ショートとハンタの戦う第二試合は一瞬で決着がついた。開始直後、個性でショートを拘束したハンタがそのまま場外に投げ飛ばそうとして、ショートに氷漬けにされ、戦闘不能と判断されたのだ。
何を言っているのかと思うが、実際そんな感じだった。正直私も最初見た時、一瞬理解できなかった。数千、数万を収容できる巨大なスタジアム。その半分以上を覆い隠すほどの巨大すぎる氷塊が瞬きの間に出現していたのだ。
「マジか…ショートの全力ってとんでもないね」
「デクくん、次コレと戦うの?」
「ど、どうしよ……ってアレ?」
ショートの個性に驚いているとイズクが何かに気づいた。
「…もしかしたら、もしかしたらだけど。太刀打ちできるかも」
「へえ?ほんと?」
「う、うん。もしかしたらだけど、初撃さえ防げれば勝負に持ち込める、かも…」
「そっか、それじゃ楽しみにしてる」
「う、うん!ウチも頑張る!だからデクくんも頑張って!!」
「じゃ、私、そろそろ控え室行くね」
「あ、そう言えば試合…上鳴くん負けてるね」
「そう言う事、じゃ、お互い頑張ろ」
「うん!機か…ミシェルさんも!!……ところでミシェルさん、いつまでチア衣装着てるの!?」
イズクの問いに答える事なく、観客席を後にする。控え室に繋がる階段、そこを降りる直前に見えたイーダとメイというサポート科の生徒の試合。そっか、サポート科は自作のアイテムの持ち込みが出来るんだ。チラリと見えたメイのアイテムたちはとても一年生が作ったとは思えないほどの出来で、とても面白いものばかりに見えた。
体育祭終わったら話聞きに行ってみようかな。場合によってはお祖母様に話通してうちで囲ってもらうことも考えよう。
控え室に行ってから大凡10分ほど、私の出番がやってきた。
《キュートにピンク!だけど酸って何だ怖すぎるだろ!?ヒーロー科芦戸三奈!!対、第一種目圧倒的独走からの急降下!かと思えば騎馬戦で全く目立たずに本戦出場!!?何故かまだ着てるチア衣装!!同じくヒーロー科機械島ミシェル!!》
「何でチア衣装!?いつまで着てるの!?」
「うーん、とりあえずぼろぼろになるまでかな?多分バクゴー戦の後には変わっちゃうだろうからそれまで着てる予定」
「ふーん、随分余裕じゃん、ならアタシの酸でボロボロにしちゃうよ!!」
《それじゃァア!!START!!》
プレゼントマイクの開始の合図が響き、その瞬間にはすでに私の膝がミナのお腹に突き刺さっていた。
“ジャンパージャッキ”ただ高く飛ぶための脚で真上ではなく真横に飛び上がった。結果として、私の体は音速に迫る勢いでミナへと向かい、激突。ニュートンのゆりかごのように動体である私のエネルギーは静体のミナへと受け渡され、ミナだけが吹き飛んでいく。ミナの個性は“酸”金属でもコンクリートでもじわじわと溶かしてしまう強力な酸を分泌する個性。だからこそ空中で取れる手段がない事は知っているし、万が一何らかの偶然で舞台上に残れたとしても酸では私が蹴り飛ばした勢いを止める事は出来ない。
事実、ミナは舞台から吹き飛ばされ、スタジアムの内壁にぶつかってようやく止まった。
《しゅ、瞬殺!!塩崎対上鳴戦!瀬路対轟戦すら置き去りにする瞬殺劇!!戦闘時間1秒未満!!そんな実力で何で低順位で甘んじていた!!?策士か?タヌキか!?機械島ミシェル二回戦進出!!!》
舞台から降りる途中、完全に気を失ったミナが救護ロボに運ばれていくのが見える。
うん、流石にやりすぎたかも!!後でちゃんと謝ってスイーツでも奢って許してもらおう。
控え室に戻ると、そこにはバクゴーが居た。
「あ、バクゴー控え室こっちなんだ」
「あ゛?…テメェかクソ機械。随分と早えな」
「開始と同時に倒したからね、試合時間1秒未満だよ」
「TASかよ、クソが」
へえ、バクゴー、ゲーム実況とか見るんだ。あーでもなんかわかるかも、人力じゃ不可能な最高効率の動きとか気合いで食らいつこうとしそうだし。
「残念ながら金髪じゃなくて銀髪だし、ロリどころか長身のJKだけどね」
「…何でわかんだよクソ機械」
「日本文化って興味深いよね、何でも女体化させるしロリ化させる。そのうちオールマイトも女体化させそうだよね」
「やめろやクソが!!」
言っていて何だけど私もそれはやめて欲しい。あ、でも
「で、バクゴー的にはどうなの?オチャコ、楽勝?」
「あ?テメェ、丸顔側じゃねぇのか?」
「もちろん、オチャコ側だよ。心情的にはオチャコに勝って欲しい。けど、どれだけオチャコに有利に考えてもバクゴーの方が強い、筋力、体力は勿論だけど戦闘センス、個性の相性、オチャコにも勝ち筋はあると思うけど、君ならそれを捩じ伏せれる。違う?」
「ちっ、負ける気はねぇし、負けねえ。だが、楽勝だなんて思ってもねぇ。仮にもここまできてんだ、全力で警戒するし、全力で潰しに行く。コレで良いかクソ機械」
「もちろん、コレでオチャコを侮ってるようだったら私の見込み違いってやつだったよ、バクゴーの事はあんまり好きじゃないけど、実力は認めてるから」
「そうかよ」
そう言って不機嫌そうに顔を背けるバクゴー。
「……俺からも一個聞かせろクソ機械」
「なに?」
「テメェなんで『雄英』に来た」
「……」
「色々考えたが、どう考えてもテメェがここに来る理由が無え。雄英はいくら名門だっつっても所詮は日本の中ではだ、アメリカ行きゃあそれ以上の場所はいくらでもある。オールマイトですらも武者修行は日本全国行脚じゃなくてアメリカに行ってる。オールマイトが雄英の教師になるって知らされたのは合否発表が初めてのはずだ、テメェがここ選ぶ理由には薄すぎる。何考えてわざわざレベルの低い海外(日本)に来やがった」
そっか、最善最高を目指すバクゴーとしてはわざわざレベルを落として雄英に来た私が不可解に見えるわけだ。
「オールマイトだよ」
「あ?」
「オールマイト、私は彼が今年度から雄英で教鞭を取ることを知っていたから、だからここに来た」
「……続けろ」
「ねえ、バクゴー、考えたこと無い?オールマイトがいつまで立っていられるかって」
「それは…」
「オールマイトがヒーローとして活動して40年以上、彼の母校が此処雄英であり、卒業していることから最低でも18歳から活動を始めたとして、現状58歳、私たちが雄英を卒業する頃にはもう60歳の大台になってしまう。それでもオールマイトなら何とかしそうではあるけれど、それでもオールマイトはその全盛期からは確実に、今でも既に衰え始めている。オールマイトは偉大だよ、でも、偉大すぎた。私は入試の時に面接があったんだけどね、その時に遠くないうちにオールマイトは居なくなるかもしれないって話したんだ、合否発表テープにその時のことについてこう言われたんだ『我々教師陣も目を覚まされる思いだった』って、次代を育てるはずの教師ですら目を曇らせていたんだ。一般市民なんてもはや盲目状態だろうね。だから私は此処に来たんだ、偉大なオールマイトが直接教えるこの雄英に、彼が立っていられなくなる、その前に、彼から教えを受けるために」
「…………」
「そんなのが私が此処に来た理由、どうだった?納得できた?」
まあ、日本のマンガの影響を多分に受けた考えから出てきたものではあるけど、それでも私のオリジンとなっている考え方に違いはない。いつか陽が沈む時のために、再び登る太陽になる。それが私がヒーローを目指す理由だ。
しばらく無言で考え込んでいたバクゴー、しかし、突然思いっきり自分の顔を真正面から殴りつけた。
「!?ちょ、どうした!!?」
「バカか、バカか俺は…!!」
絞り出すような声で語り始めるバクゴー。
「そうだ、オールマイトだって人間なんだ、不老不死のバケモンじゃねえ、お袋どもがガキの頃からオールマイトはオールマイト何だよ…!人が老いねえはずがねえんだ。そん時に俺は……!礼を、言うぞ、クソ機械…いや、機械島。俺は、こっからだ、ここから最高のヒーローに、オールマイトを超えるヒーローになる…!俺たちがオールマイトに憧れたように、誰にも負けねえヒーローに…!!」
バクゴーが自分の中で何か新たに決意を固めた、そんな感じだ。少なくともほんの数分前のバクゴーよりも今のバクゴーの方が強い。そんなレベルの変化だ。
…あ、そうだ。バクゴーにずっと聞きたかったことがあったんだ。今まで聞く機会がなかったけど、今なら聞ける。
「ねえ、バクゴー。私からも一つ聞いて良い?」
「あん?」
「イズクの個性、あれ何?」
そう、バクゴーに聞きたかったのはイズクの個性の事だ。
「USJに行くバスの中で個性の話になったでしょ?あの時、イズクの個性の話になった時、バクゴー小声でそんなわけないって言ってたよね」
「ちっ、聞いてやがったのか」
「うん、それで気になってさ、正直、イズクの個性はおかしい。USJの時のエージの推察に対してはそんな事もあるのかって誤魔化されておいたけど、事実、自分自身を壊してしまう個性なんてのはあり得ない、ユーガやコージみたいに体質とミスマッチ、性格や嗜好とミスマッチっていう事はあれど、ただの発動で自分自身を危険に晒す個性なんて言うのはありえない、あり得てはいけないんだ。ショートの炎は自分を焼かないし氷は凍傷にならない、バクゴーの爆破だって最大威力にしてもバクゴーがバラバラに壊れる事はない。個性は人の機能の一部、力めば出てくる力瘤と変わらないはずなんだ、でもイズクの個性はその範疇を飛び越えてしまっている。彼の場合、力んだ力瘤が骨を粉々に砕き、皮膚を突き破って破裂してしまっているようなモノだよ」
「…わからねえ」
「は?」
バクゴーの答えは私を驚愕させるに十分な回答だった。
「わからねえんだ。少なくとも今から一年前、デクの野郎は無個性だった……はずだ。少なくとも俺はそう思ってたし、個性把握テストん時まであいつが個性持ってるなんざ知らなかった」
「中学以前から持っていて隠していたって可能性は?」
「有り得ねえ、俺とデクの付き合いは長え、それこそ俺に個性が発現するよりも前からの付き合いだ、中二までの14年間あいつに個性は無い、何かしらの個性が発現すればあいつは必ず俺に言ったはずだ」
「なのに、何も言わなかったし、個性は発現している」
「そう言う事だ、ただ……」
「ただ?」
「……いや、何でもねえ。気にすんな」
「そっか、ありがと」
イズクと深い因縁のあるバクゴーでもイズクの不可解な個性の事はわからないか。
お互いに話題が尽き、しばし無言の時間が続く。その中で控室の外から大きな歓声が聞こえてきた。
「試合、終わったみたいだね」
「ああ」
そう言って席から立つバクゴー。
「機械島、テメェの言葉は色々考えさせられた。だがそれはそれとして、テメェはぶっ飛ばす。俺が、俺の目指す最強のヒーローになるために、誰にも負けねえヒーローになるために」
「そっか、でも、まずは目の前の相手に集中しなよ、あんまり先ばっかり見てると躓くよ?」
改めて行われた宣戦布告にあえて挑発で返す。
「首洗って待ってろや、クソ機械。勝つのは…俺だ!」
さっきまでのシリアスな表情を脱ぎ捨て、凶悪な悪人面が戻ってくる。
舞台に向かったバクゴーを見送ってから、私は観客席に戻る。
観客席に戻ると、イズクとイーダが待っていた。
「む!帰ってきたか機械島くん!二回戦進出おめでとう!!」
「あ、ミシェルさん!お疲れ様!どこ行ってたの?」
「ただいま、控え室戻ったらバクゴー居たから、少し話してきた」
「ええ!?か、かっちゃんと!?だ、大丈夫だった…?」
「え?うん。普通に楽しくお喋りしてきた」
「「あの
非常に驚く二人、そっか、イズクはバクゴーの執着対象だから常にキレてる印象しか無いだろうし、イーダは委員長気質で、不良気質のバクゴーとの相性が悪いから良い印象は無いだろうからね。
「そう言う二人はどこに居たの?」
「ぼ、俺達は試合が終わった後に控え室で待っていた麗日くんと話をしていたよ」
「うん、控え室に向かった時、麗日さんの様子が少し気になったから、何か助言とか出来ないかなって。ほら、僕かっちゃんとその、アレだし」
「なるほど、二人はオチャコの方に…だとすると良いバランスになったのかな?」
「ミシェルさん?」
私の言葉に不思議そうに首を傾げるイーダとイズク。
「いや、なに。バクゴーと話してる時に少しね。今のバクゴー、スイッチ入ってる状態かも」
「「??」」
「うん、見てればわかると思うよ」
舞台を見ればすでにオチャコとバクゴーの二人が向かい合って、プレゼントマイクの合図を待っていた。
《START!!》
合図と共にオチャコが速攻を仕掛ける。障害物や武器となり得る浮かすものがない舞台の上はオチャコに対して圧倒的に不利、対してバクゴーは戦闘時間が長引くにつれて体が暖まり火力が上昇していくタイプ。オチャコが勝ちを拾いに行くなら最速で勝負を決めに行くしかない。
そして、私がそう理解していると言う事は、バクゴーも同じことを理解していると言う事。だからこそ選択するのは迎撃、姿勢を低くして突っ込んでくるオチャコに対してオチャコの間合いの一歩外、オチャコの腕は空振りして、バクゴーの爆炎だけが当たる位置で爆破を仕掛けた。
「くっ!やっぱりかっちゃんは強い…!!でも、麗日さんは…!」
隣でオチャコを応援するイズク。その応援に応えるかのように、バクゴーの出した爆炎を煙幕がわりにして何度も特攻を仕掛ける。
それにしても、妙に下段からの攻撃に拘るなオチャコ。確かに爆炎は下の方が濃いから体を隠しやすいとは思うけど…。ああ、なるほど、そう言うことか。下ばかりに注意を集めていたから、上に何か仕込みがあるのではと思い上を見ると、そこにはオチャコの集大成が出来つつあった。なるほど、それがオチャコの策か。
舞台に目を戻すと、バクゴーが一際大きな爆破でオチャコを大きく吹き飛ばしたところだった。息を切らすオチャコに対してバクゴーの静かな声がスタジアムに響く。
『で、準備はもう良いのか丸顔』
『え?』
『最初の突撃から始まって囮のジャージ、爆炎に身を屈めて潜む、下段攻撃の多用。明らかに注意を下に集めたいような動きだった、テメェ、デクと連んでるなら何かしらの姑息な策を聞いていてもおかしくはねえ、出せよその策を、それもまとめて叩き潰して俺は上に行く!!』
『…なんだ、バレてたんか。でも、ありがとう爆豪くん、油断してくれなくて、策を見抜いてくれててその上で乗ってきてくれて、おかげで勝機が生まれた。今の私の最大火力、見せたげる…!!個性解除!!!
オチャコの個性解除と共に、スタジアム上空に浮遊していた大量の瓦礫が重力を思い出し、落下を始める。
低姿勢での突進も、執拗な下段攻撃も全てはこの一撃の為に、武器のない舞台の上だからこそ、自分に直接的な破壊能力がないからこそ、破壊力に富むバクゴー自身に舞台を砕かせて自分を殺すための武器を作らせた。そして、その大質量にバクゴーが対処している間に自分は再び突撃、バクゴーの爆破を潜り抜けてバクゴー本体を浮かせた無力化する。うん!素直にすごい策だと思う。でも…。
今のバクゴーはそれをも超えるよ。
『ふぅ、やるじゃねえか丸顔。正直、ただの最大爆破じゃ打ち負けちまう。なら、限界越えるしかねえよなぁあああ!!!片腕の最大爆破で押し負けるなら両腕使え!!!Puls…
「ULTRAァァアア!!!』《/b》
大爆炎
空を覆うほどの瓦礫の雨を、目を焼くような黒煙の大瀑布が全て消し飛ばした。
『っ!ウソ…やろ!?一撃て……」
『…丸顔、まだいけるか?』
『……!当然!!!!』
『いいぜ、ならこっからが本場だ!麗日ァ!!』
気丈にも立ち上がって闘志を見せるオチャコ。だけど…。
バクゴーに向かって走り始めたオチャコの体が崩れ落ちる。許容限界、いくら気持ちが昂っていても、ボロボロの体は付いてこれなかった。
『んの…なんで、体言う事聞かへん…』
《麗日さん行動不能!爆豪くん、二回戦進出!!》
「イズク、オチャコのとこ行ってあげなよ」
「あ、う、うん!」
そう言って走り去るイズク。
さて、これでオチャコに黙ってイズクを自宅に連れ込んだことは清算できた筈。
「機械島くんはどうするんだい?」
「どうするって?」
「バクゴーくんののとこに行かなくても良いのかい?」
「ああ、うん。どうせすぐに観客席に戻ってくるだろうし、何せ次はイズクとショートの試合だからね」
「!!なるほど、確かにそれなら爆豪くんは確実に此処で見るだろうね」
そうこう言っていると案の定バクゴーが帰ってきた。
「お疲れ様、どうだった?オチャコ」
「強かった、一瞬やべえとも思った、そんであの捨て身の作戦もデクの入れ知恵なんかじゃ無かった」
「そっか、強かったねオチャコ」
「チッ…」
優しげな目でバクゴーを見つめてあげると、舌打ちをしてそっぽを向いてしまった。
さて、コレで一回戦は終了、小休憩を挟んでショート対イズクの試合から二回戦が始まる。それが終わればイーダの試合を挟んでフミカゲ対私の第3試合だ。
なんかシリアス顔してるけどこいつ今だにチア衣装です