『国立雄英高等学校』
世界総人口の約八割がなんらかの超常能力、『個性』を持つ現代に置いて、個性の悪用、反社会行動に使用する犯罪者、通称『ヴィラン』への対抗勢力『ヒーロー』を養成する教育機関であり、日本でもトップクラスの名門校で、世界的にも有数のヒーロースクールとして知られている。
一学年四学科、十一クラスが開設される。その中でもヒーロー科は二クラス四十名が定員の中に約一万二千人のヒーロー志望の少年少女が集まる。偏差値79、入試倍率三百倍を突破した正真正銘のエリートのみが所属する事ができる栄光の学科。そんな学科に今年度は試験的にもう一つ入学枠が用意された。それは『留学特待生制度』海外からも有望なヒーロー志望の少年少女を募り、他国のヒーロー事情や文化に直に触れ、生徒達により大きな刺激を与え、より活発な学生生活を期待すると言うもの。
──少なくとも表向きにはそう言うことになっている。
◇雄英高校・特別試験場《side:ミシェル》
私は今、たった一人で入学試験を受けている。
今日は待ちに待った雄英高校の入学試験当日。『留学特待生制度』と言う新制度を利用した私は、他の受験生とは異なる校舎で、一人きりで試験を受けた。筆記試験は、事前に取り寄せていた参考書の問題よりも数段難しかったし、一般入試には無かった面接試験も、学園のマスコットだと言うスーツを着たネズミがずっとこちらを見てきて何か観察されているようで凄くやりづらかった。
そして今、実技試験を開始するために、雄英高校の敷地にある市街地を模した訓練場に、目が異常に充血した気怠そうな試験官に連れられて来たところだ。
「はい、それじゃ今から『留学特待生』の実技試験の説明を開始します。制限時間は十分、時間制限までにこのエリアに五十体居る敵ロボットを全て倒すこと、八体いる要救助者のダミー人形を全て救出すること、町に極力被害を出さない事。ハイスタート」
あまりにも唐突に試験が開始された。前振りやカウントダウンも何も無く、ごく自然に、日常会話をするように、ぬるっとスタートと手を叩かれた。
戸惑い、試験官をチラリと見ると「何故、スタートと言ったのに動かないのか?」言うような顔をしている。この段階に至って、ようやく私の思考は現状に追いついた。
あぁ、そうだ。
敵を倒さなければ。
人々を助けなければ。
スイッチが入る。
「アハ」
◇雄英高校・会議室
暗幕により外光が遮られた薄暗い部屋の中、いくつものモニターに『実技試験』の映像が流れていた。
それを眺めるスーツに身を包んだ幾人もの人影。彼らは皆、雄英高校に勤めるヒーローたち。その中でも今回の入学試験に試験官として参加した者たちだった。
彼らがこうしてモニターを囲んでいるのは、今回の入学試験の録画アーカイブを見返して、自分の見つけたお気に入りの受験生を語り合うため。では無い。まぁ、多少は話の流れ次第でそう言った話になることはあるだろうが、本題は別にある。一般には公開されていないポイント『救出ポイント』を審査する。そのために集まり、会議室でモニターを囲んでいるのだった。
受験生に説明されたのは敵ロボットを倒して手に入れられる敵ポイントについて、これは如何に素早く敵を無力化出来るか、索敵能力や判断力、戦闘力を測るためのポイント。そして、『救出ポイント』は危機に陥った他の受験生を助けたり、自己の危険も顧みず他者を救おうとする、いわば『ヒーローとしての本質』を図るためのポイントだ。
「さて、これで『推薦入試・一般入試』の審査は終わりかな」
中央の席に座る一際小さな影が審査の締めの言葉を言う。
「そうですね、これで以上かと。それにしても前代未聞ですよ。『救出ポイント』0ポイントで首席合格と『敵ポイント』0ポイントで入学なんて」
その言葉に試験官達は目の前に広がるモニターのうち、一際大きなモニターを見る。
そこには二人の少年の実技試験が映されていた。
一人は凶悪そうな笑顔を浮かべ、両手を爆発させながら嬉々として敵ロボットを破壊していくツンツン頭の金髪の少年。
もう一人はおどおどとした気弱な様子で、決して良いとは呼べないような動きながらも、試験終盤に見せた、他者を守るために自身が入試に落ちることを覚悟で0ptロボットに向かって行った勇気ある緑髪の少年。
全く対照的な少年たちを見て、二本の触角が特徴的な試験官が呟く。
「彼らはきっと、とても良いヒーローになる。いや、必ず、最高のヒーローになる」
その言葉に他の試験官達も静かに頷く。
その後、しばらくの間、今回の実技試験で発見した、試験官たちそれぞれのお気に入りの受験生の話で盛り上がる。
そんな中、再び中央の席に座る小さな影が話し出す。
「さて、楽しいおしゃべりはここまでだよ。ここからは、ある意味、今年度一番の問題児のお話だ」
そう言って、テーブルに埋め込まれているボタンの一つを押し込む。すると、今まで様々なヒーロー志望の少年少女を映していた無数のモニターが、全て一人の少女を写した映像へと切り替わる。モニターに映った少女は、発育のいい欧米人特有の身体を使って軽々と敵ロボットを蹂躙している。
「これが例の」
「そう!政府からの指示、それに我が校の支援企業の一つ機械島グループからの推薦で新設された『留学特待生』だよ」
その言葉に試験官の教員達が騒めく。ヒーロースクールの名門、雄英高校といえど『国立高校』上位機関である政府の意向は無視できない、その上、雄英高校の活動根幹のプロヒーロー養成を支援する大企業の後押しもあれば尚更だ。
「HAHAHA!提出書類を見て驚いたよ!なんて良血が来るんだってね!大企業『機械島グループ』会長の孫でありUSA、NO.6ヒーローの娘!わざわざ日本に来なくともアメリカにいくらでも欲しがる学校はあるだろうにさ!わざわざ我らが『雄英』に来るなんてね!とは言え、いくら制度を新設しようと我々の定めた合格基準に満たなければ合格は出来ないんだけどね!それでは香山先生、筆記試験の結果をよろしく」
「はい、根津校長。では、先ず彼女の筆記試験結果ですがこのようになっています」
国語
・現代文:58点
・古典 :30点
数学
・数学 :98点
理科
・物理 :100点
・生物 :96点
・化学 :94点
社会
・日本史:41点
・世界史:97点
英語
・リスニング:100点
・筆記 :90点
・合計点数:804点
モニターの一つに各教科の採点結果が映し出される。
「このように、日本独自の科目こそ平均点を下回る結果となっていますが、それ以外の科目、特に数学科目、理科科目の点数は素晴らしい結果です。合計点数は804点。合格ボーダーには十分に到達しているので学力に問題はないでしょう」
「ありがとう、香山先生。では次は相澤先生、実技試験の結果を頼むよ」
根津校長と呼ばれた小さな影に呼ばれ、ミシェルを実技試験会場へ案内した目の充血した男が立ち上がる。
「あー、はい。実技試験の内容ですが事前に取り決めたようにかなり厳し目に設定しました。内容としては『敵ロボット五十体の殲滅、会場各地に散らばった救助者人形八体の救助、制限時間十分』です。結果は…まあ、Vをご覧ください」
相澤と呼ばれた男がリモコンを操作すると、モニターに映っていた一人の少女達が動き出す。
十分弱の映像が終わった時、会議室は静まり返っていた。
「えー、はい。以上が実技試験のVになります。採点ですが、ほぼ満点と言っていいでしょう。スタートの瞬間こそ虚をつかれたようでしたが、こちらが注意をする前に自分で気づき動き出したので及第点と言えるかと、戦闘技術も自身の個性の強味を押し付けつつ、試験中一度も個性を解除せずに使用を続けられる程度にはスタミナもある。救助者技術に関しても人形の中に仕込んだ衝撃感知センサーも一般人が十分に耐えられる程度の衝撃しか観測できず。模擬都市への被害も、終盤にあった室内に立て篭もる敵ロボットへ強襲をかける際にぶち破った窓ガラスぐらい。正直、現状の能力でも仮免を取らせて問題ないほどに高水準で全てが纏まってます」
「ありがとう、相澤先生。さて、最後に私から、面接試験の結果も伝えよう。結果から言えば合格だよ。ところどころ質問に対して詰まるところもあったけど、それも答えが浮かばなくて詰まったのでは無く、英語で考えた答えを日本語に変換する為のタイムラグといった具合だったよ」
さて、と根津校長が手を叩いて会議室に居る試験官達の視線を集める。
「以上の結果を聞いて、『留学特待生』の入学如何についてどう考えるかな?」
「まあ、ヒーローを目指して、試験でも結果出してるやつを落とすわけにもいかんでしょう」
「正直、彼女を捩じ込んできた奴らの思惑が分からないのは気味が悪いけど、短い間だけど顔を合わせた感じ普通にいい子に感じたから、問題は無いと思うわ」
「表向きの建前ではあったけどYO、レベルの高い外来種が混ざってるてのはいい刺激になると思うZE!」
「海外にもシェアを誇る大企業との繋がりも気にはなるが、本人が善良であり学ぶ意欲に満ちているなら問題はないと考える」
次々と試験官達が自分の意見を述べていく、その中には否定的な意見はなく、肯定的な意見で占められていた。
「よし!では全員一致と言うことで『留学特待生』を四十一人目の合格者とすることに依存はないと見る。ところで彼女はA,Bどちらの組に配置するかね?」
「それならうちに、A組にお願いします。うちには少し血の気の多い奴らが多いので…」
「HAHAHA!承知したよ!それではここに
◇機械島グループ所有・高層マンション・最上階
雄英の入試が終わった後、私はおばあちゃんが用意してくれた、雄英高校近辺のマンションに居を移していた。
てか、おばあちゃんすごい、私としては適当な学生アパートを用意してくれているのかと思っていたら、まさかまさかの高層マンション。しかも最上階とその一個下、2フロアぶち抜いた超豪邸を用意してくれていた。ニューヨークの実家もパパの趣味でなかなかの家だけど、ここはそれ以上だ。
先ず、最上階の生活スペースには最新鋭の家具、家電が完備されているし、部屋そのものも十人程度ならパーティに呼んでも広々と使える程度には広い。寝室には機械島グループ謹製のハイエンドPCが置かれていた。(後で調べてみたら家具家電、電子機器一式で最低限四桁万円はした。)
次に、生活スペースの隣には、私があるといいなあ程度で要求した『工作室』が設置された。私の個性を十全に使いこなすために必要な場所であり、実家ではパパの『工作室』をパパと一緒に使ってたんだけど、まさか日本に来て、自分専用の工作室を持てるとは思わなかった。中身の設備や工具はあらかじめリサーチ済みだったのか実家でも使っていた馴染みのあるものが一式揃えられており、それに加えて、見たこともない近未来的な工具らしき物も備えられている。さらに、最上階フロアのバルコニースペースには何故かプールもある。小さなプールと大きなプールが連結した八の字型のプール。超高層階に作られたこのプールからの見晴らしは非常に良く、ここで泳げば、きっと空を泳いでいるような感覚が味わえるのではないだろうか。
そして最後に、一つ下のフロアにはトレーニングルームと大浴場が設置されている。一応、シャワールーム自体は最上階の生活フロアにもあるのだけれど大きさも設備も格段にこの大浴場の方が良い。半分だけとは言え日本人の血が入っている私としては、シャワーだけで済ましてしまうのでは無く大量のお湯が張られた湯船に沈むのが至高だと感じる。トレーニングルームには、ランニングマシンやベンチプレス、バイク、ダンベルと言った一般的なトレーニング器具に加えて、加減圧室が作られ、低酸素マスクと合わせて擬似的な高地トレーニングも出来るようになっている。こんな板たり尽くせりの環境で家賃なんと無料。おばあちゃんの私物の一つだから気兼ねなく使っていいと言われている。
そんなハイパースゴイ自宅に郵便物が一つ届けられた。宛名は『機械島ミシェル』つまり、私だ。差出人には『雄英高等学校』の字。そう、合否の結果が郵送されてきたのだ。
逸る気持ちを抑えて、『指先を鋭利な刃物にして』、慎重に封筒を開ける。中には一枚の紙と、一つの手のひらくらいの大きさのメダルのような物が入っていた。とりあえず紙の方から見ると、メダルのような物の使い方が書かれている。どうやらこのメダルのようなものは記録媒体兼投影機のようなもので、この中に私の合否の結果が入っているようだ。早速、紙に書かれているようにメダルを起動させる。
『HAHAHA!!初めましてだね、機械島くん!入試の時はちゃんと挨拶出来なくて申し訳なかったね!私は『根津』、この雄英高校の校長を務めさせて貰っているものさ!」
投影されたのは、どこか見覚えのあるスーツを着こなしたネズミだった。
「って、こいつ面接の時にガン見してきたマスコットのネズミじゃん!え!?校長先生だったの!?」
私が軽いパニックに陥っている間にも記録された映像は進んでいく。
『筆記試験、実技試験、共に合格基準を満たしているよ、特に実技試験は素晴らしいの一言だよ!機動力、判断力、戦闘力、持久力全てが他の生徒から頭一つ飛び抜けている。そして、私が直接審査した面接試験──』
一度言葉を切り、静かに何かを考えるように目を瞑る根津校長。
『───私も多くのヒーロー志望の子供達を見てきたよ、皆、夢と希望に溢れた顔で憧れを語る。一番多いのはやはりオールマイトの事だったよ。「彼のようになりたい」「彼の力になりたい」他のヒーローを上げる子達も似たようなものさ、それが『敵』から守るのか『災害』から助けるのか、それぐらいの違いだよ。
でも、君は違った。誰よりも先を、誰よりも現実を見ていた。『オールマイトが居なくなってしまった後』そんな事を話すのは君が初めてだった。世の中を照らし続ける
おめでとう、機械島ミシェルくん、雄英高校は君を歓迎するよ』
「………。」
根津校長の映像が途切れ、事務的な連絡事項が再生されているが、私の心の中はもうめちゃくちゃだった。もちろん、雄英に合格した事は嬉しいし、これからの高校生活に胸は弾むがそれ以上に困惑が大きかった。
なんか、めっちゃ評価されてる!?
え、待って?ぶっちゃけあの時私が話したのなんて日本のマンガの受け売りとかセリフに影響されただけで、いや確かにオールマイトいなくなったらやべーじゃんとかは考えたけどそんなに深い考えは無くてですね?てか、日本の漫画に普通に書いてあったセリフだったからてっきり「あー、日本でもオールマイトが衰えたら次代から不味くね?ってのは考えられてるんだー」って感じでいわば日本での普遍的な考えだと思って口に出しただけでしてまさか誰も考えてなかったとか全く思わなかったわけで!
ある種の羞恥と多大な混乱により、一瞬でキャパオーバーした私は、取り敢えず体を動かして気を紛らわせようと下のトレーニングルームへと向かった。
結局、気は紛れず体力の限界まで体を動かして、トレーニングルームのベンチで寝落ちしてしまい。翌朝、体がバキバキになったのは、また、別のお話。