イナズマイレブンGO ブリザード   作:アロイ

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第8話 白恋の覚醒!?

 

『ホーリーロード北海道Aブロック地区予選。蕗ノ下(ふきのした)中対、白恋中! もう間もなく開始です!』

 

 試合開始前に、蕗ノ下中のキャプテン今金(いまがね)が、数人の選手を引き連れて、虎白の下へと近寄ってくる。

 

「こいつか?」

「は、はい。そうだと思います」

 

 それは昨日、虎白の噂話と過去を聞いていた2年生だった。今金の傍にいることに緊張し、表情が固い。

 

「よぉ、おまえが前の試合で10点入れたってヤツか?」

 

 ストレッチをしている虎白に、馴れ馴れしく声をかける。虎白は視線だけ向けて、ストレッチを継続する。

 

「あれは本当なのか? そんな風には見えねぇけどな」

 

 侮るような目で見下ろす今金。ようやくストレッチを止めて、正面を向き直した虎白が、首を傾げる。

 

「どこで聞いたか知らないけど、私は10点も入れてないよ」

「フン。そんなことだろうと思ったぜ──」

 

 馬鹿にしたように鼻で笑い、背を向けようとする今金。しかし、次の一言でその動きを止めることになる。

 

「私が入れたのは9点だよ。最初の1点は、雪村くんが入れたからね」

 

 なんてことないかのように淡々と話す態度を見て、今金は、コイツの言っていることは本当だと、妙な確信を抱く。

 

「くくっ、そうか。だったら、フィフスセクターに楯突いたことを、シードの俺が後悔させてやるよ。楽しみにしておけ」

 

 嫌な笑みを浮かべた今金と、その取り巻きたちがセンターラインの向こう側に歩いていった。

 

『キャプテン今金を中心とした攻撃サッカーで、1回戦を突破してきた蕗ノ下中は、大量得点で勝ち上がった白恋中相手に、どう挑むのでしょうか!?』

 

 お互いにポジションにつき、ホイッスルを待つ。白恋中の作戦はこの前と変わらず、虎白が最終防衛ラインとして働き、雪村へとパスを出す。それだけだ。

 

「うん…?」

 

 虎白は、雪村の背中を見て、少し違和感を覚える。今日の雪村は以前と異なり、後ろ姿からでも分かるほどに、やる気に満ちているように思える。

 

 それが心の片隅に引っかかったが、ホイッスルが鳴ったことで、意識を切り替える。

 

『白恋中のキックオフで試合開始!』

 

 白恋中のボールから始まり、日高が雪村へとパスを出し、雪村だけが敵陣へと勇んで突っ込んでいく。

 

『雪村が開始早々、飛び出したァ!? ドリブルで上がっていくぞ!』

 

 雪村は、ドリブルで駆けながら強い決意を抱いていた。

 

 ──決めてやる! オレだけの必殺技を!

 

 以前までの自分なら、試合に勝てればそれでよかった。チームのためだとか、フィフスセクターを倒すことに微塵も興味などなかった。

 

 だが、今は違う。自分には負けたくないと思う雪守虎白(ライバル)がいて、成長を願ってくれる吹雪がいる。

 

 自分を信じてくれた吹雪のためにも、共に編み出した必殺技で、フィフスセクターを倒したい。

 

 そういった気持ちが、自分の背中を後押ししてくれるようで、雪村は素早いドリブルで上がっていく。すると、目の前に相手が立ち塞がった。

 

「通さないぜ!」

『ここで蕗ノ下がボールを奪いに来たァ!』

 

 しかし、今の雪村は止まらない。どんどんと加速していき、トップスピードで駆ける。

 

「退けーッ!」

「チィ!」

 

 ディフェンスを横から突破し、勢いそのままにゴールまで駆け抜ける覚悟で、ドリブルをする。

 

『躱したぞ雪村!』

「ククッ。バカが突っ込んできたよ」

 

 そんな雪村の進行方向に、蕗ノ下中の芽室(めむろ)が、待ち構えていたかのように飛び出した。

 

「なっ…!?」

 

 雪村は、先ほどの相手を抜き去るときのトップスピードによって、ブレーキが効かず、芽室のいる方へと突っ込んでいく。

 

「頂いていくよ!」

 

 二人が交差すると同時に、繊細な動きを封じられた雪村は、あっさりとボールを持っていかれる。

 

『フォローに入っていた芽室に、ボールを奪われたァ!』

 

 ようやく減速した雪村が、後ろを振り返るも、既にお互いの距離は十分にあった。

 

「クソッ!」

 

 遠ざかる背中を見ながら悪態をつく。雪村は、ボールを奪われたことよりも、吹雪からの期待に応えられなかった自分に腹が立っていた。

 

 ドリブルで白恋中に攻め込んでいった芽室は、次々とディフェンスを抜いていく。

 

『蕗ノ下上がっていく! サイドを使ってくるかァ!?』

 

 目の前には白恋DFたち。普通なら横幅を活かしてパスをしてもおかしくない場面だろう。しかし、虎白以外は誰も本気で止めようとしないのだから、直接攻め込んできても問題ない。

 

 そんな状況下で、芽室は周囲を気にし始め、氷里を挟んだ向こう側に、味方がいることに気付くと、悪意を含んだ顔になる。

 

「おらよ!」

「えっ…?」

 

 それは、氷里から見たら普通のパスだったが、目前で意図的に軌道を変えたかのように曲がり、本来なら軌道上にいなかったはずの氷里の顔にボールが直撃した。

 

「うわあーーッ!?」

「氷里!?」

 

 氷里が転倒し、白恋中側から心配する声が上がる。跳ね返ったボールが、タッチラインから外側に出て、ホイッスルが鳴った。

 

「氷里…!」

「うっ…ううっ…!」

 

 倒れた氷里に大勢が駆け寄る白恋中。氷里は、呻き声こそ上げているが目立った外傷はない。

 

『氷里は倒れたままだ! これは心配です! 大丈夫でしょうか?』

 

 虎白が、一連の不自然な動きに気付き、蕗ノ下中に顔を向ける。ぶつけた張本人である芽室には、罪悪感がないのか、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべていた。

 

「今の…」

 

 虎白が確信を持つと、氷里がゆっくりと起き上がった。そして、自分を心配そうに見つめるチームメイトに声をかける。

 

「だ、大丈夫です。よく見てなかったぼくのせいですから」

 

 氷里は、それが意図的な行為であったとは気付かず、事を荒立てないよう穏便に済ませようとする。

 

『起き上がりました。どうやら大丈夫なようです』

 

 結局、芽室や他の選手からの謝罪すらなく、お互いのチームはスローインの準備をする。

 

『蕗ノ下中のスローインで試合再開です!』

「今金!」

 

 蕗ノ下中の選手がボールを投げ入れると同時に、虎白がゴール前から動き、一目散にボールを持っている今金をマークする。

 

「これ以上キミたちの好きにはさせない!」

 

 後ろにいるチームメイトを庇うように両腕を広げ、自分を標的にさせようとする虎白。その観察力の鋭さに、今金が敬意を表する。

 

「たったあれだけで、俺たちの目的に気付くとはな。いいぜ、相手してやるよ!」

「ッ…!?」

 

 その言葉とは裏腹に、いつの間にか、蕗ノ下中の選手たちが虎白を囲むように陣取っており、冷や汗をかく。

 

「──ただし、全員でなァ!」

 

 その宣言と共にシュート紛いのパスを繰り出し、虎白にボールをぶつける。

 

「うわあっ!」

「雪守!?」

 

 その衝撃を受け止めきれず、後ろに数歩よろめく。そんな虎白を見て、今金が嗜虐的な笑みを浮かべた。

 

「おまえは危険な女だからな。俺たち蕗ノ下中が、今ここで潰す!」

 

 今金からパスを受け取った選手が、間髪入れずに、虎白にボールをぶつける。

 

「うわあああーーっ!!」

 

 それから、今金たちはパス回しをするように虎白を執拗に痛みつけた。虎白は、ダメージを最小限に抑えてはいたが、反撃の機会を窺えずにいた。

 

「雪守…」

「雪守さん…」

 

 周囲でそれを見せられている白恋中も、フィフスセクターに逆らう決断ができず、叫び声を上げる虎白から、目を逸らした。

 

 

「──ぐっ…!」

 

 蕗ノ下中のゴール前にいる雪村は、その光景を歯噛みしながら見守っていた。先ほどから、今の状況で自分がどう動けばいいか悩み続けており、ジリジリと焦燥している。

 

 得点を取るためにゴール付近で待っているのが正解なのか、それとも、蕗ノ下中の虎白潰しを止めさせるために助けに行くのが正解なのか。

 彼女を支えるのなら、絶対に助けに行った方がいい。そして、何とかして相手からボールを奪い、二人で助け合いながら得点を取る。それが信じ合うということなのではないかと。

 

「いや…」

 

 しかし、雪村はそれが間違っていることを、直感で理解する。信じ合うというのは、お互いを手厚く守ることじゃないはずだ、と。

 

 初めて吹雪と会った日、あのときは聞き流してしまった吹雪の言葉を思い出す。

 

『もっとお互いの動きをよく見るんだ。誰が、どんな動きをしているかを!』

 

 改めて目を凝らす雪村。次々とボールが飛んできて痛々しい姿ではあるものの、雪守の目は死んでいない。助けが来ることを望んでいるようには到底思えない。それに、一人にかかりっきりで、明らかに守備が手薄になっている。

 

「あんなヤツらにやられるほど、アイツは脆くない…!」

 

 彼女にできること、自分にしかできないこと。それを見極めた雪村は、その場から動かず、パスが飛んでくるのを待つことにした。それこそが、信じ合うということだと思ったから。

 

 

「──くっ…!」

 

 雪村が決意を固めた頃。蕗ノ下中の集中砲火に晒されていた虎白が、ついに体勢を崩した。

 

「どうやら限界らしいな。おい、俺にボールを寄越せ」

「は、はい…!」

 

 誰から見ても分かるほど弱りきって、力無く腕をぶら下げ、ふらつく虎白。それを好機と見た今金が、最後の仕上げにかかる。

 

「これで──」

 

 俯いている虎白へと狙いを定め、足を後方に振り上げて力を溜める。

 

「──終わりだァ!」

 

 一際強く蹴られたボールは、真っ直ぐに虎白へと襲いかかる。無防備に喰らえば、吹き飛ぶだけでは済まず、この試合中に意識が戻らないかもしれない威力だった。

 

 超至近距離シュートが迫る中、虎白が僅かに右足を引くと、俯いている横顔を覆っていた髪がさらりと揺れた。すると、髪の隙間から、瞳孔まで開ききった鋭いサファイアの瞳が、今金を覗き見た。

 

「…ッ!?」

 

 その底冷えするような視線に晒され、ゾクッと全身に寒気が走る。今金が虎白へと向けていた、獲物を追い詰めたという感覚が自分へと逆転する。

 

 虎白はずっと一人にだけ意識を集中させていた。誰がボールを蹴るのか、それを瞬時に判断するのは難しい。だが、絶対にボールに触ると確信のついていた相手がいる。

 

 それが、キャプテンでありシードでもある今金だ。

 

 大人しく痛めつけられ、自分の弱った姿を見せれば、彼がトドメを刺しに来ると読んでいたのだ。だからこそ、この危機的状況にも一切怯むことがなかった。

 

「──待ってたよ」

 

 先ほどまで気力を失っていたように見えた虎白が、一瞬にして力強さを取り戻し、迫まってくるボールを天高く蹴り上げた。

 

「何っ!?」

 

 今金たち蕗ノ下中が目を見開き、放り上げられたボールを一斉に見上げる。

 虎白はその隙を突き、体を深く沈ませて両足を強く踏み込み、ボールに届く高さまで飛び上がる。

 

「はああああーーーッ!」

 

 蕗ノ下中に囲まれていた虎白は、空中に逃げることで、ついに解放される。そして、予め位置を把握していた雪村と視線を合わせた。

 

 その一瞬の交錯で、雪村が自分を待っていたことを悟り、口角を上げる。

 

「雪村くん!」

 

 上から斜め下へ、空中で放たれたパスを妨げるものは何もなく、真っ直ぐに雪村へと向かっていく。

 

「おまえなら必ず上げると思ったよ」

 

 口をついて出たその言葉は、信頼というよりも事実だった。これまでに雪村が見てきた虎白の実力。それを認めているからこそ、雪村は決断することができたのだ。

 

「任せたよ!」

「分かってる!」

 

 ロングパスを足でトラップして宙に浮かせると、そのまま、体の向きだけを半回転させて身を翻し、ゴールキーパーと対峙する。

 

「これが、オレの必殺技だあああーーーッ!」

 

 クロスするように右踵を振り下ろし、その勢いのまま左足を振り上げると、まるで獣の爪で切り裂かれたかのような力が蓄積され、雪村の背後に獰猛な豹のような気迫が漂う。

 

「パンサードライブ!!!」

 

 ボールを弾くようにして左足で蹴り上げ、雄叫びを上げると、それに呼応して豹の雄叫びが轟き、激しい縦回転がかかったシュートがゴールを襲った。

 

「させぬっ! プラントルート!

 

 キーパーが地面に両手を突っ込むと、ボールを跳ね返すようにして、太い木の根っこを引きずり出した。

 

「ぬううううう!!」

 

 両足を踏ん張りながら、必殺技を弾き飛ばそうとするが、激しい回転に根っこが徐々に削り取られ、引きちぎれる。

 

「な、なんだとぉーーーっ!?」

 

 勢いを殺すことができず、キーパーごとボールがゴールネットに押し込まれる。

 

『き、決まったァーッ!!! 雪村の新たな必殺シュートで、白恋中先制です!!!』

「や…やったぞーッ!!」

 

 雪村が両手を握ってガッツポーズを取り、喜びを噛み締める。ベンチに視線を向けると、吹雪が応えるように頷いたのを見て、さらに顔を綻ばせた。

 

「アイツが必殺技を…」

「スゴいシュートだったズラ…」

 

 雪村が必殺技を繰り出したことに、虎白を含む白恋中の全員が驚く。

 虎白は、戻ってきた雪村に声をかけた。

 

「雪村くん、いつの間に必殺技を…?」

「おまえがいない間に、吹雪センパイと一緒に編み出したんだ」

 

 そう言って、雪村はベンチにいる吹雪の方へと視線をやった。

 

「吹雪、センパイ…?」

 

 その呼び方が衝撃的すぎて、全く話についていけない虎白。雪村は一度視線を戻し、二人が正面から向き合う。彼の瞳には強い光があり、以前と違うことを悟った。

 

「オレは、もうおまえを疑わない。そして、白恋中のエースストライカーの座も渡さない!」

 

 いつの間に吹雪と親睦を深めたのかとか、急に態度が変わった理由とか、必殺技やライバル宣言のことは一旦置いておくして。

 雪村が白恋のキーパーソンだという、自分の見立てが間違っていなかったことだけは分かった。

 

 

「──どうやら潰さなきゃいけねぇバカは、二人いたようだな…」

 

 虎白に出し抜かれた今金が、会話している二人を睨みつけながら、チームメイトに呟いた。

 

 

 お互いのチームがポジションにつく。

 

『蕗ノ下のボールで試合再開です!』

 

 今金がパスを受け取ると同時に、ドリブルで攻め込む。それに反応するように、雪村が今金の前に飛び出る。

 

「通すか!」

「フンッ。雑魚が調子に乗るなよ!」

 

 ドリブルをする足を止め、雪村を見下す今金。その背後から黒い影が出現して形作っていき、ハッキリと具現化した。

 

「出てこい──黄金のグルヴェイグ!」

 

 黄金に光り輝く人型の化身が佇む。気高い戦士のような姿をしているが、その風貌は今金の凶暴性を反映して刺々しい。

 

『蕗ノ下中、今金の化身が現れたぞ!?』

「こいつも化身使いなのか…!?」

 

 雪村が顔を苦くして、化身を見上げる。雪村自身は初めて化身使いと対峙するが、その強さは雪守を通して痛感している。

 しかし、化身を恐れる気持ちはなかった。ここで怖気付くようでは、雪守をライバルと呼ぶ資格もない。

 

「うおおおーーーっ!」

 

 雪村が雄叫びを上げながら己を奮い立たせ、今金へと勇猛果敢に立ち向かっていく。

 

「おまえ如きがッ…!」

 

 今金が鬱陶しそうにそう吐き捨てると、群がる羽虫を叩き落とすように化身が腕を振るい、雪村を吹き飛ばした。

 

「ぐわあああーーーっ!」

「雪村くん!」

 

 虎白が雪村を心配して声を上げると、今度は虎白に狙いを変え、化身を引き連れてドリブルで距離を詰めてくる。

 

「次はおまえだァ!」

 

 突進してくる今金に応戦しようと、化身に意識を向けた途端、ドクンッと心臓が強く跳ね上がる。

 

「うぐっ…!」

 

 膝をついて苦しむ虎白。その感覚が以前と同じく、化身による共鳴だと瞬時に判った。

 

「雪守!?」

『ど、どうしたことでしょう!? 雪守が突然動きを止めたぞ!?』

 

 急に苦しみ出した虎白に、白恋中のメンバーが驚く。体調を気遣ってのこともあるが、また暴走するのではないかという不安もあった。

 

「だ…大丈夫…!」

 

 虎白は、未だに化身の力をコントロールするには至っておらず、眠れる化身の力に付随して、別人格の虎白が、「オレを出せ!」と出てこようとしているのが分かる。それでも、精神統一の効果があったのか、何とか抑え込むことはできていた。

 

「ハッ。化身の前に怖気付いたか」

 

 動きを止めて、浅い息を吐く虎白をバカにするように笑うと、今金が正面から突っ込んでくる。

 

「俺の通り道を塞ぐんじゃ…ねぇよ!」

「うわあああーーーッ!!」

 

 化身と共に走り出した今金に吹き飛ばされ、追い討ちをかけられる虎白。今金は、そのままゴール前に辿り着き、化身必殺技を繰り出した。

 

「ゴールデンスマッシュ!」

 

 今金が化身と共に飛び上がると、ボールが黄金の光に包まれる。そのボールを踏みつけるようにして、力強く蹴り落とすと、上から下への急角度のシュートがゴールを襲った。

 

『蕗ノ下中の化身シュート! これが決まれば、同点になってしまうがッ!?』

 

 迫り来る化身シュートに対して白咲は、前回の反省を生かし、ボールを止める素振りを見せることもなく、あっさりとゴールを譲る。

 

『ゴール! キーパー白咲、一歩も動けずに得点を許してしまったァ!』

「くっ…!」

「クソッ!」

 

 今金を止めることができず、同点にさせてしまったことを、虎白と雪村が悔しがる。

 

『そして、ここでホイッスル! 白恋中、1-1の同点で前半終了です!』

「フン。あのバカ共によく言い含めておくんだな」

「あぁ」

 

 ゴールを決めた今金が、同じシードである白咲に忠告をすると、背を向けて去っていく。それを淡々とした様子で受け止めた白咲も、休憩に入る。

 

 

 

 ハーフタイムとなり、白恋中はベンチに集まっていた。虎白は、未だに疼きが治まらず、心臓を抑えている。雪村は、そんな彼女を見て、声をかけた。

 

「おまえ…大丈夫なのか」

「うん…。少しだけど、暴走しないように抑えられるみたい」

 

 何とかつくった笑顔で答える虎白に、雪村は言葉に詰まった。それは、頑張れとも、無理をするなとも言えなかったからだ。

 

 もしもこの試合、自分一人で戦うことになったら負けるかもしれない。そんな焦りが、どっちつかずの態度を雪村にとらせた。

 

 再び通用するかは疑問だが、暴走を防ぐ手立てはある。ならば、1回戦のように大量得点を上げてもらうのも一つの手かもしれない。

 

「…ッ」

 

 そこまで考えて、否定するように頭を振る。

 ここでまた雪守に頼ってしまったら、自分はいったい何のために強くなったのか分からないじゃないか。そんなズルい考えが浮かんだことに、自己嫌悪する。

 

 八方塞がりの状況に、雪村は自分にも、他のチームメイトにも苛立ちを感じていた。

 

 そんなやり取りを見届けた後、吹雪も虎白を労う。

 

「よくこの短期間で安定するようになったね」

「吹雪監督のおかげです…」

 

 虎白が弱々しく礼を言うと、吹雪は申し訳なさそうに目を伏せ、懺悔をするように話す。

 

「すまない。僕が指示したからじゃなく、キミ自身の考えで、もう一人の自分に歩み寄らなければ、本当の意味で向き合うことにはならないと思ったんだ」

 

 しかし、虎白に背負わせるには、重荷だったかもしれないと、吹雪は指導者として反省する。

 

「吹雪監督…」

 

 虎白は、吹雪の言うことなら間違いないと盲信していたので、その本人が迷っていることに気付きもしなかった。

 確かに吹雪だって人間だ。いつも正解を選べるわけじゃない。それでも、虎白は吹雪の憂いを払いたかった。

 

「それなら、吹雪監督が間違っていないことを、化身を使いこなせるようになって、私が証明します」

「ふっ…」

 

 虎白らしい慰めに、吹雪が軽く微笑む。一度、強く目をつぶって気持ちを切り替えると、監督らしい顔つきになった。

 

「決して無茶だけはしないようにね」

「はい」

「フィールドには、11人いるんだ。キミが辛いときは、みんなが支えてくれるさ」

 

 吹雪が、雪村を除いた9人に目を向ける。

 

「そうだろう、みんな?」

 

 沈黙が広がるだけで、返事は返ってこない。

その様子に苛立ちの最高潮を迎えた雪村が怒鳴り散らす。

 

「おまえら、本当に今のサッカーで満足なのかよ! オレは吹雪センパイと一緒にフィフスセクターを倒すって決めたぞ!」

 

 部員たちを睨みつけながら大声で苛立ちをぶつける雪村。そんな彼を見て、石が突然笑い出した。

 

「ギャハハ! 誰にでも噛みついてたテメェが、そんなに躾られちまってよぉ。すっかり吹雪監督の犬だな」

「何だと!?」

 

 石の言い様にカッとなり、胸ぐらを掴みかかる勢いの雪村を、吹雪が手で制し、改めて問いかけた。

 

「キミたちは、本当にこのままでいいのか」

 

 部員たちを見渡しながら話す吹雪に、誰も視線を合わせることができない。

 

「仲間が傷付いているのも見て、何も思わないのか」

 

 吹雪が発破をかけると、それぞれが複雑な表情を浮かべる。己の不甲斐なさを責める者。悔しさに顔を歪ませる者。諦めて下を向く者。

 

「オ、オラは…」

「吹雪監督。何か肝心なことを忘れていませんか? オレたち白恋中がこうなった原因を…」

 

 吹雪の望む方向へと持っていかれそうな話の流れを白咲が遮り、旗色を戻そうとする。

 

「そう、雪守さんのシード疑惑ですよ」

 

 忘れかけていた虎白への疑いに、ザワザワと騒がしくなる。そんな部員たちの視線を受け、吹雪はさも当然のことのように問い返した。

 

「シードが仲間になれないなんて誰が決めたんだ?」

「は…?」

 

 呆気にとられて、大口を開ける白咲。反対に、虎白はどこか自慢するような顔で唇の端を上げる。

 

「初めから、シードがいるかどうかなんて関係ない。大事なのはキミたち自身の心なんだ」

 

 吹雪の言葉に熱がこもる。本来は敵であるはずの白咲ですら自然と耳を傾けて、食い入るように吹雪を見つめていた。

 

「フィフスセクターは倒さなくてはならない。だけどシードは、キミたちと同じ、一人のサッカープレーヤーで、倒すべき敵じゃない。僕はシードとも仲間になれると信じている」

 

 一人一人の目を見つめ返し、力を送るように話す吹雪。どれだけの人数に響いたのかは分からないが、言葉を尽くすことしか、今の吹雪にはできない。

 

「サッカーを好きだという心さえ持っていれば、敵も味方もない。同じ白恋サッカー部の仲間だ!」

 

 シードも仲間になれるなどと宣う吹雪に、ついに白咲も言葉を失う。白咲は、そんな考えを持ったこともなく、脳内でその意味を処理しようと、思考が完全に停止していた。

 

「それに、みんなの中では、もう答えは出ているはずだろう?」

 

 白咲に遮られた問いを、再び全員に投げかける吹雪。今度は、誰も妨げる者は出なかった。

 

「オラは…雪守さんがシードだとは思ってないズラ。でも、だからってフィフスセクターに逆らう覚悟は…出来ないズラ…」

「監督の言いたいことは分かります。俺も、俺だって…」

 

 大勢が吹雪に賛同するが、フィフスセクターに逆らう勇気までは出なかった。そんな部員たちを、吹雪は一切責めることなく、静かに見守ったまま、ハーフタイムは終了した。

 

 

『間もなく後半の開始です!』

 

 ハーフタイムが終わり、ポジションに戻る道中、石は白咲に話しかける。

 

「おい白咲。1回戦が終わってフィフスには報告したんだろ? 聖帝はなんて言ってたんだよ」

「どうやらゴッドエデンに視察中らしい。具体的な指示はまだ何も…。黒木さんも、聖帝が指示するまでは何もするなとしか言わなかった」

 

 自分も蕗ノ下中と共に、白恋潰しに参加したかった石は、内心で舌打ちする。聖帝の許可があれば、すぐにでも渦中の二人を再起不能にしてやるのにと、つまらなそうにする。

 

「まぁ雪守が不調らしいからな。このままスンナリと負けるかもしれねぇ。雪村だけなら化身で終わりだ」

「そう…だな」

 

 吹雪の言葉には力があった。(シード)であるはずの白咲ですら、揺れ動かされるほどに。もし他の部員たちも、自分と同じように感じていたら、どうなるか見当もつかない。声には出さなかったが、そう思った白咲だった。

 

 

『両チームポジションにつきました!』

 

 雪村が虎白をちらりと覗き見ると、相変わらず、調子を悪そうにしている。休憩時間を挟んでも治らないのなら、この試合中で普段通りの力を発揮することは難しいだろう。

 

『蕗ノ下のキックオフで後半が始まりました! 得点は1-1の同点。先に追加点をあげるのは果たしてどちらかァ!?』

 

 パスを受けた今金が、後ろにボールを預けて前線に上がっていく。

 

「アイツが使い物にならないなら、オレが白恋を引っ張ってやる!」

 

 化身使いの今金さえ回避できたら、必殺技で得点を重ねられる。自分一人でも戦っていけるはずだと考えた雪村が、ボールを持っている選手にスライディングをする。

 

「おらァ!」

「うわぁーーっ!」

『雪村、見事なスライディングで蕗ノ下からボールを奪った!』

 

 体勢を立て直した雪村が、すぐに周囲を警戒すると、蕗ノ下中の選手が一人立ちはだかった。

 

「行かせないぞ!」

「追いつけるものなら、追いついてみろ!」

 

 今度は前半のような真似はせず、ボールをコントロールできるギリギリの速さでドリブルをして、その選手の横を通り過ぎる。

 

『相手を躱して攻め上がる雪村!』

 

 このまま、ゴール前に辿り着いて必殺技を決める、と進んでいく雪村。それを見て、今金が前方からキャプテンとして指示を出す。

 

「芽室ッ!」

「あぁ!」

 

 今金の指示を受けた芽室が、雪村の前に位置取ると、背後から黒い影を出現させた。それは次第に形作っていき、ハッキリと具現化する。

 

「ハアアアーーーッ! 深緑のスプラウト!」

 

 緑の肌をした人型の化身が佇む。腕の代わりに生えているツルを、触手のようにうねうねと動かしている。

 

『な、なんと!? 今金に続き、芽室も化身を出したぞォ!?』

「2人目の化身使いだとっ!?」

 

 想定外の事態に焦る雪村。それでも足を止める選択はせず、素早いドリブルで抜き去ろうとする。

 

「させないよ! ──ダメージバインド!」

 

 化身がツルを地面に突っ込むと地響きがする。それを不信に思った雪村が足を止めて周囲を警戒していると、地中から出てきたツルが雪村の全身に巻きつき、衝撃を喰らわせる。

 

「ぐわあああーーーっ!!」

「雪村…!」

『果敢に攻めた雪村! しかし蕗ノ下中、芽室の化身でブロックされてしまったァ!!』

 

 倒れ伏した雪村からボールを奪い、芽室がボールを強く蹴り、ロングパスを出す。

 

「今金!」

 

 芽室からボールを受け取った今金が、ドリブルで駆け上がる。

 

『蕗ノ下中、フォワードにボールが繋がったァ! 白恋中、一転してピンチです!』

「やらせ…ない…!」

 

 今金の前に虎白が立ち塞がる。しかし、化身を遠目にでも見た影響か、暴走状態を抑えるのがやっとで、呼吸が荒く、顔色も悪い。

 

「フン」

 

 そんな虎白を一瞥した後、相手にする価値もないと言わんばかりに素通りする。

 

「…ッ!」

 

 それを屈辱と捉えない虎白ではなく、より強く別人格の虎白が表に出てこようとする。しかし、一度それを許せば暴走する可能性があるため、心臓を強く抑えて、入れ替わるのを防ぐ。

 

「出てきちゃダメだ…」

 

 サファイアの瞳が、何度も琥珀色に点滅する。苦しさを押し殺すように歯を食いしばり、後ろを振り返る。

 

「はあああーーーッ!」

 

 凄まじい速さで今金の背中を追い抜き、再び正面から立ちはだかった。

 

「はぁ…はぁ…。ここから先は、絶対に通さない…!」

 

 目の前の化身使いを倒したいと、強敵に飢えた心が叫び出す。それでもチームメイトを危険に巻き込むような真似はできない。

 

「雪守さん…」

「雪守…」

 

 明らかに調子の悪い虎白が、勝つために必死で頑張っている。その諦めない姿に、北厳たちの心が揺れる。

 

 そんな虎白に対して、今金は無性に腹が立ち、こめかみを何度もひくつかさせる。

 

「しつこいんだよ!」

 

 声を荒らげる今金の背後から黒い影が現れると、化身として具現化する。

 

「出ろ! 黄金のグルヴェイグ!」

 

 化身の発動と同時に、グルヴェイグが殴るような動作で、虎白を吹き飛ばす。

 

「うわあああーーーッ!!!」

 

 化身によって体力を消耗し、額に汗をかいた今金が、ドリブルでゴール前まで辿り着く。

 

『白咲、今度は止められるかァ!?』

 

 白咲は無抵抗なため、化身必殺技ではなく、化身を出したまま、ノーマルシュートを繰り出す。

 

「おらァ!」

 

 それは化身必殺技よりは劣るものの、化身の力は加わっているため、かなりの威力をしたボールが、ゴールネットに突き刺さる。

 

『ゴール! 追加点は蕗ノ下! 後半開始早々、白恋、2-1と突き放されたァ!!』

 

 化身を引っ込めた今金が、肩で息をしながら、忌々しそうな表情で、抵抗してきた虎白と雪村を睨みつける。

 

「ハァ…ハァ…! 無駄な体力使わせやがって! おまえらと違って、こっちは次の試合が控えてんだよ」

 

 今金が悪態をついて去っていく。それを片膝をついて見送った雪村が、「クソッ…!」と固く握りしめた拳で、地面を叩く。

 

「オレの力じゃ、コイツらには勝てないのか…!」

「雪村くん…」

 

 自分を責める雪村に、虎白は気遣わしげな視線を向ける。

 やはり、抑制している全ての力を解き放つ以外に、勝利への道はないのではないか。そう考えてしまうまでに、虎白は追い詰められていた。

 

 視界が狭まっていく感覚に息苦しくなる虎白と雪村の二人。これと言って打開策も見つからず、時間は進んでいく。

 

『白恋ボールで試合再開です!』

 

 パスを受けた雪村が上がっていくが、その動きは鈍い。単純な運動量で言えば虎白以上であり、化身使いと何度もぶつかり合っているので、体力の消耗は化身使い以上だ。

 

「遅せぇよ!」

「くっ…!」

 

 そのため、シードでも化身使いでもない相手にボールを奪われてしまう。悔しそうにその背中を睨むが、雪村に追いかける気力は出ない。

 

『雪村、さすがに疲れが見えてきたか!?』

「このままじゃ…!」

 

 体力も尽き始め、いよいよ手詰まりな感覚が強まる二人。虎白も雪村同様に化身との衝突で体力を消耗している上、前半戦に集団から受けたダメージや、内側で暴れる力に長時間苦しまされているため、厳しい状況だ。

 

「今金!」

『蕗ノ下中、今金にパスだ! 勝負を決めにきたかァ!?』

 

 今金がドリブルで攻め込んでくるのを見て、虎白が咄嗟にマフラーに触りそうになるが、余計なことを考える前に走り出した。

 

「はあああーーーッ!」

 

 この試合中、何度叩きのめしても、諦めずに立ち向かってくる虎白に、今金が怒りで顔を歪ませる。

 

「うぜぇんだよ。…いい加減、沈めッ!」

「かはっ…!」

 

 虎白のみぞおちを狙って、ボールを強く蹴り放つ。疲労しているため、全力とは言い難いが、弱っている虎白の動きを止めるには十分な威力だった。

 

「けほっ…けほっ…!」

「ハァ…ハァ…ハァ…!」

 

 余計な力を使わされたことで、今金が息を荒らげる。フィールドに座り込み、涙目で咳き込む虎白を一度睨んだ後、今金がパスを出す。

 

「決めろ芽室!」

 

 本来なら芽室はDFであるが、今金よりも体力に余裕があるため、前線に上がるよう予め指示を出しておいたのだ。

 

『ここで芽室にボールが通ったぞォ!!』

 

 虎白も雪村も、ゴール前まで追いつける状態ではなく、もはや神に祈ることしかできない。

 

 吹雪もベンチから真剣な顔で試合の行方を見届けようとしている。

 

 ──ダメなのか。ここで終わってしまうのか。本当のサッカーは取り戻せないのか。

 

 イナズマイレブンのサッカー、坂本前監督の意思、去っていったセンパイたち、白恋中のみんなに、吹雪との出会い。

 

 ──その全てが無駄だったのか。

 

「…そんなのイヤだ! 私は絶対に諦めない! 最後の1秒まで足掻いてみせる!」

 

 痛む身体にムチを打ち、片膝を立て、地面を強く踏みしめた。

 

『出るかァ!? 化身シュート!』

 

 虎白がボロボロの身体を庇いながら、覚束無い足取りで歩を進める。

 

「出てこい──」

 

 芽室の背後から黒い影が出現し、化身を具現化しようとする──。

 

「うおおおーーーッ!!! アイスウォール!」

 

 北厳が芽室の前に立ち塞がり、両拳を強くかち合わせると、背後に分厚い氷の壁が現れる。その迫力に圧倒された芽室が、ボールを零し、尻もちをつく。

 

『ほ、北厳がボールを奪ったァ!?』

「な、何するんだよっ!?」

 

 虎白と雪村以外に、反抗する者はいないと気を抜いていた芽室は、敵にボールを奪われるという至極当然のことに怒鳴る。

 

「雪守さん、雪村くん…。オラ、目が覚めたズラ!」

 

 二人のプレーが、吹雪の言葉が、ついに北厳の心を動かした。

 

「白恋中のキャプテンとして、これ以上チームメイトを傷付けさせるわけにはいかないズラ!」

 

 成り行きだったキャプテン就任。役目を全うすることもできず、傷付く仲間を見て見ぬフリしてきた自分に、ずっと嫌気がさしていた。

 

 だけど、頑張っている二人を助けたいと決意した瞬間、重かったはずのキャプテンマークが、自分を支えてくれる心強い証となっていくのを感じた。キャプテンとしての自覚が、北厳に変化を与えたのだ。

 

「北厳…! テメェ本気かよ!?」

「お、おまえ…」

 

 同じ2年生である石が怒鳴り、日高が戸惑う。そんな二人に答えを返す代わりに、大声で高らかと宣言する。

 

「オラは、やるズラ! フィフスセクターを倒すズラァーーッ!」

 

 北厳が生じさせた波紋は、1年生たちにも及んでいく。

 

「ど、どうするんです?」

「どうって…やるしかないんじゃない?」

「だ、大丈夫かなぁ…」

 

 周囲の様子を窺う伊富に、氷里が飄々とした態度で答える。それを洞爺が不安そうな声で呟く。

 

「俺は乗ったぜ!」

「ああ!」

 

 王鹿、小樽の二人も流れに乗じる。気の強い彼らは、蕗ノ下中のラフプレーにも、それを黙認する審判を抱え込むフィフスセクターにも、頭に来ていたのだ。

 

「日高!」

 

 北厳がパスを出す。日高は、そのボールを見上げながら、考えを巡らせていた。

 

 自分が知る北厳は、いつも温厚で、こんな大きな決断を出来るような人間じゃなかった。

 1年生の頃からサッカーは上手いけど、どこか自分に自信がなくて、2年生になってスタメン入りしても、3年生たちの陰に隠れて、目立つことはなかった。

 

 それが今は、キャプテンとして皆の先頭に立とうとしている。その北厳の行動が、日高の心にも灯をつけた。

 

「俺が絶対に繋いでやる!」

『白恋の反撃開始かァ!? 日高がドリブルで上がっていく!』

 

 二人が三人に、三人が四人に仲間がどんどん増えていく。その状況に、動揺を隠せない蕗ノ下中の動きが鈍くなる。

 

「テメェら、何してんだ! さっさとそのバカ共を止めろォ!」

 

 今金の怒号で選手たちがハッとし、ディフェンスが日高を止めにかかる。しかし、今の日高は、生半可な覚悟では止まらない。

 

「ホワイトブレード!」

 

 ボールをつま先で蹴り上げ、片足を上げてボールと共にスピンをすると、その軌跡で氷の輪が完成する。日高がパチッと指を鳴らすと、それが砕け散り、氷の刃となって襲いかかった。

 

「うわっ!」

『出たァ! 今度は日高の必殺技だァ! ホワイトブレード!』

「スゴい! あれがセンパイたちの必殺技!」

 

 北厳を含めて、初めて見るセンパイたちの必殺技に、1年生たちがはしゃぎ出す。

 

「センパイたち…!」

 

 自分たちの思いが届いたことに、虎白が嬉しそうに呟く。

 

 まるで幻覚を見せられているかのような、怒涛の展開に頭の整理が追いつかなかった虎白だが、ようやく平静を取り戻した。

 

 ──そうだ。こういう驚きの連続こそが、イナズマイレブンだった。

 

 改めて、その世界にいるのだと自覚した虎白。そんな風に、試合と関係ないことを考えていると、ある違和感に気付く。

 

「疼きが治まってる…?」

 

 先ほどから驚かされてばかりで、いつ消えたのかは分からない。本当にいつの間にか、まるでそんなもの無かったかのように、パッと消えてしまったのだ。

 

「今なら…!」

 

 人格を入れ替えても問題ない。そう思い立った虎白が、マフラーに手を伸ばす。

 

 すると、白い髪が逆立ち、優しげなサファイアの瞳は、威圧的な鋭さを持つ琥珀の瞳に。穏やかな微笑みは、獰猛さを孕んだ笑みへと変わっていく。

 

「ようやくオレの出番だな!? うらあああーーーッ!!!」

 

 抑圧されていた反動もあってか、凄まじい速さでフィールドを駆け抜けていき、すぐに日高の横に並んだ。

 

「見直したぜ、センパイよぉ!」

 

 機嫌の良さそうな笑みを浮かべた虎白が、日高たちを称賛する。僅かに口角を上げた日高が虎白にパスを出す。

 

「決めろ、雪守!」

「任せろォ!」

 

 このボールだけは絶対に決める。その強い意思を秘めた琥珀色の瞳が、ゴールを射抜くと、キーパーがごくりと唾を飲む。

 

 片足を踏み込んで、ボールと共に宙へ。足の側面でボールを掠めながら、身体を背面に捻ると、着地と同時に吹雪が舞い、冷気は激しく渦巻き、ボールが回転ごと氷で覆われ尽くす。

 

「吹き荒れろ…!」

 

 低く構えた姿勢の重心を右から左へ。両腕で勢いをつけながら、宙を蹴るように踏み切る。左半身を軸に回転し続け、すべての力を右足に託す。

 

「エターナルブリザード!!!」

 

 氷塊をぐぐっと蹴り放つと、氷に閉じ込められていた回転が再始動し、風と冷気を切り裂くように鳴動する。

 

 暴れ回るように軌道が荒々しく揺れ動き、猛然とキーパーに襲いかかった。

 

「ッ…!?」

 

 蕗ノ下中のキーパーは、その速さを目で捉えることが適わず、気がついたときには、ゴールネットの奥深くに突き刺さっていた。

 

『ゴール! 白恋2点目だ! 同点に追いついたァ!』

「バカなッ…!?」

 

 圧倒的に優勢だったはずが、同点にまで追い込まれている。その受け入れ難い事実に、今金が激しく動揺する。

 何故、どうしてだ。自分たちは化身使いが二人もいて、フィフスセクターからも期待されているのに。自分たちと白恋中とで何が違うというのか。

 

 

 今金がそんなことを考えている頃、白恋中ゴール前に、全員が集まっていた。

 

「おい。おまえら、本当にフィフスに逆らうつもりかよ」

 

 険しい顔をした石が、北厳と日高に声をかける。二人は、真剣な顔でそれに頷き返した。

 

「オラたちは、本気で勝ちに行くズラ」

「石や白咲はどうする」

 

 まだ迷いの見える二人に、日高が視線を向ける。味方になってくれれば言うことはないが、決して無理強いはしない。そんな雰囲気を二人とも醸し出している。

 しばらくお互いに沈黙が続いたが、白咲が根負けしたように溜め息をつく。

 

「…分かりましたよ。オレも手を抜くのは止めます。それでいいですか?」

「おい白咲!」

 

 二人の誘いに応じる必要はないと、腕組みして構えていた石が、予想だにしない白咲の裏切りに、声を荒らげて詰め寄る。

 

「落ち着いて下さいよ、石センパイ」

 

 石を諌めるような発言をしながら後ろに下がり、周囲と距離を取る二人。

 

「テメェどういうつもりだ…。まさか、フィフスを裏切るんじゃねぇだろうな」

 

 石が小声で問い詰めると、白咲は肩を竦め、自分の考えを述べる。

 

「これ以上、非協力的な姿を見せれば、逆に怪しまれる。それなら、表面上は協力しておいて、白恋中の詳細なデータをフィフスセクターに送った方がオレたちの評価も上がるはずだ」

 

 誰のどんな行動を警戒すべきか。それを事前に把握していれば、白恋中相手に有利な作戦を立てられる。

 現に、雪村を大して警戒していなかった蕗ノ下中は、事前情報になかった必殺技で、一泡吹かされている。

 

「どうせ、フィフスセクターが本気を出せば、白恋を敗北に導くことも、廃部に追い込むことも簡単なんだ。聖帝に事情を説明して、判断を仰ごう」

 

 少し痛い目を見れば、フィフスセクターに逆らうことが、どれほど愚かなことか思い知ることになる。そうなったとき、白咲の目的も遂行される。

 

「チッ! 分かったよ。マジメにやりゃいいんだろ」

 

 白咲と石が北厳たちの元へ戻ってくると、反乱に協力することを告げた。それを聞いた北厳が、満面の笑みを浮かべる。

 

「これで、白恋中サッカー部、完全復活ズラ!」

「おぉー!!」

 

 北厳の宣言と共に、部員たちの掛け声が揃う。

 

『さぁ後半も残りわずか! このまま2-2で終わってしまうのか!? 蕗ノ下中のボールで試合再開です!』

「雑魚が増えたところで関係ねぇ! 勝つのは俺たちだ!」

 

 今金の指示の下、巧みなパス回しで、蕗ノ下中のフォワードが上がってくる。それにいち早く反応した小樽がスライディングを仕掛ける。

 

「おらァ!」

『1年小樽、良いディフェンスだァ!』

 

 すぐさまカバーに入ってくる蕗ノ下中の選手を見て、小樽がボールを蹴り上げてパスを出す。

 

「洞爺!」

「や、やるしかないか!」

 

 覚悟を決めながら、トラップしてボールを受け取る。その小柄な体格を活かして、機敏にドリブルで人と人の間を通り抜ける。

 

「ちょろちょろと…! マッドフィールド!

「うわぁ!」

 

 洞爺の辺り一帯が、泥のフィールドに変わる。自慢の機敏さも足を止められては意味がなく、抜け出そうともがいている内に、相手にボールを奪われる。

 

『だが、蕗ノ下中がボールを奪い返したァ!』

 

 それを近くにいた伊富がカバーに入り、再びボールは白恋中に。その伊富からパスを受け取った氷里が攻め込むと、ディフェンスに阻まれる。

 

『これは凄まじい試合になってきたァ! 両者全く譲らず、互角の戦いだァ!』

 

 しかし、1年生を多く抱える白恋中は地力で劣るのか、その均衡が破れ、蕗ノ下中に絶好のシュートチャンスが巡ってくる。

 

『ここで蕗ノ下、フォワードに繋いできたァ!』

 

 ただ、それはシュートを撃てたらという注釈がつく。ゴール前に辿り着くには、門番のように居座る虎白を退ける必要がある。

 

「行かせないよ!」

 

 虎白が、両腕を広げて助走をつける。両手を交差させながら、スピンをするように空へと飛び上がった。

 

「アイスグランド!」

 

 つま先から着地した衝撃が、氷の刃となって襲いかかり、氷塊に閉じ込める。雪風が運んできたボールを、上半身でキープしながら氷の上を滑る。

 

『だが雪守が、必殺技で防いだァ!』

 

 すっかり調子を取り戻した虎白が、生き生きとプレーする。ここしばらく漂っていた停滞感が嘘のように好調だ。

 

「王鹿くん!」

 

 このまま攻め込んでも良かったが、今はチームで戦えるのが嬉しくて、仲間を頼りたくなる。それに何より、虎白の自称ライバルが決めてくれると信じていたから。

 

「雪村っ!」

 

 ドリブルで敵陣深くまで攻め込んだ王鹿が、雪村にセンタリングを上げる。

 

『雪村にパスが繋がった! これは完全にフリーだ!』

「パンサードライブ!」

 

 ボールを弾くようにして蹴り上げると、豹の雄叫びが轟き、激しい縦回転がかかったシュートがキーパーを襲った。

 

『ゴール! 白恋が3点目! ついに逆転です!!!』

 

 雪村がゴール決めた直後、ホイッスルが鳴り響く。

 

『ここで試合終了のホイッスル! 白恋中が大逆転勝利! 3-2で蕗ノ下中を下し、準決勝へと駒を進めたぞッ!!』

「やったぁ!」

 

 それぞれが集まって、勝利の喜びを分かち合う白恋中。虎白もマフラーを強く握って、しっかりとそれを噛み締めた。

 

「バ、バカなっ…。どうしてシードの俺たちが、白恋如きに…!?」

 

 敗北を喫した今金や芽室といったシードたちが膝から崩れ落ち、打ちひしがれる。

 

 そんな中、勝利に舞い上がる白恋中の元に、吹雪が近づく。それに気づいた部員たちが一斉に姿勢を正し、顔を引き締めた。

 

「よくやった。この勝利、これはみんなで掴み取った初めての勝利だ! 力を合わせれば、出来ないことはない!」

 

 そうみんなを鼓舞すると、吹雪は拳を突き上げた。

 

「ホーリーロード優勝を目指して、頑張ろう!」

「──はい!」

 

 吹雪の掛け声に、白恋中サッカー部の声の揃った返事が、フィールドに大きく響いた。

 

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