「後藤ひとり」に対する秀華高校男子の雑談。
・・・それに聞き耳を立てる後藤ひとり。
後藤ひとりが男子にモテるわけがない。
強く、そう強く思ったのでこの話を書きました。
後藤ひとりはジメジメした人気のないところを好む。
昼休み、いつもの定位置としている謎スペースがなにやら荷物を運びだすとやらで騒がしかった。
しょうがないので、校舎裏のそのまた隅に潜む。
やっと辿り着いた安住の地、とひとりが思ったのもつかの間、男子の一団がやってきた。
見覚えのある顔からしてクラスメイトだ。
半端に面識がある分、より気まずい。
(やだなー。どこか別の場所にいってくれないかな)
ひとりは男子学生が苦手だ。なんて話をすればいいかわからないし、何を考えているかもわからない。
ちなみに女子学生も苦手だ。なんて話をすればいいかわからないし、何を考えているかわからない。
(去年、教室で寝たフリしててみたいに気配消しとこ)
スマホで音楽でも聞こうかなとイヤホンを探ったところで――――
「彼女欲しいーー! 喜多みたいな可愛い子と付き合いてぇ!!!」
「おいおい、そりゃ高望みし過ぎだろ〜」
「校内じゃ聞かないけど学外に彼氏いるんじゃねーの」
ピクリと。
イヤホンを耳に差し込む手が止まった。
(やっぱりモテるんだなぁ、喜多ちゃん)
喜多が作った歌詞から感じた男の気配。
下北以外にダメな彼氏の影があることを思い出した。
(彼氏ができると距離ができちゃったりするのかなぁ。ううっ、喜多ちゃん・・・)
ひとりなりに、喜多の気を引く内容を考えようとして――――
「でもさ〜喜多って胸ないじゃん」
「ばかっ! 学校でなんつうこと言うんだ! 女子に聞かれたら吊るされるぞ!」
「命知らずにもほどがあるだろ。もしものときは見捨てるからな」
本気で身の危険を感じているのか、男子がキョロキョロとあたりを見渡す。
(ひうっ! 見つかれませんように! 喜多ちゃんに告げ口しませんから!)
見つかったら、お互いにとっての地獄の時間が始める。
身を小さくして祈った。
ひとりが告げ口する気がないのは本当だ。
『喜多ちゃんの胸が小さい』という話を男子がしていたと、ひとりが喜多に告げたとする。
なぜか、まず最初に血祭りに上げられるのは自分な気がした。
幸運なことに、男子にひとりの存在は気づかれなかった。
「ふぅ、誰もいないな。ヒヤヒヤさせるぜ」
「まったく。このおっぱい星人め」
「いやいや。それほどでも」
「・・・そういや同じバンドの後藤も胸デカいよな」
(わたし?!?!!!?)
ひとりは心の中で絶叫した。
(え? わたしでも、そういう目で見られるものなの? そういやリョウさんもそれで売り出そうって言ってたっけ。へ、へぇ〜)
ひとりは聴覚に神経を集中した。
承認欲求モンスターが顔を上げる。
「お前だっておっぱい星人じゃねえーか!」
「ジャージ越しに良くわかんなあ、このむっつり博士」
「違うって。
ほら、去年、文化祭でメイド喫茶やってたろ。そのときに印象残っててさ。後藤、めちゃくちゃ着こなしてたぜ。
・・・”あの”後藤なのに」
男子たちの間に、一瞬沈黙が訪れた。
「・・・なんで春夏秋冬、ジャージなんだろうな」
「あれが後藤なりのロックなんじゃね?」
「お仕着せの制服に反抗(ロック)かぁ。さすがだな」
「そういや下級生の間じゃ『ヒッピー先輩』って呼ばれてるらしいぜ」
「・・・すまん、『ヒッピー』ってなんだ?」
「おれも詳しく知らんからwikiるわ。
えーっと
『既存の生活様式に反抗』
『風変わりな衣装』
『ロック音楽』
『定職につくことを拒否』
・・・定職につかないんだ」
犬のように付きまとう後輩がしていた話を思い出して、ひとりはげんなりした。
(働きたくないのは合ってるなぁ)
ひとりはヒッピーという言葉に思いを馳せる。
(既存の生活様式・・・わたしが会社勤めなんてできるわけ・・・あ、なれないんじゃなくて、あえて、そうあえて、ロッカーとして反抗している・・・そう言えばいいのか)
ひとりは開き直った。
(わたしが秀華高校のヒッピーです! これがわたしのろっく!)
虚空に向けてダブルピースを決めた。
「後藤ってクレイジーだよな。何考えてるのかわからん」
(ぐはっ!)
ピースサインしていたひとりにダメージが入る。
「メイド服見て声かけようかと思ってたんだけど・・・そのあとの客席ダイブで吹っ飛んだな」
「高二になってすぐの自己紹介もヤバかったな」
「いつでもジャージだし」
「いくらスタイル良くてもな・・・」
「あぁ、ちょっと『おもしれー女』すぎるよなぁ」
がーん。
ひとりは衝撃を受けて溶けた。
どろり濃厚ひとり100パーセント。
男子の話はそこから、ひとりと関係ない話になっていき、その場からも去っていった。
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STARRYのバイトにて、ひとりは明らかに上の空だった。
いつもよりぼんやりした表情に、結束バンドの面々も気になった。
「ねえ、ぼっちちゃん、何かあったの?」
「虹夏ちゃん・・・わたし・・・」
面倒見のいい虹夏が話しかけ、顔を上げながら細い声で答えた。
「モテたい・・・」
「はいぃ?」
ひとりから出るとは思わなかったセリフに、虹夏は目を丸くした。
おしまい!
一言で言えば、ジャージ登校の時点でモテるわけないと思った!