推しの子 ヒロイン全員好感度100達成RTA 作:重曹ちゃんかわいい
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私は鏡の前で本を読みながらママにそれの通りにしてほしいとお願いしていた。二つ結びとか三つ編みにしてみたり、ポニーテールにしてみたり、少し巻いてみたり、色々してみた。
「ママ! これどうかな?」
髪型を変えると、アクアくんはいつも似合ってるね。って言ってくれる。でも、アクアくんは共演者の人がメイクや髪型を変えると誰にでもそう言うことをいうので、いつか心の底から言って欲しいなって思って、色々とおしゃれも勉強することにした。
「うん、かわいい。あかねに似合ってる」
「えへへ、そうかな。ねえ、お父さんはどう?」
「…………うん、かわいいよ」
でも、パパは私がおしゃれをすると初めは嬉しそうな顔をするけどちょっと元気がなくなってしまう。
「う~ん、男の人から見ると駄目なのかなぁ…………」
「そうじゃないわよ。あかね」
「そうなの?」
「パパはそのおしゃれが誰の為にしているのか考えると元気がなくなるのよ」
「えっ? なんで?」
パパを見ると観念したように話しはじめた。
「だって、あのドラマを見て職場でおめでとうございます。みたいな事言われちゃって。テレビでもなんかもう恋人みたいな扱いしちゃって、いくらなんでも早すぎないとか思ってしまうわけだよ。まだあかねは小学生なんだし、そういうのはまだ早いというか。なんというか…………」
「ってことで、アクアくんにあかねを取られちゃうんじゃないかって拗ねてるだけだから気にしなくていいわよ」
「そんな、私なんかがアクアくんとつきあえるわけないんだから、気にしすぎだよ」
アクアくんにはかなちゃんが居るんだから。アクかなコンビになんて勝てるわけないんだから。それに多分、アクアくんはアイさんの事を…………どっちにしても、これはただの片思いで、報われない気持ちなんだから、気にしなくても良いのに。
「でもさあ、もしつきあえちゃったら…………と思うとね。あと10年は先だと思っていた事が今、来ると」
いじけてしまうパパとそれをからかうママ、最近、忙しくて、一緒に時間を取ることが出来なくなっていたけど、やっぱり家族と一緒の時間って良いな。と改めて思った。
世間からアクあかコンビなんて呼ばれ初めて、私はブームに乗って色々な仕事をするようになってきたけど、バラエティー番組ではアクアくんに頼りっぱなしだったし、ドラマ撮影の中でも特に大物俳優、女優さん主演の昼ドラの撮影の仕方に大苦戦していた。
「こういう風に大物女優とか俳優が混ざった現場だとスケジュールがその大物に合わせたものになりやすいからね。特に複数人居るとほんと、撮るシーンが飛び飛びになってパズルみたいな撮影スケジュールになるから、それでNGを連発する人も少なくないから気持ちの切り替えをしっかりね」
昔のアクアくんとかなちゃんみたいに、ドラマの撮影時はアクアくんと一緒の時が多くなったから良かったけど、そうじゃなかったらNG連発しそうな予感しかしない撮影の仕方だった。
「その女優さんが限られた日しか来られないなら、その女優さんの居ない日に、それ以外のシーンを取るしかないから、シーンが時系列にならず、飛ばし飛ばしになる。だから、三話、四話とどんどん進めて撮ってるのに、女優さんの居るシーンだけ二話のからまた進めていくのが基本になってくると思う」
「うん」
「あと、いきなりだけど次のシーンのラストの後にモノローグ入るから本来10話放送予定だけど一緒に撮ることになると思う。そのあとは、11話のシーンになるけど、ここでまた補足説明は入れるけど、嫉んでる感情から罪悪感を感じ始めてるように心情が変化してるからさっきとは違って、自嘲ぎみに話して」
「うん、わかった」
と、言いつつも、やっぱり時系列で変化していないから愛情から憎悪へ変わるシーンで、憎悪したシーンを撮ってから愛情を持っていたシーンを撮って、最後に中間の気持ちの変化をさせたりするシーンが来たりしていて、こういう流れは特に難しくて、直前にアクアくんに見て貰って修正に修正を重ねて、NGを回避しているけど、それが無かったら、何十回、NGを出していたのか分からない。
これを午前と午後で違う撮影現場なんて環境でアクアくんやかなちゃんは出来ていると考えると尊敬しかない。少しずつ、私も成長していると思うけど、成長していく度に二人のすごさが分かる。
「同じ年代だとこういった気持ちの切り替えが出来る子役はかなくらいしか居ないし、中学生世代でも数人が良いところ。大人でも出来ない人は多い。それくらい難易度は高いから、今すぐ出来なくてもいい。でもテレビドラマや映画の世界で生きるならこれをいつか出来るようにならないとついて行けなくなる。厳しいかもしれないけど、付いて来て」
それでも、いつか二人の世界に入っていきたいって気持ちは萎むことなく今もある。
ブームの間だけかもしれないけど、アクアくんと一緒にこうした世界に居ることが出来る事が楽しくて、嬉しくて仕方なかった。
そうして経験を積んでいくと、アクアくんと離れた環境でも昼ドラのやり方にも適応できるようになってきて、慣れたころになると、アクアくんの仕事の比率が変わってきた。
テレビからネット活動の時間が増えて、苺事務所全体も私以外と契約書面の一新をしたらしくて、コンプライアンスに厳しい作品への出演交渉が難航しはじめたと聞いた。
いわゆるゴシップ記事が週刊誌とかに載るとアイドルの人達は出演をキャンセルすることになるけど、そういったキャンセルに対しての損害補償契約に関して、実際の犯罪でなければ賠償金等の発生額の上限とか、そもそも払わないでいいみたいな契約に変えたみたいなことを言って居たけど、実際はどうなるのかは分からない。
「まあ、契約中のCMの放送枠とか今出演予定なんかが全部飛んだら、損害が何十億というか百億とかいくかもしれないからね。アイドルの不祥事一つで事務所が潰れる体制ってさすがに継続出来ないから、今のうちにやっておかないと」
そういうアクアくんの瞳はいつもと違って鋭かったし、焦っているような感じがするようになった。
「アクアくん、考え込むこと多いよね。なにかあったの?」
少しでも力になれる事があればと思って、話を聞こうとした。アクアくんは困った顔をして誤魔化そうとしたけど、押し切った。
アクアくんはいつも力になってくれてる。だからなにか困ったことがあったら私が力になってあげたかった。
「いや…………そうだね。一緒の事務所なんだし、関係ある事を黙ってるのは不誠実だね」
そういうと言いにくそうにアクアくんは答える。
「これはここだけの話になるけど、1、2年経ったらB小町は活動をかなり縮小することになると思うんだ」
「えっ、なんで?」
つい、そう言ってしまった。だってB小町は世界でも知名度がある日本のトップアイドルグループなのに。これからどんどん人気になっていくだろうって話していたのに活動の縮小はよく分からなかった。
「ごめん、理由は言えないんだけど、テレビの仕事なんかは結構減らす予定で、代わりにネット活動が主になると思う」
ここで思い出したのはコンプライアンスの話だ。多分、B小町はなにかスキャンダルを抱えて、それが見つかったみたいな話なのかもしれない。CMって確かギャラだけじゃなくて、確保した放送枠分を賠償することになるから何週間分もその確保した金額を払う事になる。だから損害賠償請求は億規模の金額になるみたいな話をこの間に出たCM出演の時に言われたけど、もしそれが実現した時のリスクを考えると、そういう仕事を減らしたいっていうのは当然なのかもしれない。
「そうだね。それは詳しく聞くの恐いしね…………」
「でも、あくまで予定で、そうならない可能性もあるから、あくまで準備でしかないんだ。だから、今はネットでのビジネスに力を入れる事になってる。もしそうなるようなら伝えるよ。それで色々悩んでいてね。ごめんね。心配させちゃったね」
アクアくんのよく分からない行動の理由は分かった。契約とかそういうのを変えているって事は斉藤社長さんも知っているって事だし、スキャンダルで苺プロが潰れるって事は無くなっていて、その後の収益確保の為にネットビジネスに力を入れないと行けない背景は理解した。
けど、本当の事は喋っていないというのは感じた。
ネットビジネスはあくまでトラブルが起きたときの手段であって、そんなに焦る必要性はない。あくまでも保険なんだから、あんなに考え込む必要も、無理をする必要もないと思った。
アクアくんがおかしくなったのは宮崎の撮影に行ってからだ。あそこに行ってから、アクアくんから焦りを感じるようになった。ずっと見てきたから分かる。
でも私はそれをアクアくんに深く追求出来なかった。アクアくんは嘘が上手い。上手く躱されるのが目に見えていたからだ。
アクアくんのお母さんのミヤコさんの所へいって事情を聞いたり、B小町の人にぼかして聞いたりして行く内に色々と整合性がとれないことに気がついていった。アクアくんとルビーちゃんが生まれた時にミヤコさんは九州へ里帰り出産をしていたというけど、その時期にミヤコさん、働いている記録がある。どう考えても無理だった。
あれっ、アイさんって…………ちょうどこの時期に体調不良で休んでなかったっけ?
証拠はない。ないけど、B小町がなんで活動の縮小なんてことになっているのか、なんで犯罪ではないスキャンダルの発覚を前提にした契約を結ぶようになったのか。1本の線が繋がった気がした。