文化祭でハルヒが歌うだけの話   作:リーグロード

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文化祭1日目

 ついに迎えた文化祭当日。普段とは違う学校の景色に学生は色めき沸き立つ。

 そして、それが何よりも顕著なのは1年生を除く2,3年生だった。

 

 なぜそんなに盛り上がれるのだろうか? それは青春コンプレックスを持つひとりにとっては少し異質に感じてしまい、存在感を消しながら登校していると、その理由を知ることになる。

 

「ねえ、今年のハルヒちゃんは一体どんなことするのかな?」

 

「去年のハルヒ先輩のイベント面白かったよね!」

 

「ねえ知ってる? 今年は軽音楽部の他に音楽する子らが出演するんだって!」

 

 大声で盛り上がる同じ学校の先輩たちの会話が嫌でも耳に入ってくる。

 そして理解する。この盛り上がりの原因が何なのかを。

 

「やっぱり、凄いんだ。涼宮先輩って人……」

 

 自身が知る陽キャランキング堂々の1位にこの短期間で登り詰めた人物。まだ顔も写真以外ではロクに知らないけれど、周りがこんなにはやし立てるのだからきっと私じゃ到底手の届かない人物なんだろうな。

 

 いつの間にかひとりの心の中で涼宮ハルヒという人物は雲の上に住む神様みたいな人で、常に陽気なサングラスをしながらミラーボールの下で友人とレッツパーリィーしているキャラになっていた。

 

 もしそれを本人が知れば名誉棄損だぁ!!! などと騒ぐかもしれない。

 そんな当の本人である涼宮ハルヒはというと……。

 

「さあ、私達大正メイド喫茶をオープンするわよ!!!」

 

 洋風のヒラヒラしたものではなく、落ち着いた和風の大正時代をテーマにした着物姿のメイド服を着たハルヒが元気よく腕を振りかざしてクラス一同を鼓舞する。

 それに合わせて、クラス全員もハルヒの気合いに後押しされて声を張り上げる。

 

「「「「「おおぉぉぉ!!!!」」」」」

 

 文化祭が始まり校舎内に学生や一般客も出入りするなか、一際盛況な教室があった。

 

「1番テーブル季節のキノコサラダとデミグラスハンバーグ注文入りました!」

 

「3番テーブルのお客様お帰りになります!」

 

「午後の分の食材足りなくなるかも!? 誰か手の空いてる人買い出しに行ってきて!!!」

 

「あっはっはっは! 我がクラスは今年も大盛況ね!! これは売上1位の座は今回も鉄板ね!!!」

 

 高笑いしながら腰に手を当てて胸を張るハルヒに客のほとんどは温かい目で見守っているが、クラスメイトは殺気を込めた目線で「お前も笑ってないで働け!」と語ってくる。

 

 これにはハルヒもぶ~たれながら「はいはい分かりましたよ~」と調理に戻る。

 ハルヒのクラスはライブクッキング形式を取っており、客の注文と同時にハルヒや他の料理の出来るクラスの女子が華やかに料理を作っていく。

 

 その料理の種類も豊富で、値段設定も低価ながらに調理もお手軽で味も良質という美味い、早い、安いのどこぞの飯屋の謳い文句をパクッているかのような経営だった。

 

 しかし、盛況の理由はそれだけではない。それはあくまで盛況の理由の半分で、もう半分はというと……。

 

「はい、こちら季節のキノコサラダとデミグラスハンバーグです。どうぞごゆっくりお召し上がりくださいませ」

 

 ハルヒと同じメイド服を着た黒髪ロングの少女が優雅な笑顔と共に丁寧に頭を下げる。

 少女の丁寧な接客に客の男性陣の顔は赤く染まる。そう、この大盛況の理由のもう半分こそが彼女、ハルヒのクラスメイトにして同じ軽音楽部所属の三浦の存在だった。

 

「ほらハルヒも! お客さんが待ってんだから油売ってないでバシッと働きなさい!!」

 

「はひっ!?」

 

 バシッと尻を叩かれたハルヒは顔を赤くして悲鳴を上げ、恨めしそうな顔でガルルル!! と吠えながら三浦を睨む。

 それをキッ! と睨み返されてクゥーン(´・ω・`)と悲しそうな顔で調理を再開する。

 

 まるで飼い主と飼い犬のような関係だが、それはとても微笑ましい光景でもあり、なかには「百合ってる。尊い……」と拝み倒している者もいる。

 

 そうして順調に大量の客を捌いていると、次に順番待ちをしていたお客が教室に入ってきた。

 

「おかえりなさいませっ……!?」

 

 その入ってきた客達を見てハルヒが驚きに表情を固まらせる。

 

「わぁ~、珍しいね。和風メイドってやつかな?」

 

「いい匂い……」

 

「あっ、見てください先輩。ここメニューが凄く豊富ですよ!」

 

「こ……こ……こんなに沢山の人。私なら絶対に倒れちゃいます……」

 

 やって来たのは明日の文化祭ライブで私達の前に演奏をすることになっている結束バンドのメンバー。虹夏、リョウ、喜多、ひとりの4人だった。

 

 ハルヒは目の前に現れた4人に目を丸くさせる。

 とはいえ、ここでまた手を止めていれば三浦にまた尻を叩かれることになるため、気になりつつも料理の手は止めることなく作業に集中する。

 

「それにしても、ここのクラスの出し物は本格的だね。さっきのぼっちちゃんのクラスが出してきた料理って……ほら、冷凍食品のやつでしょ?」

 

「おまけに店員さんが美人。特にあの黒髪の人」

 

「ああ、あの人は例の軽音楽部の人ですよ。名前は三浦 鏡花。確か担当はベースだったはずです」

 

「じゃ、じゃあ、あっちの人があの涼宮先輩……」

 

「「確かに、メッチャ美人だ」」

 

 キャッキャウフフとメニューを眺めながら雑談をし始める結束バンドの面々たち。

 けれど、時折こちらをチラチラと見てくるということは、向こうも私の事を知っている? 

 

 まあ、私って結構な有名人だからね。別に知られていても不思議じゃないし、知られていても別に不都合とかはないから全然かまわないけど……。

 っと、もう焼き上がりそうね。さっさと盛り付けて出しちゃわないと。

 

「おーい、三浦! これできちゃったから持っていって!」

 

「はーい!」

 

 ハルヒに呼ばれてパタパタと急いで注文された料理を運ぶ三浦。

 その運ばれる料理を見て結束バンドの4人がゴクリと唾を飲み込む。

 

「私達もそろそろ何か頼もうか? あっ、私はこの絶品ビーフシチューにしようかな」

 

「じゃあ、この3種のキノコソースオムライスを1つ」

 

「なら私はこのとろ~りチーズのグラタンを頼もうかしら」

 

「じゃ、じゃあ、私はこのミラクルスパゲッティにします」

 

「了解しました。4番テーブル絶品ビーフシチュー、3種のキノコソースオムライス、とろ~りチーズのグラタン、ミラクルスパゲッティ注文入りました」

 

「OK♪ その注文は私が引き受けるから、他の客の注文をお願いできるみんな?」

 

「任せて、ハルヒちゃん」

 

 ふっふん♪ いいわ、結束バンドのあんたらには、この私の至高の料理を存分に堪能してもらおうじゃない! 

 とりあえず、オムライスからやっていこうかしら。せいぜい腹を空かして待っていなさい!! 

 

「いや~、楽しみだね」

 

「周りのお客さんの頼んだ料理、どれもすっごく美味しそうですね」

 

「これは期待できる」

 

「でっ、ですね。あんなオシャレな物を私なんかが口にするなんて……」

 

 うんうん。あの子達も随分と私の料理を期待してるじゃない。まあ、ひとりって子は変な反応してるけども。

 でもまあいいわ。この私の全力のお・も・て・な・しを堪能させてあげようじゃない。

 

「うおりゃああああああ!!!!」

 

「きゃっ! なんかハルヒさん燃えてない?」

 

「物理的にもフライパンが燃えてフランベしてるし……」

 

「まあ、焦がさなきゃ問題ないけど。っていうか、あれオムライスでしょ? なんでフランベしてるの?」

 

 ふふん、この私がそんなヘマをやらかすとでも? 見てなさい! この私の華麗なフライパン捌きを!! 

 よっ、ほっ、とりゃ! さあ、究極で完璧なオムライスが完成したわ! 

 

「オムライス完成よ! ビーフシチューも盛り付け出来ちゃったからついでに運んじゃって!」

 

 テキパキと作業をこなしながら注文を受けた料理を完成させる。出来上がった料理は見た目や匂いだけで美味しいというのが分かる。

 先に出来上がった2品を三浦に運ばせると、テーブルに置かれた2品を見て結束バンドのメンバーは「ほぁ~」と気の抜けたような声を漏らす。

 

 湯気の立った2品に対して金髪の子は「美味しそう~」と唾を飲み込み、青髪の子はフンス! と鼻息を荒げてスプーンをガッチリ握りしめている。

 まだ注文の品が来ていない残りの2人に先に食べると一言断りを入れ、次の瞬間にはアツアツの料理を口いっぱいに頬張って食べ始めた。

 

「はふはふ! ん~、すっごく美味しい♪」

 

「このキノコのソースが旨味のアクセントになって、食欲を増進させてスプーンを口に運ぶ手が止まらない!」

 

「「ゴクリ!」」

 

 美味しそうに食べた料理の感想を述べる2人に他のメンバーがゴクリと喉を鳴らす。

 そして、今現在料理中の私の方へ振り向いて自分達の料理が出来上がるのをまだかまだかと待ちわびている。

 

 その光景にハルヒは満足そうにニヤリと笑みを浮かべた。

 

「ふっふっふ、演奏ではどれほどのレベルか知らないけど、あの反応を見る限り文化祭での出し物のレベルはどうやら私の方が圧倒的に上みたいね!」

 

 結束バンドのメンバーの反応から見て、この学校の生徒である喜多ちゃんとひとりのクラスは自分のクラスよりレベルは下であると半ば確信する。

 別にそれがどうしたという話だが、こういった所でマウントを取って自身の方が優秀であると知らしめることもまた重要なことである。

 

「なぁっはっはっは、流石は私ね! ここでも才能を発揮しちゃうだなんて。これは明日の勝負もきっと──―っだぁ!」

 

「だ・か・ら、ちゃんと仕事しろ! このバカハルヒ!!」

 

「いったぁい! そう何度もバシバシ叩くことないじゃない。ちゃんと手は動かしてるんだし問題ないでしょ!?」

 

「手を動かすのは当たり前のこと。無駄な口を叩いて仕事するんじゃないって話よ」

 

 頭にタンコブを作りながら涙目でさするハルヒ。そして、残り2人の頼んだグラタンとスパゲッティを同時に完成させる。

 チーズの焼けた香ばしいグラタンのいい匂いが教室中に充満し、それを嗅いだ瞬間に注文待ちの客の腹が空腹を訴えてグゥ~と鳴る。

 

「はわぁ~、このグラタンの物凄くイソスタ映えしそうな見た目してるわ~」

 

 カシャカシャとスマホで色んな角度から目の前に置かれたグラタンを撮影してイソスタにアップする。

 そんな喜多ちゃんの隣でひとりは目の前に置かれた皿の料理に固まって動かないでいた。

 

「…………」

 

 頼んだメニュー表には写真がついておらず、品名だけで選んだがまさかミラクルスパゲッティの正体が……。

 

「こ、これは……」

 

「見事な3色。いや、確かにミラクルって感じはするけども……」

 

「で、でもほら、これ凄くイソスタ映えしそうじゃない?」

 

 そう、ミラクルスパゲッティはまさにその名を表す通り?スパゲッティの麺が赤紫、紫、青紫の3色に染まっった若干ゲテモノ感のある意味奇跡のような謎のスパゲッティだった。

 

 ひょっとしてこれはイジメではないだろうか? そんな考えがひとりの脳裏をよぎった瞬間、厨房で料理していたハルヒがこちらへやって来て、腰に手を当てて胸をふんぞり返してきた。

 

「困惑しているようね。でも安心なさい! この涼宮ハルヒ監修の元で作られた料理にマズいなんて物は存在しないわ!!!」

 

「えっ、いや、そういうつもりじゃ……」

 

 自信満々に宣言するハルヒにひとりはいきなりのことで動揺しつつ、バタバタと手を動かして否定しながら、ご自慢の妄想力でこの後ハルヒに不良みたく恐喝され、他の先輩達にも囲まれて文化祭の雰囲気を壊した罪なる謎の刑罰を喰らって退学になる未来を想像して青ざめる。

 

「い……い……いただきます!!!」

 

 そんな最悪な未来に至ったひとりはほぼ条件反射のようなスピードでフォークを手に取り、謎の色を放つスパゲッティを巻いて口に放り込む。

 

「はむ! むぐ……むぐ……、んむ!!?」

 

 スパゲッティを口に含んで目をつぶりながら咀嚼を数回すると、驚いたような顔で目を開ける。

 

「ぼ……ぼっちちゃん?」

 

「無理ならペッってしていいぞ、ぼっち」

 

「その……大丈夫?」

 

 3人がひとりの反応に不安そうな声をかけるが、それに対してひとりは無言のまま咀嚼を続け、ゴクリと口の中にあるスパゲッティを飲み込む。

 

「お……美味しいです……」

 

「「「ええぇっ!!?」」」

 

 先程までの不安そうな顔は何処にいったのか、驚嘆した表情ながらに美味しいと口にするひとり。

 その言葉に3人は噓だと言わんばかりの驚きの声を上げる。

 

「ふっふっふ、驚いたでしょ? それはこの私が試行錯誤を重ねて完成させた創作料理よ!」

 

 作り方は至ってシンプルだ。スパゲッティの麵に野菜の色素を注入しただけの簡単なもの。

 それだけでなく、野菜の旨味も入っているために、普通のスパゲッティよりも味わいが深いのだ。

 

「どれどれ……、ほうこれは中々……」

 

 味が気になったリョウが一口分スパゲッティを口にする。もしゃもしゃと咀嚼し飲み込むと、眼を輝かしながら予想以上に美味いことに驚きを口にする。

 ついでにもう一口といこうとしたところを虹夏にやめい! とチョップで止められている。

 

「むっふっふ、どうよ! この私の料理のほどは……」

 

「は……はい……、その、物凄く美味しくて、とっても凄いと思いました!」

 

「値段もリーズナブルな価格だし、これはいける!」

 

「えっと、このビーフシチューも今まで食べたなかで一番美味しいです!」

 

「このグラタンもチーズの美味しさが際立っていて、頬っぺたが落ちそうになりました!」

 

 4人からの好評にむふ~っと鼻息をたてて見るからに満足そうな笑みを浮かべるハルヒの背後に笑顔を貼り付けにして立つ三浦の姿があり、それを見てビクッ! と動きを止めた4人の様子に何か嫌な予感を感じ取ったハルヒが油の切れたロボットのような動きで後ろを振り返る。

 

「ハ・ル・ヒ~? 何をやってるのかな~?」

 

「あ……あのね、これは違うのよ!! ただ困ってる子がいたからそれで……っいだだだぁぁぁ!!!」

 

「いいから、さっさと料理に戻る! 注文はまだ沢山あるんだからね!!!」

 

「わ……分かった、分かったから!! だから耳を引っ張らないでぇ~!!」

 

 そのまま耳を引っ張られたままズルズルと調理場へと連行されるハルヒを見送る4人は苦笑いをするしかなかった。

 

「ふぇ~ん!」

 

「次は頭にグーでいくからね!」

 

 ぷんすかと怒る三浦の言葉に泣きながらフライパンを振るうハルヒ。

 

「それじゃ、お客様。ごゆっくりどうぞ」

 

 クルリと振り返ってにこやかな笑みを浮かべる三浦にあははは……と手を振り返して4人は食事に戻った。

 それから数分後、テーブルの上にあった料理はあっという間に完食され、空になった皿だけが残っていた。

 

「ふぅ……ご馳走様。美味しかったね」

 

「充分に店を開けるレベル。食事も美味しいけれど、それ以上にあの2人の漫才も面白かった」

 

「あれは漫才っていうんでしょうか……?」

 

「で……でも、仲が悪いって感じに見えなかったですし、喧嘩ではないんじゃ……」

 

 あれ以降はハルヒも大人しく料理を続けており、客足も途絶えることなく順番待ちの列が教室の窓から確認出来る。

 もう料理も食べ終えたので4人はお会計を済ませ、そそくさと教室を出ようとしたその時、後ろから料理中のハルヒが声をかけてきた。

 

「ねえ、あんた達。明日の文化祭ライブで演奏するんでしょ? いい演奏が出来ること期待してるからね!!」

 

「……っ、はい!」

 

 まさか自分達が出演することを知っているとは思っていなかった4人はハルヒの急な発言にビックリしていたが、結束バンドのリーダーである虹夏が期待しているという言葉に笑顔で返事を返す。

 それに対してハルヒはニカッと眩しい笑顔で手を振って見送った。

 

 そうして4人が去っていったのを見送ると、ちょうど手の空いた三浦がハルヒに近寄って質問を飛ばす。

 

「あの子らが例の私達以外に出演するっていう?」

 

「ええそうよ。まあ、どんな演奏するかは知らないけど、明日の文化祭ライブは絶対に負けないわよ!」

 

「だから、勝ち負けなんてないでしょうが。ま、出る以上は最高の演奏をするつもりだけどさ……」

 

「ふふ、三浦にもちゃ~んと期待してるからね。明日のライブ、腕を磨いて待ってなさい!」

 

「首じゃないのかよ……。てか、それじゃ敵側じゃん私」

 

「どっちでもいいじゃない。とにかく、気合い入れてくわよー!!」

 

 

 

 




次回はついに涼宮の演奏回……では残念ながらまだ先です。
あともう1話だけやったら演奏回ですので、更新を待っててください。

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