鉄翼少女のヒーローアカデミア   作:蚊帳 夕

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機械島ミシェル:オリジン

 

 

 全ての始まりは、中国・軽慶市。一人の『発光する赤子』が生まれたことだった。時を同じくして、明らかな超常の存在は『発光する赤子』だけに収まらなかった。遠く離れた国で、全く異なる人種の親の元に、唐突に異なる超常を宿した赤子が生まれたのだ。ある赤子は、炎の息を吐き、ある赤子は、その手から水を生み出し、またある赤子は、風に乗り宙を漂った。

 時が経つに連れ、少しずつ、しかし確実に数を増やす『超常を宿した赤子』、そして今現在に至り、世界の総人口の約八割以上がなんらかの『超常』を宿す存在となり、かつて『超常』と呼ばれたものは日常へと溶け込み、今やその人を形作る『個性』となり、日常生活や社会基盤に無くてはならない存在へとなっていた。

 だが、同時に便利な物を悪用し、私腹を肥やす事が、己の欲望を満たそうとするのが、ある種、人間の本質のようなもので、広く一般化した『個性』を使った犯罪や反社会行動も、発生していた。しかし、悪事を働く者が居れば、それに対抗し、諫める者も居る。そう言った悪事に抗する存在を人々は『ヒーロー』と呼んだ。

 

 

◇アメリカ合衆国・ニューヨーク州

 

「パパ、話があるわ」

 

 男がニューヨークに存在する自宅に帰宅した時、真っ先に出迎えたのは愛娘の7回目の直談判であった。

 

「はぁ、ミシェル。またその話か?何度も言っているだろう?強力な『個性』持ちの留学は簡単じゃないんだ、それに万が一行けたとしてどうする?住む場所は?お金はとかの生活基盤は?パパに頼るのはダメだ、パパの反対を押し切っていくんだからな、それにパパに話すだけじゃない、ママにも話したのか?ママに心配をさせてまで『日本』の『雄英高校』へ行く価値はあるのかい?」

 

 そう言いながら男は玄関に仁王立ちする愛娘を退かそうと手を伸ばす。いつもなら父の問いかけに満足に答えられず、口ごもりながら押しのけられてしまう娘だったが、今日の彼女は一味も二味も違っていた。父の腕を正面から受け止め、父の問いかけに答える。

 

「いいえパパ、パパの懸念は全て解決済みよ」

「なんだって?」

 

 いつに無く強気で答える娘に困惑する男。

 

「パパの懸念は全て解決済みって言ったの、先ずは住む場所ね、これはママのお母さん、つまり私のおばあちゃんが近くにマンションを持っているからそこに住まわせてくれるって、次にお金とかだけどこれも…」

「待て待て待て待て、ミシェルお前まさか」

「ええ!日本のおばあちゃんを頼ったわ!」

「お前なんて事を!?」

 

 娘の言葉が進むにつれて、男の顔色が悪くなる。これには深いわけがあるのだが、端的に言えば『日本の財閥の御息女の実家』と『御息女の留学先で逆舞姫しやがった男』と言う関係だからだ。最終的には全方丸く収まったのだが、その時のことから男は妻の実家に全く頭が上がらないのだ。

 

「お前、いつのまにお婆様と親しく…

「あら、パパ?私、昔から結構な頻度でおばあちゃんとお話ししてるのよ?私の日本語の先生もおばあちゃんなのよ?」

 

 oh…と額に手を当て天井を仰ぐ男。可愛い娘がいつの間にか自分の頭の上がらない相手を味方につけていた件。少し考え、男ははたと気づく。

 

「ミシェル、おばあちゃんを頼ったんだよね。まさかママは…」

 

 男の問いに彼女はニヤリと笑う。

 

「ええ、パパ。ママはもう説得済みよ!なんなら、おばあちゃんを頼るように助言したのはママよ!」

 

「ママ!?何やってんの!?」

 

 男は最愛の妻の思わぬ裏切りにみっともなく取り乱すように叫んだ。

 

 

一息つき、一旦落ち着いた男は改めて娘に問いかける。

 

「ミシェル、確かに君はパパからの懸念を全て解決したかもしれない。だけど君が日本に行く事で向こうにかかる迷惑とかは「愛娘を何処の馬の骨とも知れぬ輩に連れ去られるよりは何万倍も…」OKミシェル、パパが悪かった。この話題はここまでだ、次の話題に行こう」

 

 自分にとって圧倒的に形勢が悪いと見るや、すぐに話を切り上げ別の話題に逃げる男。どこと無く、彼女の自分の父を見る目も冷たく湿っているようだった。そんな娘の視線を振り切るように男は咳払いをする。

 

「ん゛ん!それじゃあ最後の懸念、そしてパパが思う最大の懸念だけど、わざわざ日本なんて島国に、『雄英高校』なんて行ってどうするつもりだい?確かに『雄英』はヒーロースクールとして世界有数の名門校ではあるだろう。

 

だが、言ってしまえばそれだけだ

 

我が国アメリカはヒーローの本場、『雄英』程度の名門校ならいくらでもある。それこそ、パパの出身校の『ミッドタウン校』や、かの伝説的なトップヒーローが創設した『ジーン・グレイ高校』もある。そして何より、ヒーロー科に属する以上ヒーローインターンは避けて通れないだろう。しかし、日本のヒーローに師事するに値するヒーローは存在するかい?オールマイトは良い、彼はアメリカでも燦然と輝く活躍をしてみせ、その力で持って日本を世界で唯一の個性犯罪率1桁%を実現してみせた。だが、彼以外はどうだ?確かに皆、プロヒーローに相応しく素晴らしいヒーロー達なのだろう。だが、それはこちらでも同じ事だ。むしろ、同程度のレベルならばパパの顔が効き、生まれ育った街で活動できるアメリカで良いじゃないか」

 

 そこのところどう思うね?と男が問いかける。

 

「そうね、確かにパパの言う通りだわ。正直、日本のヒーローなんてオールマイト以外、調べて初めて名前を知ったような人達ばかりだったし、パパのツテでいろんなアメリカのヒーローの下につけるのも理解しているわ。でも、これを見て」

 

 父の問いかけにそう答えながら彼女はポケットから折り畳まれた一枚の紙を差し出す。

 広げてみるとそれは名簿のようであった。それも、今、この場に決してあってはいけないような、とびきりの機密情報の記載された。

 

 

来季

雄英高等学校教員名簿

 

 

 そう頭に記載された紙の一行に男の目は釘付けにされる。そこには…。

 

 

教員名:オールマイト 担当科目:戦闘訓練

 

 

「これは…」

「ね、パパ、これでもまだ『雄英』に行く価値はないかしら?いえ、こう聞くべきね。『雄英』以外に行くべき価値はあるのかしら?

 

 彼女の揶揄うような答えに、少しだけ男は考える。この国のヒーローに学ばせるべきか、日本に、オールマイトに学ばせるべきか。結論はすぐに出た、行かせるべきだ。アメリカにも数多のヒーローはあれど、()()()()()()()()()別格だ。全世界のヒーローに名を轟かせ、『希望の光』、『平和の象徴』と称される。まさに『ヒーローを体現した者』そんな存在に直接指導を受けることができるのであれば、如何なる対価を払ってでも行かせるべきである。

 

「──わかった、ミシェル。『雄英』に行く事を認める。ただし、行くからにはしっかりと学んできなさい。中途半端は許さないぞ」

「ええ、わかってるわパパ!ありがとう!大好き!」

 

 雄英行きを認めてもらったのがよほど嬉しかったのか、上機嫌でダイニングで、男の夕食を作っているであろう妻に報告しようと歩き出す娘に向かって、男はふと疑問に思った事を尋ねる。

 

「そういえばミシェル。どうして雄英に行きたいなんて言い出したんだ?あぁ、行きたい理由では無く行きたいと思った動機の方だ」

 

 男の疑問に対し、足を止め振り返り答える。

 

「少し前にね、日本のとあるキャラクターのセリフを聞いたの『俺だって心臓一つの人間一人、いつまでも最強じゃ居られない』って、私、このセリフを聞いて怖くなったの。今は良いわ、オールマイトは健在で、全てのヒーロー達の手本となるような偉大な男がいるもの。でも、十年後は?二十年後は?私たちが活躍する時代でもオールマイトは健在かしら?彼は年齢を明らかにしては居ないけど、活動を始めたのが高校を卒業して直ぐだとして十八歳、そこから四十年近くに渡って『象徴』として不動の地位を守り続けたわ。つまり単純な計算でももう五十八歳よ、十年後は六十八歳、二十年後は七十八歳。彼がいくら強くても生物である以上必ず寿命が訪れるわ、そしてそれは決して遠くない未来よ。だからこそ、私は、彼のいる日本に、彼の学んだ『雄英』に行こうと思ったのよ」

 

 そう言って今度こそ歩み去る彼女。その背中を男はどこか潤んだような目で見ていた。男の感覚ではほんのつい最近までお転婆で目が離せない可愛い子供であったのだ。そんな彼女がしっかりとした覚悟と信念を持ってヒーローを目指すと宣言をしたのだ。男の思っていたよりもずっと早い成長と巣立ちに思わず涙腺が緩んでも仕方のない事だろう。

 もっとも

 

『やった!ママ!パパ『雄英』行って良いって!』

 

 玄関まで響いてくる大声での勝利宣言により、潤んだ瞳はニンマリとした温かな笑みの形になったわけだが。

 

 

 

 

 

 その晩、娘が寝静まった後に男は晩酌に付き合った妻に一つ疑問を投げかける。オールマイトの教師就任と娘の成長と覚悟の衝撃で吹き飛んでしまっていた小さな疑問だ。ずばり『何故、機密情報であるはずの『雄英高校』の来季教員名簿が娘の手元にあったのか』である。いくら男がある程度『()()()()()()()』だとしても男自身が持つコネは基本アメリカ内で完結している。日本に伝が無いとは言わないが、それは『雄英高校の教員名簿』と言う機密情報を手に入れられるようなものでは無い。ならばこれは妻が関わっているのだろうと言う消去法的な問いかけだった。

 男の投げかけたその問いに、妻はうっすらと微笑んで、

 

「あら、そんな事ですか?まあ、貴方は私の実家を避けてらしたものね、ご存知ないのかもしれないけど…

 

我が『機械島』家は雄英高校の大口のスポンサーでしてよ?たかだか教員名簿の一つや二つ、手に入らないわけもありませんわ

 

 まあ、流石にヒーロー科に裏口入学などは人々の命を守るヒーローを育てる関係上できかねますけれども。そう、嘯く妻の横顔にどこか薄寒いものを感じる男。だが、すぐにその薄寒さを振り払い妻に一つお願いをする。

 雄英高校ヒーロー科にもう一つ、特待生枠か長期留学生として席を増やすことは出来ないか。と。

 娘の夢を全力で応援するためには、苦手な相手も利用する。そんな父親がそこには居た。

 

 

 その数週間後、一つの記事が紙面を飾る。

 

 

ヒーロービルボードチャートUSA

 

 NO.6『機械王』バイパーの娘来日!?

 

『雄英高等学校』へ入学か!?

 

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