推しの子 ヒロイン全員好感度100達成RTA 作:重曹ちゃんかわいい
幸せになるために
「昨年はドラマの主演級、メインキャスト級だけで10本、あとゲスト3本にCM含めて出演料から事務所取り分が半々。そのかわりに事務所所属の基本給が毎月5万で年収810万着地。基本給5万ってなんだよってなるけど、歩合の割合多いから仕方ないか」
芸能界の闇をみたような気がするが、とりあえず、2歳の時の活躍だけでこれだけ稼げるのは夢がある。かななんてドラマで1本が100万が10話とすると1000万で俺以上の本数出ていたはずだから……事務所からいくら引かれてるかしらないけど何千万なんだよってなる。やめよう。比べるだけむなしくなる。医者の頃に比べると半額とまではいかないがだいぶ下がったな。あっちと違って仕事サボれない分、社畜度は上がった気がする。ため息が出た。
「金額になにか文句ある? 酷いところだと1割しか貰えなかったり、固定給だけだったりするんだけど」
そうしていると隣で給与計算ツールに打ち込んでいるミヤコさんに突っ込まれる。
「すみませんでした。5割も貰えて嬉しいです」
「まあ、うちはアイドル部門はあっても役者部門も子役部門もなかったから演技指導もないし、アクアは仕事を勝手に取って来ちゃうから、中抜きされてるようにしか感じないだろうけど、契約は契約だから」
「いや、俺のわがままで低い値段で抑えて貰ってる事を考えると取り分減らされても仕方ないし」
アイやルビーの仕事を取ってくる為にかなり抑えてもらって数をこなして知り合いを増やそうとしている。これは社長からも了承を貰ってるけど、本来なら去年の段階で1本30万はふっかけられるのに新人の壁の15万で止めて貰っているのだ。会社としては長期的に回収できるかもしれないけど短期的には1000万近い減収を覚悟することになる。きちんと応援してもらっていると思うべきだ。勝手に降ってきたお金かもしれないけど、それを2歳のガキのコミュ力なんかを頼りに失うことに理解をして貰えて、説得までしてくれたミヤコさんには感謝しかない。
「はあ、そんなことないわよ。貴方のおかげでルビーの分で50万くらい収入があるし、アイも映画とかドラマに出て100万はプラス、B小町もちょっとした脇役かもしれないけど出られて知名度アップに貢献しているから、再来年には回収できるわよ。貴方の貢献にみんな感謝してる。これは嘘じゃないわよ」
「でもさ」
「うわー、わかっていたけど私よりアクアの方が稼いでる」
給与について話していると、後ろからアイがのぞき見をしていたのか自分と俺の給与を比べて低いことにショックを受けたような声でアイが叫んでいた。
「私の親としての威厳がなくなっちゃうよ。もっと儲かるお仕事ないの?」
「無理に決まってるでしょ。B小町としての仕事はメンバーで等分するけど、アクアは来年の契約からは30万を単独で稼ぐわけだし、アイの個人としての単価も15万でしょ。倍は働かないと」
「えー、アクアは来年、1本単価倍になるの? って事は来年は1600万?」
「まあ、この単価で売れればね。子役の有馬かなが1本100万でしょ? 同じかそれ以上の評価があるんだから大丈夫だとは思うけど、アクアはルビーとセットで使いたいのもあるからね。単価を高くしすぎると仕事自体が減るから、今年はこれくらいかな。さすがにあそこまでつり上げるのは旬が終わった後怖いし、こういう時、子役大手は強いわね。こっちは子役のマネジメントなんてやったことないから駆け引きもできないし」
「後先考えずに単価上げればアクアはギャラだけで1億か~。子は親を超えていくものだ~なんていうけど、さすがに2歳で抜かれちゃうのはショックだなぁ」
「まあ、この子は特別だからね。アクかなブームが過ぎたあとどれくらい仕事が残るのかが問題。中堅の役者で年収500万~600万あれば良い方なんだから、今年はアイもドラマの主演も決まって、そこで結果を出せたら単価も上がるとおもうわよ。あとB小町もこのままならドームにいけるかもしれない。これからよ。アイもB小町も」
「そうだね。アクア、私、頑張るからね」
アイはこうやって俺やルビーの事を大切に思って頑張ろうとしてくれている。それだけで俺は嬉しいし、この子の為にならいくらでも頑張ろうと思えた。
「うん、頑張って。でも無理しないでよ。俺はアイとルビーと一緒に楽しく過ごして暮らせれば十分なんだ。お金なんて俺がどうにでもするからさ」
もし、この業界で生きていけなくなったら、また国立の医学部へ行って、返済不要の奨学金で通いつつ、家庭教師でもしながら暮らせば良い。医者になって二人を養っていけばいい。それくらい余裕で稼げるだろう。今はネットでもなんでもいくらでも稼げる手段がある。お金なんかにこだわる必要なんてない。
「ああ、もう、いい子だなぁ。アクアは」
そういって抱きしめられると胸のふくらみが当たって少しどきどきしてしまう。年齢を重ねるごとに子供っぽさが抜けてきて、表情もどんどん豊かになっていき、アイはどんどん綺麗になっていく。子供の体だからいいが、大人になったらどうなってしまうのか今から心配だ。
「大好きだよ。アクア」
「お、俺もアイの事大好き」
正直恥ずかしいがアイのこういった台詞には絶対に返すようにしている。
アイは人から好かれるという事に対してなにかしらのバイアスがある。昔、ルビーがアイに対して世界一愛してると言った時、アイは一瞬、フリーズしたあと、ルビーに愛しているではなく、好きと返したのをみた。アイの性格上、本来、「私も世界一愛してるよ」みたいな返事になるはずだ。
思い返すと生まれてから一度もアイから愛していると言われたことは無かった。愛着障害の人は人を愛する距離感が分からずに過度に離れたり、依存するくらい近づいてしまうことも少なくない。だから、アイも距離感の測り方とかが苦手で、好きと愛しているの違いが分からないとかそういうパターンなんだろうと思った。
ここら辺は専門家ではない俺には判断しづらいが、やることは変わらない。
アイには何度でも好きなこと、好意を持っていること、愛していると伝えることが大切だと思う。
アイは愛してるという言葉が苦手だから、これを除いて、好きと何度も言っていき、好きな人に対する行動もする。もちろん、アイは嘘をつかれてそういう事を言われたら気がつく。だから心からそう思えるときには出来るだけ言うようにしているし、アイが好意的な言葉を言った時はそれを嬉しいと感じていることを伝えるようにしている。
愛されなかった子供が親になって子供を愛することで自分が愛されたように感じることで、愛着障害のトラウマから解放されるなんて話はよくある。ただの代償行為なんて言われるかも知れないが、少しでもアイの心が軽くなるのであればどうでもいいことだ。
これは必要なことなんだとは分かってはいる。分かっているのだが羞恥心で真っ赤になってしまう。もし、アイが心の傷が癒えて、愛していると言えるようになったら……この子に愛しているなんて言われたらと思うと、どうなってしまうのかと不安になる。
「えへへ、ありがと。アクア、すごく嬉しいな」
こんなことを続けて2年は経つが、アイの嬉しそうにしている笑顔は未だに慣れないし、今後も慣れそうにも無かった。