推しの子 ヒロイン全員好感度100達成RTA 作:重曹ちゃんかわいい
当初の予定より裏が増えてその裏描写を書くと思ったより長いので分割して投稿しています。
愛してる
「皆愛してるって言っている内に嘘が本当になるかもしれない」
そう信じて三年の月日が流れて……私は未だに誰も愛する事が出来ずにいた。
鏡を見る。
そこにはミリ単位で調整をして一番ウケのいい笑顔をする私の顔があった。目を細めて口角を上げて笑顔を作っただけの打算でできた笑みだった。
歌にダンスに笑顔。それなりに出来るようになってきたし、アイドルとしては成功をして、いろいろな人に知られるようになってきたけど、私はアイドルをする意味が分からなくなってきていた。
休憩室の前でしばらく立ち尽くしていると部屋の中から声が聞こえてきた。
「アイってさあ、人間を区別できてないんじゃない?」
「あ~、分かる気がする。この間も斉藤社長の事間違えていたしね」
「態度がADさん、マネージャーさん、カメラマンさんみたいにしか認識してない感じだしね」
「なんなら自分自身もゲームのプレイヤー感覚なんじゃないかって思うことあるもん」
「ほんと、自分の事も他人事みたいなときあるよね~」
「私達のこともバックダンサーとしか思ってないよね」
「まあ、ここに居るってことはアイのバックダンサーとして生きるしかないよね」
「引き立て役Bなんて思われてそう」
「ほんとあの子嫌いだわ」
それは三年間ともに過ごした仲間たちが私に対してどう思っているのかの答えだった。
私は昔から人の顔と名前を覚えるのが苦手だった。
人嫌いで嘘つきで人に興味を持つことが上手く出来ない。そんな私は数少ない顔と名前を覚えられるくらい親しかった人達からも嫌われていた。
やっぱり、私にアイドルなんて向いていない。
だから、鏑木さんから紹介された劇団ララライのワークショップの紹介も受けてみた。
なにか別の方法がないか、逃げ道を探して……
劇団ララライには私と同じ人が居た。
彼と私は愛が分からない者同士だった。
彼は私と同じだったけど、演技というものが出来ていて、人から愛されるような言葉や仕草、行動を知っていた。私はそこで人に愛される方法を彼から学んだ。
愛想をよくして、明るく振る舞って、女らしい仕草や服装なんかもするようになると人からの目線が変わったのを感じた。
そうしていると彼から付き合わないか?という誘いが来た。
私は誰かを愛したい。愛する対象が欲しかった。だから、愛する人を作るには恋愛をすることが近道なんじゃないかとは前から思っていた。
だから、彼氏ってやつを作ってみた。彼氏とか彼女とかになれば愛せると思ったから。
だから、デートってやつをしてみた。それをすれば愛せるかもしれないと思ったから
だから、体を重ねてみた。それをすれば愛情が生まれると思ったから。
でも駄目だった。
どうしても彼を愛することが出来る未来が見えなかった。
愛を知らない者同士がかたちだけそれっぽくしただけで、これから何年付き合おうと体を重ねても彼は私を愛してくれないし、私は彼を愛せない。それだけは分かった。
「別れよう」
人を愛せない者同士の私達が一緒にいても、ただそれっぽいことだけをしてるだけで先にはなにもない。
彼は私を引き留めていたけど、しばらくすると諦めてくれた。
最悪な彼女でごめんなさい。でも私は誰かを愛したい。
私は愛することを諦められない。
「皆愛してるって言っている内に嘘が本当になるかもしれない」
この言葉に縋るしかなくなり振り出しにもどった私はアイドル活動に戻った。けど、しばらくするとアイドル活動は出来なくなる。妊娠が発覚したからだ。
正直、たった一回でできるとは思わなかったな。
一応、彼には相談したけど、堕ろすって話になった。まあ、別れたわけだし、当然と言えば当然だった。
でも、私の中では、一つのささやきがあった。
母親になれば子供を愛せるんじゃないか。
このままただアイドルを続けるよりもそっちの方が良いんじゃ無いかと思うようになった。だから彼には産む事を伝え、だけど関わらなくていいよと言った。
そして中絶が出来なくなる22週まで体調不良とか言って逃げていようとしたけど、20週の時点で社長に見つかってしまった。
妊娠が発覚してからは社長は大騒ぎをして、誰にも見つからなそうな九州の病院で診てもらう事になった。
そこではすごくいいせんせが居て、アイドルということも隠して出産する準備とサポートをしてくれることになった。出産予定日近くになると彼から電話があった。
出産に立ち会おうか?というものだった。
少し悩んだけど、病院を教えることにした。九州の宮崎と聞くと驚いていたけど、行けるかもしれないと言っていた。
結局、彼は来なかったし、そして、あんなに献身的にサポートしてくれたせんせもなぜか来てくれなくなった。
一週間もしないうちに退院することになり、お礼も言えないまま東京の家に帰る事になった。
2ヶ月くらい経って、仕事に復帰する時期になった頃、私は母親になっても子供を愛することが出来ていない事が分かった。
双子だから大変……なんて聞いていたけど、夜泣きなんかも一切なくて思っていたよりも問題なく過ごせていたけど、私は未だに二人の区別がついて居なかった。
毎日一緒に居るのに顔と名前が一致しない。
私は昔から人の顔と名前を覚えるのが苦手だったし、同じ施設でも名前も覚えられない子も居たからそういう事もあるかもしれないけど、それが自分の子供でも分からないなんて思わなかった。
母親になれば子供を愛せるんじゃないか。
そんな都合のいい話は無かったという事だけが分かって、現実として二人の子供が残った。
疲れた。ちょっとそんな事を思ってしまった。
誰かを愛する為にアイドルをして駄目で、恋人を作ってみても、子供を作って母親になっても私は人を愛することが出来ないでいる。私は誰も愛せずに終わるのかもしれないと思った。
でも、子供から逃げる母親になってはいけない。
かつての私を思い出す。
「つまり、お母さんはいつまでも女だったんだよね。母親になれなかったの。男が好きで、女が嫌いで…だからかな?お母さんが迎えに来てくれないのは」
あんな気持ちを子供たちに味わわせるのは絶対に駄目だ。
たとえ愛せなくても、お金だけは出してあげて色んな選択肢を上げて……それだけでもしてあげないと。
私は子供を愛せなかった。母親にもなれなかった。私の今までしてきたことはなんだったんだろう。
そんな気持ちがぐるぐると頭の中を駆け巡っていた。
それでも私は嘘をつく。いつかそれが本当になると信じて。信じないと折れてしまいそうだから。
転換期があったのは、販促イベントのミニライブだった。
いつも通りに笑顔を作って歌ってライブをしていた所、ミヤコさんがアクアとルビーを連れてきていて、その二人が……私の赤色のサイリウムをベビーカーの上で必死になって振っていた。
それを見て私は、ああ、この子たちって私の事が好きなんだ。って思った。あんなにがむしゃらになって、あんなに楽しそうに、あんなにうれしそうにして。
なんだろう。この気持ち。すごく胸が温かくなって気持ちが溢れてくる。ただの自分の子供だから育てないとっていう気持ちじゃなくて、この子たちが本当に可愛くて仕方なくなってしまった。
うちの子きゃわ~~~~♡♡♡
私は本当にひさしぶりにこころの底からの笑顔になれた。
それから、私はアクアとルビーのことを間違える事もなくなった。
アクアは私とルビーの事をとても大切にしてくれる子で、頭がすごく良くてしっかり者だけど恥ずかしがり屋さん。お風呂とかも一緒に入れると恥ずかしがってしまったりする。
ルビーは私とアクアの事が大好きな、元気で明るくて甘えん坊。ちょっと言動に危ないところがあるけど、私に憧れてアイドルになりたいといってくれる可愛い子だ。
二人に共通しているのは私の事が大好きで、よく私の昔の動画なんかを仕事中に見ているらしい。人にここまで好かれた経験のない私は恥ずかしいような嬉しいような気持ちになる。
そして、少し嫉妬してしまうのは、二人は本当に仲が良くて特にルビーがアクアに向ける視線は、ドラマとか映画で見るような恋する女の子の目線だった。ルビーは心の底から信頼出来て、愛することが出来る人を生まれた時から得ているのが、愛する対象が欲しくて仕方の無い私には眩しかった。
そして、そのルビーの信頼に絶対に応えているアクアを見て、ああ、私もこんな子が小さい時に居たら。と思ってしまった。
ルビーが私みたいなアイドルになりたいと言っているので教えられることは教えてあげた。ルビーは本当に才能があって、歌も前は駄目だったけど、今ではすごく上手になっていた。そんなルビーを支えてあげようとアクアも一緒に練習をしていると、家族って感じがして楽しかった。
そうしている内に、ミヤコさんから未成年のシングルマザーかつ育児困難者という事で戸籍を斉藤家に移したいというはなしをされた。名目上、アクアとルビーが弟と妹という立場にするということらしい。
星野姓を使うと幼稚園入園の時にバレかねないので、斉藤姓にするとの事だった。あくまで親権などは私にあって、公的な書類に斉藤を使った方がバレにくいとの事なので受け入れた。
アクアとルビーは事務所のみんなに社長の愛人の子供として紹介するらしい。ただでさえ若い子好きってことで嫌われてるのに可哀想だと思ったけど、私のせいなのであとでお礼をいっておこう。
そして、アクアとルビーをB小町に紹介したとき、ニノにアクアとルビーが私の子供なんじゃないか?って突き止められてしまった。社長の愛人にされているとか結構な飛躍をしてしまっていたから、それを否定する事でなし崩しで誤魔化したけど、騙されてくれた。ニノちゃん、こういうところ変わってないな~と懐かしくなった。私が言えることじゃないけどおばかっぽくて、流されやすいところもあるけどまっすぐでいい子だった。
ニノは社長に愛人にされているんじゃないかって心配になって味方になりに来てくれたみたいで、その後は私に嫉妬して意地悪な事を言ってしまったと謝ってくれた。
謝らなくていいのに。と思った。だってあれは私が悪かったから、責任は私にあるから。
でもうれしかった。あんなに昔に書いた書き置き。気づかれないからもう忘れられてしまったんだと思っていた。あんな書き置きを見て助けに来てくれたんだ。
そして、私はニノと仲直りをした。昔、喋りたかったこととかを一緒に話すと、むかしみたいに仲良く話す事も出来た。B小町で一緒に居る時間が楽しくなった。