推しの子 ヒロイン全員好感度100達成RTA 作:重曹ちゃんかわいい
星野愛久愛海の独白
俺は産科医の雨宮吾郎。
ど田舎で産科医として働いていた所、推しのアイドルが妊娠し患者として来院してきた。
心中複雑な思いをしつつも、推しのアイドルの出産をサポートしていた所、怪しげな男に声をかけられる。
怪しげな男に逆質問を行うと逃げ出した男を追った俺は殺され、目が覚めたら……推しのアイドルの子供に転生していた。
俺が転生したアラサーだという事がバレたら推しのアイドルが思いっきり甘やかしてくれる環境が無くなってしまう。俺は「星野愛久愛海」というキラキラネーム感ばりばりの名前で楽しく生きていく事を決意する。
見た目は赤ん坊、頭脳はドルオタ、その名は星野愛久愛海。
……某名探偵風に過去を振り返ったが、三十路間近のドルオタが転生して赤ん坊をやっているという気持ち悪い現実しか見えてこなかった。
いや、現実逃避をやめよう。問題は目の前で泣き出したやばい妹である。
「はいはい、またおっぱい? ルビーはおっぱい好きだねー」
前世からの推しのアイドルにして今世の母であるアイが妹のルビーを抱き上げると今日、何度目か分からない授乳を行っていた。
これがただの赤ん坊であれば、母親は大変だなぁで済ませられるのだが、この妹であるルビー、俺と同じ転生者である。あと付け加えるなら、俺以上にオタク、しかもわざわざエゴサしてアンチとリプ合戦をするような超好戦的なオタクである。そんなやつが、推しアイドルの迷惑を鑑みずに授乳を何度も要望する為に泣き続けてる。
あきれた目で見ていると、妹はニヤッと勝ち誇った目でこちらを見てきた。だめだこいつ、俺がなんとかしないと。
もし、こいつが俺と同じく男なら、アイが可愛そうすぎる。前世で何したら、自分のオタクのおっさんを二人も育てるなんて罰ゲームをするはめになるのか……いや、女のオタクでも相当やばいので、あまり変わらないかもしれない。妹にはせめて遠慮をしろと言っておかねばならない。
アイが仕事に行った後に問題児の妹に声をかける。この年の赤ん坊は流暢にしゃべれないので、周りに人が居ない時にしか話せないからだ。
「お前、ちょっとは遠慮しろよな」
「なんで?」
目の前の妹はきょとんと何がおかしいのかという表情をしながらとんでもない事を主張しはじめた。
「娘の私がおっぱいを吸うのは自然の摂理なんですけど。当然の権利なんですけど」
「いや、お前、それは普通の赤ん坊の理屈であって、前世をもったオタクが推しにやったら駄目なやつだろ……一応聞いておくけど、お前前世でも女?」
これがおっさんなら、こいつを見る度に、授乳を求めて泣くイマジナリーおっさんをみることになって嫌すぎるんだが。
「うん」
「なら、ぎりぎり許容できなくないかも。許せなくもないというか」
「オタクの嫉妬きもーい」
ぐさり、と心にナイフを突き立てられたような痛みを感じる。いや、推しのアイドルにしてみたい気持ちは分からなくない。嫉妬しているのかと言えばしてないとは言えないだろう。だが、そこは倫理観で押さえるものなはずだ。きもいオタクというのは反論できないが、最低限のラインはある。
「まあ、いい年した男が授乳とか倫理的にまじやばいもんね。良かった! 合法的におっぱいを味わえる女に生まれて!」
「いや、女でもやばいのは変わらないだろ。女同士でもセクハラは成立するんだぞ」
突っ込みを入れてもまったく効いてない。なんて面の皮が厚いんだこいつ。
「ママも可愛そう。自分の子供が自分のオタとか超キモいもん。あ-、ママは一生わたしがまもろーっと」
同意見なのだが、自分でいった事を胸に手を当てて考えて欲しい。
「いや、お前のは女ってだけで相殺できるきもさじゃないからな」
「あ、そうだ、そろそろNステの時間だ~」
とこちらの意見をスルーし、「やっぱり、生放送はリアタイに意味があるよね~」とつぶやきながら、リモコンを操作していた。
話聞けよ。と言おうとしたが、あきらめた。まあ、リアタイの楽しさは分かっている。アイの復帰第一弾だ。久しぶりに見るアイの歌とダンスを生で見ないなんてありえない。お互い、アイの熱狂的なファンなことは一緒に過ごしていてよく分かる。お互いの許容できると考えるラインが違うだけだ。
そこからはアイのうちの子発言にお互いやばいやばいと言いながらアイの出番の感想を言い合って時間を過ごしていた。
「きゃー、やばー!! 今のターンの表現力まじやばない!? さっきおむつかえたばっかりなのに失禁しそう!! 顔よし! スタイル良し! ダンスに加えて歌も上手いなんてウチの母、まじで逸材すぎる! 視聴者はみんな億払うべき!!」
指を指しながらそんな感想を言う妹を見て少し苦笑してしまった。アイの熱狂的なファンであり、俺をアイドルの沼に嵌まらせたさりなちゃんそっくりだった。
「こうしてると懐かしいな」
「え、なになに?」
こちらを見ずにテレビのアイを追いかけながら問いかけてくる。
「昔、お前みたいにアイのことが大好きな女の子がいたんだ。毎日、アイのライブ映像を見て、毎日、アイについて熱く語ってた」
「へー、すごく気が合いそうな気がする! なになに、前世の彼女? ドルオタなのに?」
「違う。研修医の頃に担当していた患者さん」
「患者さん?? へー、前世お医者さんなんだ」
「ああ、前世は産婦人科医で、アイの主治医だった。アイがアイドルとしての幸せと母親としての幸せ両方欲しいなんて言うから、ファンとして助け船を出さないわけにはいかないからな。出産までのサポートもしたんだ。まあ、出産予定日にアイのストーカーに殺されたから、出産に立ち会えないどころか転生して子供になっていたんだが……」
そう言うとまだアイが歌っているというのに、こちらに目線をむけ、真剣そうな眼差しでこちらを見てくる姿が見える。こいつがアイの出番なのにこっちに目線を向けるなんてどうかしたのだろうか? そもそもこいつの真剣な目なんて初めて見た気がする。
「ねえ、どこで働いてたの?」
「ん? 宮崎総合病院……といってもわからないか。まあ、なにもない宮崎の片田舎だ」
宮崎総合……そう、つぶやくと意を決したような眼差しをこちらに声をかけようとする姿が見える。
「もしかして……ごろーせんせ??」
はっ?? 俺を知っている? 俺にこんな女の知り合いなんていないは居なかったはずだ。ドルオタの女なんて俺の知り合いには一人しか……
「えっ、なんで俺の前世の名前を」
「うそ、本当にごろーせんせなの?? わたしだよ。さりなだよ!」
「さりなちゃん??」
たしかにアイを見ている時の姿は似ていたがこんな偶然があるのだろうか?
「夢みたい、アイちゃんの娘に産まれられて、せんせにも再会できるなんて」
俺の胸に飛び込んで泣く妹を俺はただ見ていることしか出来なかった。