推しの子 ヒロイン全員好感度100達成RTA 作:重曹ちゃんかわいい
お母さんとお父さんが離婚した。
私はお母さんとお父さんの喧嘩している部屋の隣から聞いていただけだから断片的にしか聞こえなかった。ただ、お父さんはどこかのお店でお酒を飲んでいて、そこで沢山お金を使っていたとか、そのお店の人を好きになったとか、離婚してその人と新しくやり直したいとか、そういう事を言っていた。
私達は捨てられたんだ。って事だけは分かった。
私は人気がなくなって仕事もかなり減って来ていた。事務所も単価を下げざるを得ないといって下げたけど、それでもまだ高いと判断されているみたいだった。
まだ私の実力を買ってくれる監督は居る。けど、まだ高いみたいな事は言われてしまっている。私が出られるのは大手の資金力のあるところのメイン以上の仕事だけになった。
かつては寝る時間も惜しんで準備して働いていたのが嘘みたいに仕事がなくなった。お金も稼げなくなった。
だから、お父さんは私と一緒にいることにメリットが無くなったんだろう。
邪魔なお母さんと私と、持って行けない家とか家具なんかは置いて出て行った。
最後の言葉は「せいせいする」だった。
ああ、お父さんは私達と一緒に暮らすのが嫌でいつも帰ってこなくなって来ていたんだと最後に分かった。
そして、お父さんが居なくなるとお金はまったく入ってこなくなったみたいで、稼げるのは私だけになった。養育費というものが本当はあるらしいと聞いたけど、音信不通になってしまって、貰えないらしい。そしてお母さんは働いた事がないらしく、最近は来ていなかったのにまたマネージャーみたいなことをするようになった。
でも…………
「なんでこのシーンがカットなんです! かなの出番が減るじゃないですか?」
「いや、ですから、時間の尺の都合と出演者の撮影日の理由です」
「だったら、他の出番が増えるんでしょうね!」
「そういうことは脚本と監督が決めることでして」
「だったら、監督と直接お話をさせて!」
そんな口論が聞こえる。何度も繰り返されるお母さんがADさんと揉める姿だった。お母さんは現場についてきてはこういった問題を起こす。
「お母さん、現場の人を困らせちゃ駄目だよ」
「かなは黙ってなさい。あなたのために言っているのよ」
止めてもお母さんは止まらない。せっかくのお仕事もこうやって潰してしまう。「有馬かなを使うと面倒なのが付いてくる」そんな話をよく聞くようになった。
私が付いてくるとADさんが一人拘束されるから、戦力的にマイナスらしく、呼びたくないと思う人が増えるのも仕方ないのかもしれない。
お母さんは働けない。だから私が頑張らないといけない。私は子供だからこの世界でしか働けない。なのにお母さんが仕事を潰してしまう。
どうすればいいのか分からなくなってしまった。なにを頑張れば良いのかが分からない。
そんな時だった。歌手としての仕事をしないかと言われたのは。
私は物心が付く前から発声訓練や歌の練習をしていた。けど、子役をしてからは、歌の練習なんてしていない。ルビーと比べればわかる。あの子はずっと練習していた。本当に毎日、毎日、ダンスも歌も練習していた。双子星もアクアは完全に合わせて、ルビーを常に引き立たせるためのものしかしていないし、出来ないと言っていた。
ルビーと一緒に練習していたアクアも引き立て役にしかなれない。これは練習量の差で、どうしようもない。同じ子供枠でルビーに歌で勝てるほど思い上がれない。
どうせ駄目なんだろうな。と思いながらも真剣にやる。アクアとルビーも音楽という新しい世界で活躍して、ドラマや映画を見ない人に対して、アプローチをして、その客層を手に入れたと言っていた。
子役の世界で私は開拓されつくした。だから新しい分野に裾野を広げよう。というのも、分かると思った。
本当は演技で食べていきたい。脇役でもいい。お金なんて要らないと言いたかった。
でも、私はお母さんの為にお金を稼がないといけない。
事務所の人は最近、こうやって色々な事を言うけど、諦めたような、やる気のないような、そんな言動が増えてきた。旬が過ぎた子役…………そんなこともよく聞くようになった。
何十回、何百回と練習しても毎回、新曲を出す度にオリコンに乗るルビーなんかとは比較にならないくらい下手だった。そして曲もピーマンの歌というよく意味が分からないものだった。音程も外れていてどうしようもないくらい音痴だった。
だけど、なぜか売れた。
なぜかランキングで一番になっていた。
意味が分からなかった。
でも成功した以上、音楽番組に出演が決まったり、地方での営業の仕事も来たりするようになった。
久しぶりに周りの人から視て貰えた気がするけど、うれしいという気持ちより安堵が勝った。だって、私はなんでこれが売れたのかが分からなかったから。
私はピーマンは大嫌いだった。
苦くて、これが混ざっていると全ての料理の味がピーマンになって食べることが苦痛になる。だけど、営業でかならず食べないといけないし、番組なんかで出ると、かならずと言って良いほど笑顔で食べる事になる。こんなところで演技が生きるなんて思ってもみなかったけど、我慢して食べた。
その生活からストレスで蕁麻疹が出て、医者から止めるように言われたけど、薬を飲んでその生活を続けた。
そしてピーマン体操だけがこれだけウケたのだから、次も売れるとなるのも当然の話で。
なんで売れたのかが分からなかった私は必死になって練習をした。
上手くもなくて、子供っぽいだけの曲が売れた理由は分からなかったから次も売れるのか不安しかなかった。ルビーにも練習方法を聞いたりして、空いている時間は歌手としての練習に費やして、ピーマン体操の時よりも遙かに上手になった自信はあった。
でも、その次は全然売れなかった。そして、その次も、その次も…………
ランキングどころか、200枚とか300枚とかそういう売上しかなくて。ピーマン体操が40万枚なんて言われてるのに、その半分どころか1000分の1すらない結果に終わった。
理由は情報が拡散されず、売っているということすらも認知されなくて売れなかった。それだけだった。有馬かななら買うみたいなユーザーが思っているよりも少なくて、そこから情報が拡散されるなんてこともなくて、握手商法みたいなのも、そもそも認知されてなければ来なかった。元々役者畑の人間で、歌手としてのコアユーザーの少ない私の弱点が一気に出た結果だった。
数万規模の売上を見込んでいた会社は大いに失望したらしい。
歌手、有馬かなは一気に燃えて、そして一気に鎮火していった。
「ねえ、かなちゃん、最近調子悪そうだけど、大丈夫?」
そう聞いてくるあかねは明らかに以前と変わっていた。カリスマ性。その瞳にはそれがあった。まるで引き寄せられるかのような瞳はアクアを思い出す。そして、あかねは明らかに可愛くなっていた。髪型も整えるだけではなくて、巻いていたり、纏めていたりと創意工夫をしているみたいだし、表情一つ一つが以前のような抑え気味なものではなくなっている。地味目だったけど、明るい表情豊かな女の子になっていた。
理由は分かってる。恋と自信。私が無くしてしまったものをこの子は持っていた。
「大丈夫よ。この間も曲が売れなくてちょっと落ち込んでいただけ。また大ヒットとばしてやるわ」
なんでこの口は心と真逆な事を言ってしまうんだろう。歌なんてもう歌いたくなんてないのに。
「そうじゃなくて、最近、かなちゃん、周りに合わせる演技ばっかりしてるよね」
「………………そうね」
「私の知ってるかなちゃんは、眩しく輝く太陽みたいな演技をしていたのに。周りのみんなを食べちゃうみたいな演技だったのに。なんで変えちゃったの?」
出来なくなったなんて言えなかった。出来なくて、出来ないから妥協した結果なんて、この子に言いたくなかった。
「私も大人になったってことよ。周りは演技力より、使いやすさを重視する。だからそれに合わせたってだけ。以前のやり方だと出来る仕事も限られるから、上手に色々な役柄をこなすためにやり方を変えたの」
「そんなのじゃ駄目だよ。そんな演技だとかなちゃんは輝けないよ。かなちゃんはもっと身勝手で、圧倒的で、格好良くて、凄くて、みんなに合わさせるような演技だったよ」
「そう」
「私もちょっとだけ出来るようになったんだ。だから一緒にぶつかって来て。私じゃ物足りないかも知れないけど、頑張るから」
そう真剣に答える瞳に答えられない自分が本当に嫌だった。
「かなちゃん」
「うるさい!」
そして、つい怒鳴ってしまった。
「…………かなちゃん?」
「…………ごめん。でも私はやり方を変える気なんてない。そういう演技がしたいならすればいい。私は私のやり方でやるから」
それからあかねとは喋ることはなくその撮影は終えた。
そのドラマで私とあかねの立場と評価は完全に入れ替わったのは言うまでもないことだった。
私はこの業界で生き残らなければならない。
私は天才じゃない。演技力も落ちてしまって、生き残る為に他人に合わせる演技に切り替えた。やりたかった事を全部捨てて、やりたくない事を一生懸命やるようになったのも私と一緒に捨てられてしまったお母さんの為。
お酒の匂いがする。
お母さんはお父さんに騙されたと言ってお酒を飲む事が増えた。家が貰えると聞いて家を貰ったはずが、ローンが残っていたとか、連絡先に連絡が付かないとか、養育費が払われないとか、通帳の中身がおかしいとか色々だった。
「お母さん、お母さん、お酒はほどほどにしないと」
「かな…………なんでこんな所に居るの? 稽古は?」
「ずっとやってたよ。でもお母さんが心配で…………」
「そんなのはいいの! もっと有名な役者になって、もっとお金を稼げるようになって、一緒にあいつを見返すって約束したでしょ!」
「うん、わかってる。頑張る」
「じゃあ、なんでこんなに売れないの! 少し前まであんなにテレビに出て、仕事もあったのに、最近じゃ目立たないなんて言われて…………やる気がないの!?」
「そんな事ないよ。これから前みたいになれるように頑張るよ」
「私の人生、いつもこう。上手くいったと思ったら駄目で、捨てられて。本当はかなも私なんか捨てて出ていきたいって思ってるんでしょう!」
「そんなことない。そんなことないよ」
「あんなやつなんかと結婚するんじゃなかった! あなたなんて産まなければ良かった!」
私は頑張ったのに、頑張って、頑張っていたのに返ってきたのはそれだった。
なにかが吹き出しそうなくらい大きな感情が出てきたと思ったけど、なんでだろう。なにも感じなくなった。なにかに一気に冷めた。
「…………ごめんね。お母さん」
そう言って、大雨が降っていたけど、かまわず外に飛び出した。
「疲れた……」
疲れた。それ以外なにもなかった。
あの家に居るのに疲れた。
失望されるだけの仕事に疲れた。
誰にも期待されない日々に疲れた。
アクアに…………電話する元気は無かった。ルビーにSNSでメッセージを送ろうとしたけど、止めた。こんなことをアクアに話す事になりそうで嫌だった。あかねのSNSに親と喧嘩したから泊めて欲しいと入れて…………しばらくしたら消した。
「どの口が言っているのよ」
あんなに理不尽な事をしてどんな口で泊まっていいかなんて聞くつもりになっているんだろう。
雨の中を歩く。どこにも行き場所は無くて、どこに向かっているのかも分からない。体の芯から冷たくなってきた。
でも、私には帰るところがないし、帰りたくない。
どれくらい歩いたんだろう。どれくらい時間が経ったんだろう。服は濡れてべっとりと体にくっついていて、靴の中は水が入り込んで気持ち悪かった。
少しずつ意識が朦朧としてきた。でもいいや。疲れたし、眠いし…………
そして、歩くことが億劫になって倒れそうになった時、だれかの体が支えになっていた。
見上げると…………
「アクア……」
そこには、ずっと会いたくて…………でも会いたくなかった男の子が居た。