推しの子 ヒロイン全員好感度100達成RTA 作:重曹ちゃんかわいい
強くてニューゲーム
母は昔、芸能人になりたかったらしい。
でも失敗して、挫折して……私にその夢を託した。
私が物心つく前……哺乳瓶を握っていたころから、私は芸能アカデミーにいた。赤ちゃんモデルとして生後3ヶ月から所属して、レッスンを受けていた。芸能人になる為に、母の夢を叶える為に。
だから、私にとって芸能人として生きていくことは当たり前の事で、それ以外に何になりたいというのがないし、その生き方以外許されなかった。
だから、赤ちゃんの頃からモデルをしたり、歌ったり、ダンスをしたり、演技をしたりするお稽古を毎日続ける事になんにも疑問を持たずに生きてきた。それが当たり前でないことなんて知りもしなかった。
そうして、生まれてからずっと芸能人になるためのお稽古ばかりしていた私はどうやら周りの子よりもかなり賢かったらしい。
だから、私の年齢ではかなり早く文字の読み書きも出来て、コミュニケーションを取れたことで、役者として、周りとは差がついていた。私の年齢できちんと言われたことが出来る子は少なくて、出来る私に仕事は集まってきて、どんどん仕事でも結果を出していった。
私が売れて、あこがれの芸能人とお話出来たり、ホームパーティーに呼ばれたり、一端の業界人を気取れた母はとても喜んでいたし、それを見て、私も嬉しかった。
何も考えずに好き勝手演技をしていればみんなが天才と褒めてくれて、持ち上げてくれる日々が当たり前で、その時は人生で一番幸せな時期だったのかもしれない。なにも知らず、ただ与えられたものを喜ぶ日々に不安なんてなかった。
私は天才で、これからもどんどん上手くいって成功していく! そんな自信を木っ端みじんに打ち砕いたのはアクアとの出会いだった。
アクアは早熟なだけだった私とは違って本物の天才だった。
容姿も知性もカリスマも全てを持ち合わせていて、周りの人間とも上手くやれる。どこかの漫画の主人公でもこんなに凄い人間にしないような……そんな人だった。
悔しかったのでライバル宣言をしたは良かったけど、直ぐに力の差は出た。初めての映画で監督や脚本の人を説得し、自分を主演のようにしてしまい、そして結果を出したアクアを見て、私は多分、その時、あいつに恋をした。
私よりも凄くて、賢くて、かっこよくて、優しい人。
でも、あいつに見えてるのは、姉と妹だけなのは分かってる。あいつは家族を愛していて、その為だけに頑張ってる。妹のルビーは馬鹿だけど容姿も性格も誰よりも可愛くて、誰からも愛される存在なことは分かっていたし、姉のアイは一目見ただけで特別な人間だって分かった。綺麗で可愛くて明るくて……あいつが女性として認識しているのは多分、あの人だけなんだろうってなんとなく分かった。そして、あの人には一生勝てないんだろうなってことも。
だから、私はせめて隣に居られるようにしようと思った。
アクアの特別な人の枠は埋まっていたから、せめて一番近くに居たいと思った。
そうして、アクアと私は一緒に組んで仕事をしていく事が増えて、アクかなコンビなんて呼ばれるようになった。アクアは誰よりも効率的に、誰よりも上手に、誰よりも早く演技を学んでいった。私はそんなアクアの真似をしてやっていくと、あいつほどでは無くても、周りよりかはかなり早い速度で成長する事が出来た。足りない分は仕事が終わった後、事務所で、家で、稽古をする事でカバーした。
そうしている内に私はかなり実力を付けていたらしく、アクアとのコンビの知名度も上がって、どんどん仕事も、そしてギャラもどんどん増えていったらしい。私は興味が無かったから、ギャラ交渉とかはお母さんと事務所で決めた後に印鑑を押す事だけをしていた。
その頃からだろうか? お母さんもお父さんも……なにもかもが変わってしまったのは。
いつの間にかおうちがリフォームすることになっていた。
私用に防音設備が整った部屋があると便利だね。と言ったのに、そうだね。と返したら、いつの間にかおうちが変わっていた。部屋の内装も変わって、いつの間にか有名なブランドの家具が揃うようになったし、車もテレビで見たことがある外車に変わっていた。
そして、お母さんやお父さんの身なりも前とは変わっていって、綺麗な服やバッグ、お財布なんかもどんどん増えていった。
そういう時、必ず、かなの隣に居る時にみすぼらしい格好をしていたら仕事を逃してしまうかもしれないから。とか色々言い訳をしてくるのが不思議だった。
どこからお金が出ているのかは察しがついていたけど、特に何も言わなかった。
だって、私はお金なんて興味もなければ、お母さんとお父さんに逆らうなんてしたことがないし、する気も無かった。それに仕事をすれば、そんなお金は直ぐ補填出来たから特に気にならなかった。
私はネットで調べたら、1億くらいの儲けがあるらしい事は分かった。事務所の取り分比率というのは分からなかったけど、三年も働けば普通の人の一生分は稼いでいるらしいので、例えその半分だとしても、大丈夫だろうってなんとなくの知識で放置した。
それがいけなかったのかもしれない。
事務所もその時期辺りからおかしくなっていた。
前はキャリアアップの為にどういう仕事をするのかとかそういう話があったけど、そういうのも無くなって、ギャラのいい仕事順に決めているようなスケジュールになっていった。
仕事が大手のお金払いのいいと聞いてるところだけになってきた。
よくわからないけど、私が所属しているという事でアカデミーに入る希望者が増えて、その為に拡大をしたらしいけど、それがうまくいっていないらしく、それでお金が必要というのを事務所の人が話しているのを聞いた。
お金、お金、お金。
私の周りではお金の話ばっかりになってきた。
アクアの隣に居たい。一緒に演技をしたい。いまより上手くなって、もっといいドラマとかいい映画を作りたい。そんな気持ちとスケジュールがどんどんあわなくなっていった。
そして、いつの間にか、私のスケジュールは寝る時間以外は全部埋まってしまっていた。朝から稽古をして、仕事をして、かえって稽古をして、寝てを繰り返す。ドラマの仕事は現場に行って終わりじゃなくて、脚本を読んで、覚えて、動作や発音を確認して、納得できるまで詰めるまでが仕事。だから10分の仕事に1時間、2時間かけて準備することだって珍しくない。
私の時間は仕事とその仕事の準備に費やされるようになっていった。
仕事をするだけの生活が苦しくなってしまって、仕事にも影響が出るようになってしまった。
アクアとの仕事も準備不足でアクアにサポートして貰う事も増えてしまって、あいつは責めないけどそれがまたつらくて、お仕事を減らしたいってお母さんに相談したら……ぶたれてお説教されるようになってしまった。
前までのお母さんは「売れている」有馬かなが好きだったけど、今は「お金を稼いでくる」有馬かなが好きになってしまった。そうではない有馬かなは嫌いなんだと思った。
今度はおうちをもっと大きくて綺麗な所に引越したいみたいな話をされたけど、今のおうちは、あんなに綺麗にしたのに、物で溢れてしまって、ゴミもそのままで、よくわからない状態になっていた。私は防音室で寝泊まりしてロケ弁を食べて生活してるからよくわからないけど、空気が淀んでいてどんどんおうちが嫌になってきていた。だからどうでもよくて相づちだけうっていた。
事務所の人にも相談したけど、私が仕事をこなさないとバーターでしごとを貰って居る子がたくさんいるのに……と言われてしまった。
私がお金を稼いで、仕事をとってこないと困る人が居る。これまで育てて貰った恩を返さないといけない。そう言い聞かせて、なるべく目を瞑って疲れないように過ごす生活をするようになった。
生まれてから、私にはあのアカデミーと家と職場を往復した記憶しかない。他に居場所なんてないから、そう言われてしまったらどうしようもないので諦めた。
アクアがルビーのアイドル活動の為に休むと言った時は荒れてしまった。でも、あとから考えて当然の事だ。アクアは家族の為に頑張ってる。ルビーだってあんなに頑張っていた。友達の成功を応援しないといけない。今がルビーにとって一番大切な時期。アクアだって、ずっとこのときの為にお金にもならない仕事を沢山抱え込んで頑張ってきたんだから、アクアに助けて欲しいなんてことは言えなかった。
一分、一秒でも短く仕事を終えないと。
スケジュールが詰まってる生活は息苦しかった。アクアの居ない撮影だと人間関係とかそういったものが煩わしかった。同じ子役で組んでも、上手くまとまらなくてスケジュールを押してしまったりストレスも多かった。その分、睡眠を削って準備して、翌日、眠い中、仕事をするのでイライラしてしまう事も、それで周りに当たってしまうことも増えてしまった。
そんな生活が続いていたけど、おもったよりもはやく、アクアとルビーが戻ってきた。なんでもアイのB小町の仕事に事務所の能力が間に合わなくなってきたとか、新しい企画をやる余裕がないからとか、ブームが去ってメディアの仕事が落ち着いたとか、そんなことを聞いたけど、久しぶりにアクアとルビーと一緒に出来る仕事は楽しかった。
アクアの居る現場はアクアが統括してくれるのでスムーズに事が運ぶし、新人の子も居たけど、質を保ったまま終わらせる事ができた。アクアには迷惑をかけたくなかったけど、顔見せの時に体調を崩してしまって行けなかったことで心配してくれたみたいで、基本的には新人の子についていたけど、私の体調を気遣ってくれていたのが分かったので嬉しかった。そんな人はもう私の回りにはいなくなっていたから。
やっぱり、アクアとルビーと居る時が有馬かなで居られる数少ない大切な時間だと改めて思った。
そうしているとルビーと仲良くなった黒川あかねも一緒に過ごすことが増えた。あかねは私のファンだったらしく、良く見ると私の髪型と帽子も真似ていたのに気がついた。嫌われる事が多い私を慕ってくれるあかねは同い年だけど、妹みたいに可愛がってしまう。演技への熱も高くて、一緒に演技をしていて勉強になることも多くて話すことも自然と増えていった。
4人で過ごす時間を心の支えに私はなんとか仕事を熟せているのを自覚しながらも、私はまだ今の状態をアクアたちに相談出来ていなかった。