マスコミが起こしたとされた不可解な侵入事件から1週間ほど経ったある日の午後、ヒーロー基礎学の授業。いつものように教室にぬるっと相澤先生が入ってくる。
「今日のヒーロー基礎学だが…俺とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見る事になった」
相澤先生の言葉に少し意外性を感じる。というのも、オールマイト先生が午後のヒーロー基礎学を担当するのは日替わりで、各学年のヒーロー科AB組を持ち回って授業をしているのだ。そのサイクルの関係で、私たち一年A組が次にオールマイト先生の授業を受けられるのは二、三日ほど先の筈だったのだ。既に決まっていたはずのスケジュールを崩して私たちの授業を見る。おそらく何か大規模な実技授業があると予想する。
「ハーイ!何するんですか!?」
ハンタから質問が上がる。
「災害水難なんでもござれ、人命救助訓練だ!!」
そういって相澤先生はポケットから『RESCUE』と書かれたプレートを取り出して掲げる。
「レスキュー…今回も大変そうだな」
「ねー!」
「バカおめーこれこそヒーローの本分だぜ!?鳴るぜ!!腕が!!」
「水難なら私の独壇場ケロケロ」
「私も人の入れないところの探索とか重機の入れない場所での力仕事とか色々できそう」
「おいまだ途中」
一つの情報で十のおしゃべりをする私たちを一言で黙らせる相澤先生の威圧感。
「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな、訓練場は少し離れたところにあるからバスに乗って行く。以上準備開始」
とりあえず今回もコスチュームは着て行く。と言うか、私の場合内臓の保護という観点から多機能かつ高性能なコスチュームを着ないというのはあり得ない選択肢だ。
結局、相澤先生のコスチュームは着なくても良いという言葉に対して、
……ん?女子…全員?何か引っかかるような。
その答えは更衣室で今一度全員の姿を確信した時に晴れることとなった。
「いや、トール!?トールもコスチューム着るの!?いや、脱ぐの!?」
「あったりまえじゃん着れるなら着るよ!」
「いえ、流石に私も今回葉隠さんがコスチュームを着るのはどうかと思います」
「えー、別に良いんじゃない?コスチュームの着用は自由なんだしさ。透が着たいなら着れば良いと思うよアタシは」
「いいえ、三奈ちゃん、今回の授業は災害よ。ビルの倒壊で尖った瓦礫やガラスもあるかも知れないわ、もしかしたら火災だってあるかも知れない。その中で透ちゃんのコスチュームは危ないと私は思う。ケロケロ」
「そう!ツユちゃんの言う通り!それに相澤先生は“災害水難なんでもござれ”って言ってたよね。水難、確かにトールは透明になっているから体は見えないけど体についた水滴や、水に入った時の水中でのシルエットなんかは見えるよね。そうなると体の輪郭や最悪全身の詳細がいろいろ見えちゃうかも知れないんだよ!?」
『『『『!?』』』』
「そ、それは考えてなかったかも…」
「い、いかんよ!?そなことなったら!」
「一応、私ニップレス持ってるけど使う?」
「…一応使ってみる」
ピトッ
「こ、これは…」
「い、いけませんわ!?今まで見えていなかったから何とも思っていませんでしたがニップレスを貼る事で逆に葉隠さんのその、アレがどこにあるかがわかるようになってしまいました!!」
「うぅ、くそ、制服の膨らみからある程度大きい事は知ったけどブラとかで底上げしてなくてもそれだけの……!」
「ごめん、ミシェルちゃん。もらったのは良いけどこれは恥ずかしい」
「けろ!?けろけろ!ケロロリン!!?」
「ああ!?あまりのスケベさに梅雨ちゃんが人の言葉忘れちゃった!?」
結局、トールは元のコスチューム(手袋、靴のみ)で行くことになった。
◇◆◇◆
移動中のバスの中、ツユちゃんの発言から男子を交えた自分の個性の話になった。
「あなたの個性オールマイトに似てる」
「!!!そそそそ、そうかな!?いやでも僕はそのえー…」
しばらく時間を置いたことで人の言葉を取り戻したツユちゃんの言葉に激しく震えながらしどろもどろに返すイズク。うーん、何だろイズクがオールマイトのフォロワーだって言うのはほぼ周知の事実だ。何なら攻撃の掛け声だって“SMASH”だし、戦闘訓練の時に壊れてしまったけど元のコスチュームの頭部にもオールマイトの二本の触覚を模した大きなうさぎの耳が付いてたし。あ、そうだこれを機に少しイズクに個性のこと聞いてみよう。
「イズク、私もちょっとイズクの個性について聞きたいことがあるんだけどさ」
「なな、な、何かな機械島さん…」
「ミシェルって呼んで欲しいな、機械島って呼ばれるのは慣れないから。あと、そんなに怯えないで…。それで、個性について何だけど増強型のシンプルな個性なのに何で個性使う度にいちいち体壊してるの?てか、何で自分の個性制御出来てないの?普通、増強型の個性なんてうっかりで自分や他人を傷つけないように暴発しないように訓練が必須のはずなのにさ。あまりにもイズクと個性が噛み合って無さすぎるよ」
「え!あ、えーと。その、それは…」
「待てよミシェル、お前も緑谷の個性は見てるだろ?逆じゃねぇか?小さい頃からずっと体壊すわ、あんだけデケェ被害が出るわで、むしろ“訓練させる方が危険”だからここに来るまで個性の訓練が出来なかったんじゃないか?」
エージが自分の考察を聞かせてくれる。なるほどと思った。確かに体が全然出来上がってないのにあれだけの超パワーの個性を発現してしまったら、逆に訓練させる方が危険かも知れない。それに、個性を使わせたら使わせたで、あれだけの被害が出るならちょっと家の敷地で使わせる度に一軒全部建て替えになるだろうね。そんなの機械島本家やモモの家くらいの大金持ちでもない限り厳しいだろうね。
「って感じの予想をエージが聴かせてくれたけど、そんな感じなの?」
「え!?う、うん。大体そんな感じ…です」
「ふーん、そっかありがとう」
んー、まだなんか隠してる気がするけど、まだ全然仲も深くないのに踏み込むことじゃないと思い、ここで撤退することにする。
「ちっ、んなわけあるかクソデクが…」
ただ、雄英以前からイズクと因縁があるバクゴーの吐き捨てるような小声が無性に気になった。ただ、その言葉の意味を聞く前に、エージが別の話を始めてしまった。
「にしても、増強型のシンプルな個性は良いな!派手で出来ることが多い!俺の硬化は対人戦には強えけどいかんせん地味なんだよなぁー」
「僕はすごくカッコいいと思うよ、プロにも十分に通用する個性だよ」
「プロなぁー!しかし、やっぱりヒーローも人気商売みてぇなとこあるぜ!?」
「僕のネビルレーザーは強さも派手さもプロ並み」
「でもお腹壊しちゃうのはヨクナイね!」
「……。」
「エージ、腕少し触らせて硬度が気になる」
「おう!いいぜ!」
エージが腕を硬化させているので、どれくらいの強度なのか気になったから触らせてもらう。とは言え対面に座っているけれども、手を伸ばしてもなお距離があるのでフィンガードローンを飛ばす。ふむふむ…。
「うーん、鉄以上、チタン合金以下って感じかな?」
「おお!すげぇミシェル!そんな事まで分かるのか!!」
「まあ、“改造”する時に色々とね」
((((改造?))))
「もう着くぞ、いい加減にしとけよ…」
『『『『ハイ!!』』』』
バスから降りドーム状の建物に入ると、その広大な敷地内には幾つものエリアがあった。地震によってビルが倒壊したかのような市街地、高波や渦潮、濁流が再現された水場のエリア、規格外の土砂崩れにより民家どころかビルまで流されて土に埋まってしまっている土砂エリア、エリア全体が大炎上している火災エリア、一際高く山岳地が再現されている山岳エリア、ドーム状の建物の中にいるのにさらに建設された何のエリアかわからないドーム状の建物。
まさに考えうる災害を全部詰め込んでみましたと言わんばかりの災害のテーマパークが目の前に広がっている。
「すっげー!USJかよ!!」
「…USJ?」
我らが故郷、
「あ、そっかミシェルは知らないよな。テーマパークの事でユニバーサルなスタジオの…」
「ああ、ハリウッドのアレか。あれの日本にあるやつだからJAPANのJでUSJね」
「そうそう、そんな感じ」
「なるほどね、確かにテーマパークみたいだ」
そう納得していると、私たちの到着を待っていた宇宙のようなコスチュームを着た教師が話し始める。
って、オールマイト先生は?そう言えば今日一日、学校でオールマイト先生を見なかったような。
「水難事故、土砂災害、火事……etc.あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も……
(USJじゃん!)
「スペースヒーロー“13号”だ!災害救助で目覚ましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」
「わー!私好きなの13号!!」
ヒーローオタクのイズクの解説で宇宙服の先生の名前を知る。てか、オチャコファンなんだ。テンション上がって髪の毛がふわふわしてるのかわいい。
13号先生と相澤先生が少しだけ打ち合わせのような事をして、13号先生が前に出る。どうやら今日の授業は13号先生が主体の授業をするらしい。
「えー、始める前にお小言を一つ、二つ…三つ……四つ」
(((((増える…)))))
「皆さんご存知だとは思いますが僕の個性は“ブラックホール”どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」
(私、ご存知じゃないです)とは思うものの、今それは重要じゃ無いので黙っている。
「その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですよね」
「ええ…、しかし、
「ステキー!」
「ブラボー!!ブラーボー!!」
お小言どころかヒーローにとっての大切な心構えを伝えた13号先生、イーダやオチャコと一緒に拍手で13号先生を讃える。そんな時だった。
「全員一塊になって動くな!!」
相澤先生の鋭い声が響く。
「13号!!生徒を守れ!」
相澤先生の視線の先を追うと、私たちのいるドームの入り口へと繋がる階段の先、各エリアの中心になるような広場に黒いモヤのような渦が空中に浮かんでいる。
黒い渦が徐々に大きくなる。
渦の中から不健康な青白い手が現れる。その手に続くように異様な恰好の男が現れる。全身に手首から先を付けている。両腕、両肩、顔を前後から挟み込むように無数の手を自分を握らせるように。
その男の出現に続くように幾人もの人が現れる。全身を継ぎ接ぎの防護服に身を包んだ二本の大きな角の生えた男、蛇のような髪の女、巨大なカメレオン、全身真っ黒の脳みそが剥き出しになっている巨漢。
「なんだありゃ!?また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン!?」
「違う!退がれ、あれは
悪意の侵攻が始まった。
すまんなぁ、戦闘開始は次回なんや
それにしてもトールが水に入ったときにどう言うふうに表現されるのか気になる。あくまで光の屈折で透明になってるはずだから確実に実体は浮き上がるはずだけど…。