推しの子 ヒロイン全員好感度100達成RTA 作:重曹ちゃんかわいい
分岐点
思えばこのドラマが俺の人生の分岐点になった。
「おい、早熟。例の脚本のドラマ、キャスティング通ったぞ」
監督の部屋で編集作業を手伝っていると、監督からそう声をかけられた。
「まじで通ったのか? ルビーも?」
「ああ、スポンサーはアクかなで使いたかったらしいんだが、月9で実力派女優を集めたかなり金のかかったドラマをやるらしくてな。かなりセンシティブなテーマだけに有馬かなのリアルな演技が欲しいって熱望があったらしいな。こっちは主演じゃないってのもあるからそっちを選んだみたいだ」
「そうか。まあ、知名度を考えると、有馬かな推しになるだろうから、諦めていたけど、これも巡り合わせか」
「まあ、むこうはルビーの事は知らなかったけど、お前とリアル双子で、例の超常キャラばっかりの履歴も別に気にしてなかったからゴリ押ししてやったぞ」
「さんきゅー。それ突っ込まれたら、普通の役は周りにイケメン、美女集めないと主演食いますみたいな説明するしかないし、それじゃ通るものも通らないしな」
「主演男優はあのイケメンばっかりの事務所の顔の良い奴とりあえず突っ込んでおいた。こいつは演技はそこそこだが、こいつのファンのスポンサーが、こいつ主演なら制作費全部出すとか言った婆がいたからな。プロデューサーが即決定した。悪いな」
「そこだけは不安だけど、まあ俺がなんとかするよ」
主演は1度共演したことはあるから実力は分かる。人気アイドルグループの一人で出演の経験は多いがそれに見合っているかどうかは微妙な人だ。フォローすればまあ、いけるだろう。
「こいつのヒロイン役にアイを突っ込んどいたぞ。最近人気ってことであっちも是非欲しいって言われた。アイはF1層とM1層、M2層と広い幅に人気だからな。これで見れる絵面になる」
「えっ、まじで。アイも入れてくれたのか?」
「ほんと、めちゃくちゃ使いにくい妹の為に、双子の兄妹の役柄入りの脚本つかって、さらにアイをヒロインにしてやって、妹がアイドルデビューする下地に主題歌歌わせてやってんだかんな。2年前とかに面白半分で出してやったやつが偉くなったもんだ」
にやにやと喋る監督の姿は普段ならいらつくが、今回ばかりは感謝しかない。
「ほんとうに助かったよ。監督。まあ、ここまでして貰ったんだから、俺も結果で応えるよ」
ここまでして貰ったんだ。結果で返さないと申し訳が無い。
「まあ、なんだ。俺もあいつが埋もれる姿は見たくないしな」
なんだかんだ言っているが、監督はルビーの事を可愛がってる。こういうキャスティングだとわりと好き勝手言うし、クオリティ最優先でものごとを考えるから、かな推しなんじゃないかと思っていたが、ちゃんとルビーの事を気にかけてくれているみたいだ。なら、その決断を間違えにしないようにしないとな。
「主演男優の人は知っている。前回同様、いや前回以上に俺が良い演技をさせる。人気ドラマにするさ」
「ほんと相変わらず可愛くないガキめ。お前と組めば出来ない事なんてないって思っちまう。おら、やるぞ。お前がやりたい脚本でルビーとアイまで揃えてやったんだかんな。やる気も出るだろ。そろそろ監督賞でも取って、もっとでかい仕事もやりたいしな」
「俺も本気で演技をして、その本気の演技を受け止めて、応えられる役者だけと組んで監督の作品で100年後でも評価される名作を作ってやりたいと思ってるからね。そのためにはキャスティング権を持ってるような大物監督になって貰わないとね。これはその第一歩だ」
「こいつ、言ってくれるな。くそ、やってやるか!」
拳を付き合わせる。
体の歳は離れているが実年齢は俺に近い。前世の俺は夢を諦めてしまったから、同年代の夢追い人のことが眩しかったし、こうやっていると友人のような感覚になってしまう。成功して欲しい。アイやルビーの為だけに生きると決めたけど、こいつに夢を叶えて欲しいと心から思う。
夢を叶えないとこいつずっと子供部屋おじさんしてそうだしな。
今回の脚本はルビーの才能、気質を全国のメディアに知らしめる事が結果的に数字として出るような作品にしている。明るくて、少し馬鹿っぽくて、そして人なつっこいけど繊細な人柄。すべてがルビーそのものみたいなキャラだ。演じない方がそれっぽくなる。
「へっ、そのままでいいの?」
「お前は演技なんて枷でしかないんだからそのままでいい。何度も使ったが、お前に味をつけようとすると魅力を損なうだけなんだよ。ある意味お前は一番役者に向いてねえ。そのままが一番魅力的な素材だ。お前を使う監督みんな思ってる」
「監督! 大好き!!」
「くそ、前回といいほんと調子良いな! こいつ」
これでいい。ありのままの自分を沢山の人に受け入れてもらう。他人に好かれようと嘘をつくルビーがそんな事をしなくてもいいと思える環境を作る事。
ルビーの宮崎の病院に捨てられたトラウマを乗り越えるには、それを乗り越える成功経験が必要だ。
俺だけじゃない。たくさんの人から愛されて、たくさんの人から祝福されてありのままの自分に自信を持って欲しい。ルビーはよく外見が良いからというがそれだけじゃなくて、自分自身の性格とかやってきた行動が好きだからという理由で力を貸してくれる存在が君にはたくさん居るんだよってことを教えてあげたい。監督も照れて俺に言わせようとしたけど、それは意味がない。俺だけではなく、もっと多くの人がルビーの事を好きな事を知って貰わないと。
主演男優をサポートしながら、ルビーの方もきちんと絵になるようにコントロールしないと作品が崩れる。だが、問題ない。そのために演技を努力してきたし、そのためにこの脚本も用意した。演技では有馬かなに勝てないが、ルビーそのままの魅力を生かすことが出来れば勝てる。勝算はある。
俺の計画も順調に来ている。まずはアイの安全確保。次に俺たちの存在の露見防止策。そしてアイとルビーが業界で成功する為の手助けをすること。全てが1年以内に整う予定だ。レールには乗せた。あとは走りきるだけだ。
アイの安全確保については、ドラマ撮影後には24時間オンラインセキュリティーが施されたICカードキーシステムの所へ引越しをすることをミヤコさんとルビーに協力して貰ってアイに納得させた。月20万以上の物件だからアイは渋っていたが、俺が今年から年収1000万を超えることから誘拐などのリスクを考えたら当然のことという事でゴリ押した。
そして俺たちの存在の露見防止だ。ミヤコさんには前々から、社長の婚外子を養子にしたと身内には言って貰って居たが、ようやく未成年かつ育児困難者だと認められて里親制度を使って公文書には斉藤という名字を使えるようにしたから、学校や幼稚園などの書類から漏れる心配も無くなっている。表向きは家族のように育った義姉という設定で押し通す。アイと俺たちを調べてDNA検査などをされたらどうしようもないが、それは気をつけるしかない。
アイとルビーについてもルビーは今回ヒットすればアイドルとしてデビューするための準備がすべて整う。ここでメディア受けをしなかった場合はミヤコさんがネット関係の事に興味があったようだからYouTuberとしてアイドル活動の下地作りをしていこう。ジュニアとかはどうにも危なっかしいし、地下も安全とは言いがたいし、アイみたいにいくなんて夢は見れない。ルビーには男の汚い欲求の部分に直接関わらないで生きられるようにしてあげたい。
アイも順調にいけば今年には東京ドーム公演まで行き着ける。まず一流のアイドルとしての格を手に入れられる。5万の箱を埋められるアイドルという信頼はこの業界では重い。ここまで行けば5年は安泰だ。できるなら今後のキャリアプランが安定するまで俺が手を貸せるなら良いが、俺自身の活動も先がよく分からないから、もっと安定した……そうだ。18までに地位を確立出来ないようなら前世の夢である外科医になるなんていいかもしれない。アイやルビーが生活に困るようなことになった時、いつでも助けてあげられる収入は得ておきたい。
構想から3年経ってしまったが、ようやく一段落付く。アイとルビーが幸せに過ごせる環境を作る事。その為に生きる覚悟を決めてから長かったような短かったような不思議な感覚だ。
「あと1年……やりきってやるさ」
前世でやれなかった事をやりきるため、俺は小さくなってしまった拳を握りしめた。
半年後、俺たちのドラマは最高瞬間視聴率22%を達成するドラマになり、俺とルビーの主題歌は大人気となり、オリコン1位を達成。その勢いはドラマ開始からドラマ終了の3ヶ月間売れ続け、紅白歌合戦出場の最年少出場記録という花まで添えてた。そして、紅白決定がほぼ確定していたことから、紅白出場者発表式の翌日、ニュースから取り上げられることを見越し、俺とルビーのアイドルグループ「双子星」からすぐに発表した新曲も、その話題性からオリコン一位を記録。アイドルグループとしての認知度はどんどん上がっていくことになる。
ドラマは順調ではあったが強力なライバルが居た。
「母親」
虐待を受け母親に捨てられた女の子と、1人の教師の逃避行の物語。あまりにリアルすぎる演技と脚本、本当の親子とは、母親とはなにかを問われる作品にネットからは賞賛の声が止まない傑作だった。主演もメインキャストも一流しかいない全てが一流の作品で瞬間最高視聴率は25%超えた。
俺たちと一緒で血の繋がらない家族をテーマにしたドラマということもあり、比べられることも多く、どちらが最優秀作品かは長いこと議論された。
授賞式では欲しかった監督賞、主題歌賞、新人賞は手に入れたが、最優秀作品賞などは軒並み持って行かれた。
「しかし、かなのやつ、あんな演技出来なかったはずだけど、やられたな」
虐待を受けた子供というのをリアルに演技しきっていた。そこからの主演女優との絡みも見事だったとしか言いようがない。泣きの演技も凄かった。実力派女優のギャラだけで億はとんだだろう。低予算ドラマでは勝てないクオリティーがあった。かなもそれに見劣りしない出来だった。今回、ルビーをアイドル方向で進められて良かったと思う。同年代だからといってあれと比較されるのはつらいだろう。
今回の授賞式ではひさしぶりに会うかなが居た。冬のシーズンが終わってからはしばらく会っていなかったから、ドレス姿なのもあって新鮮だった。
「かな、最優秀作品賞おめでとう」
「ありがとう。アクアも新人賞おめでとう。まあ、シスコンの貴方は妹の成功の方が嬉しいんでしょうけど。良かったじゃない。ようやく妹の夢叶ったんでしょ」
「ああ、メジャーデビューもして紅白で宣伝も出来た。あと社長夫人が新しくネットの興隆に乗ろうとしてYouTuberとかを集めようとしているからそのビジネスの広告塔になると思う」
「そう、頑張りなさいよ」
「そういえば、かなは最近大丈夫か? 最近忙しそうにしてるけど、寝られてるか? 受賞式でもいつもより元気無さそうに見えたから心配だったんだ。いつものかななら、最優秀賞とった時点で煽ってきただろ」
「はぁ? なに? 喧嘩売ってるの?」
「そんなんじゃないけど、まあ、体には気をつけろよ」
「アクアが言えることじゃないでしょ。アイドルとかそんな事ばかりして、役者としての仕事に穴を空けることになっても知らないんだから。今年も10本以上出て、新人賞もとったわけだし、去年の私みたいに仕事はどんどん増えるわよ。アイドルはすぐ引退かもね」
「ああ。かなには言っておかないとな。俺はこれからの活動はルビーとのアイドル活動を優先してやっていくことにしたんだ。だからその活動の支障に出そうなものは出なくなると思う。もちろん、出れるものについては今まで通り全力でやるけど、ルビーと一緒にアイドルとしてやっていくから主演級やメインキャスト以外は基本断るし、それもルビーとの活動に支障が出るなら辞退する予定だ」
「……はぁ? あんた何考えてるの? シスコンにもほどがある! いつまでもルビーのやつの尻ぬぐいばっかりして、馬鹿じゃないの?」
「でも、俺にとってはこれが一番大事な事なんだ」
「……もういいわ。シスコンに何を言っても無駄なのは知ってる。妹とお遊戯の練習でもしてなさい」
「怒らせちゃったな」
ライバルであり、目指すべき目標の一人でもあった友達に嫌われてしまう事を言うのは正直心苦しい。かなは演劇への情熱が強い。だから俺みたいな中途半端な姿勢で演技をする奴が嫌いだ。
本当は俺もルビーには一人でアイドルをやってもらう予定だったが、やはりこの業界で一人でやっていくことの難しさは知っている。せめて、固定のファンをつかめるまでは一緒にいてあげないといけない。夢を叶えたらすべてハッピーエンドに終わるわけじゃない。叶えた後にも人生はある。ルビーがアイドルになんてならない方が良かったと思うような目に合わないように兄として支えたい。
言い訳をさせて貰うなら俺は望んだ未来を手に掴んだ事でこの時浮かれていた。前世で出来なかった事をして、みんなで一緒に考えたアイとルビーのB小町世代交代プロジェクトを成功させれば自分の転生してやらないといけない事もすべてやりきることが出来ると思ったから。
結果的に言えば……俺はこの時、有馬かなのSOSを見逃した。これを知るのはもう少し後の話。
ノリとしては第一部完!って感じです。少しだけ時間を飛ばします。