目が覚める。暖かく柔らかに体を包み込んでくれるシーツから身を起こす。大窓から差し込む朝日が私の体を余す事なく照らしている。いつ頃からだっただろうか、私が裸で寝るようになったのは。最初は服が張り付き寝苦しかった事、谷間に汗が溜まって不快だったからだと思う。そこからナイトウェアを着なくなって、徐々にブラやショーツをつける頻度が少なくなって……
気づけば全裸スタイルが基本になっていた。
いや、便利なんだよ?態々脱いだり外したりして付け替える手間がなくなるから。寝汗とかで気持ち悪くなっても、そのままの状態でシャワールームに直行できるし、なんなら肌に吸い付くようなシーツの感覚は割と病みつきになる触感だし。
誰に向けたわけでもない言い訳をしつつ、大窓を開ける。四月ということと、高層階という事もあり吹き込んだ風は冷たく、私の中に残っていた僅かな眠気を一瞬で駆逐した。
「っし!目ぇ覚めた!!」
気合を入れ大きく背を伸ばす。目の前に広がる空は、清々しいほどに晴れ渡り、地平線の向こうまで真っ青に染め上げている。
今日は雄英高校入学初日。ヒーローを目指すもの達にとって最高の空模様だった。
◇
手早く朝食を済ませ、雄英高校の制服に着替える。正直、この制服という物が全体的に着慣れない。日本のドラマなどの光景で見た事はあるが、全員揃って同じ服を着ているとか、気持ち悪くならないんだろうか。遠くから見る分にはかわいいと思っていたけど、いざ自分が着るとなると忌避感がある。制服はユニホーム、なんて話を聞くけど、そもそもユニホームを四六時中着るのは端的に言ってイカれてると思う。
そんな事を考えながら姿見の前に移動する。鏡には襟、袖に緑の幅広ラインが二本入ったグレーのジャケットに、緑のミドルスカートを履いた少女が写っている。いうまでもなく私自身だが、まあ、なんだろうか思っているよりは似合っている、と思う。ただ、日本人の体型に合わせて作られた結果か、スカートの丈が少し心許ない長さになってしまっている。
「ま、いっか、なにか問題があったら、そん時に学校に言えばいいや」
そう、楽観的に考え、あらかじめ用意してあったバックを持ち部屋を出る。そのまま扉の目の前にあるエレベーターに乗り込む。一階と最上階の私の部屋のみを繋ぐ直通の専用エレベーターだ。
一階に着くと、エレベーターの前に一人の初老の男の人が立っている。男の人は、私の姿を認めると柔らかく微笑み、お辞儀をする。
「おはようございます、ミシェルお嬢様。既に車は用意できております」
「おはよう、爺や。それじゃあ今日からよろしくね」
彼は『爺や』、ちゃんと名前はあるけど私には『爺や』って呼んで欲しいらしい。なんでも長年の夢だったよう。おばあちゃんの会社、機械島グループに勤めているのではなくおばあちゃんの家、機械島家が、もっというならおばあちゃん個人が雇っている人だ。しかもこの人、ママが日本に居た時の学校の送迎をしていた人でもある。そして、私が雄英に通う三年間の送迎も担当してくれる。
「それじゃあ、爺や行きましょう!雄英高校へ!」
◇雄英高校・正門前
「到着しました、お嬢様」
爺やの運転に揺られる事十数分、雄英高校正門周辺に到着した。が、
「うわぁ、なんかいっぱい居る」
「ええ、正門前に記者がごった返すのは雄英高校の毎年の風物詩なのですが……今年はオールマイトの教員就任もあってか例年以上の数ですね」
この春、雄英高校に入学した生徒を取材するためか、数十人の記者がマイクやカメラを構えて、新たな生徒が現れる事を今か今かと待ち構えていた。なんなら気の早い記者は既に、この車にカメラを向けている。
「お嬢様、どうなさいますか?学校に連絡して教師を向かわせますか?」
「いいえ、爺や、そんな面倒な事はしない」
バックミラー越しにこちらを見る爺やと目を合わせる。機械島グループとしての力を使えば教員を使って記者を散らせるだろうけど…。
「正面突破よ、爺や、全部無視して」
「かしこまりました。お母様そっくりですね」
車をそのまま正門のど正面に乗り付けると、爺やは素早く車を降り、私の座る座席のドアを開ける。その瞬間、周囲の記者達が無遠慮にシャッターを切りまくり、マイクを持って突撃してくる。
「雄英高校に入学されましたが今のお気持ちは!」
「オールマイトが教師をされるという事で!期待されている事はありますか!」
「外人!?な、なぜわざわざ日本の雄英を受験したので!」
「「「「お答えください!!」」」」
迫り来る記者達一瞥し、そのまま綺麗に無視して雄英の校門を潜る。
「あ、答えてくださいよ!」
「おい、バカ待て!」
なんとしても返答を得たかったのか、一人の記者が私を追いかけて校門を潜ろうとする。
記者の腕が校門を僅かに通った瞬間、凄まじいブザー音が鳴り響き、地面から金属製の分厚い壁が勢いよくせり上がり、校門を塞いでしまった。
「おお、これが雄英バリアー」
入試や入学に際して、学校から送られてきた資料にあったやつだ。学校敷地内に入る際に学生証等、学校が発行した正式な所属証明がないと起動する金属製の防壁。好奇心から触ってみるとかなりの強度、響く感覚からかなりの厚さがある事がわかる。これを破壊するなら並大抵の個性じゃ傷をつけることすら難しいだろう。
バリアーの感触に満足した私は、教室に向かうことにした。
◇雄英高校・一年A組
辿り着いた教室に入ると、既に数人の生徒が親交を深めているのが見えた。とりあえず見えたのは尻尾の生えた少年、頭がカラスになっている少年、ツノの生えたピンク色の少女、なんか髪の毛まで硬そうな活発な少年、腕がたくさんある少年、服だけが浮いている少女、賢そうな雰囲気の少女、カエルみたいな女の子、頭に玉のついた少年。
とりあえず、自分の席にバックを置きたかったので、自分の席を確認する。──どうやら私の席は髪まで硬そうな少年の前らしい。
「は、ハロー!」
「?Hello」
バックを適当に机に引っ掛けていると、後ろの硬そうな少年が話しかけてきた。
「あ、えーと、な、ないすちゅーみーちゅー!」
「You too」
「え、ゆ、ゆーとぅー!?なんだよその返し、習ってねぇよぉ」
あー、そっか、私、外見は完全なアメリカ人だもんね。ぱっと見日本語喋れないように見えても仕方ないよね。
…なんか頑張ってるの可愛いからしばらく日本語喋れるの黙ってよ。
「えーと、えーと、あ、はわゆー!」
「ふふ、Same as usual」
「え!?さ、さむ?なんて答えたんだ?わっかんねぇ」
ふふふ、わざと日本で習わないようなフランクな感じで応えてるからか、ついに頭を抱えてしまった。なんだろ、すっごく可愛い!
「あはは!」
「な、なんだよ!?えっと、わっつはーぷ!?」
まあ、ここまでかな。これ以上はちょっと可哀想だし。
「あはは!いや、ごめんね。普通に日本語で大丈夫だよ。ちなみにさっきの返事は、『私も』と『いつも通り、変わりはない』って感じの意味だよ」
「しゃ、しゃ
「うわぉ!?ジャパニーズツッコミ!!」
少年を揶揄って遊んでたら、他のクラスメイトからもツッコミを喰らってしまった。
「こほん、じゃあ、改めて。初めまして!私は機械島ミシェル!父がアメリカ人で母が日本人のハーフ!よろしくね!」
「しれっと仕切り直した!?あ、俺は切島、切島鋭児郎、こちらこそよろしく!」
「切島鋭児郎、エージって呼ばせてもらっていいかな?日本人の名前って私にとってちょっと舌に乗りにくいんだよね」
「おう!呼びやすいように呼んでくれ!こっちもミシェルって呼んで良いか?」
「もちろん!」
「ケロ、私たちも混ぜてもらって良いかしら?」
エージと話していると、教室の後ろの方で固まって話していた女子の塊が近くにやってきていた。
「ケロ、私から挨拶するわね。私は蛙吸梅雨、気軽にツユちゃんって呼んで」
「アタシ、芦戸三奈!よろしくね!」
「ウチは耳郎響香。キョーカって呼んで」
「私は葉隠透!よろしく!」
「わたくしは、八百万百と申します。それにしても機械島?もしやあの機械島グループと何か関係が?」
「おっけ!ツユちゃん、ミナ、キョーカ、トール、モモだね、覚えたよ!」
ツユちゃんは蛙っぽい女の子、ミナは可愛いツノの生えたピンク色の肌の女の子、キョーカは耳たぶがイヤホンジャックになっている子、トールは透明で服だけが浮いてる子、モモはなんかとにかく賢そうな子だ。
「あれ、モモなんか私の家のこと知ってるの?」
「まあ!ではやはり機械島グループのご関係者で?」
「うん、おばあちゃんの会社だよ」
「ええ!?となるとミシェルさん、あなたとんでもないご令嬢では!?あ、でも私、パーティーで貴女を見たことが有りませんわ?」
「あはは、私アメリカで育ったからね、雄英に入るために日本に来たんだよ。だから日本のパーティーに居なかったんだ」
「まあ!そういうことでしたの」
「えへへ、でもそういうパーティーに出席してるって事はモモもかなりのお嬢様じゃない?」
「いえいえ、それほどでもありませんわ」
「ねぇ、なんかすっごいおじょーなお話ししてない?」
「ねー、なんかオハイソって感じ」
「ケロ、一般人には縁のない世界だわ」
モモとイチャイチャしていたら他の女子達から遠巻きにされてしまった。急いでモモと一緒に彼女達の機嫌をとる。結局、今度私の家に招待することで許してもらった。そんな感じでキャッキャと話していたら、いつの間にかクラスのメンバー全員が揃ってきていた。そして今、眼鏡をかけた動きがカクカクした真面目そうな少年と、緑髪でもじゃもじゃ頭の少年、茶髪でなんか雰囲気から丸っこい少女が教室に入ったことで全員が揃った。茶髪の子が最後の女子メンバーだったので早速仲間に誘おうとこえをかけようとしたとき、
「お友達ごっこがしたいなら他所に行け」
そんな言葉と共に、寝袋に頭の先まで包まった一人の男性が入ってきた。
いや、寝袋に入ったまま器用に動くな。そう思ってよく観察したら、この人、私を実技試験会場まで案内してくれた人じゃん。ってことは、お?この人担任か!?
「ハイ、静かになるまで八秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠けるね。担任の相澤消太だ。よろしくね」
マジで担任だった。じっと先生を見つめていると一瞬、目があったがすぐに逸らされてしまった。
「早速だが、全員体操服に着替えてグラウンドに出ろ」
そう言い残して先生はさっさと教室を出て行ってしまった。
「と、とりあえず我々も移動しよう!」
眼鏡をかけた少年が呼びかけ、ようやくクラスメイト達が動き出す。
とりあえず私は女子メンバーで固まって動こうかな。
「モモ、ツユちゃん、トール、キョーカ、ミナ集まろ。そこのなんか丸い子も」
「なんか丸い子!?」
A組の女子七人で集まって移動を開始する。
「とりあえず、自己紹介お願い、私らは先に自己紹介しちゃってるけど念のためもう一回、機械島ミシェル」
私を先駆けに女子メンバーでもう一度自己紹介をする。
「ウチは麗日お茶子!よろしくな」
「うん、オチャコね、覚えたよ。よろしくね」
グラウンドに出ると既に男子は全員揃って整列していた。
「全員揃ったな、それではこれから個性把握テストを開始する!!」