 

「やばい…」

 

 そこにいたのは、吹雪士郎似の女子中学生だった。こんなキャラクターが次回作に出てたら、絶対好きになっていた。

 もしかしたら、自分がいるのは既定路線なのかもしれないと思うほど、吹雪エミュ完璧のキャラクターだった。色々とポーズ変えて鑑賞する。とりあえず、スマホで1枚自撮りしておくことにした。

 

「ふぅ…」

 

 ひとまずは満足したので平静を取り戻す。こんなことをしてる場合ではなく、グラウンドで練習をしなければいけない。有意義な時間を潰すわけにはいかない、と思い直して更衣室を出る。

 

 

 グラウンドに一軍、二軍それぞれのユニフォームを着たサッカー部員たちが集まった。監督は遅れてくるそうなので、3年生のキャプテンが仕切っており、今はその練習の真っ最中だ。

 

 一軍の部員たちは、交互に攻守を入れ替えつつ、コンビネーションを確かめるような練習をやっており、虎白はコートの外で観察し、白咲はGKとしてコートの中にいる。

 

北厳(ほくげん)!」

「はいズラ!」

 

 3年生のキーパーがDFの北厳センパイにボールを投げる。それを受け取り、フィールドを上がっていく。その実力は大したもので、2年生ながら3年生と競り合っている。ガタイも良く、DF向きと言えるだろう。

 

「行くズラ!」

 

 北厳がMFにパスをする。ドリブルとパスとを使い分け、中盤から徐々にせり上がり、FWがゴール前に辿り着く。

 

 虎白は、そんなセンパイたちを冷静に分析しながら、一人の選手に注目していた。その選手は『白咲克也』だ。

 虎白は、彼のことを雪村ほど重要人物だとは思っていないが、雪村と同い年で、一軍入りを果たせる実力を持っているのは多少気がかりだ。

 1年生のノーマルシュートや、虎白の必殺技では物差しとして機能しないが、一軍にいるセンパイたちの必殺技ならその限りではない。

 

「お前に、このシュートが止められるかな! ─フリーズショット!

 

 氷に覆われたグラウンドで、足を真後ろに振りかぶり、勢いよくボールを蹴る。凍ったグラウンドの上を滑るようにスピードを増していき、白咲へと向かっていく。

 

「フッ──クリスタルバリアッ!

 

 固く握った右拳と冷気を、左手で抑えこみながら右脚の重心を後ろへ。シュートを捉えられるタイミングと重なるように重心を前に移動し、グッと握っていた拳をパッと勢いよく開く。すると、閉じ込められていた冷気が一気に開花し、氷の結晶のような障壁となってシュートの威力を阻み、やがてボールまでもが凍りつく。

 

「何っ!?」

「必殺技だと!?」

 

 驚くセンパイたちを、小馬鹿にするように、口の端を吊り上げる。

 

「フフッ。いいシュートでしたよ、センパイ」

 

 その白咲の目が、一連の攻防を観察していた虎白を捉えると、怯えたように顔を背け、視界から外す。

 

「…ッ」

 

 虎白は、そんな白咲の妙な行動を、特に気にかけることはなく、サファイアの瞳を楽しげに輝かせていた。

 

「これが、白恋中の必殺技…!」

 

 必殺技の応酬、それはやはり心躍る展開だ。しかも、『フリーズショット』という虎白も知っている懐かしい必殺技と、まったく新しい『クリスタルバリア』という必殺技。

 

 『フリーズショット』は、ゲームで白恋中の生徒が覚えていたり、イタリア代表"オルフェウス"の誰かが使って円堂からゴールを奪うという、ちょっと解釈違いなストーリーもあったから印象深い。

 

 『クリスタルバリア』の方は、一見するとガゼル率いる"ダイヤモンドダスト"のバンダナを着けたGKが使う『アイスブロック』に似ているから、その派生だろうか。

 

 それから全員の動きを観察していると、白咲の実力はかなり高いことが分かった。3年生相手に一歩も引けを取らないプレーヤーだ。他のセンパイたちも、決して動きは悪くない。これなら、ホーリーロード優勝も狙えるだろう。

 

「あぁ、早く本気の試合がしたいなぁ…」

 

 練習も特訓も楽しいけれど、今の虎白の一番のモチベーションは、性別による言い訳のない真剣試合だ。それのみを渇望している。

 

 

 ──虎白がそんな輝かしい希望を抱いている同時刻。

 

 校長室に、坂本監督が呼び出され、不穏なやり取りを交わしていた。

 

「坂本先生、次の日曜日、練習試合が決まりましたよ。相手は栄道学園です。フィフスセクターからの勝敗指示もきてます」

 

 『フィフスセクター』とは、表向きは日本のサッカーを管理する組織の名称。しかし、その裏では各学校の試合の勝敗を指示し、得点すら定め、サッカーの実力による、学校間の格差が起こらないようにする組織だ。その意向を無視すれば、減給なら軽いもので、サッカー部そのものを潰されることも、退学や退職、果ては廃校に追い込まれることまである。

 

「今回のご指示は…?」

 

 坂本が目を伏せながら問いかける。できることなら、勝利の指示であってほしいと思いながら。…しかし、無情にもそれは叶わない。

 

「3-0で白恋の負けです」

「負け、ですか…。それも3-0で…」

 

 実力通りに戦えば、栄道学園に白恋が負けるということはほとんどありえない。それも大差でというなら尚更だ。生徒たちの不満は避けられないだろう。

 そんな坂本の心を見透かしたように、校長は話を続ける。

 

「分かってるね? ルールを破ればどういうことになるか。くれぐれも、軽率な行動は慎んでくれ。特に、坂本先生は、最近とある人物と交流が深いようですからね」

「っ…!?」

 

 まるで脅迫するかのように、坂本が密会していた事実をほのめかせる。

 

「新1年生たちにも、よく言い聞かせておくように」

「はい…」

 

 念を押され、首を縦に振ることしか坂本にはできなかった。今のサッカー界に変革をもたらしてくれる誰かが現れてほしい。そう強く願って…。

 

 

 

 ──坂本監督が所用を終え、グラウンドに現れたことで、練習中の虎白たちは、監督の下へと集合することになった。

 

 監督はサッカー部員たちの顔を見渡し、重い口を開く。

 

「私から一つ連絡があります。次の日曜日、栄道学園との練習試合が決まりました」

 

 その話を聞いた虎白は、瞳を爛々とさせ、頬を上気させる。しかし、センパイたちは反対に暗い顔を覗かせる者が多かった。

 

「そうですか…」

 

 その反応の差が虎白には不思議だったが、試合経験の差だろうかと勝手に納得していると、一人のセンパイが監督に声をかけた。

 

「監督、昨日キャプテンのところにコレが…」

 

 そのセンパイの手には、折りたたまれた紙が握られていた。

 虎白からは何が書かれているのか分からないが、それにはフィフスセクターから送られた勝敗指示が記されている。指導者が虚偽の報告をしても、サッカー部員たちに本当の指示が伝わるように、というフィフス側の策略であり、慈悲でもある。

 

「…まぁ、そういうことです。そろそろ、練習を再開しましょうか」

 

 虎白は、監督やセンパイたちの様子に、多少の違和感を覚えつつも、練習試合に向けての約一週間、猛特訓をして、栄道学園との練習試合当日を迎える。

 

 

 学校から栄道学園まで、バスで移動する。練習試合とはいえ、こちらは一軍メンバーで挑む。ホーリーロード前なので、怪我には気をつけたいが、どんな試合だろうと、虎白は本気で勝ちにいくつもりだ。

 

 

「──わぁ、スゴいなぁ…!」

 

 栄道学園に併設されているサッカーコートに到着した虎白は、まず観客の多さに驚かされる。いくらサッカーが人気とはいえ、練習試合にここまで人が集まるのは予想外だった。

 

 虎白が慣れない光景に圧倒されている間、キャプテンは相手選手と何やらコソコソと会話をし、その他のチームメイトも準備運動をしている。

 

「行くぞ!」

 

 話し終えたキャプテンが、チームに指示を出し、フィールドに足を踏み入れる。向こうにいる相手チームは、眼鏡をかけた選手ばかりだった。

 

『──お待たせしました! 白恋中あるところ、角間(かおる)あり。ただいま連勝街道まっしぐら! 勢いに乗る栄道学園との一戦を、実況、角間香でお伝えします!!』

 

 本来なら、練習試合で実況はつかないのだが、個人の趣味の範疇なので問題はないし、ここはイナズマイレブンの世界なので、誰も突っ込んだりしない。

 

『さぁ両チーム、ポジションにつきました! 白恋中には新しく、DFに『雪守虎白』が加入! これは…女子選手? しかも1年生です! 今年度から、少年サッカー法における出場資格が見直され、ホーリーロードにも女子選手の出場が認められましたが、果たして、どんなプレーを見せてくれるのでしょうか!?』

 

 虎白は、観客席から自分に向けられる視線を感じながらも、どこか現実とは切り離された世界にいるような感覚に陥っていた。

 心臓の鼓動が鳴りやまず、思わず胸を抑える。それは緊張ではなく、高揚。これが、始まりの一歩となる。

 

 ──早く、早く、私を楽しませてくれ。

 

「ピィ───ッ!」

 

 試合開始のホイッスルが鳴り、センパイが味方へとパスを出す。

 

『今、白恋中のキックオフで、前半戦が始まりましたぁ!』

 

 虎白は、うずうずとする気持ちを抑えながら、吹雪のようにゴール前のポジションを維持し、試合を後方から眺める。

 

「パスですズラ!」

 

 センパイたちが上手くパスを繋ぎ、順調に前線へと駆け上がっていく。3年生のセンパイがドリブルで敵陣深くまで乗り込もうとしている。

 

『このまま、ゴールまで持ち込めるか!?』

 

 虎白は、そのセンパイが少なくともシュートができると確信していた。なぜなら、それだけ実力差があったからだ。

 最近、評判を上げているという学校だから期待していたのだが、これでは一方的な試合になってしまう、とまで思っていた。だから──

 

 ボールを運んでいたセンパイが相手DFと相対する。その相手選手は、センパイと目が合うとイヤな笑みを浮かべた。

 

「フッ」

「…ッ」

 

 それに怯んだかのように、センパイの動きが急に鈍る。そのスキを突くように、必殺技を繰り出した。

 

「シーフアイ!」

 

 右手の親指と人差し指で丸い輪を作り、レンズのように右目で覗き込み、ボールの軌道を分析して、すれ違いざまにボールを奪う。

 

「ッ…!」

『ああっと!? 白恋中、ここでボールを栄道学園に奪われてしまったぁ!』

 

 ──だから、それは悪い意味での裏切りとなった。

 

「どうして…」

 

 明らかに、1対1の直前、センパイの動きが悪くなった。それはまるで──。

 

「ううん…」

 

 そんなはずない。誰だってコンディションが優れないときがある。相性の問題だって存在する。虎白はそう自分に言い聞かせ、試合に集中した。

 

 オフェンスが栄道学園へと移り変わり、中盤で激しい競り合いとなる。ボールを取っては取り返しを、何度も繰り返している。

 

『これはスゴい! 激しいぶつかり合いだ! 両チームとも、全く引かない互角の戦いです!』

 

 そう、互角なんだ。それも、奇妙なほどに実力が拮抗している。

 だけどそれは、練習で見てきたセンパイたちの動きとは、大きくかけ離れたモノで、虎白には何が起こっているの分からず、幻でも見ているような気分だった。

 

『一進一退の攻防が続いたが、ついに栄道学園が、抜け出したァ!』

 

 競り合いを制したのは栄道学園の選手。だけど、あんな単調なドリブルに抜かれるほど甘いセンパイではなかったことを、虎白は知っている。

 

『ここで仕掛けてきたァ! 止められるか、雪守!?』

 

 虎白が試合前に感じていた高揚は、もはや完全に消え去り、心が急速に冷えていく感覚に陥っていた。

 湧き上がってくる気持ちの悪い感情に目の前が真っ暗になり、栄道学園の選手が、そんな虎白の横を通りすぎる。

 

『雪守、あっさりとドリブルで抜かれてしまう! まだ緊張しているのか!?』

「点を取らせてもらう!」

 

 そう勇ましく宣言する声が、虎白には空々しく聞こえた。

 

「どうして…。どうして、みんな本気でやらないんだ…!」

 

 ここまでくれば、イヤでも理解する。この試合は、最初から勝敗が決まっている八百長試合だ。だけど、何故そんなことをセンパイたちが行っているのか、その理由が虎白には分からなかった。

 

 初めての真剣勝負、それは虎白にとって長年追い求めていたものになるはずだった。しかし、この試合は虎白の望んだものとは真逆の思惑で管理されていた…。

 

 

 ──同時刻。

 

 沸き立つ観客たちに紛れるように、白恋中の試合を観戦している人物がいた。

 真冬に着るような青緑色のコートに身を包み、外ハネのある白銀の髪に、御伽噺に登場する王子様のように甘い顔立ちをした青年。

 

 目の前で繰り広げられている、管理サッカーによって歪められた白恋中の姿に、胸の内のやるせなさを抑えきれず、一人呟く。

 

「──これが…白恋…」

 

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