推しの子 ヒロイン全員好感度100達成RTA 作:重曹ちゃんかわいい
お母さんとの生活を思い出すと胸が苦しくなる。
脈を打つたびにドクドクいう痛みとゆっくりと死が近づいて来るあの恐怖が蘇る。
「アイ? ルビーはもう寝ちゃったよ。さっきまで電話してたみたいだけど、まだ起きているの?」
眠いのか目を擦りながらアクアが来た。
「アイ!? どうしたの、顔が真っ青だよ」
そうなのかな? 私には分からないけど……アクアは凄く心配そうな顔をしている。
「少し横になろう。今、水を持ってくるから」
アクアがそう言って水を取りに行った。心配してくれてるし、ちょっと疲れてる気がするから横になる。
「どこか痛かったり、違和感のあるところないか教えて」
首を横に振った。どこも痛くないし、違和感のある所もなかった。
「ありがとう、アクア、大丈夫。ちょっと昔の事を思い出して、気分が悪くなっちゃっただけだから」
「少し落ち着こう。水は飲めそう?」
「ありがとう。もらうね」
水を飲むと少し落ち着いてきた。やっぱりアクアは頼りになるなぁ。とのんきに思ってしまった。
こうして顔を近くで改めてみるとアクアはヒカル君に似ている。似ているけど、なにかが違う。そのなにかが出てこない。
「アクアは……さ。昔、言ったよね。愛は取引じゃないから、愛情を返されなくてもかまわないって」
「うん、言ったよ。俺はアイとルビーになら嫌われようがなにしようが2人を愛し続けるって」
「もしそうなら辛くならない?」
私は苦しかった。死んでしまいたくなるくらい。けどアクアはそれでも良いって言う。その答えの意味が知れれば、少しアクアを理解できるかなって思った。アクアみたいになれたら、私ももうちょっと違う未来があったのかな。って思った。
アクアは少し考えるようにして言葉にした。
「そうだね。確かに傷つくし、なんでこんなにしているのに嫌われるんだろう? って止めたくなることもあると思う。愛は無限じゃないし、気持ちが折れてしまって最愛の人から離れてしまう人を俺は止めることは出来ない。でも……出来る事はしたいと思ってる」
「出来る事?」
「俺は子供で、出来る事は本当に少ない。芸能界という特殊な環境だからお金とかも稼げるし、仕事が貰えるから人とコミュニケーションを取って付き合うことが出来るけど、そうで無ければアイに対して出来る事なんて殆どないんだ」
「そんな事ないよ。私は毎日の生活でもアクアに沢山助けられてる」
アクアから貰ったノート。本当に嬉しかった。二年経った今でも一緒にやってるし、二人で色々なことを解決してきた。もう使わなくなってしまった一冊目もずっとずっと取っておくつもり。私の宝物。
「それはアイが俺を信じてくれたから。子供の言うことなんて。なんて思わずに、否定せずに自分の弱い所を見て治そうという意思があったからだよ。本当はそんな人は少ないんだ」
アクアが手を握ってくる。温かかった。
「俺は仕事で何度もそういった事は拒絶されてきたから分かるよ。自分より小さい子供に注意されたりするのはもちろんだけど、アドバイスを貰ったり、間違いを訂正されたりすると殆どの人は拒絶したり、聞き流すのが当然だって。俺はそれは仕方ない事だと思ってるし、だからこそ他人と接する時はそういう事を受け入れやすいキャラになるように努めているつもり。ある意味、俺の言うことを聞いてくれる人なんて殆ど居ないって諦めてるって言っても良いと思う。諦めてるから嘘をついて、波風を立てないように立ち回ってる」
アクアの手を握る力が強くなる。
「でも、アイは俺のそんな言葉を受け入れて、信じてくれた。何の肩書きも実績もない子供の俺の言葉を真剣に受け止めてくれた。そんなアイだから助けたいんだ。力になりたいんだ。そんなアイの事が好きだし、そういうアイを愛してる。愛は1度愛すれば永遠に続くものではないって分かってるけど、それでも永遠に愛したいと思えたアイだから、嫌われても、愛されなくてもいいって思えたんだ」
そう言うアクアは本当に真剣に私にいろいろな事を伝えようとしてくるのが伝わる。心から私を思ってくれてるんだっていう事が伝わってくる。
今まで、アクア以上に親身になって私の為にこんなことをしてくれる人なんて居なかった。だから、ノートの事も解決なんてしなくてもその気持ちだけで十分だった。
「もし、アイが俺の事を信じてくれなかったり、それに怒ったり、殴ったりするような人だったら、そんな事は思ってないよ。アイの人柄を知って、一緒に暮らして、一緒に話して、一緒に色々な事を乗り越えて、その中で、アイなら俺がアイの為を思って行動すれば、分かって貰えるって信じているからこそ言うんだ。嫌われても、アイならまた愛する事が出来るって信じてるから言える事なんだ」
顔が真っ赤になっているのが分かる。だってこんな事言われたことないから。顔が可愛いだけの私は嘘をつくことでしか愛されなかった。でも、そんな私をまっすぐ愛してくれるアクアが愛おしくて仕方なかった。
「で、でも、アクアは知らないかもしれないけど、元々、私は無責任で、どうしようもない人間で、アクアとルビーが生まれた経緯だってどうしようもない身勝手な理由なんだよ。愛されたくて、愛されなかったら名前もまともに覚えないような人間で……アクアとルビーがもっと小さかった頃だってまともに名前も顔も覚えられなかったし」
なんでこんな事いってるんだろう? あんなに愛して欲しいと思ってたのに、なんで嫌われてしまうようなことを言ってしまうんだろう。
「でも、変わろうと頑張ってる姿を俺は知ってるんだ。俺とルビーが生まれた経緯とか過去とかなんて関係ないよ。今、アイは俺たちを愛そうと努力している事を知ってる。愛が分からないって言ってても、ファンのみんなを愛そうと頑張ってきてるのは分かるしずっと見てきたよ。頑張って、努力して、分からないものをアイなりのやり方で伝えようとしてるのを知ってるんだ」
「アクア……」
「だからさ。アイには幸せになって欲しいんだ。アイの頑張りが報われて欲しいんだ。例えアイに好きな人が出来て、俺やルビーがアイの中で二番目とか三番目になってしまっても、アイが求めたものを手に入れるならそれを応援することが出来るし、アイの事はずっと好きで居られると思うから」
ああ、分かった。分かってしまった。ヒカル君とアクアの違いが。ヒカル君は別れる時に「どうせ本当の愛なんて見つかるわけがない。きみが傷つくのを見たくない。ここに居るのが君の幸せだ」と言って、私を引き留めたけど、あれって、本当は自分の為だったんだ。私の為って言っていたけど、嘘だったんだって今、分かってしまった。彼は優しかったけど、優しい時は、彼の望む反応をしていた時だけだった。
彼の所に居たくなかったのは多分、それがなんとなく分かってしまったからだって。彼は彼の為に言ったのであって、私の気持ちを理解してくれたわけじゃないし、心配してくれたわけでもなかったって。
お互いに自分の気持ちだけが大切なある意味お似合いのカップルだったなって。
本当の幸せを願ってくれる人を、私を愛してくれる人を見て、そう思ってしまった。
アクアはいつもそばに居てくれた。私がずっと隠していたことも理解してくれた。あらゆることから守ってくれた。全てを惜しみなく与えてくれた。私はただ受け入れるだけで幸せだった。
だから、一歩踏み出そう。恐いけど、また拒否されたらと思うと本当に恐いけど、それでも、この気持ちを伝えたいって思えたから。この子の事を愛したいって思ったから。アクアから沢山受け取った愛を少しでも返したいから。
「アクア……」
「アイ?」
「愛してる」
この日、私はずっと追い求めていたものを手に入れた。
私にとって世界ってもう少し淡々とした、毎日がコピーされたみたいな平坦なものだったのに、今は毎日刺激に溢れるようになった。
子供達の声が聞けて、姿が見られて、目が合って、それだけで胸が温かくなって、その些細な幸せで心が満たされていく。笑っている姿を見るだけでこっちも自然と笑顔になって、喜んでいるとこっちも嬉しくなる。これが愛なんだ。
そして……そんな気持ちを私に対して感じてくれる人がいる。私を愛してくれている人達がいる。
社長やミヤコさん、B小町のみんなに、スタッフの人やファンの人達も私を愛してくれている。
なら、その人達に愛を返そう。私にそんな気持ちを持ってくれるなら、歌でダンスで笑顔で、私のできるやり方で愛を返して、すこしでも私が今、感じている幸せな気持ちを感じて欲しい。
私はアクアを愛して、愛することが出来るようになってそんな風に思えるようになった。
あれからアクアと話すと胸がドキドキするようになって、肌を触れあうと満ち足りた気持ちになるようになったりした。ルビーへの気持ちもいつかこうなってしまったら、私は毎日ドキドキして過ごすようになってしまって困るかも。なんて思いながらも、それはそれで楽しそうとも思ってしまう。
最前列にいる二人の子供を見る。
赤いサイリウムを元気よくふって私を応援してくれている。
「アクア、ルビー……愛してる」
今まで恐くて言えなかったけど、今はこうやって当たり前に言えるようになった。
そして、愛したいと思っていたファンの人達にもようやく心から愛してるって言えるようになった。
今度は嘘じゃない私の愛の言葉をみんなに伝えたい。
私がこんなに幸せなのはたくさんの人が応援してくれてるからってわかったからその感謝の気持ちを言葉で伝えたい。
「みんな~!!ありがと~!!愛してる~!!!」
私たちの新曲「アイドル」は発売して一ヶ月が経たない内にユーチューブ再生数1億を達成し、日本どころか世界でも大ヒットしていく曲となった。私はこれからどんどんアイドルとして大躍進を遂げていくけど、心残りが一つだけある。
それからヒカル君の電話番号にいくらかけても「現在使われておりません」という言葉が聞こえるだけだった。