推しの子 ヒロイン全員好感度100達成RTA   作:重曹ちゃんかわいい

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第四話 裏 かな①

 

 

 アクかなコンビ

 

 

 私がアクアと初めて出会った時、天使みたいな子だと思った。

 

 

「初めまして、有馬かなさんですね。共演することになったアクアと申します。本日はよろしくお願いします」

 

 明るく透き通るような綺麗な声。艶やかに輝いている金髪。星のような輝きを見せる大きな蒼い瞳。その瞳は人を惹き付けるような力があって、つい目で追ってしまうような、カリスマというものがあるというのなら、これなんだろうな。と納得してしまうような存在感があった。

 

 本読みの段階でも居なかったから監督のゴリ押しで決まったとママが言っていたし、コネの子なんだと思ったけど、これは違う。芸能界でも数人しか見たことがない、最近では人気子役の片寄ゆらちゃんを見たときに感じた。この人は売れるべくして売れた人だ。という感覚。

 

「この間のドラマ見ました。共演できてうれしいです」

 

「よろしく! 足は引っ張らないでよね」

 

 負けたみたいで嫌になって話を切った後、あいつは少し驚いた顔になったが、直ぐに立て直して他の共演者にあいさつにいった。

 

 

 

 アクアは周りとの関係を築くのがとても上手かった。特に主演の人とは仲よさそうにしていた。

 

 

「僕、アイドル部門の事務所に所属しているんですけど、そこのアイドルの人達みたいな綺麗な俳優さんばかりで緊張してしまって」

 

「えー、お世辞でもアイドルと比べられるなんてうれしいな。どこのグループの事務所なの?」

 

「B小町の苺プロです」

 

「あ、今回の撮影で来るアイのところだ。あの子可愛いよね。あれ、君、あの動画の双子ちゃんに似てるね。もしかして、その子だったりする?」

 

「はい、それ僕です。アイお姉ちゃんとはずっと仲良くて、本当の姉弟みたいにして貰ってるんです」

 

「そうなんだ。うわー、赤ちゃんの頃からずっと一緒にいればファンになっちゃうよね。妹ちゃんとそろってる所見たいな~」

 

「今日、一緒に来ているので、後で紹介していいですか?」

 

「いいの? やった。後で会うの楽しみ。あれ、じゃあ、今回はアイからお仕事紹介されたの?」

 

「いえ、今回は監督さんが、前の撮影の時に僕のことを気に入ってくれて、お前が出るならアイお姉ちゃんを使ってやってもいいぞ! というので、お姉ちゃんの役に立てればと思って。だけど、今回、子役初めてで心配で」

 

「めちゃくちゃいい子だ~!お姉ちゃんの力になりたいなんて、私も弟いるけど、そんなこと絶対に言わないよ。アクアくんみたいな弟が欲しかった! 現場の事知りたいんだっけ? いいよ。いいよ。教えてあげるね」

 

 そうやって、主演の人からスタッフ、スタッフの知り合いのカメラマンへ、人から人経由で紹介してもらい人脈を増やしているアクアを当時の私は媚びを売っていると思っていた。だって、大切なのは演技であって、どんなに仲良くなったとしても演技が下手なら使われなくなるからだ。

 

 やっぱり、こうやって媚びを売って役を手に入れたんだと、私は確信した。あの敗北感のようなものは気のせいだと。

 

 そうして接しているとやはり性格的に不気味な子供役なんて出来るのだろうか? という思いが出る。リハでも悪くは無いけど良くもないものだった。主演の人はそんなものだという顔をしていたが、作品の質が落ちる。という気持ちは出ていたと思う。

 

 でも、それは本番で覆された。

 

「この村に民宿は一つしかありません。一度チェックインしてから村を散策するといいでしょう」

 

 なにもおかしくもないのに不気味だった。それは言葉に出来ないような違和感。おとなしい品行方正な子供なのは変わらないのに声が、表情が、姿勢が、なにより瞳がおかしい。さっきまで当たり前に受け入れられていたのに、少し変わっただけで違和感の塊になった。

 

 まるで、なにか別の生き物が肉体に乗り移っているような気味の悪さだった。綺麗な顔をしている分、より一層違和感が出ていた。

 

「ではご案内いたします」

 

 その言葉を受けた主演の人の表情はリハなんかとは比べものにならないくらい、恐怖や後悔を感じさせる表情をしていた。

 

 負けた。と思った。

 

 そして、負けたからやり直して欲しい。もっと良い演技をする。という言葉を飲み込むしか無かった。

 

 だって、主演の人を見れば分かる。

 

 全部この一回の為の仕込みだった。初めて会った所から全部、全部このシーンに主演の人に恐怖心や気味の悪さを感じさせるためのものだった。あの表情は演技では出来ない。この一回の為に会ってからみんな仕込んでいた事がわかった。自分が凄い演技をするだけでなくて、周りの人を巻き込んで凄いシーンにする。今まで見たことがないやり方だった。

 

 一つのシーンにかける心意気も、演技の質も負けた。私に出来るのは、このシーンが使われるように黙っていることだけだった。

 

「カット! オーケーだ!」

 

 その言葉を聞くと涙がこぼれ落ちた。

 

「ひっ、ひぐ」

 

「どうしました? かなさん」

 

 泣き出した私に声をかけるアクア。あなたに負けた事が悔しく泣いているなんて言いたくなかった。

 

「なんでもない! かまわないで」

 

「でも、かなさん」

 

「かなでいい、アクア、あんたとはライバルだから、さん付けなんていらない! 敬語なんて使わないで! 今回は私の負けでいい。でも次は絶対負けない!!」

 

 私はこいつとは何度も共演することになる。そう確信し、困惑するアクアを尻目にライバル宣言した。

 

 

 

 

 

 次にアクアと出会ったのはドラマの撮影だった。

 

 

 ダブル主演ドラマ。父親と娘の絆を描いた物語で、私はその娘役。ダブル主演とはいえ主演だ。

 

 美しい雨

 

 事故で若年性アルツハイマーを煩った父親と、娘の美雨の親子愛を描いた作品。30年前に大ヒットをして海外展開までした傑作ドラマのリメイク作品だった。

 

 このドラマでは全一二話のうち、泣いているシーンがない回がないほど多い。一〇秒で泣ける天才子役の私だからこそ出来る役。私の仕事が評価された証拠。私が力を出せる私の為の役柄だ。 そして、あいつは私の幼なじみで親友の男の子役だ。間近で私の力をみせてやる。

 

「久しぶりねアクア。今度は負けないわよ」

 

「久しぶりです「敬語はいいって言ったわよ」久しぶり、かな」

 

 敬語を使おうとしたので、制した。年齢が上ってだけで偉ぶるなんてかっこ悪い。使わせるなら実力で上下をつけてから。

 

「僕たちは共演者なんだから、良い作品を作ろうとする仲間で、勝負するものではないと思うんだけど」

 

「そんなきれい事はいらないわよ。だってより良い演技をした人が注目されて良い役を貰っていくのがこの業界よ。こういう機会によりいいシーンを演技して目立たないと次なんてないのよ」

 

 この業界は弱肉強食なんだから、負けたらつぎはその子に全部役をもってかれるし、私は全部勝ってきたからここに居る。負ければ次はまたやり直しになる。2番じゃ駄目、1番でないと。

 

「次はないか……そうだね。色んな人の中から選ばれないといけないわけだし、それも当たり前か」

 

 アクアは目を伏せると納得したようにわたしを見る。

 

「今度は負けないから見てなさい」

 

「うん、わかった」

 

 

 

 私の演技は絶好調だった。父親が若年性アルツハイマーで、荷物を忘れてしまう、授業参観で酷い服装で来たあげく寝てしまう。旅行でチケットを忘れて行けなくなってしまったシーンなど、悲しいシーン、困惑するシーン、怒るシーン、すべてで感情が乗った演技が出来ていたと思う。だけど、それなのに視聴率がどんどん下がっていった。

 

【あまりにも涙を流すシーンが多すぎる!】

 

【ヤングケアラーの肯定みたいでイライラする!】

 

【なんで周りの大人がこんな状態の子を放っておくの? リアリティがなさ過ぎる。こんな状態ならもう保護されるべき案件】

 

【さすがに泣くシーン多すぎ、子供に負荷をかけまくる親のシーンばっかりだし、感動なんてしない。ただの毒親だろ】

 

【これは虐待。普通に不快すぎる】

 

 ドラマはネットの炎上からの視聴率の低迷から路線変更を迫られた。

 

 

「まあ、現代ではこういう問題は社会が解決すべきっていうのは理解してるし、こういった意見が出るのは分かっていたんだけどね。さすがにここまで炎上するとは思わなかった」

 

 監督がやつれた姿で呟くように役者達に向かって言った。

 

「視聴率は今、6%だ。5%になるとスポンサーも離れていつ打ち切られてもおかしくない。特に主婦層に支持されていないというのは問題だ。これにテコ入れをしないといけない」

 

 監督が私を見た。

 

「かなちゃん、悪いけど泣くようなシーンを削る。そして、感情演技を押さえてもらって、父親との絆が分かる過去回想シーンを出来るだけ増やす。可哀想と思われるシーンを削ればマイルドな作風になるはずだ」

 

「まってください!それだとわざと手を抜くことになるじゃないですか!」

 

 批判が怖くて手を抜くなんておかしい。

 

「決定だ。この炎上はさすがに手を打たないとまずい。病気の進行がするシーンはより過激なシーンが続く。これでは炎上にガソリンを投下するに等しい」

 

 誰も否定も肯定もしなかった。このドラマはそういった闘病していく姿と、支える周りの姿が魅力であって、そこを削ると無味無臭の作品になる。

 

 そんな中、一人手を上げる人がいた。

 

「監督、僕を使ってくれませんか?」

 

 アクアだった。

 

 

 

 アクアの役は良くも悪くも近所の子供、娘の学校での描写シーンを書く上でのキャラであって、物語に深く関わらない。本来なら後半につれて出番もどんどん減るはずだった。

 

「大丈夫、僕がついてる」

 

「僕も美雨の力になりたいんだ」

 

「美雨の為ならつらくなんてないよ」

 

「つらいことも楽しいことも一緒に過ごしてきた。今回だけは仲間外れなんてさせないから」

 

 ただの幼なじみ役だったのにいつの間にか私の恋人役みたいな台詞ばっかりになっていた。

 

「一人で父親の問題をまるごと抱える子供なんて今だと燃えるよ。だからさ。それを分散しないと。あとは今のつらい境遇ばっかりのシーンが続くなんて、前の作品を見た人は分かっているわけだし、これからより酷くなると分かっているからこその今の炎上。ならそれ以外の明るい、主婦層が好きそうなストーリーを間に挟んでおけば、リメイクで変わるかもしれないって希望を見せれば、サイレントマジョリティーになって静観する層も出てくる」

 

 アクアはにやりと笑った。

 

「成功すれば俺たち主演のドラマになるし、泣く演技だけじゃない有馬かなを見せられるけど、やる?」

 

「もちろんでしょ。私が主演のドラマで打ち切りなんてさせない」

 

 

 

 それからは父親と娘の絡みのシーンが削られて、幼馴染の少年が好きな少女を助ける為に奔走し、その少女との苦難を乗り越えていくシーンが増えた。

 

 

【幼馴染みの子役の子とかなちゃんの関係めっちゃいい】

 

【この作品唯一の清涼感。不器用な男の子の優しさがめちゃくちゃ好き。そして、かなちゃんが、この子の前だと一話で見せていた笑顔に戻るの尊い】

 

【この男の子可愛い、可愛くない? こんなに可愛いのに大変な時には頼りになる男の子になるなんて惚れちゃうよ】

 

【かなちゃんこんな顔出来るんだ。小さくても女の子なんだな。って分かるかわいい乙女顔】

 

【この子役の子アクアくんって言うんだ。容姿はめちゃくちゃ可愛いのに、行動のカッコよさのギャップがいいね。こんな子欲しい】

 

【お父さんがアメリカへ行ってもこの子が支えてくれるんだな。ってのが分かる。安心した】

 

 

 私とアクアのシーンが増えれば増えるほど、視聴率は良くなっていたから、本来、撮り終えていた話にも追加、追加で撮っていった。

 

 そして最後のシーンは父と娘の二人だけのシーンだったはずなのに、好評すぎてアクアの出番まで足されていた。

 

 

「おじさんが帰ってくるまで、僕が美雨を守るよ」

 

 

【アメリカで治るかも分からない治療を受ける父親とする男と男の約束シーン、めちゃくちゃ泣ける】

 

【最初は無邪気な明るい子なのに、今は好きな女の子を守る覚悟を決めた顔してる。良い。好き】

 

【また、アクかなコンビ観たいな。今度は明るい話も観てみたい】

 

【アクかな。ほんと好き。30年前の作品のリメイク、最初はどうかと思ったけど、この二人の関係の追加は正解】

 

【女の子してるかなちゃん可愛いし、そんなかなちゃんを守ろうとするアクアくんかっこいい。画面が幸せすぎる】

 

【やっぱり、報われない物語って観ててつらいんだけど、この男の子の存在で、もし治療が上手くいかなくても幸せになってくれるのは希望があって観ていて安心する】

 

【好きな子のためにひた走って、大切な娘を預けるくらいに父親に信頼されて、信頼した父親はすべての記憶を失ったとしても、自分が戻れなかったとしても幸せになれると確信するのすき。そして、それに対して戻ってくると心から信じて返すのいい】

 

 

 

 最後の最後にはもう一人の主役みたいになっていた。

 

「私の主演だったのに、今度は勝ってやると思ったのに」

 

 つい愚痴がこぼれる。

 

 私の代名詞の泣き演技が多い作品で勝てなかった。アクアは10分にも満たない出番の役だったのに、いつの間にか父親と娘の物語の添え役が、つらい思いをする娘を支える幼馴染、最後には死にゆく父親と託される義息子みたいな作品自体の結末すら変えて結果を出していた。

 

 一番酷いときは視聴率6%になったけど、最後には12%まで回復して、瞬間最大視聴率も15%にまでなった。監督やスタッフ、共演者たちも胸を撫で下ろしていた。

 

 これは全部アクアのおかげだった。けど、アクアはそうじゃないと言う。

 

「かなのおかげだよ。俺だけでできたわけじゃない。かなが父親パートと俺のパートで上手く演技を使い分けてやってくれたから、ここまで出来た。俺のは前回も今回も素で考えていたことややっていたことが上手く流用できたからに過ぎないよ」

 

「だから、かなの経験と引き出しの多さに助けられたし、俺のギャンブルみたいな方法が上手くいったのはかなのおかげだった。だから今回は引き分けってことでいいかな?」

 

 そう言うとアクアは手をさしのべて来た。

 

「いいわ。今回は引き分けってことにしてあげる」

 

 そう言って私達は握手をしあった。私は恋なんてしたことがないから幼馴染関連のシーンでは私はどういう表情をすればいいのかよく分からなくて、もし私が役と同じ状態でアクアが助けてくれるならどう感じるのかだけを想像して、殆んど素の状態で役に臨んだことは恥ずかしくて言えなかった。

 

 それからアクアと私は一緒に話すようになった。すると、アクアの本来の性格はあの良いところの御曹司みたいな感じではなく結構、ラフで気安い感じだと付き合ううちにわかった。

 

「監督もさ。今回、俺の活躍で視聴率稼げて助かった。アイとルビーの事も次観てくれる。って言ってくれて、俺のところの社長も、ドラマでの成功で俺のことを認めてくれて、俺とルビーで子役部門を作るって約束してくれたんだ。だから、本当に助かった。ありがとう。かな。」

 

 そして思った以上に愛情深い性格をしていることも。

 

 人のためにこんなに一生懸命になってるやつなんて見たことがなかった。アクアは本当に家族に愛されていて、愛してるんだなって言うのが分かって、少し羨ましかった。

 

 現場で妹とも会ったけど、本当に毎日幸せそうだった。もし、ほんとうにアクアに愛されて彼女になる人がいるとするならどんなに幸せなんだろう。と思ってしまったけど、それを想像して嫌な気持ちになったので考えるのをやめた。

 

 私はこの作品でテレビドラマアカデミーの新人賞をとって、アクアはその立役者として知名度を上げた。出会ってから約4年間、私たちはアクかなコンビなんて呼ばれて、映画、ドラマではよく組まされていくことになる。

 

 同年代の子役でメイン級の仕事はスケジュール上どうしようもないもの以外全部私達でやったなんて言えるくらいだった。

 

 私の芸能人生での絶頂期。テレビ番組にドラマに映画に見ない日はないとまで言われるほどに役者として、タレントとして活躍して、きちんと寝られた日が無いほど忙しくてつらかったけど人生で一番幸せを感じていた時期だった。

 

 

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