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「ご苦労様」
気がついたら騎馬戦が終わり、なんかよくわからんもじゃもじゃ髪の男子が目の前に立っている。周りには私と同じように理解が出来ていないような様子のマシラオと見た事のない生徒、多分B組の生徒がいる。恐らくこの目の前のもじゃ髪が騎手、私達が騎馬になって騎馬戦を戦ったのだろう。
「いつかの宣言通り、お前らA組の足元掬っちゃったけど…コレでも実力足りて無いって?」
「……」
「おい、なんか言ったらどうなんだよ」
「…いや、ごめん。だれ?」
「は?」
足元を掬う的な発言からするとなんか宣戦布告してきた的な集まりが居たけど、多分その中の誰かなんだろう。めちゃくちゃ思い出そうとしてみたけど、やっぱわからなかったや。
「まあ正直、君が誰か全く分かんないけど個性で私たちを操った的な感じ?ならありがと、お陰で楽できたよ。なんて言うの…キャリー感謝って感じ」
「っ!!」
「ほら、マシラオ。いつまでキョロキョロしてないでお昼食べに行こ」
「え、あ、ああ。そう、だな機械島」
名も知れぬ生徒Aに後ろ手に手を振って食堂へ移動する。
初めて学食を利用してみたけど普通に美味しかった。さすがクックヒーロー“ランチラッシュ”ご飯作りをヒーロー活動としているプロヒーローなだけはある!なお、後日調べてみたらうちでご飯を作ってくれているシェフの師匠にあたる人がランチラッシュだった。そりゃ美味いはずだよね。気が向いたら今後も利用することにしようと思う。
昼食を食べ終え、最終種目発表までの時間を潰すために女子友たちを探していると…。
「おお!いたいた!ミシェル!」
「急げ!ミシェル!!午後は女子全員がチア衣装きて応援合戦しなきゃいけねえんだとよ!!控え室でヤオモモたちが待ってる!!」
「いや、そんなの聞いてないんだけど…」
「まあ、信じねぇのも勝手だけどよ…相澤先生の言伝だからな」
何だろ、普通にあり得そうな気がしてきた。あの先生なら突然知らせてもおかしくは無い…かな?伝えにきたのがデンキとミノルなのはすごく不審だけど。
「んー、わかった。控え室ね。言うまでもないだろうけど覗きにきたら…抉るよ」
「「ヒェ!?わ、わかってるって!!?」」
半信半疑で控室に行くと、A組女子が全員揃ってチア衣装をきていた。
「あ、ミシェルさんも来ましたのね。スリーサイズ等体のサイズをお聞きしてもよろしいですか?」
「あ、学校側で用意してあるんじゃ無くてモモが作る感じなんだ?」
「…そう言えば、そうですわね?」
「とりあえずサイズだけ言っとくね、身長は175cmサイズほ上から85、59、90で股下は82cmで…体重もいる?」
「いえ、体重は結構ですわ。それでは創りますので」
「ねえ、ミシェルちゃん。参考までに体重を聞いても良いかしら?」
「ん?58kgだよ」
「くっ、モデル体型…!!」
「そのプロポーションでその体重はズルいよ!!」
「さあ!出来ましたわ!!ミシェルさん着替えてください…ってあら?どうかしましたか?何やら落ち込んでいるようですが…」
「気にしないでヤオモモ…人種の理不尽に嘆いてるだけだから」
出来上がったチア衣装をモモから受け取り素早くパパッと着る。
「あれ?ミシェルなんか着慣れてない?」
「うん、ジュニアハイのときやってたからねチア。本場モンだよ」
『『『おおーー!』』』
《最終種目発表の前に予選落ちの皆へ朗報だ!!あくまで体育祭!ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ!本場アメリカからチアリーダーも呼んで一層盛り上げ……ん?アリャ?》
……まあ、正直デンキとミノルが連絡役だった時点でおかしいなとは思ったよ。普通こう言う連絡は委員長のイーダか副委員長のモモに伝えられるはずだし。でも、まさか体育祭の中でそんなバカを堂々とやるなんて普通思わないよね?
《どーしたA組!!?》
昼休憩が終わり、スタジアムに戻ってきた中で、チア衣装を着ているのは、私たちA組女子たちだけだった。やられた!!!
「峰田さん上鳴さん!!騙しましたわね!?」
「「うひょー」」
「…あの二人そろそろガチめに折檻する?」
「ええ」
「そうだね、やろ」
此処にバカ二人の私刑が確定した。
「何故こうも峰田さんの策略にハマってしまうの私…」
「まぁ本戦まで時間空くし張り詰めててもシンドイしさ…いいんじゃない!!?やったろ!!」
「透ちゃん好きね」
「んー、まあそれもそっか!バカ二人にハメられたのは気に食わないけど、だからと言って楽しまないのは違うよね!!」
「ミシェルさんがそう言うのなら……」
「キッカケは散々だったけど、アメリカから来たチアリーダーたちを喰ってしまうくらいのパフォーマンス、頑張ろ!!」
『『『おーー!!!』』』
《さぁさぁ皆楽しく競えよレクリエーション!それが終われば最終種目、進出4チーム総勢16名からなるトーナメント形式!!一対一のガチバトルだ!!》
「それじゃあ組み合わせのくじ引きしちゃうわよ。くみが決まったらレクリエーションを挟んで開始になります!レクに関しては進出者16人は参加するもしないも個人の判断に任せるわ。息抜きしたい人も温存したい人もいるしね。んじゃ一位チームから順に…」
「あの…!すみません」
いざ、ミッドナイト先生がくじを引こうとした時、マシラオが手を挙げて遮った。
「俺、辞退します」
「尾白くん!何で…せっかくプロに見てもらえる場なのに!!」
イズクの問いに浮かない表情のマシラオが答える。
「騎馬戦の記憶…終盤のギリギリまでほぼボンヤリとしかないんだ。多分奴の“個性”で…」
あー、そういうこと?誰かの個性に相乗りして進んだのは自分が許せない的な?そんなの気にしなくて良いのになあ。
「チャンスの場だってのはわかってる。それをフイにするなんて愚かな事だってのも…!でもさ!皆が力を出し合い争ってきた座なんだ、こんな…こんなわけわかんないままそこに並ぶなんて…俺は出来ない」
「気にしすぎだよ本線でちゃんと成果出せば良いんだよ!」
「そんなん言ったら私だって全然だよ!?」
そう言ってマシラオを思い止まらせようと説得するトールとミナ。いや、本戦進出してないトールはともかく、なんだかんだここまで残ってるミナが何も出来てないはずないよね?……無いよね?騎馬戦記憶ないからちょっと断言出来ないけど……。
「違うんだ…!俺のプライドの話さ…俺が嫌なんだ!…あと、何で君らチアの格好してるんだ…!」
「それに関してはミノルとデンキの二人を問い詰めて」
「あ…」
その後、B組の庄田二連撃ってのもマシラオと同様の理由で棄権した。私とマシラオと一緒にもじゃ髪の騎馬をさせられていたもう一人の生徒だ。
え?まさかこれもじゃ髪組は棄権してく流れ?
「そういう青臭い話はさァ…
庄田と尾白の棄権を認めます!」
ミッドナイト先生も好みで棄権を認めてしまった。
「…マシラオ、私は普通にやるからね?
「機械島…そう、だな。コレは俺のわがままだ、機械島に付き合わせるつもりは無いから…俺の分まで活躍でしくれ」
「組はこうなりました!!」
その後、マシラオたちが抜けた穴を繰り上げのチームで埋め、改めてトーナメントの組が発表された。
私の初戦の相手はミナ。勝ち進めばモモとフミカゲの勝った方、さらに勝ち進めばエージとテツテツっていうB組の男子、バクゴーとオチャコで勝ったやつと当たる。正直、バクゴーが勝ち進む未来しか見えないけど、接近できればオチャコにもワンチャン……いや、ないか。悲しいけどバクゴー、空中での移動手段あるし。テツテツとエージはどっちが勝っても正直バクゴーに勝てるビジョンが見えない。
トーナメント表を見ていると、初戦がイズクなのに気づいた。対戦相手は心操…。
「あんただよな?緑谷出久って」
ちょうどその時、イズクに話しかけるもじゃ髪が見えた。そう言えば騎馬戦が終わった時に私を含めて心操チームって言われてた気がする。ってことはあのもじゃ髪が心操って奴か。ってよく考えたらイズクと心操って両方とももじゃもじゃの髪では?シャンプーとかコンディショナーとかちゃんとしたの使ってるのかな?
「──ょモッ」
「緑谷!!奴に答えるな」
心操に返事をしようとしたイズクの口をマシラオが塞ぐ。
そう言えば私の記憶の最後も誰かに返事をしたところだったような?ということは心操の“個性”の発動には呼びかけに対して返答が必要ってことか。解除条件がわかればなぁ。まあ、初戦が緑谷でマシラオが助言するみたいだし心操が勝ち上がってくることはないでしょ。万が一勝ち上がってきたとしても、とりあえず心操には返事をしないって事を徹底すれば良いや。
《よーしそれじゃあトーナメントはひとまず置いといてイッツ束の間、楽しく遊ぶぞレクリエーション!!》
◇
久しぶりにやったチアはとても楽しかった。私以外、初心者って話だったけどモモとオチャコの動きが少しぎこちないくらいで、皆しっかりと踊れていた。とくにミナとトールが凄くて、それこそ今すぐ本場アメリカに行っても活躍できそうなくらいハイセンスだったし、ツユちゃんに至っては個性“蛙”だからか単独で地面からトスで上げられたトップと同じくらいの高さまで飛んでポーズも決められるくらいの凄技の持ち主だった。
うーん、正直ジュニアハイの大会でA組のメンバーがいたら優勝も夢じゃなかったかも…。いつか機会があったらみんなでチアの大会に出てみるのも悪く無いかも。
楽しい息抜きのお遊びは終わり、戦いの時間がやってくる。
《ヘイガイズアァユゥレディ!?色々やってきましたが!!結局コレだぜガチンコ勝負!!頼れるのは己のみ!ヒーローで無くともそんな場面ばっかりだ!わかるよな!!心技体に知恵知識!!総動員して駆け上がれ!!》
さっきまで生徒が競技を行っていたスタジアムのフィールドは、“セメント”の個性によってセメントを自由自在に操ることのできるプロヒーロー兼雄英教師のセメントス先生が作り上げた戦闘のための舞台に変わっている。
《第一回戦!!成績の割に何だその顔ヒーロー科緑谷出久!!対、ごめんまだ目立つ活躍なし!普通科心操人使!!》
《ルールは簡単!相手を場外へ落とすか行動不能にする、あと「まいった」とか言わせても勝ちのガチンコだ!!ケガ上等!!こちとら我らがリカバリーガールが待機してっから!!道徳倫理は一旦捨ておけ!!》
舞台の上に上がるイズクとシンソーを客席から眺める。
「んー、なんて言うか、こんなルールの大会、漫画であったよね。個性が生まれる前の作品だけど」
「あ!うちそれ知っとるかも!!なんか願いが叶う玉を集める物語だよね!!うちのお父ちゃんが好きやってん」
「そうそう、途中からもうボール関係ない物語になっちゃったけど、初期の方に今と似た大会あったよね」
近くにいるオチャコと話しながらイズクを見る。
「ねえ、ミシェルちゃんはどっちが勝つと思う?」
「イズク。パッと見た感じでもシンソーの方に体術とかの心得は無さそうだし、体の鍛え方でもイズクが勝ってる。あとはシンソーの個性次第だけど、そっちはマシラオが助言してるから大丈夫だと思う。オチャコは…聞くまでもないか」
「ねぇ!?ちょっ!!?ぁぁでも、うん、せやね。デクくん勝って欲しいな」
「なら思いっきり応援すると良いよ。単純もしれないけど女の子の応援がある男の子ってさ無敵なんだよ」
ちなみにソースは私。アメリカ時代に少しあったのさ。
《レディィィィイSTART!!》
プレゼントマイク先生の開始の合図と共にイズクが勢いよくシンソーに飛び掛かるが、その直後、カクンと電源が落ちたように動かなくなってしまった。シンソーの個性に嵌ってしまったようだ。マシラオ助言しなかったのか?と思ったけど、マシラオも頭を抱えているから多分イズクのミス。
シンソーに何かを言われるとそのまま、くるりとシンソーに背を向けて場外へと歩き出すイズク。コレはもうダメかもな。横を見るとオチャコが真っ青な顔をしている。
後一歩で場外へと踏み出してしまう。そんな時、突如イズクの左手が跳ね上がり凄まじい暴風が吹き荒れた、その衝撃で正気に戻ったイズク。
この暴風、戦闘訓練の時に見たイズクの個性!?
正気に戻ったイズクはシンソーからの言葉に一切耳を貸す事なくシンソーを投げ飛ばして場外へと叩き出した。
「よかったぁ〜デクくん勝てたぁ〜〜!!」
「うん、そうだね。なんかすっごいギリギリだったけどね」
イズクは無事に二回戦へと駒を進めたし、この2週間のトレーニングの成果も確認できた。戦闘訓練の時のイズクは、一発個性を撃って腕が変色するほどの大怪我を負っていたけど、今のイズクは痛そうに指を抱えてはいるけど変色するほどの大怪我をしてはいないように見える。それでも連射は出来ないだろうけど指一本あたりに3〜4発程度は撃てるようになったんじゃないかな?少なくとも以前のように一発撃って即終了。なんて事はならないはず。
敗退して退場するシンソーに普通科の生徒らしき人達が声をかけている。そんな姿を見ていたら、何と無くモブが集ってきた宣戦布告の場面を思い出した。
「あ、シンソーってあれか。宣戦布告しにきたって言うか、足元掬っちゃうぞのあいつか」
「え!?今気づいたの!?」
「うん」
そっか、だから騎馬戦終わった時に“足元掬っちゃった”とか言ってたのか。ようやくわかった。それにしても会話を起点として発動する支配系の個性か。いいね、いわゆるトップヒーローには届かないかもしれないけど名サイドキックとしてあらゆる場所で引っ張りだこになりそうな個性じゃん。今だに実力は足りてないと思うけど、それでもヒーローになりたいってのは認めようじゃん。って言うか、そう言う補助系の個性とか直接戦闘力に関わらない個性って大学進学してヒーロー目指すってのが定石って聞いたけど、んー、シンソーって急ぎすぎなのでは?もしかして日本とアメリカとの差ってやつなのか?
しばらく観客席で座っていると個性を使った指を保冷剤で冷やしながらイズクがやってきた。
「お疲れ様」
「隣あけてあるぞ」
「ありがと!」
そんな言葉を交わしながら舞台を見る。第二試合、ショートとハンタの試合が始まる。
アメリカでミシェルと何かあった子は多分今後登場しません