推しの子 ヒロイン全員好感度100達成RTA 作:重曹ちゃんかわいい
「そういえば、あかねちゃんはこれから事務所契約とかはどうするの?」
ドラマ撮影の私の出番が終わってアクアくんからそんな事を聞かれた。
「えっ? 事務所?」
「うん、これから受験勉強に集中して、そのままララライに所属してから劇団に集中するっていうなら良いんだけど、せっかくテレビドラマのメインキャストになれたわけだし、オーディションなしでも出演依頼も来ると思っていいと思うんだけど、見る限り劇団あじさいってそういう所じゃないから……」
「あ~、そうだよね。劇団あじさいってあくまで応募の案内をお知らせしてくれるけど、仕事の斡旋とかしてくれる所じゃないから……先生たちも、今度、仕事が取れるならどこかのプロダクションに入った方がいいみたいな事言ってた。でもララライに入るならお得意とかもあるから、ちょっと契約条件とかそういうの分からないなぁ。半年の所属とかでも良いところとかはないよね……」
さすがに少しだけ所属しますって言って許可してくれる所はないだろうなぁ。
「それでなんだけど、うちに業務委託って形ならすぐ抜けられると思うけどどうする?」
「えっ、アクアくんの所?」
「うん、ララライに入るまで仕事を取ってくる、紹介するような業務委託ってことでなら契約を用意してもいいって社長に言われてるんだ。もちろん、契約解除もそっちに合うようにする」
「あれっ、社長ってアクアくんのお父さんのこと?」
「……うん、あんまりなれ合うのもあれだから外では社長って呼んでるけど、そうだよ」
「アクアくんのお父さんなら信用できそうだけど、そういう事はよく分からないから、お父さんとお母さんに相談してみるね」
「分かった。じゃあ、契約条件とかは揃えておくからマネージャーの電話番号を渡しておくね。他のプロダクションとかの条件とかと比べてもらっても構わないから。身内のやってるところだから、子役部門は実質、所属は俺だけだし、演技指導員とかはないけど、俺も教えられるし、監督にも手伝わせるから。伝手とかもかなりあるつもり。まあ、あくまでララライ所属までのお試しとかでもいいよ」
アクアくんと二人だけ……ルビーちゃんはアイドル部門なのかな。それより、アクアくんと一緒に演技の勉強ができる。すごい。少しだけなのがもったいないくらい。
「アクアくん、ありがとう」
「才能ある子をスカウトするのも事務所の仕事だからね」
契約っていうのがどういう条件なのか分からないけど、悪い条件じゃなければお母さんとお父さんを説得して入れて貰おう。
それからしばらくして、私は苺プロに業務委託という形で加入することになった。
苺プロは元々アイドル事務所で、演技を勉強できる環境ではないみたいだけど、それはアクアくんが監督の下で勉強させて貰っているらしいので、それについて行く形で学んでいくことになった。
最初はお父さんが条件を渋っていたけど、ララライの懇意にしている事務所がかなり仕事の報酬比率を絞っていると聞いて、その最初の条件をまともなものにする為に、交渉のカードとして使えるというのが押しだって聞いた。私はお金はどうでも良いけど、私の将来の為にもそういったお金に纏わる契約はきちんとしなさい。と教えられた。
今は5対5で、雇用契約を結ぶなら再度比率を変えるようになっていた。
なんでもアクアくんのお父さんの社長さんも弁護士とかの伝手が弱かったらしくて、お互いに足りない分野の知識を補い合いましょうってことで、お話するようになったらしい。たまーにお酒を一緒に飲んでるので、仲も悪くないみたい。
条件として、無理をしないこと、勉学に支障がないようにすることだったから、睡眠時間は8時間以上、成績は最低でも合格率50%圏内にいる事を約束した。
アクアくんとバーターで一緒の仕事に行くので移動の車の中とかで教えて貰っているけど、やっぱりアクアくんは凄い。
私が自分で役作りをして、それに対する深掘りをして、足りない部分を説明、解説してくれる。特に過去にその監督や脚本の人の下で演じた事があると、その人がどういう解釈をするのかとか、そういった修正箇所を事前に予測してくれているから、現場での修正が最低限で済む。
その監督や脚本、共演者の特徴的な考え方、能力からどういった演技になるのかを想定して、最適な答えを出す。だからアクアくんはリテイクを殆ど出さないし、周りにも出させないように動く。だから現場がスムーズに動く。
いわゆる演出家の人が求めるぴったりの演技をする役者の究極形がアクアくんなんだろう。
演出家の人からの評価が高いのがすごい分かる。想定の時間内に高い質の作品を作るにはアクアくんが居るとすごくやりやすい。
子役にはルールがあって、週40時間までしか働いたり、練習させてはいけないというものだ。これは学業との両立が出来るギリギリのラインらしい。あと18時までしか働けないから、多分、平日は休まないと3時間も出来なくなる。
だからこそ、移動時間中すらも大事になる。一つ、一つの演技の精度を上げるんじゃ無くて、役に憑依して、その役がどんな反応をするのかを自分の中で指標を作る。そうすれば、役を作り上げる時間が大幅に短縮される。
アクアくんのプロファイリングを元にしたやり方は私にすんなりと嵌まった。多分相性がいい。かなちゃんのアプローチの仕方とは違うけど、こっちの方が楽に感じる。
私はつまらない人間だって、ルビーちゃんをみて改めて思った。だから私よりも魅力的な人物たちになればいい。魅力的な人達がどう感じて、どう考えて、どう動くのかをトレースする。
するとまるでそんな人そのものになれたように感じられる。
その人の事を深く理解出来るようになる。
最近ではアクアくんのようになりたくて、アクアくんをプロファイリングしているけど、アクアくんは難しい。
アクアくんはすごく家族思いな人だ。色んな人に手を貸してくれる優しいヒーローみたいな人だけど、第一に家族のアイさんとルビーちゃんを最優先にしている。その感情がどこから生まれているのかみたいなのがよく掴めない。アクアくんに聞くと生まれた時にはこの人の事を支えたいとか、守らないとって気持ちを持っていたらしいけど、その感覚がいまだに掴めていない。
これが理解出来るようになると一気にアクアくんが何を考えているのかが分かるのに……と思ってしまう。
「んっ……あかねちゃんどうしたの?」
つい、じろじろと見てしまった。
「あっ、うん、そうだ。アクアくんって現場に行くときに誰かの演技をしているよね。それって誰の演技をしているの?」
最近、アクアくんは私の前でそういった演技をしなくなったので分かった。アクアくんの現場での立ち振る舞いはだれかのものだって。
「う~ん、まあ、いいか。俺はアイのアイドルとしての顔を模倣してるんだ」
「アイさんの?」
アイさん。最近では世界的な知名度を誇るようになった日本のカリスマ的なアイドルだ。でもアイさんはそういう感じの人ではなくて、素顔のまま……そう、ルビーちゃんみたいな人だったはずだ。
「昔のアイはこうやって、みんなが理想とする姿を演じることでアイドルをしていた時期があったんだ。太陽みたいな笑顔、吸い寄せられるような瞳にまるで無敵みたいな自信をもった完璧なアイドル。俺の場合、すこし弄っているけど、それを真似た」
「どうしてアイさんのを真似したの?」
「俺にいわゆるカリスマってやつが無かったから」
「えっ、そんな事ないと思うけど……」
「それは俺がそういう風に振る舞ってるだけだよ。本来は俺なんてそんな凄い人間じゃないから。だから足りない物は外から補った。俺が最も理想とした人物はアイだったから、それをトレースした」
足りないものは外から補う。そうやって良いんだ。なにかピースが嵌まった気がする。
「あかねちゃん。俺たちは多分、似てると思う。ルビーやかなとは違う、人よりも頭は良いから人よりも上手くやれるけど、それ以上は出来ない。あの2人のような天才ではなくて、秀才でしかない。だから足りない才能は足して、天才たちが自然とやっているそれを言語化して取り込んでいく。そうする事で天才達に追いすがっていくしかないんだ」
分かる気がする。私はかなちゃんに憧れた。けどかなちゃんと同じアプローチでは絶対に勝てないし、追いつけないと思ったからアクアくんのやり方を真似することにした。
自分と同じタイプで自分のはるか先に居る人の下で学べる。
そして、学んだ事を生かすことが出来る本番のドラマ撮影。
メインキャストはもちろん、脇役なんかもたくさんの役をやらせて貰って、その事は私を大きく成長させていった。
この時間が終わってしまうのが嫌だったから、帰ってからは勉強をこなして、成績を下げないように頑張った成果も出て、なんとか首席で合格した。
ララライのオーディションも、今まで築いてきた経験があれば簡単にこなすことができた。
本当は合格のネックになるかもしれない業務委託については解除してもいいよ。とは言われていたけど、この時間が無くなるなら、ララライの方を蹴ってしまうことも視野に入れて、継続して契約することにした。
合格を言い渡された後は応援に来てくれたアクアくんと一緒に合格祝いに家族と一緒にご飯を食べに行った。
あまりに充実した日々。アクアくんと組んで一緒に仕事をこなして、演技について教えて貰って過ごすのは時間を忘れさせてしまうほどに熱中してしまう毎日だった。
そして、ついに私もヒロインとしてアクアくんと組んでドラマに挑むことになった。
映画のテーマは小学校受験だった。小学校受験全国模試の前年度と今年度の一位コンビが演じるリアルな受験戦争という売り込みだった。スポンサーが系列の人で、最近、詰め込み教育が批判にあっていて、小学校受験もそうなのではないかという誤解を解くため、あと幼年期における教育の重要性を世間にアピールする為に、本物の受験生を使いたいという要望もあっての抜擢だった。
わかってる。わたしはかなちゃんにもルビーちゃんにも勝てない。
けどチャンスだった。
演技力で劣る私が子役で主演を演じられる可能性なんて殆ど無い。だから今を楽しもうと思った。
初めての主演、しかも、アクアくんの演じる役は私の演じる役の子が好きで一緒の小学校に行くために受験を頑張るというもの。そして、最後にわたしはそんな健気なアクアくんの演じる役の子に恋をする。そんな甘酸っぱい物語。
憧れの人が自分の事が好きなんて設定の役を演じてる。
気恥ずかしかったけど、それでも役を演じきらなければならない。ヒロインの心情や行動をトレースして、その通りに動く、いつもやっている事をここでやりきる。そう思っていたのに……
最後の見せ場のキスシーンで私は演技が抜けてしまい、素の自分でキスを受け入れてしまった。OKが出たけど、その時のシーンがどういうものだったのかが気になって見ると。
その画面には、恋する女の子の顔が映っていた。