推しの子 ヒロイン全員好感度100達成RTA 作:重曹ちゃんかわいい
私の人生を大きく変えることになる一ヶ月は怒濤の勢いで押し寄せてきた。
アクアが主演で妹役にルビー、ヒロイン役が私だったドラマが大ヒットし、アクアとルビーの主題歌はそれ以上に社会に反響をもたらしたらしい。幼稚園や小学校ではその曲が流行りに流行って、いまでは聞いた事が無い人が居ないくらいのヒットをして、何週もオリコン1位を獲得した。
私も初めて聞いた時はあまりにも可愛くて、世界一可愛いのはこれだと思ったし、今でもそう思ってる。
そして私たちと一緒にゴールデンタイムの生音楽ミュージックビデオに出演するまでになった。
登場シーンで正装をした二人が手をつないで降りてくると、「可愛い」という声と歓声が響いた。
「初めまして!」
「初めまして、アクアです。今日はよろしくお願いします」
「はじめまして、ルビーです。よろしくおねがいします」
「いやーまだ3歳なのにしっかりしてますね」
「ありがとうございます。そういっていただけると嬉しいです」
「はじめてのミュージックビデオだけど、ルビーちゃんどう?」
「はい! はい! アイお姉ちゃんと一緒にミュージックビデオに出られるなんて夢みたいです!」
「元気ですね~B小町のアイさんとは生まれた時から一緒に暮らしていたとか?」
「はい、僕達にとっては本当の姉みたいに育ったひとで尊敬するアイドルでもあります。なので一緒にこうやって出演できたのは夢が叶った気分ですね」
「そういえば、ツイッターではなんと30万もRTされたアイさんのライブで赤ん坊がオタ芸を行う動画のお二人らしいですね」
「当時、僕達はB小町の過去の動画とかをずっと見て育ったので、B小町、特にアイお姉ちゃんはヒーローみたいに思っていた事を覚えています。なんでオタ芸を二人してやっていたのかは覚えて居ませんが、多分、面白そうだったからだったような気がします。ルビーどうだっけ?」
「これは私達が生まれる前からアイお姉ちゃんを推していたことによる私たちのオタ本能ゆえの行動だよ!」
「ルビー、ここで適当なこと言わないでよ」
「えへ☆だって、生まれる前からアイお姉ちゃんの歌を聴いていたのは本当でしょ?」
「お二人は本当にアイさんの事が好きなんですね。今回はアイさんと一緒にドラマにも出演されていましたが、どうでしたか?」
「とてもハラハラした現場でした。今回はルビーが自由裁量権を与えられたようなものだったので、ルビーが暴れる現場を僕や同じ主演の松本さん、アイお姉ちゃんがなんとかしていた感じです」
「酷い。だってあれは監督がお前は演技はしない方が魅力的って言うからじゃん!」
「さすがに元気すぎて、振り回されっぱなしでした。まあ、そんなトラブルメーカー役だったからこそ、ドラマを見た視聴者の方もルビーがどんな大暴れをするか毎回ハラハラして見てくれた方も多かったみたいです。僕自身もそれが成功の要因だと思っているのでなんとも言えない感じですね」
そんな風に生放送なのに質疑もきちんとしているアクアと反応がかわいいルビー。どっちも私の事を好きって言ってくれていて可愛かったのを覚えてる。
本当は姉ではなくお母さんとして紹介されたかったけど、テレビでは私達は一緒に家族みたいに育ったお姉ちゃんという設定で通してる。お姉ちゃんとして接するのも楽しかった。
後ろでは生放送でやらかさないかヒヤヒヤしていた斉藤社長が居たけど、なんとか無事に乗り切って安心していた。
その後はついに、二人がアイドルデビューをすることになった。
社長とアクアが紅白歌合戦に出場すれば最年少出場になるからニュースになる。その時に一気に全国へアイドルグループの立ち上げと新曲発表をすればアピールできると言って、ここまでずらしていた。
双子星
双子の二人のユニットらしい名前だった。
「ねえ、ママ、私ほんとうにアイドルになるんだよね」
目を輝かせたルビーが聞いてきたので答える。
「うん、ママと一緒だね。ルビーがアイドルとしてテレビに映るの楽しみだな」
本当に楽しみ。ダンスも歌も笑顔も全部すてきなルビーならわたしよりずっとアイドルとして人気になる。
「本当になれるんだ。嬉しいな。私はずっとアイドルになりたかった。ママみたいにキラキラしたアイドルに憧れて、それをお兄ちゃんに応援してもらうことがずっとずっと夢だった」
そんな風に言うルビーはほんとうに可愛かったのでつい抱きしめてしまった。
「じゃあ、夢叶っちゃったね。ルビーなら私より素敵なアイドルになれるよ。ひみつだけど、社長もアクアも将来はルビーをB小町に入れたいって言ってるんだ」
まだ秘密だって言っていたけど、言っちゃおう。
「私がB小町に?」
「うん、私と一緒に歌って踊って、そして私が引退をしたらルビーにB小町のセンターを任せたいって言ってる」
「私がママと一緒に、そしてママのあとに……」
「その時は何歳だろうな~。ルビーが14歳とか15歳の頃かな。だとすると私も30歳か~。そこまでやれるか不安だけど、ルビーと一緒にアイドルをするの楽しみだから頑張ろうかな」
そんな未来があると思うとわくわくしてしまう。だって絶対に楽しいってわかるから。
「本当に夢みたい。でもこんなに幸せで良いのかな? こんなに幸せなのは夢だからって思ってた。そして夢でも良いって思っていた。けど、今はそれが怖いくらい幸せなの」
いつの間にかルビーは涙を流しながら話していた。
「叶わない夢だと思ってた。お兄ちゃんに応援してもらえるだけで十分だったのに、今はママとお兄ちゃんだけじゃなくて沢山の人が私を応援してくれて、助けてくれて、私の夢を応援してくれてる。それが嬉しくて仕方ないの。だからもしこれが夢だったらって思うと怖いんだ」
胸の中で泣いてるルビー。この子は本当に明るくて元気で不安なんてないようで、実はこんな事を考えてたんだ。そう思うとルビーの事を一つ知れたようで、少し嬉しくなってしまった。
「ルビー。もし夢だったとしてもやり直しちゃえばいいよ。そしたらこんな夢みちゃった。こうなりたいから応援してって言ってくれれば、私もアクアもみんなも全力でルビーを応援する」
「本当?」
「だって私もアクアもみんなも、みんなルビーの事が大好きだからね」
「うん、ありがとう。ママ」
胸の中で泣き続けるルビーの頭をなでる。
夢みたいなのは一緒だよ。ルビー。私も毎日がこんなにドキドキして楽しくて仕方のないものなんて知らなかった。これが全部夢でしたなんて言われたらと思うと怖い。でも、アクアとルビーが居ればどんな事があっても幸せになれるって信じてる。
この後の二人のアイドルデビューも大成功だった。初週からオリコン1位になって世間を騒がせる大ヒットになった。
私は毎日、アクアとルビーの活躍する姿を見て、楽しく過ごして、こんな時間がずっと続けばいい。そんな事を思って過ごしていた。
今日も楽しかったと思って寝る準備をしていると、電話が鳴った。
「あれ、ヒカル君だ。なんだろう電話をかけてくるなんて」
出産に立ち会うと言って来なくて、それからは音信不通になっていた元カレだった。
「もしもし、アイ、今大丈夫?」
「うーん、大丈夫だけど、なに? 出産の時、結局来なかったのに」
「ごめん、ごめん、さすがに九州は遠くて」
「せめて連絡くらい欲しかったよ」
「……本当にごめん。あの時は色々あって気が動転していて、今は大丈夫、いまは生活も安定して大学に通ってるんだ」
「まあ、私が勝手にやったことだから良いけど……で、何か用があって電話かけてきたんでしょ」
「じゃあ、まずはおめでとう。ドーム公演に紅白出演。さすが、アイだ」
「ありがとう。ヒカル君も元気そうで良かった」
「……それで用件なんだけど、子供と1度顔を合わせたいと思って」
「アクアとルビーと?」
「ああ、テレビみたよ。ルビーも、特にアクアは僕の小さい頃そっくりでね。やっぱり僕の子供なんだな。って思ってしまったんだ。だから父親として1度会いたいって思って」
「う──ん、今は二人とも忙しいし、紅白も直前だから無理だけど、年明けなら時間を取れるかも」
「……アイも忙しいだろうし、僕が直接行くよ。住所はどこなんだい?」
「◯◯区××町の▽▽って建物の4階の405号室だよ」
「分かった。空いてる日にちが分かったら連絡をしてほしい」
「うん、じゃあまたね」
「うん、また会おう」
なんだろう。と思ったけど、アクアとルビーにも1度紹介する良い機会だと思った。さすがにあれだけ助けてくれたヒカル君を愛してくれなさそうって理由でポイッとしてしまった罪悪感はあった。
アクアとルビーが受け入れてくれるなら……今更一緒に暮らすとかやり直すなんてことは出来なくても、ヒカル君も同じ苦しみを持つ者同士、力になってあげたいと思えるようになった。私がアクアとルビーに救われたように。
これは一人でどうにかするのは無理だから。私にはアクアがずっと相談にのってくれて寄り添ってくれるから、いつかどうにかなるという希望があった。今の気持ちが大きくなった先に愛の答えがあるって信じてるから今を楽しく生きられてる。
彼を今更愛することは出来ないと思う。けど、彼が私の為にやってくれた事に対してなにか返してあげたいと思った。自分の好意を無視される事は悲しいことだ。あの時、私は自分のことばっかりで、彼の気持ちを踏みにじった。だからせめて彼の力になろう。だって、好意を無視されるのは本当にツライことなんだから。
あれっ、私はいつ好意を無視されてツライことなんてされたんだっけ?
あっ…………
私は思い出した。
私は過去に愛した事も愛された事もないと言ったけど、私は過去に人を愛した事があった。私はお母さんを愛していた。
付き合っていた男の人に愛されなくてお酒に手を出して泣いていたお母さんに、言ったんだ。
「私が居るよ。私はお母さんを愛してるよ。だから泣かないで」
その答えは暴力で返ってきて、殴られて、蹴られて、どれだけ泣いてもやめてくれなくて、最後に……
「あんたなんか産むんじゃなかった」
そう言われたのを覚えてる。その後、私は高熱を出して、本当に死んでいまいそうになった。人の名前を覚えられなくなったり、前に出来ていたいろいろなことが出来なくなってしまったのもこの頃だった。
多分、その頃に私は壊れてしまった。
それでも壊れてしまったことを悟られるのが嫌で、捨てられてしまうのが嫌で、殺されてしまうのが嫌で、いい子になろうとした。
けど、結局、愛されずに終わってしまって、ただ、ドジで馬鹿で嘘だけが得意になった私だけが残った。たくさん愛しても愛されるとは限らないというのをこの時学んだ。
どんなに愛しても、それを目障りに思ってくる人が居ることを知った。どんなに愛しても嫌われてしまう事を知った。
この頃があまりに辛くて苦しくて、記憶から消したんだ。
私は誰かを愛したい。愛する対象が欲しかった。それは本当。だけど、本当は愛を受け入れてくれる人が欲しかった。でも期待するのが怖くて、返ってくるかもしれない拒絶が、暴力が罵倒が、なによりも愛する気持ちを踏みにじられることが恐かった。痛くて死んでしまいそうなあの時の気持ちはもう二度と感じたくなかった。
もう一度、同じ事をされたら私は生きていけないと思うから。
ヒカル君は優しかった記憶しかない。なのになんでヒカル君の言葉を聞いてお母さんを思い出したんだろう? あの愛を踏みにじられる痛みの感覚が来たんだろう?