文化祭2日目の今日、ついにライブの時間が迫ってきた。
私達軽音楽部も本来ならば舞台裏で待機するのだが、この私涼宮ハルヒはそんな常識には当てはまらないわ!!
こうして他の観客に混じって結束バンドの実力を見物するんだから!!
……にしても、
「あっはっは、ぼっちちゃ~ん。頑張れぇ~」
「……なにあれ?」
ステージ前でカップ酒を転がして酔っぱらってる女の人がいる。
あんなの普通は校門前で止められるでしょう? なにこの高校、警備ゆるゆるのザルなんじゃないの?
でもま、見た感じ結束バンドの知り合いっぽいし、バンドマンって何故か酔っ払いってイメージもあるし、案外悪い人じゃないのかも? 変な人ではあるけど。
しかも、なんか金髪のお姉さんにプロレス技をかけられて退場しかかってるし……。
もしかして、あの金髪のお姉さん、虹夏ちゃんのお姉ちゃんかな? 眼つきは似てないけど、それ以外はそっくりだし、きっとそうね!
おっと、そんなこと気にしてる場合じゃない。喜多ちゃんのMCが始まったわ。
大して上手とは呼べないけど、経験の浅い学生じゃ仕方ないわね。
けど、問題はこれからの演奏よ。いかにMCが上手かろうが下手であろうが記憶に残らない演奏が出来なければバンドマン……いいえ、音楽家として生きてはいけないわ。
彼女達の演奏が夢の為か、それともただの学生の趣味範囲なんか、存分に見極めさせてもらおうじゃない。
「それじゃ、一曲目いきまーす!」
シャンシャン♪ ジャギギギィィ!!!!
へぇ、並みの軽音楽部よりもいい演奏してるじゃない。
どうやら、ただの学生のノリによる趣味範囲じゃなさそうね。でも、まだまだ未熟という言葉が相応しい。
ドラムとベースギターは私達軽音楽部に届きうる実力を持ってるわ。でも、残りの2人は違う。
喜多ちゃんはまだ始めて日が浅いのか、技術が御粗末に感じる。
それでも、練習をキチンとこなしている成果というものは見て取れる。
けど、それよりも問題なのはあのピンク髪の子、ひとりって子の方だ。彼女の演奏を聞いて真っ先に思い浮かんだのはチグハグな違和感だろうか。
見る限り演奏の技術に問題がありそうには見えない。それどころか、あのメンバーの中ではずば抜けて技量は上だろうと思える。
ただ、他のメンバーと息を合わせるのに苦労している。それが彼女の演奏をダメにしている原因だ。
まあ、その理由は分かっている。この文化祭ライブが始まるまでの数日、普段の練習をほっぽって敵情視察をしてきた私の観察眼から後藤ひとりという子は極度のコミ症であるというのが確信できた。
だから、他人と息を合わせるという作業に四苦八苦しているのだろう。
だが、これはバンドマンにとって致命的ともいえる欠点だ。何故なら、ソロで弾く分には全く問題はないが、バンドはチームプレイである。
もし彼女が本気でプロを目指すつもりならば、その弱点を克服しなければならない。
それが出来ない場合、彼女はプロになるべきではない。
「でもまあ、今の彼女の演奏。息を合わせるという以前の問題があるわね」
普通の人では分からないだろうが、音楽に携わっている私の耳は彼女のギターの音のズレを正確にとらえていた。
いや、これはズレているというよりもブレているといった方が正しいか。恐らくはペグによる機材トラブルだろうか。
こんな事態、これから先いくつもやって来る。今ここで求められるのは応用力。ただこのまま黙って失敗するか、はたまた正直に打ち明けて一旦演奏をストップさせるか。
そんなことを考えながら見つめていると、ステージ上の彼女はここでようやく自身のギターの不調に気づいたのか、ハッとした表情を浮かべて演奏の合間にペグに触れて青ざめた。
「気づいたようね。さあ、これからどうするのかしら?」
今からの行動次第でこの演奏の結果がガラリと変わる。果たして、ひとりちゃんはこの状況を前にどんな行動を見せてくれるのかしら?
そんなワクワクした感情のまま結束バンドの演奏を観賞していると、2曲目の中盤に差し掛かったその時、隣に立つひとりちゃんの不調に気が付いた喜多ちゃんが突然動きを変える。
それを見たひとりちゃんは一瞬驚いた表情を浮かべ、次の瞬間には目の色の輝きが変わった!?
「……っ!!」
それが運命の分かれ道か、偶然足元に転がってきた空になったカップ酒を手に取って即興のボトルネック奏法を披露して見せた。
これには周りの観客達も大興奮していた。どうやら、あの奏法が何なのか理解してはいないが何となく凄いということは一目見て感じ取ったようだ。
……面白いじゃない。普通に演奏するだけじゃこうはいかない。トラブルでさえ余興に変えちゃうだなんて。
「負ける気はこれっぽちもなかったけど。こんなの見せられたら燃えちゃうじゃない!」
ニヤリと笑いながら周りの観客の声援に合わせて私もその場で興奮に声を上げる。
「ウェーーイ♪最高よ、ひとりちゃーん!!」
それからは何事もなく、2曲目が終了して3曲目はせずに締めの挨拶になった。
まずはバンドリーダーの虹夏ちゃんの挨拶ときて、次に喜多ちゃんにマイクが渡る。
そして最後に喜多ちゃんがひとりちゃんにマイクを持っていく。
「ほらっ、ひとりちゃんも一言ぐらいなにか言わなきゃ!」
「あっ、うっ……」
だが当然、何の前準備もなくマイクを渡されてしまえばコミュ症であるひとりは顔を青ざめてフリーズしてしまう。
そして、視界をキョロキョロと彷徨わせたあと、あの酔っ払いを一目だけ見ると、次に意を決したような表情を浮かべて一歩を踏み出した。
「ちょっ、マジで!?」
ステータスの高い涼宮ハルヒの動体視力だからこそ、私は他の誰よりも早く後藤ひとりが何をするのか察してその足を動かしていた。
それと同時にステージ前に集まっていた観客もひとりが何をするのか察して即座にぶつからないようにと避ける為に逃げる。
そして出来上がったぽっかりと空いた空間に私は滑り込み、ステージから降ってくるひとりちゃんを抱きしめるようにキャッチする。
おっと、流石に運動神経抜群の私でもステージ上から飛び降りてきた子を受け止めるのは不可能だ。だから私はその場で落下の勢いを受け流す為にクルリと1回転してその勢いを殺し、静かにひとりちゃんを地面に降ろす。
それにしても、受け止めた時に感じたけど、この子着瘦せしてるけどかなり胸があるわね。発育が豊かでとても気持ち良かったです。ごちそうさまでした。
「ひゃっ! あの、ご……ごめんなさ「あなた! とってもロックねぇっ!!!」ふへぇ?」
おっと、いけない。思わず感極まって叫んでしまったわ。
でも、こんなにも心を震わせる演奏をした彼女に我慢できなかったのよ。このまま次の私達の演奏にぶつけようとした熱を言葉にして投げつける。
「さっきのボトルネック奏法! あんなの偶然とはいえやってみせるだなんて本当に凄いわ!! それにあなた達のバンドも思った以上にレベルが高くてビックリしちゃった! MCはまあ……あれだったけど、流石は私達と同じステージに立とうとするだけのことはあるわ!!! ねえ、確か名前は後藤ひとりって言うのよね? だったら、ひとりんってあだ名で呼んでもいい?」
「ひっ、その、……あひゅっ」
涼宮ハルヒのマシンガントーク。後藤ひとりは精神に999のダメージを受けた。後藤ひとりは目の前がバグって後藤スライムに変化した。
「えっ、なにこれ!? もしかして世界改変能力が発動しちゃった!?」
ドロリと体が溶けてスライムみたく変化するひとりに1人パニックっていると、ステージ上の結束バンドのメンバーが慌てて駆け下りてくる。
「うちのぼっちちゃんがごめんなさい!」
「ああ、制服が汚れて!?」
溶けてスライムになっちゃったひとりちゃんを回収すると、この騒ぎを聞きつけた軽音楽部の面々が慌てた様子でやって来た。
「ああもう、この馬鹿ハルヒ! 舞台裏にいないから何処に行ったのかと思ったら!?」
「次は私達の番なんだよ! なんで服汚しちゃってんのさ!?」
「なははは……。まあ、心配しないの。ちゃんと替えの服は持ってるから大丈夫!」
後藤スライムの粘液でグッチョリと汚れた服を着替えるために急いで替えの服へ着替える為に走る。
まさかこんな事態になるとは思っていなかったが、念の為……というより、100%私の趣味で持ってきたのだが、本当に使用する時が来るだなんて。
そんな事を考えながら持ってきた服の袖に腕を通して着替えていく。ひとりちゃんの体液で汚れた制服をカバンの中にしまい込んで皆が待つ体育館へ急いで駆けていった。
その際、廊下ですれ違った人には物凄く驚かれていたけど、まあこの服装なら当然だよね。
そしてたどり着いた体育館の舞台裏。既にステージ上には楽器を構えた3人が待機していた。
もう会場内の観客達は全員軽音楽部の演奏が始まるのを今か今かと待ちわびている。
ちょっと見れば先程溶けてスライムになったひとりちゃんも元の姿に戻って結束バンドの皆と並んで立っている。
どうやら、あの姿は私の能力とかじゃなくて、彼女の固有スキルみたいなものらしい。えっ、本当に人間? 宇宙人とかモンスター娘とかじゃなくて???
「まあけど、ちゃんと会場にいるなら無問題よ!! この私が率いる軽音楽部の実力を存分に見せてあげようじゃない!!」
私は自分のギターを装備してステージ中央に颯爽と登場する。
「「「えっ!!?」」」
「「「「っは!!?」」」」
私が登場したことで会場内の全員が驚きに言葉を詰まらせる。
まあ、それもそうだろう。なにせ今の私の格好は原作のハルヒ同様の
数瞬の時を開けて、驚愕から我に返った観客達が一斉に歓声を上げた。
主に歓声の主は男子達であったが、後ろの3人がこの衣装に対して「何考えてんのよ!?」って怒ってくる。
「なっはっはっは、可愛いでしょこれ? ほら、折角の文化祭だしパフォーマンスは必要かなって?」
テヘペロと可愛いく舌を出してウインクすると、呆れたような溜め息を吐いて3人は口を閉ざした。
もう私の奇行に慣れたってことよね。自分で言っといてなんだけども……。
「さあ、みんな! 言いたいことは後で聞いてあげるわ。だけど、今はそれよりもこの文化祭ライブを成功させるわよ!!!」
「しゃあない……」
「今更ですものね……」
「ハルヒは~、しょうがない子~」
3人も諦めたように苦笑を浮かべると、すぐに真剣な表情になってそれぞれの楽器を構えて前を向く。
そして、いよいよ私達の演奏が始まるといったところで、私はステージの中央でマイクを持って立つと、集まった大勢の生徒達に目を向ける。
未だに私の衣装で盛り上がり続ける観客達に対してまずは一言。
「シャラ────ップ!!!! 」
キィーンとハウリングすら起きる大声で叫ぶと、あれ程騒いでいた観客達も全員口を閉ざして黙り込んだ。
「ここで多くは語らないわ。ただ、最高の演奏を聞かせてあげる。騒ぎ立つのなら、それを聞いてから騒ぎなさい!!!」
それじゃあ、聞かせてあげる。私達の最高にハイな演奏ってやつを……!!!
まずは1曲目『冒険でしょでしょ?』
ようやっと次回で涼宮ハルヒの演奏回になります。
後数話で終了しますが、それまでに高評価とお気に入り登録をよろです。